Hondaのエンジン

2026.02.13

ED型 CVCC技術で世界初のマスキー法をクリアした超革新的エンジン

ED型 CVCC技術で世界初のマスキー法をクリアした超革新的エンジン

不可能と言われたマスキー法を独自技術で初クリア

1.5L・直列4気筒SOHCのED型は、Honda独自の燃焼方法であるCVCC(Compound Vortex Controlled Combustion=複合渦流調速燃焼)を適用することにより、当時最も厳しいとされていた排出ガス規制のひとつ、米国マスキー法1975年規制を世界で初めてクリアしたエンジンである。HondaはCVCC技術を1972年10月に発表すると、シビックに搭載して1973年12月に発売した。

日本ではモータリゼーションの進展とともに排出ガスによる公害が社会問題となっていった。運輸省(現国土交通省)は1966年7月に、同年9月以降の軽自動車を除くガソリン自動車に対し、一酸化炭素の排出量を3%以下にすることを義務づけた。翌1967年8月には公害対策基本法が、1968年には大気汚染防止法が施行された。

米国では1963年に連邦政府が全米を対象とした大気清浄法を制定し、1965年には自動車汚染防止法が追加された。1970年には大気清浄法を大幅に修正した大気浄化法が上院議員のエドマンド・S・マスキー氏によって議会に提出された。この通称マスキー法は1970年12月31日に発効。内容は非常に厳しく、5年後の1975年型車から一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)はともに10分の1に、1976年型車から窒素酸化物(NOx)も10分の1にするというものだった。

当時、四輪車の輸出を考えていたHondaは米国における大気汚染に関する法規制の動向や排出ガスの研究状況を調査。そのうえで、独自技術により排出ガス規制の対策に乗り出すことにした。それまでエンジンの高回転・高出力化を追求してきたHondaの研究者にとって、排出ガス対策は初めての経験で、ゼロからのスタートとなった。

副燃焼室付きエンジンで希薄燃焼という難題

排出ガスを低減するには大きく2つの方法が考えられた。ひとつはエンジンから出た排気を触媒やサーマルリアクター※1で処理する後処理方法であり、もうひとつは従来のエンジンから離れて、層状給気エンジン※2、バンケルエンジン(ロータリーエンジン)といった代替エンジンをベースに対策する方法である。

※1 排気管の途中に設けたリアクター(反応器)にポンプで送り込んだ2次空気内の酸素と排出ガス中のCO、HCを高温で酸化反応させて低減するシステム。
※2 シリンダー内のガス流動を制御し、スパークプラグの近くに点火しやすい濃度の混合気を形成して希薄燃焼を実現する技術。

当初は従来型エンジンで解決策を見いだすべく、考えられるすべての方策を検討した。しかし従来エンジンでCO、HC、NOxを同時に低減するためには理論空燃比※3よりも燃料の比率が高いリッチ混合気で対策することになる。この場合は排気が酸素不足となるため2次空気を供給する装置などの後処理装置が欠かせなくなる。また、このアプローチでは燃費節減が困難であることが予想された。

※3 空気と燃料が過不足なく燃焼する空気と燃料の質量の比。ガソリンの場合は約14.7対1。理論空燃比より燃料の比率が高い状態をリッチ、空気の比率が高い状態をリーンと呼ぶ。極めてリーンな空燃比での燃焼を希薄燃焼(リーンバーン)と呼ぶ。

従来のエンジンではリッチな混合気を供給するとNOxは減るが、CO、HCが増加。リーンな混合気ではCO、HCは減る一方、NOxが増加する。さらに薄い、極めてリーンな混合気を供給すると、NOx、COは減るが失火しやすくなる。

有害物質が発生する原理に言い換えると、シリンダー内のガスが高温になるほどNOxは大量に発生。シリンダー内のガス温度が膨張行程で早く下がるほど、未反応の燃料がHCとして多く排出される。また、リッチな燃料が供給されるほど、酸化反応のための酸素が不足しCOが大量に発生することになる。

研究による試行錯誤を続けた結果、CO、HC、NOxの有害成分をすべて低減するには、希薄燃焼により燃料を完全燃焼させることが効果的であることがわかった。そこでHondaは、副燃焼室付きエンジンで希薄燃焼を行うという、他社が取り組んでいない方法で難題に挑戦することにした。極めてリーンな空燃比では混合気が薄くなりすぎ、従来型のエンジンでは安定した着火が得られない。そこで、副燃焼室を設けてここにリッチな混合気を供給して着火性を確保し、主燃焼室に噴出する火炎によってリーンな混合気を完全燃焼させる考えである。

CVCCエンジンの作動原理

新エンジンの方式はCompound(複合・複式)、Vortex(渦流)、Controlled Combustion(調速燃焼)の頭文字をとり、CVCC(複合渦流調速燃焼)と名づけられた。コンパウンドのCは燃焼室が主燃焼室と副燃焼室の2つあることに由来。ボルテックスのVは、副燃焼室で発生した火炎がトーチノズルを通して主燃焼室に噴流となって噴出することを意味。噴出した火炎は主燃焼室内に渦流を起こす。コントロールド・コンバスチョンのCCは、負荷に応じて燃焼速度を適正にコントロールすることに由来する。

CVCCエンジンの透視図。副燃焼室がよくわかる

CVCCを適用したED型は、主燃焼室の吸気側、肩口にあたる位置に小容積の副燃焼室を持つ。主燃焼室には主気化器(キャブレター)からリーンな混合気が、副燃焼室には副気化器からリッチな混合気が供給される。また、主燃焼室には主吸気バルブ(径34mm、リフト量8.7mm)、副燃焼室には副吸気バルブ(径12mm、リフト量3mm)が設けてあり、両者はクランク軸と同期してカムにより開閉する。スパークプラグは副燃焼室側に設置されており、副燃焼室と主燃焼室はトーチノズルによってつながっている。

丸で囲んだ部分が副燃焼室。副燃焼室には副気化器からリッチな混合気が供給される

CVCCシステムは、副燃焼室と主燃焼室の大きさやその比率、副燃焼室の大きさとトーチノズルの大きさおよびその比率、そして向き、副燃焼室と主燃焼室それぞれへ供給する混合気の空燃比が性能に対して敏感に作用する。

CVCCエンジンの燃焼プロセスを1.吸入行程、2.圧縮行程、3.点火、4.膨張行程、5.下死点、6.排気行程の各フェーズに分類すると次のようになる。

CVCCエンジンの燃焼プロセス

吸入工程

主吸気バルブからリーンな混合気、副吸気バルブからは少量のリッチな混合気が吸入され、全体としてはリーンな混合気となる。アイドリングから全負荷までの運転条件に応じて、主混合気と副混合気の量をそれぞれ加減。制御は両気化器の絞り弁をコントロールして行う(これを実現するため、より精度の高い気化器を開発した)。

吸入行程
吸入行程

圧縮行程

圧縮行程の終わりには、スパークプラグ付近にリッチな混合気、副燃焼室の出口付近に中間的な適度な濃さの混合気、主燃焼室にはリーンな混合気が形成され、主燃焼室内はとくに強い乱れがない状態となっている。この条件が、燃焼の最高温度を低く抑え、NOxの生成を極小に抑えるスローな燃焼を行うために必要だ。

圧縮行程
圧縮行程

点火

副燃焼室内のリッチな混合気はスパークプラグの火花で確実に着火。この着火の状況は通常のエンジンと同様のため、特別なスパークプラグや点火装置を用意する必要はない。

点火
点火

膨張行程

副燃焼室内で点火された燃焼ガスは、ただちに副燃焼室出口付近の中間的濃さの混合気に着火し、火炎面を拡大しながら、主燃焼室内のリーンな混合気に燃焼を伝える。そのため、常に安定した燃焼が可能になる。同時に、主燃焼室内の混合気はスローな燃焼が確保される。

膨張行程
膨張行程

下死点

安定して緩慢な燃焼が続くと、燃焼ガスの燃焼最高温度は比較的低く抑えられるとともに、HCの燃焼に必要な高温に長時間保たれるので、NOxおよびHCの発生は極小に抑えられる。

下死点
下死点

排気行程

排気バルブから排出される燃焼ガスの温度は比較的高く、また過剰の空気がよく混合しているため排気管内でも空気中の酸素とHCの反応を促す。

排気行程
排気行程

開発を進めていくと、当初予測していたとおりCO、HC、NOxの減少を図ることはできた。しかしHCに関しては燃焼室のみでの対策が不十分であることが判明。この段階で原点に戻り、主燃焼室、副燃焼室の見直しがなされた。この際、混合気をいち早く気化して点火しやすくするためのボウル状をしたホットカップを副燃焼室に追加した。最終的に、CVCCの原理に関する総合特許、ならびに周辺技術を含めて出願された特許は230件に及んだ。

発売当時の資料。排ガス浄化にさまざまな技術が盛り込まれたことがわかる

HondaはCVCC技術を1972年10月に発表すると、1972年に国内で発売されていたシビックに、昭和50年(1975年)排出ガス規制をクリアしたCVCCエンジンのED型搭載車を設定し、1973年12月に発売。シビックの名前を国内市場で不動のものにすると、1975年モデルからCVCCエンジンを搭載したシビックの米国輸出を開始した。1972年にエンジン単体でマスキー法の適合審査に合格していたが、車載状態での審査は1974年11月に実施し見事に合格。当時世界一厳しいと言われた米国マスキー法1975年規制を世界で初めてクリアしたクルマとなった。

1973年12月に発売されたシビック CVCC DX

諸元表

1973 CIVIC CVCC 諸元表


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