Hondaのエンジン

2025.11.13

K20C型 CIVIC TYPE R ニュルブルクリンクFF量産車最速を実現したVTEC TURBO

K20C型 CIVIC TYPE R ニュルブルクリンクFF量産車最速を実現したVTEC TURBO
2015年モデル CIVIC TYPE R(FK2)

圧倒的な速さの追求のために骨格から作り変えた

過酷なコースとして知られるニュルブルクリンク北コースでFF量産車最速ラップタイムを狙い、最高速度でも0-100km/h加速でも最速を目指し、かつ全速度域で高次元のドライバビリティを実現すべく開発したのが、2015年モデルCIVIC TYPE R(FK2)である。そのCIVIC TYPE R専用に開発したのが、高出力・高トルク・高回転とサーキット走行に耐えうる耐久性、それに優れた環境性能を両立した2.0L・直列4気筒にVTEC TURBOを採用したエンジンであるK20C型だ。

※ ドイツ・ニュルブルクにあるサーキット。全長20kmを超える北コースは路面の凹凸や高低差があり、コーナーの数が多い難コースで、各国の自動車メーカーがテストやタイム計測を行っている。

当初は別骨格で280馬力を達成目標に開発を進めていたが、圧倒的な速さを追求するためエンジンを骨格から作り変えた。各領域でFF最速を目指すためには300馬力以上の最高出力が必要だと判断したからである。K20C型はVTEC(可変バルブタイミング・リフト機構)に直噴技術とターボチャージャーを組み合わせることで、当時FF車トップクラスの最高出力228kW(310ps)と最大トルク400Nm(40.8kgf-m)を達成。レッドゾーンは7000rpmに設定し、全域でレスポンスに優れ、高回転域までよどみなくパワーが湧き上がる特性を実現した。

モノスクロールターボと排気VTEC

K20C型は300馬力以上を発生する2.0Lエンジンとしては小型のターボチャージャーを採用しながら、Hondaが長年培ってきたVTEC技術を活用することで、吸排気効率を最大化。これにより出力とレスポンスを高次元で両立することができた。4気筒エンジンは1番と4番シリンダーの排気と、2番と3番シリンダーの排気が干渉するため、レスポンスの低下を招きやすい。これを避ける技術として1番と4番、2番と3番シリンダーの排気を別々のタービン流路に導くツインスクロールターボがある。

だが検討を進めたところ、ツインスクロールの場合は2つのスクロールを隔てる隔壁が干渉し、高出力化を阻むことがわかった。そこで、モノスクロールターボを採用しながら、ツインスクロールターボと同等のレスポンスを獲得し、高出力を目指すことにした。

モノスクロールターボを採用

出力とレスポンスの両立する手段のひとつが、排気側VTECである。VTECは低中回転域と高回転域でそれぞれ最適なバルブの開閉タイミングとリフト量を切り換えるシステム。K20C型はターボチャージャーで十分な空気をシリンダーに送り込めることから、VTECは排気側だけに適用した。

さらに、吸気および排気バルブタイミングの位相を連続可変で制御できるVTC(連続可変バルブタイミング・コントロール機構)を組み合わせ、高出力が得られるバルブタイミング・リフト機構を基本に、エンジンの負荷と回転数に応じてバルブオーバーラップ量を広範囲かつ緻密に制御することで、レスポンスと燃費性能を向上させている。VTC&VTECの制御イメージは次のとおりだ。

VTC & VTEC 制御イメージ

過給圧制御には、吸気負圧を利用するウェイストゲートではなく、電動アクチュエーターによって制御するため制御自由度が高い電動ウェイストゲートを新開発し採用した。軽負荷の自然吸気領域ではウェイストゲートを全開にして排気抵抗を低減。出力要求が高まるとウェイストゲートを閉じて排気をタービンに導き、タービン回転を素早く立ち上げる。インテークマニホールドの内圧が大気圧と同等になった段階でスロットルバルブを全開にし、ウェイストゲートバルブの開き量を変えることで過給圧を制御する。

ウェイストゲートは精密な制御ができる電動式を採用
ウェイストゲート制御イメージ インテークマニホールド内の圧力が過給領域へ移行する際、応答性を確保するためにウェイストゲートと閉じる。スロットルは全開で固定し、ウェイストゲート制御によって過給圧をコントロールする

ターボエンジンでは、過給による圧縮混合気温度の上昇により、ノッキングが発生しやすくなり、これが高性能化を目指すうえで課題になる。ノッキングはスパークプラグで着火した火炎が燃え広がる前に燃焼室の端のほうで始まる自己着火燃焼のことで、大きな衝撃波が発生するためエンジンの破損につながる恐れがある。このノッキングを回避するには一般に、燃焼室まわりの温度を下げること、また、急速燃焼を実現してノッキングが発生する前に燃料を燃やしきることが有効だ。

筒内直接噴射とタンブル流(縦渦)の強化

K20C型は吸気ポート内に燃料インジェクターを設置するポート噴射ではなく、燃焼室内に直接燃料を噴く筒内直接噴射(直噴)方式を採用した。直噴式はシリンダー内で燃料を気化させることができるため、気化潜熱により吸気温度を下げることができ、ノッキング回避に効果がある。

最大噴射圧20MPaのインジェクターはいわゆるサイドインジェクターで、吸気バルブ側に配置。ポート噴射の場合は吸気ポートへの燃料の付着が避けられないが、直噴式の場合はシリンダー内に直接燃料を噴射するため無駄なく燃焼させることができ、より高い燃焼効率を望むことができる。さらに、7噴孔による噴霧の微細化とサイクルあたり最大3回の多段噴射、噴霧を効率良くキャッチし、シリンダー壁面への燃料付着を防ぐピストン冠面形状を採用することにより、効率を高めている。

直噴燃料の蒸発の促進やシリンダー内での混合気の均質化を促進し、出力性能と環境性能を高めるため、吸気ポート形状を最適化し、タンブル(縦渦)流を強化した。一般的に吸気ポート面積を絞ることにより吸気ポート内の流速は高まり、タンブル流は強くなるが、引き換えに流量係数は低下して充填効率が落ちてしまう。そこで、CFD(数値流体解析)によって形状の最適化を行った。

その結果、K20C型は自然吸気エンジンの代表的な吸気ポートに対してポート角度を寝かせ、ペントルーフ形状に沿った吸気流れを実現。アゴ部と呼ばれるエッジを立てることにより、反対方向に流れ込む逆タンブル流を抑制し、流量係数の低下を抑えつつ、高いタンブル比を実現した。吸気行程では吸気ポートから流入した吸気がピストン冠面で反転する。この反転を滑らかに行い、圧縮上死点近傍までタンブル流を保持する冠面形状としている。これにより、火炎伝播が促進され急速燃焼が実現した。

多段噴射インジェクター採用 直噴システム

エンジン部品は徹底した軽量・高強度化

サーキット走行などでの高負荷・高回転時においても安定した性能を発揮させるため、K20C型の開発では熱対策を徹底した。エキゾーストバルブはナトリウム封入式を採用。レーシングエンジンへの適用技術に由来するが、必要と考えられる技術があれば出し惜しみせず量産エンジンに適用するのがHondaの開発姿勢である。ナトリウム封入式バルブはバルブの軸部分であるステムを中空にし、金属ナトリウムを封入。排気の熱でナトリウムが溶け、バルブの上下動によってステム内で動くことで、バルブの熱をバルブガイドに逃がす仕組みだ。ピストンには内部に環状の冷却油路を設け、効果的に冷却。耐ノッキング性能を大幅に高めている。

熱対策としてエキゾーストバルブはナトリウム封入式を採用

エキゾーストマニホールドはシリンダーヘッドに一体鋳造したうえで、上下から包み込むようにウォータージャケットを配置。このため接触面積を大きくでき、排ガス温度を下げることができるようになった。また、タービンハウジングに高耐熱ステンレス鋳鋼製タービンハウジングを採用。従来、高排気温時になる高回転・高負荷時はタービン保護などのために空燃比のリッチ化による排気温度の低下が必要とされたが、K20C型は従来よりも高負荷側まで理論空燃比でカバーできるようにした。これにより高速燃費性能が向上している。

K20C型は7000rpmまで鋭いレスポンスで吹け上がる高回転ターボエンジンとするため、エンジン内部の回転・往復運動部品の慣性重量低減を徹底した。コンロッドは熱間鍛造に加え、棹部を冷間鍛造して高強度化。軽量化したアルミ製ピストンも含めた2部品の軽量化により、クランクシャフトはカウンターウエイトを軽量化することができた。また、エキゾーストマニホールドのシリンダーヘッド一体構造など、エンジン全体にわたる徹底した軽量化により、2.0Lでありながら1.6Lターボエンジンと同等の重量に抑えた。

コンロッドは熱間鍛造に加え、棹部を冷間鍛造して高強度化

2022年モデル CIVIC TYPE R(FL5)でさらに進化したK20C型

2022年9月に発売したCIVIC TYPE R (FL5) にもK20C型エンジンを搭載

2017年9月に発売したCIVIC TYPE R(FK8)への適用では、排気系の見直しにより最高出力は約7.4kW(10ps)アップの235kW(320ps)を実現した。2015年モデルCIVIC TYPE R(FK2)はセンタータンクレイアウトを採用していたこともあり、エキゾーストパイプはタンクを迂回するレイアウトだった。FK8はフロアトンネルを一直線に通す排気レイアウトとしたことで排気効率が向上し、パワーアップに結びつけることができた。また、エキゾーストマニホールドを上下で挟む構造の冷却水通路は形状を見直し冷却効率を向上、モノスクロールのタービンハウジングは肉厚分布を見直して耐熱強度を高めた。

2022年9月に発売したCIVIC TYPE R(FL5)では、ターボチャージャーの刷新により、出力を約7.4kW(10ps)、トルクを20Nm向上させ、最高出力243kW(330ps)、最大トルク420Nmに進化させた。過給圧を上げて出力値を向上させたのではTYPE Rが重視するレスポンスが犠牲となるため、FK8が搭載するK20C型の骨格をベースにターボの回転数を上げていく開発に取り組んだ。

具体的には、コンプレッサーホイールの羽根の枚数を減らしながら小径化を実施。回転系の慣性を従来比で13%低減することで出力向上を実現し、アクセルワークに対する応答性向上を図った。タービン側はスクロールの小型化を図って流速を高め、強度とのバランスを見極めながら軽量化。合わせてベアリングの構造変更を行うことでフリクション低減を図っている。

吸気系は、インテークの管径アップによる吸気流量向上とストレート化による吸入抵抗の低減を実施。空冷インタークーラーは段数を9段から10段に増やして圧力損失の低減を図った。これらの変更が出力向上と高レスポンス化に寄与している。3本出しレイアウトのテールパイプはFK8では左右をメインの排気経路としていたが、FL5ではストレートに抜けるセンターをメインとしたうえで太くし、排気流量を13%向上させた。

制御系では点火制御の分解能を向上させ、点火進角の遅角量を減らすことで出力アップに寄与。また、VTCとアクセルペダル開度、トルクマップの割り付けをチューニングし、アクセル踏み増し加速時のレスポンス向上と合わせ、ドライバビリティを高めた。

FF量産車最速を狙って開発が進められたCIVIC TYPE R専用のK20C型2.0L・直列4気筒 VTEC TURBOは、出力・トルク・レスポンスを磨き上げながら、新世代ハイパワーターボエンジンとしての進化を続けている。

諸元表

2015 CIVIC TYPE R(FK2) 諸元表


テクノロジーHondaのエンジンK20C型 CIVIC TYPE R ニュルブルクリンクFF量産車最速を実現したVTEC TURBO