
造園管理の作業効率向上とゼロエミッション化を支援するProZision Autonomous
Hondaは、1978年に初の歩行型芝刈機HR21を発売して以来、一般家庭用芝刈機を次々に開発。芝刈り性能や操作性、安全性などが高く評価され、北米や欧州を中心に多くのお客様にご愛用いただいています。また、2012年には緑地管理の省人化に着目したロボット芝刈機Miimoを発売しました。そして2025年、広大な敷地の芝刈り作業の効率化ニーズが極めて高い北米市場に向けて、造園業者や公共施設などの造園管理業に主眼を置いた、電動自動芝刈機「ProZision Autonomous」を開発しました。
芝刈機のタイプには、手押し操作の歩行型、Miimoのようなロボット型、乗用型があり、乗用型にはハンドル操作タイプや、左右のレバーで左右の駆動輪を個別に操作して速度や方向をコントロールするZTR(ゼロターン乗用芝刈機)※1と呼ばれるタイプがあります。Hondaでは、手動操作のZTRタイプで、なおかつバッテリーによるモーター駆動の電動乗用芝刈機「ProZision」も開発しており、これをベースに自律走行システムを組み合わせたのが、ProZision Autonomousです。
ProZision Autonomousは、さまざまな現場で熟練オペレーターによる作業を一度記憶した後、オペレーターと同じ経路を自律走行し、美しい仕上がりを再現します。自動作業を行うエリア内の安全を確保したうえで、芝刈り作業をProZision Autonomousに任せることでオペレーターは別の業務を行え、作業効率が大幅に向上。造園管理企業の労働力不足の対策や作業のゼロエミッション化などへの貢献を目指します。また、Hondaが目指す、2050年までにすべての製品と企業活動でカーボンニュートラルの実現に向けた、取り組みの一環でもあります。
※1 ZTR=Zero Tern Radius:回転半径ゼロの意。左右のレバー操作でゼロ旋回が可能な効率のよい作業が行える乗用芝刈機を指す
熟練者の芝刈り作業を記憶し、自律走行による正確な自動作業を実現
ティーチングモードで熟練者の走行軌跡から経路マップを自動生成
ProZision Autonomousによる芝刈り作業は、オペレーターによる手動操作から始まります。まずはティーチングモードを選択し、オペレーターが一通り敷地内の芝刈りを実施。技能に長けた熟練のオペレーターであれば、直線的に、刈り残しがなく、芝目が美しく仕上がるような操作を行います。
この走行軌跡を、機体から得られる車輪速や加速度およびGNSS※2の測位によって、自律走行のための経路マップを自動的に生成。刈り残しのない仕上がりを得るには高い位置精度が求められるため、衛星からのシグナルに加え、地上の基地局からの補正情報により数センチレベルまで位置精度を高めています。
こうして生成された経路マップはクラウドサーバに保存されるため、1台のProZision Autonomousで複数の現場の経路マップ作成が可能。また、複数の機体を所有する企業であれば、どの機体を使用してもその現場の経路マップをダウンロードすることで適切な作業が行えるなど、極めて効率のよい造園管理を可能にします。
また、ティーチング時に障害物に接近しすぎると障害物検知機能によって自律走行ができなくなる場合があります。それを回避するために経路マップを自動修正する機能も備えています。
※2 GNSS=Global Navigation Satellite System:GPSをはじめとする全地球測位衛星システムの総称
プレイバックモードで経路マップに従い広大な敷地を自動で正確に作業
自律走行による作業を行うのがプレイバックモードです。ティーチングを行った芝地エリア内の任意の場所にオペレーターがProZision Autonomousを搬送し、まずはスマートフォンやタブレットの専用アプリを通じて、その現場の経路マップを機体にダウンロード※3。プレイバックモードを選択し、刈り高さなどを設定してスタートすると、芝刈り開始位置まで自律走行で移動し、芝刈り作業を開始。オペレーターのセッティング時間の短縮化が図れます。作業を開始するとティーチングモードで生成された経路マップに従い、安全に、正確に、芝刈りを行います。
乗用芝刈機の操作に不慣れなオペレーターでも簡単に行え、ProZision Autonomousが芝刈りを行う間、オペレーターは敷地内の他の作業に時間を割くことができるため、作業効率の大幅な向上が期待できます。
※3 ティーチングモードと同一の機体を利用する場合はダウンロード不要
さまざまな現場、複数のProZision Autonomousを簡単に操作できるスマートフォンアプリ
ティーチングおよびプレイバックの各モードの操作が直感的に行えるProZision Autonomous専用アプリを開発。美しい仕上がりをサポートする高度な機能が簡単に利用できます。
注:画面イメージは開発中のもので一例です
斜面や荒れた地面でも高精度な自動芝刈りが可能なトラクションコントロールシステム
広大な芝地を美しく見せるのが、敷地を直線的に往復する刈り方とされています。しかし、地面の凹凸や傾斜、季節や天候による芝の状況など、同じ現場でも条件が常に一定ではなく、経路どおりの自律走行が困難な場合があると考えました。そこで、四輪開発側に協力を仰ぎ、独自のトラクションコントロールシステムをProZision Autonomousに搭載しました。これにより、駆動輪である後輪の差動2モータートラクションコントロールによって左右輪それぞれのスリップを抑制し、丘陵地や斜面、荒れた地面でも安定した直進性と旋回性を実現。しかも、直進軌道を維持しながら往復刈りのオーバーラップを±150mmとすることで、高精度な作業を実現しています。このほか特に傾斜地では、タイヤスリップによって芝を剥いでしまうことによる仕上がりの悪化を抑えられます。
この安定した走行と、ツインブレードを採用するなど定評のある歩行芝刈機で蓄積したノウハウを組み合わせ、Honda芝刈機ならではの“カーペットのような仕上がり”を実現します。
LiDAR&レーダーセンサーを搭載し、360°センシングで障害物を検知
ProZision Autonomousを自律走行させる際に、最も重要となるのが機体周囲への安全対策です。作業資材の荷下ろしのために停められた車両や一時的に置かれたコーンなど、ティーチングの際にはなかった障害物がある場合、LiDAR※4が検知し、停止します。また、ProZision Autonomousが自動作業中に、別の作業を行なっているオペレーターや他の作業員が機体の周辺や進路に万一近づいてしまった場合、あるいは、ProZision Autonomousがオペレーターらに近付いてしまった場合などの危険を考慮し、移動物の検知に適したレーダーセンサーも備えました。 LiDARとレーダーをそれぞれ4機搭載することで360°のセンシングを行います。停止した際は、クラウドサーバーを通じて作業管理者のスマートフォンアプリに通知します。
※4 LiDAR=Laser Imaging Detection and Ranging:レーザー光を利用して物体を測量するセンシング技術
緊急停止ブレーキに加え、芝を傷めずに緩やかに制御する減速機構を搭載
プレイバックモードによる自動作業時は、ティーチングした経路を正確にトレースするために目標経路を設定して走行します。同時にこの目標経路付近にある障害物に対してLiDARでセンシングし、障害物を検知した際に緩やかに減速。急制動による芝へのダメージを抑制します。
各機能の能力(認識能力・制御能力)には限界があります。作業現場状況、天候状況、機体状態等によっては作動しない場合や十分に性能を発揮できない場合があります。
その他の安心機能
●刈り芝の処理と安全性を考慮した後方ディスチャージ機構
刈り草の集草や廃棄といった手間をなくすために、走行しながら刈った芝を放出するディスチャージ機構を採用。そのうえで一般的なサイドへの放出ではなく、無人作業を考慮し、小石などの飛散による影響を極力抑えるために、後方排出としました。
●作業負荷連動車速制御
高負荷時は車速を自動的に減速し、芝の詰まりや刈り残しを抑制します。
●リモートストップスイッチ
自動作業中に手元で緊急停止が行えます。緊急時以外ではスマートフォンアプリでも停止が可能です。
人の作業を代替し、1日の業務を充分にこなす優れた基本性能
プレイバックモード時の最高速度は傾斜地を含め6mphを実現。1時間当たり3エーカー(約12,000㎡)の芝刈り能力を持ち、1回の充電で4時間以上稼働するため、造園管理業務の大幅な効率化が図れます。
芝生が大きく広がる緑地は、目に優しく心が休まる景観です。しかし一方で、それを維持管理する造園管理企業は、設備投資や燃料費高騰といったコスト課題、労働力の不足、環境対策など、さまざまな社会課題と向き合っているのが現状です。 ProZision Autonomousは、芝刈り作業の自律型ソリューションによって作業現場での大幅な効率向上を実現することで、運営コストの削減や作業のゼロエミッション化に貢献し、持続可能な企業活動を支援していきます。


