扱いやすさと運動性能の向上
1975年モデルのGL1000ゴールドウイング
1975年モデルに端を発するゴールドウイングシリーズが、1980年に2代目、1984年に3代目、1988年に4代目、2001年に5代目へと進化する過程で、最も重視してきた要素は、パートナーとともに出かけるロングツーリングの楽しさと快適性です。
2001~2017年モデルのゴールドウイング1800(SC68)
2018年から発売を開始した6代目のSC79は、ロングツーリングの楽しさと快適性だけではなく、ライディングの前後の取り回しを含めた日常域における扱いやすさや、ワインディングロードでの運動性能など、幅広い用途を念頭に置いて開発を行いました。
2018年モデルのゴールドウイング1800(SC79)
先代以前とは異なる扱いやすさと運動性能を実現するため、開発にあたって必須事項となったのが軽量コンパクト化です。5代目までのゴールドウイングシリーズが世代を重ねるごとに寸法と重量が増してきたのとは異なり、6代目は先代に対して、全長が55mm、全幅が40mm、全高が25mm短くなり、車重は約40kgの軽量化を実現しました。
SC79が搭載する水平対向6気筒エンジン
その軽量化の内訳は、パワーユニット系:6.2kg(マニュアルトランスミッション仕様。デュアルクラッチトランスミッション仕様は3.8kg)、車体系:18.2kg、電装系:13.1kgなど、多岐に及びます。パーツによって数値の大小はありますが、各領域の開発者全員が0.1グラム単位の軽量化に取り組みました。
フロントサスペンションの変更
45%を超える前輪分担荷重を確保
グランドツアラーとしての安心感と、ライダーの意のままに操れることを目指したスポーティでダイレクトな操縦性を両立するため、SC79の開発時に軽量コンパクト化と同時進行で追求したのが、前後分担荷重の最適化につながる、高密度化を推し進めた車体パッケージングです。前輪分担荷重が45%に満たなかった先代以前は安定性重視の特性でしたが、SC79は46.4%の前輪分担荷重を確保することで運動性を高め、軽快な理想のハンドリングを追求しました。
ライダーとパッセンジャーの着座位置が36mm前進
前輪分担荷重の増加に寄与する主な要素は、先代と同等以上の居住スペースを維持しながら、ライダーとパッセンジャーの着座位置をそれぞれ36mm前進させたことと(それに付随する形でパニアケース+リアトランクも前進)、パワーユニットの搭載位置を24mm前進させたことです。その数値は、シリーズ初採用となるダブルウィッシュボーン式のフロントサスペンションの存在を抜きにして語れません。
エンジン搭載位置を24mm前進
先代までのゴールドウイングが採用していたオーソドックスなテレスコピック式フロントフォークは、圧縮行程で前輪が斜め上方向に移動してパワーユニットに接近しますが、SC79のダブルウィッシュボーン式サスペンションは、圧縮行程で前輪が地面に対して垂直に近い軌跡を描きます。その変化によって干渉を考慮する必要がなくなったため、前輪とパワーユニットのクリアランスを大幅に短縮することが可能となりました。
ダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションの作動イメージ
また、テレスコピック式フロントフォークを採用していた先代以前は、ゆったりした乗車姿勢と取り回しの容易さを追求した結果として、ハンドル操舵時のグリップポイントの移動量が大きかったのですが、ダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションを導入したSC79は、転舵軸と操舵軸と別軸とし、両者をステアリングタイロッドで連結する新しいシステムを採用することで、この課題を解消しました。操舵軸をライダー寄りに設定し、左右グリップの幅を10mm短縮することで、操舵時のグリップポイントが描く軌跡を小さくしています。
グリップポイントが描く軌跡の比較
CFD解析を用いたエアマネジメント
先代に対して車格が小さくなったSC79
ライダーの着座位置とパニアケース+リアトランクの位置が前進したことに加えて、左右幅が狭いダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションの採用、フレームのヘッドパイプ後方に備わるサイドラジエターの小型化と冷却ファンの内側から外側への移設、フェアリング最大幅の約90mm縮小、ウインドスクリーンの小型化(最大幅は185mm縮小し、高さは25mm低減)などによって、SC79のボディは先代よりコンパクト化を実現しています。
テレスコピック式とダブルウィッシュボーン式の比較
エアマネジメントの検討にCFD(Computational Fluid Dynamics)解析を用いたSC79では、ライダーの着座位置を前進させることでフェアリングとウインドスクリーンの防風効率が高まることが確認でき(空気抵抗係数は約13%軽減)、幅と高さを縮小しつつも、先代を上回る防風性能を達成しました。こうしたボディの小型化は運動性能の向上に寄与し、SC79の慣性モーメントは先代に対して、ヨー方向・ロール方向ともに約15%低減しています。
CFD解析でSC68とSC79の空力を比較
冷却系の構造変更に伴い、SC79は排風性の見直しも行いました。サイドラジエターを通過した温かい空気とフェアリングの開口部から導入した新気を混合し、CFD解析で形状を決定したサイドフェアリングに外側に向かう通路を設定することで、熱を帯びた排風がライダーの居住空間に流れ込むことを防ぎます。
CFD解析でサイドラジエターを通過した温風の流れを検討
リアトランク+パニアケースも軽量コンパクト化を徹底
SC79の重要なテーマである小型軽量化と高密度化を推し進めたパッケージングを実現するためには、大型化・重量増やマスの分散につながるリアトランク+パニアケースも最適化が必要になります。この装備についてはさまざまな角度からの検討を重ねた結果、先代に対して容量を150ℓ→110ℓに縮小し※、6.2kgの軽量化を図りました。
※2021年モデルからはリアトランク容量を50→61ℓに拡大し、トータル容量を121ℓとしています。
パニアケースはボディと一体化
容量を拡大した2021年モデルのリアトランク
リアトランク+パニアケースの軽量化は、開発当初は悪路走行時や内部で荷物が揺れ動く状況で走行すると操安性に違和感が生じていたのですが、FEM(Finite Element Method)解析を用いて各部の肉厚の最適化を図り、部分的に補強材となるリブを追加し、車体へのマウントをハーフリジッド式とすることで、自然なハンドリングを実現しました。
2018年モデルのゴールドウイング1800(SC79)
カテゴリでいえば、ゴールドウイングはグランドツアラーであり、このジャンルはスポーツバイクとは別物と位置づけられることが少なくありません。
ただし、軽量コンパクト化や高密度化、前後分担荷重の最適化、CFD解析を用いたエアマネジメトはスポーツバイクに通じる要素です。リアトランク+パニアケースを装備していても、上質なハンドリングを追求する姿勢はスポーツバイクと同様で、SC79のバックボーンにはHondaがスポーツバイクで培ったノウハウがあるのです。
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