上級小型車に向けた新しいパッケージ思想
Hondaは1989年9月に4代目となるACCORD(アコード)を発表。シリーズ生産累計500万台の実績に裏打ちされたACCORDの正統な後継としてFF※1横置き4気筒セダンであるACCORD、ASCOT(アスコット)を設定するとともに、「上級小型車」分野にチャレンジするFFミッドシップ・縦置き5気筒エンジンを搭載する4ドア・ハードトップ、ACCORD INSPIRE(アコード・インスパイア)、VIGOR(ビガー)を設定した。このACCORD INSPIRE、VIGOR用に開発したのが、2.0L直列5気筒自然吸気エンジンのG20A型である。最高出力は160ps/6700rpm、最大トルクは19.0kgm/4000rpmを発生した。
※1 Front Engine Front Drive(フロントエンジン・フロントドライブ)のことで前輪駆動方式の意。
Hondaの考える上級小型車はどうあるべきか。従来の概念にとらわれることなく、新たな豊かさを表現しようと検討した末にたどり着いたのが、縦置きエンジンながら後輪駆動とせず、前輪で駆動する発想だった。前輪駆動なら床下にプロペラシャフトを通す必要がなく、広々とした居住スペースを確保できる。また、前車軸の後方に配置することで前後重量配分を適正化し、軽快な走りや爽快な操舵感の実現に寄与することが考えられた。4気筒ではなく5気筒を採用したのは、多気筒化による低振動・低騒音を実現するためである。
エンジン構造とレイアウトの工夫
エンジンルームに縦置きに搭載されるG20A型は、トランスミッションを含めたパワートレーン全体の重心を前車軸の後方に位置させるため、デファレンシャルギアをエンジン側方部にレイアウト。ドライブシャフトがエンジンの下を通ることになるため、直立した状態ではエンジン全高が高くなり、低重心化、低ボンネット化は実現できない。そこで、エンジンを右側に35度傾斜させるとともに、クランクケースとオイルパンに中空部分を設け、ドライブシャフトを貫通させる構造を採用した。
オープンデッキ構造※2のシリンダーブロックはアルミダイキャスト製。各シリンダー間に冷却通路を持たないサイアミーズ構造を採用し、エンジン全長の短縮化を図った。さらに、シリンダーブロックをクランクセンターより下まで伸ばすディープスカート構造を採用して高剛性化を図っている。オイルパンもアルミダイキャスト製としたのは軽量化を図るためだ。
※2 シリンダーボア周囲の冷却水路が完全に露出した構造
5気筒採用の理由と振動対策
一般に、燃焼にともなって発生する慣性力から生ずる振動は、多気筒にするほど小さくなる。歴代のACCORDが搭載していた4気筒ではなく1気筒増やした5気筒を選択したのは、多気筒エンジンが持つ静粛性と滑らかな回転フィールを狙ってのことである。一方で、多気筒化によってクランクシャフトが長くなると、高回転時にねじり振動が発生しやすくなる。開発にあたってはこれら5気筒エンジンの性質を細かく分析し、低振動化を図っていった(詳細は後述)。
開発にあたり最初に行ったのは、エンジンの性格を決定づけるうえで重要なボア/ストロークの選定である。一般に、ピストンスピードに影響を与えるストローク量によって許容回転数が決まり、ボア径によってバルブ径および燃焼特性がほぼ決まる。また一般に、低回転でのトルクより高回転での出力を重視する場合はストローク/ボア比(S/B比)を小さくとったビッグボア・ショートストロークを選択する傾向にあり、低中速トルクを重視する場合はS/B比を大きくとる傾向にある。
G20A型では排気量を2.0Lに定め、開発時にボア×ストローク80×79.4mmのタイプ1と82×75.6mmのタイプ2、84×72.0mmのタイプ3の3タイプのエンジンを製作しテストで評価。タイプ1は最高出力が低く、タイプ3はタイプ2に対して中低速域でのトルクが低下することから、タイプ2の諸元を選択した。
優れた吸排気特性を得るため、82mmのボア径に対して最も理想的なバルブ面積を確保。吸気2、排気2の各気筒4バルブで、吸気バルブ径は32mm、排気バルブ径は28mmである。バルブ駆動系をコンパクトに成立させるため、1本のカムシャフトで吸排気両バルブを駆動するシングルカム(SOHC)方式を採用。カムの動きはロッカーアームを介してバルブに伝える。
圧縮比は高いほど燃焼時の最大筒内圧は高くなり、高出力化を可能にするが、半面、ノッキングが起きやすくなる。G20A型の開発ではバルブまわりを絞り込んで土手を設けたマスクド・ペントルーフ型と呼ぶ燃焼室形状とすることでノッキング防止を図った。これにより、吸気ポートから送り込まれた混合気は燃焼室壁面にぶつかることで発生する乱流効果によって効率良く燃焼。その結果、レギュラーガソリンながら9.7の高圧縮比を実現し、高出力化のみならず低燃費化にも寄与することになった。
吸排気システムの技術的特徴
シリンダーに混合気を導く吸気ポートは中間部で径を細くする中細りの形状とした。上流は36mm径相当、吸気バルブ直上は39.5mm径相当とした一方、中間部は34.5mm径相当としている。これにより、ポート内流速を高めるとともに、混合気のミキシング効率が向上。大径バルブから多量の混合気を効率良く燃焼室に送り込むことを可能としている。
インテークポートの上流に位置するインテークマニホールドは可変システムを採用した。一般に、細く長いインテークマニホールドを用いると低回転域の充填効率向上に対して有利に働き、太く短いマニホールドを使うと高回転域の充填効率向上に有利に働く。G20A型では回転全域に対して最適な吸気効率を得るため、マルチステージ制御インテークマニホールドを採用した。
5気筒ある気筒ごとに断面積が等しいプライマリーポートとセカンダリーポートを設け、セカンダリーポート内に取り付けたシャッターバルブをエンジン回転数に応じて開閉することで、幅広い回転数で高い体積効率を得る仕組みである。低回転域と中高速域ではシャッターバルブを閉とし、その間の中速域および高回転域で開とする 4パターン制御により、吸気管長と有効断面積を最適化した。こうしてきめ細かく制御することで、慣性過給および共鳴過給効果を利用し、充填効率を高め、トルクカーブの谷をなくしてフラットな特性を実現した。
一方、排気管の集合方法は5-1、5-2-1、5-3-1の3タイプを検討。5-1タイプは気筒間の体積効率の差は小さいものの排気干渉が大きく、5-2-1タイプは5番気筒の体積効率が排気干渉によって低下することがわかった。1-2-4-5-3の点火順序を考慮し、1番と4番、2番と3番、そして5番の3本に集合させた後、1本に集合させる5-3-1タイプはおのおのの管長を長くすることで排気干渉を防ぐことと合わせて全体の体積効率が高くなることがわかり、この集合方法を採用した。耐熱性の高いステンレス鋼を採用したのは軽量化のため。鋳鉄一体タイプのマニホールドと比較して約25%の重量低減を実現した。
5気筒エンジンがピストンの往復運動による慣性力に起因して発生する上下振動は4気筒より小さい。その一方でクランクシャフトが非対称となることから、一次慣性偶力※3が発生する。G20A型ではこれを打ち消すためにクランク軸の右側方にバランスシャフトを配置。クランク回転と逆方向に同回転数で回転させ、シャフトの両端にあるバランスウエイトによって振動を減少させた。また、低振動・低騒音化を徹底するため、クランクシャフトのねじり振動に対応したトーショナルダンパー付きプーリーを採用した。
※3 ピストンの往復運動にともない1回転に1回の周期で発生する回転軸まわりのすりこぎ運動。
こうして新開発したFFミッドシップ・縦置き5気筒のG20A型は全域高トルクと高出力の特性を持ち、高回転までなめらかに回り、低振動かつ低騒音を実現。前後重量配分の適正化と合わせ、上級小型車にふさわしい上質な走りの実現に貢献した。
G25Aへの進化と改良点
1992年1月、INSPIRE/VIGORが全長と全幅を拡大して3ナンバー専用ボディになったのにともない、G20A型をベースに排気量を2.5Lに拡大したG25A型を開発し、G20Aと合わせて設定した。G20Aが1996ccの排気量に対しボア82mm、ストローク75.6mmなのに対し、G25Aの排気量は2451ccで、ボアは3mm拡げて85mmとし、ストロークは10.8mm伸ばして86.4mmとした。レギュラーガソリン仕様から対ノック性の高いプレミアムガソリン仕様に変更することで圧縮比を10.0に高め、最高出力は190ps/6500rpm、最大トルクは24.2kgm/3800rpmを発生した。
1995年2月、INSPIRE/VIGORはモデルチェンジしてINSPIRE/セイバー(SABER)となった。直列5気筒エンジンは先代と同様に2.0LのG20A型と2.5LのG25A型の2機種を設定。G25A型はレギュラーガソリン仕様(圧縮比9.3、最高出力180ps/6500rpm、最大トルク23.0kgm/3800rpm)を新たにラインアップに加えた。
また、シリンダーブロック、オイルパン、クランクシャフトの剛性向上を図ってさらなる振動・騒音の低減を図ると同時に、補機に改良を加えることで、エンジン単体で4kg(先代INSPIRE 2.5L比)の軽量化を達成。ピストンオフセット量を変更して、燃焼行程でピストンが下降する際のシリンダー壁面への打音低減を図った。
INSPIRE/SABERへの設定では、従来の上級小型車から、その位置付けを大きく上回る価値を持つアッパーミディアムクラスへの転換を意図した。これに合わせ、縦置きレイアウトにもかかわらず前輪駆動を採用した独創的な構造を持つエンジンは、より上質な方向へと進化させた。
諸元表
テクノロジーHondaのエンジンG20A型 縦置き5気筒FFという異端エンジンの全貌



