
燃料電池大型トラック向けに開発が進む、HondaのFCシステム
Hondaは、CO2排出量削減という地球規模の環境課題に対し、その解決策のひとつとして「水素」にいち早く着目。1980年代後半に燃料電池(FC)の基礎研究を開始して以来、燃料電池自動車(FCEV)の進化と普及に努めています。その一方で、燃料電池を核にしたFCシステムの活用展開を見据え、自社製品のみならず、他社の商用車などにも採用を広げることでモビリティ社会全体でのCO2排出量削減に貢献したいと考えています。
こうした背景のもと、Hondaは2020年1月、いすゞ自動車とFCシステムをパワートレーンに採用した大型トラックの共同研究契約を締結。2023年12月に両社の共同研究による燃料電池大型トラック「GIGA FUEL CELL」の公道での実証走行を、2024年6月に四輪生産の部品輸送に実証車両を使用したモニター走行を開始しました。
Hondaが培ってきたFCEV技術を商用車に活かしたい
国土交通省の公表によると、2023年度の日本全体のCO2排出量のうち、運輸部門の排出量は19.2%を占めており、自動車全体では16.5%を占めています。さらに自動車全体の内訳をみると、自家用乗用車を中心とする旅客自動車の排出量は47.4%(日本全体の9.1%)、商用車を含む貨物自動車の排出量は38.3%(同7.4%)となっています。
こうした状況に対してHondaは、自動車全体のCO2排出量を削減していくために、FCEV開発で長年にわたり培ってきたHondaの水素技術を、乗用車だけでなく貨物自動車にも活かしたいと考えます。
大型トラックの電動化はEVよりも水素(FCEV)の方が相性がいい
ゼロエミッション走行が可能な電動車には、主にEVとFCEVがあります。EVは充電した電気をそのまま使うとても理に適った方式ですが、長距離を移動するためには大容量のバッテリーが必要で、充電にも長時間を要するため、商用車でも比較的に近距離移動の小型車両や路線バスなどに向いています。一方、FCEVのエネルギー源である水素は、電気と比較して保存時のエネルギー密度が高いため、長距離移動を常とする大型トラックにとっては、水素エネルギーを活用するFCシステムが次世代のパワーユニットとして期待されています。
車両総重量25tクラスの大型トラックに求められる性能を満たす、高出力・高エネルギー容量FCパワーユニット
今回の実証走行で使用された試作車両 GIGA FUEL CELLは、都市間輸送の代表車型である「低床4軸8×4※」を採用し、ベース車両の9.8Lターボ付ディーゼルエンジン同等以上の320kWのモーター出力と320kW以上のFC出力、1日当たりの稼働距離に相当する航続距離800km以上(いすゞ評価モード)を目標に開発。大型トラックとしての実用性とゼロエミッションを両立します。また、水素を用いるFCEVならではのエネルギー容量の大きさを活かし、災害時等における「移動式電源」としての活用を想定した外部給電機能も備えています。
※ 4軸8×4: 前2軸、後2軸の4車軸(8輪)構成で、後2軸(4輪)が駆動軸である方式
パワーユニット構成
ベース車のエンジン/トランスミッション搭載スペースに、FCスタック、水素/空気供給システム、FC昇圧コンバーターなどで構成されるFCシステムを4基搭載。乗用FCEVの10倍以上となる56kgを充填可能な水素タンクを、水素安全や電気安全を考慮し、キャビン後方に配置しています。高電圧バッテリーは大容量とし、登り勾配での加速性能やFCスタック高効率運転による耐久性、ディーゼルエンジンにおける排気ブレーキに相当する回生ブレーキの安定性を確保。モーターはギアボックスを介して3・4軸目のタイヤを駆動します。
車両とパワーユニットをつなぎ、FC運転を最適化する統合ECU
車両からの要求出力に応じて、4基のFCシステムの発電量を適切にコントロールする統合ECUを新たに開発。通信ゲートウェイ機能を備えることで、通信方式の異なる車体側ECUとの統合制御を可能にしています。
FCスタックの耐久性を追求
ベース車の使用実態に基づき、FCスタックの耐久性能を実証期間の2年間で408,000kmに設定。乗用車と比較してより高い耐久性が求められる大型トラックに適用するために、FCスタックの耐久性向上に取り組みました。
車両からの要求出力に合わせてFC出力(発電量)が変動すると、酸化還元反応が繰り返されることで触媒の劣化が進行。発電時間が長くなるにつれて出力が低下し、加速時などに必要な出力を供給できなくなる可能性があります。そこで、GIGA FUEL CELLでは大容量の高電圧バッテリーを採用することで積極的に電力供給を補い、FC出力変動を最小化。触媒の劣化を抑制します。
また、低湿度環境での運転や金属イオンが混入した場合などに進行する、電解質膜の劣化も耐久性に影響します。その対策として、発電条件を最適化して湿度を増加させるとともに、セパレーターに耐食性に優れるクロム(Cr)層を設け、その上に導電性を確保するためのカーボンをコーティング。酸化による電解質膜の劣化を抑えています。
航続距離の最大化を図る、水素消費バランス制御
GIGA FUEL CELLのパワーユニットは、FCシステム、水素タンク、バッテリー、モーターを2系統(バンク1/バンク2)で構成。冗長性を確保するとともに、4基のFCシステムそれぞれの運転を最適化します。一方で、各FCシステムに接続されている水素タンク残量に差が生じる可能性を考慮し、水素消費バランス制御を開発。各水素タンク間で残量差が生じた場合、同一バンク内ではFC出力電力を調節し、バンク間ではモータートルクを調節することで残量を均一化。水素を無駄なく使い切ることで航続距離の最大化を図っています。
災害時等の電源として活用できる、大容量の外部給電機能
電動車ならではの外部給電機能を搭載。2ポートのCHAdeMOコネクターを備え、Power Exporterを接続することで、バッテリーの電力とFCシステムの発電電力を合わせ最大530kWhの電力を供給可能。災害時における避難拠点の緊急電源などとして活用できます。
荷役作業を含むモニター走行を重ね、市場導入に向けた取り組みを加速
2023年12月、いすゞ自動車と共同で公道での実証走行を開始したGIGA FUEL CELLは、2024年6月からはホンダロジスティクスによる、荷役作業を含めた部品輸送の実務に実証車両を使用したモニター走行を実施。ホンダロジスティクス埼玉ロジスティクスセンターと埼玉県大里郡寄居町のHonda完成車工場間を、高速道路および一般道路を利用して1日当たり約160km走行。FC出力やバッテリー出力の安定性、耐久性といったコンポーネント観点に加え、加速性能や高速巡航、登坂性能、始動性などといった車両性能の評価を行うとともに運用上の課題を抽出しました。
実証実験で得られたデータやノウハウは、現在、開発の現場に活かされており、市場導入に向けてその取り組みを加速させています。Hondaは、このようにFCシステムを他社の大型トラックにパワーユニットとして搭載する一方、FCシステムのモジュール化も進めており、定置電源や建設機械などさまざまなアプリケーションへの活用を推進。多用途に展開していくことで、CO2排出ゼロのエネルギー需要を促進し、社会全体でのカーボンニュートラル化に貢献していきます。

