2026.10.05

充電時間の削減への貢献を目指して
Hondaが研究する「走行中無線給電」の強み

充電時間の削減への貢献を目指してHondaが研究する「走行中無線給電」の強み

「走行中無線給電」を研究する理由

電気自動車(EV)を使う上で意識することの一つとして挙げられるのが、充電にかかる時間やバッテリー残量です。航続距離を伸ばそうとバッテリーのサイズを大型化すれば、その分だけ充電時間もかかります。そうした「充電時間」と「航続距離」というテーマに向き合いながらHondaが研究しているのが「走行中無線給電(Dynamic Wireless Power Transfer:D-WPT)」です。目指すのは、エネルギー補給を意識せずに移動できる、新しいモビリティのかたちです。そして、Hondaは走行中無線給電と並行して、バッテリーそのものの性能向上にも取り組んでいます。「走りながら充電する」インフラ側の進化と、「積むバッテリー」自体の進化。様々な解決策により、自由な移動の実現を目指しています。

走行中無線給電は、道路に埋め込んだ地上側の給電ユニット(Ground Assembly:GA)から、走行中の車両に搭載した受電ユニット(Vehicle Assembly:VA)へ、非接触で電力を伝送する技術を指します。車両のバッテリーにあらかじめ電気を蓄えてから使うのではなく、発電所でつくられた電気を、給電ユニットを通じて車両に届けて使用します。

地上側の給電ユニット(GA)から車両側の受電ユニット(VA)へ走行しながら電力を伝送

地上側の給電ユニット(GA)から車両側の受電ユニット(VA)へ走行しながら電力を伝送

Hondaは走行中無線給電を実現するためGA 1ユニット当たり最大150kW(瞬間のピーク出力)の電力伝送を可能にする技術の開発を進めています。また、給電しながら走行するため、充電時間の削減への貢献も期待されます。さらには、GAに接続する電源に太陽光や風力などの自然エネルギーを活用できれば、その地域で生み出した再生可能エネルギーをその地域で使う“地産地消”につながる可能性もあり、Hondaの掲げるカーボンニュートラル実現にも寄与すると考えられます。誰もが自由に移動できる社会を目指すHondaにとって、走行中無線給電は新たなモビリティの可能性を拓く技術の一つなのです。

共用設計の受電ユニット(VA)により、乗用車から大型商用車まで対応可能

共用設計の受電ユニット(VA)により、乗用車から大型商用車まで対応可能

離れた場所に電力を送る「磁界結合方式」の仕組み

非接触で電力を伝送する技術として、身近なものの一つがスマートフォンを機器に置くだけで充電できる「ワイヤレス充電」です。走行中無線給電も、基本的な原理は同じ。道路側と車両側のコイルの間で磁界を介して電気をやり取りする「磁界結合方式」を、大電力かつ走行中でも使えるように発展させたものです。

道路に埋めた送電コイル(GA)に電気(交流電流)を流すと磁界(磁力)が発生し、その上を通る車両の受電コイル(VA)が磁界を受け取って電気(誘導電流)に戻します。「電流→磁界→電流」とエネルギーの形を変えながら、電線でつながずに電力を届けており、電気そのものが飛んでいるわけではありません。

磁界を介して送電コイルから受電コイルへ非接触で電力を伝送

磁界を介して送電コイルから受電コイルへ非接触で電力を伝送

ポイントは、送電・受電コイルに組み込んだ共振用のコンデンサです。コイルに流す交流電流は周波数(波のサイクル、kHz)を持ち、発生する磁界も同じ周波数で変動します。両側のコイルがこの周波数でぴったり響き合うよう調整しておくと、音叉の片方を鳴らすともう一方も鳴りだすのと同じ「共振(共鳴)」が電気回路上で起こります。この共振を活用することで、路面と車体のように距離があっても、走行で位置がずれても、効率よく電力を伝送可能。スマートフォンの充電から走行中無線給電まで、磁界結合方式はこうした同じ原理の延長線上にあり、駐車中の車両に充電する「非接触充電」も、使用条件こそ違え基本は共通しています。

高出力と小型を両立させた「銅条線」の存在

走行中無線給電の性能を左右する重要なパーツの一つが、送電・受電を担う「コイル」です。コイルは一般的に、高出力化と小型化がトレードオフの関係にありますが、Hondaは最大出力150kWを保ちながら、受電ユニット(VA)を乗用車のサブフレームに収まるサイズにまで小型化。高出力かつ小型化を実現できた鍵は、素材選びにありました。

走行中無線給電に用いられる85kHz前後の高い周波数で交流電流を流すと、電流の密度が銅線などの導体の中心にいくほど小さくなる「表皮効果」が生じます。表皮効果は、交流電流によって導体に磁界が発生して内部に渦状の電流(渦電流)が生まれ、この電流がもともと流れていた交流電流を妨害するように働き、中心部で打ち消し合うため、表面付近にのみ電流が流れやすくなるという現象です。周波数が高ければ高いほどその効果は顕著になり、高周波の交流電流の場合、太い1本の銅線では電流が流れにくい中心部の断面積が広く、効率よく電流を流すことができません。そこで、従来は電流が流れやすい表面積の拡大のために髪の毛ほどの細い銅線をそれぞれ絶縁被膜で包んで大量に束ねた「リッツ線」が使われてきました。リッツ線は高周波でも効率よく電流を流せる優れた線材で、走行中無線給電でも広く用いられています。

高周波でも効率よく電流を流せるよう、帯状の「銅条線」を採用

高周波でも効率よく電流を流せるよう、帯状の「銅条線」を採用

一方で、Hondaが線材として新たに着目したのが、変圧器などで用いられる「銅条線」(帯状の銅)です。表皮効果による課題は、リッツ線がそうであるように、電流密度が高まる導体の総表面積を広く取れば解決できます。電動モビリティのモーター開発で培ってきた電流密度の解析技術を用い、銅条線の厚さとコイルに巻いたときの配置を最適化。同表面積でリッツ線と銅条線の抵抗値を計測した結果、厚さ1mm以下で広い断面積を確保する帯幅の銅条線なら同等程度の性能を引き出すことが可能となりました。銅条線は構造がシンプルなため、量産性や安定調達の面でも扱いやすく、将来の普及を見据えた線材として採用に至りました。

コイルの巻太りとコストを大幅に低減

コイルの形状には、円形に線を巻く「サーキュラーコイル」を用いています。銅条線は帯状で、銅条線同士が接触しないよう間隔を空けながら渦巻き状に巻いてコイル化できるため、巻太り(電線の重なり合いや膨らみで外径が大きくなること)をリッツ線比で約30%低減※、同時に製造単価の低減も可能としました。

※Honda試算

地上側ユニット(GA)のモックアップ

地上側ユニット(GA)のモックアップ

また、中央に生まれる空間には、共振用のコンデンサやインバータなど必要なパーツを収めることができます。VAは、乗用車の場合、車両底面のサブフレームにある空間を活用して搭載する想定のため、車室空間を圧迫しません。

小型化と高出力化を両立させたVAは、人の手でも持ち運べる大きさ・重さまで小型化。必要な給電量に合わせて1〜4ユニットを選び、並列で搭載できます。乗用車には1ユニット、大型商用車では最大4ユニットの並列搭載により、最大40トンクラスの車両にも対応可能です。VAは車両タイプを問わず設置できるという共用設計にしており、乗用車はサブフレームに、大型商用車はトラクターヘッド部分に複数個収めることが可能なサイズとしています。

乗用車のサブフレーム内に収まる受電ユニット(VA)

施工性を高める「直流配電型GAシステム」

走行中の車両に電送するには、車両側のVAだけでなく、道路に埋め込む地上側の給電ユニット(GA)も重要になります。GAは道路の中に設置するため、荷重・防水・耐熱に関する耐久性はもちろん、施工のしやすさも重要です。特に、どれだけ速く埋設できるかがインフラ整備のコストを左右し、補修面では、配線の設計次第で1台のユニット交換のために関連個所のすべてを掘り起こさなければならない場合もあります。つまり、施工性やメンテナンス性の高さは、今後の普及において重大な要素の一つになるのです。

コイルとインバータを一体化した、地上側のGAユニットと車両側のVAユニット

コイルとインバータを一体化した、地上側のGAユニットと車両側のVAユニット

Hondaの地上側システムの大きな特徴は、電源から取り入れる直流電流(DC)を交流電流(AC)に変換する「インバータ」を各GAに内蔵し、コイルと一体で埋設していることです。このインバータには、ハイブリッド車開発で培った高い耐久性に関する技術が生きています。道路への埋設環境は車載環境とは異なりますが、温度変化や振動、水分などへの耐久性には共通して求められる要素があります。ハイブリッド車で鍛えたインバータだからこそ、コイルと一体で地中に埋設することができました。一般的な構成では、地上にまとめて設置した「インバータユニット」でACに変換し、そこから各給電ユニットへ個別のAC配線で電気を送ります。この場合、電源からインバータユニットまではDC配線が1本で済む一方、インバータユニットから先は給電ユニットの数だけAC配線が必要になります。そのぶん埋設する配線の量が増えやすく、施工の手間もかかりやすくなります。ともに「DC電源→(DC)→インバータ→(AC)→コイル」という流れは同じですが、Hondaは、インバータとコイルを一体化し、それらを現状はDC配線でつないでいく「連結型GAユニット」の開発を進めています。各ユニットへは電力をDCでシンプルに配り、ユニット内でそれぞれがACに変換。この配電の仕組みが「直流配電型GAシステム」です。個々のユニットに電源から配線を接続する必要がなくなったため、道路を深く掘って配線を這わせる工程を大幅に軽減でき、施工スピードとメンテナンス性の向上につながります。

インバータとコイルを一体化した「連結型GAユニット」で、配線量を抑え、コスト低減を目指す

インバータとコイルを一体化した「連結型GAユニット」で、配線量を抑え、コスト低減を目指す

クルマの機能構築だけでは進まない分野だけに、この研究は大成建設グループ(大成建設・大成ロテック)との共同研究によって進めています。Hondaが「直流配電型GAシステム」と車両側で受電を行うVAユニットを搭載した車両システムの開発を、大成建設が直流電源システムの開発を、大成ロテックが無線給電道路の施工方法の開発を、それぞれ担当。3社の知見を融合させ、公道での実現可能性を検証しています。この方式を用いることで、将来的には既存の道路の補修工事と同じような時間・距離で敷設(ふせつ)できることを目指しています。

実証実験の先に見据える普及シナリオ

走行中無線給電は、道路側のGAと車両側のVAが呼吸を合わせて初めて成立します。道路インフラとなるGAは、Honda車だけのものではありません。Hondaは通信規格などの国際標準化に各社とともに参加しており、規格に沿えば他社のEVも同じ道路から給電を受けられ、逆に他社のGAからHondaのVAも給電を受けられます。開発を手掛ける各社は現在、特定のメーカーだけでなく、あらゆるクルマが恩恵を受けられる社会インフラとして普及させることを目指しています。

国際標準規格に沿い、他社の車両・GAとも相互利用できる仕組みを目指す

国際標準規格に沿い、他社の車両・GAとも相互利用できる仕組みを目指す

近未来的な技術にも感じる走行中無線給電は、もうすぐ実際の道路で検証する取り組みも始まります。NEXCO東日本による次世代高速道路構想のプロジェクトの一つとして、2027年度以降に千葉・館山自動車道で公道実証実験が計画され、Hondaも参画予定です。

欧州の国々が高速道路の脱炭素化を前進させようとしていますが、大型商用車をEV化しようとすると、航続距離の確保と、高い車両稼働率の維持を両立する必要があります。そうした課題に対し、走行中無線給電は有効な解決策となります。Hondaは、本システムの技術について、まず高稼働・長距離走行が求められる大型商用車(トラック・物流)領域での実用化を目指します。

走行中無線給電が目指すのは、単に充電の手間を減らすことだけではありません。走行中にエネルギーを供給することで、高稼働・長距離走行が求められる大型商用車の電動化を支えられる可能性があります。そして、走行中無線給電は、「2050年カーボンニュートラル」実現に向けてHondaが開発する様々な技術の一つです。この目標達成を目指し、Hondaはあらゆる可能性を幅広く開発し続けています。

※記事中の数値・比較はいずれもHonda調べ(2026年10月時点)。

今回話を聞いた技術者

上田 拓

上田 拓

走行中無線給電開発チーム

佐藤 哲

佐藤 哲

走行中無線給電開発チーム

寺田 章伸

寺田 章伸

走行中無線給電開発チーム

櫻井 一槻

櫻井 一槻

走行中無線給電開発チーム



テクノロジーHondaが研究する「走行中無線給電」の強み