POINTこの記事でわかること
- Hondaには、一人ひとりが持つ異なる経験や専門性を大切にし、その力を結集して、チームとして結果を生み出す文化が根付いている。
- 「何のためにやるのか」という最終目的を表す「A00」と、立場や領域を超えて本音で議論する「ワイガヤ」は、そうしたHondaの仕事のあり方から育まれてきた文化の一つである。
- A00とワイガヤは、現在も商品開発をはじめとしたさまざまな領域に受け継がれ、チームで答えを導くための指針となっている。
Hondaには、長い歴史の中で育まれ、今もさまざまな仕事に息づいている、独自の考え方や仕事の進め方があります。
その一つが「A00(エー・ゼロゼロ)」。そして、「ワイガヤ」です。
A00もワイガヤも、単なる仕事のルールや会議の手法ではありません。今回は、Hondaに受け継がれてきた数ある文化の中から「A00」と「ワイガヤ」に焦点を当て、Hondaの従業員が仕事をするときに大切にしてきたことをひもときます。
「一人の天才」を、みんなで超える
Hondaの創業者である本田宗一郎。
強烈な個性と発想力を持った本田は、自らの考えをものづくりにぶつけ、Hondaを大きく成長させていきました。しかし、会社が成長し、事業や技術が広がっていく中で、Hondaは一人の天才の力だけに頼らない仕事のあり方をつくっていきます。
1973年、本田宗一郎の後を継いで二代目社長となった河島喜好は、社員たちにこんな考えを示しました。
「一人ひとりは本田宗一郎には及ばないかもしれない。でも、それぞれに本田宗一郎より優れたところが一つくらいはあるはずだ。その力を束ね、一人の天才をしのぐような仕事をしよう。」
一人の強烈なリーダーが答えを示すのではなく、異なる経験、専門性、個性を持った人たちが力を持ち寄り、チームとして新しい答えを生み出していく。
そうした仕事のあり方の中で、重要な役割を果たしてきたHonda文化の一つが、「ワイガヤ」です。
本音をぶつけ、本質まで考える。「ワイガヤ」
「ワイワイガヤガヤ話すから、ワイガヤ」。
名前だけを聞けば、そんな気軽なミーティングを想像するかもしれません。
でも、Hondaのワイガヤは、ただ自由に話したり、みんなが意見を言い合うだけではありません。
「そもそも、何のためにやるのか」「本当に大切なことは何なのか」「もっといい答えはないのか」
年齢や職位、所属や専門性にとらわれず、本気で、本音で意見をぶつけ合う。違う視点を持つ人と徹底的に話し合うことで、一人では見えなかったことに気づき、考えを深めていきます。
そして、話し合うだけで終わらせないのも、ワイガヤの大切なところです。議論を重ね、本質を見極め、最後はチームとして結論を出す。そこまでやり切るのが、Hondaの「ワイガヤ」です。
みんなの力を一つにする「究極の目的」
一方で、異なる個性を持つ人たちが集まれば、それだけで大きな力になるわけではありません。
それぞれが違う方向に向かってしまうと、せっかくの力を一つにすることができないからです。
そこで重要になるのが、「A00」です。
A00とは、単なる目標やスローガンではなく、チームの誰もが共有すべき最終目的を言葉にしたもので、「究極の目的」や「本質」を意味します。
「自分たちは、そもそも何のためにこの仕事をするのか」「この仕事を通じて、何を実現したいのか」それを徹底的に考え、チーム全員が同じ方向を向けるところまで突き詰めていく。
そのためHondaでは、A00を設定することに大きな労力をかけてきました。そして、A00を考えるためにもワイガヤをします。
異なる経験や専門性を持った人たちが、それぞれの視点から考えをぶつける。「何をするか」「どうやるか」へ急ぐのではなく、その前にある「何のため」を何度も問い直す。
そうしてA00を作り上げ、一人ひとりがその意味を理解して共有していきます。
仕事が始まった後も、A00は重要です。
壁にぶつかったとき。意見が食い違ったとき。大きな判断を迫られたとき。
「そもそも、自分たちは何を実現したかったのか」
A00に立ち返り、必要ならまたワイガヤする。そこから考え直し、語り合うことで、異なる個性を持つ人たちの力を再び一つの方向へ束ねていくのです。
開発から始まり、Hondaのさまざまな仕事へ
A00という言葉が生まれたのは、1970年代初頭の初代CIVICの開発でした。
一つのテーマに複数のチームが挑み、自由に企画を立て、議論する。その中で、「これはどういうチャレンジなのか」「何を目指すのか」を、全員が理解するまでワイガヤを重ねました。
そこで整理された商品開発の「目的・目標要件」が、今日のA00につながっていきます。
A00やワイガヤは、昔の商品開発の現場だけで使用されていたわけではありません。
その後、Hondaのさまざまなプロジェクトで使われるようになり、開発だけでなく、仕事の中でそれぞれにあった形や使い方で現在でも広く実践されています。
2025年に発売されたプレリュードもその一つです。開発責任者(LPL)を務めた山上は、ワイガヤを重ねながらA00を決めていったと語ります。人と人がコミュニケーションを取り、相手を深く理解した上で徹底的に議論し、結論を導き出していく。そんな泥臭いプロセスは、現在の開発にも息づいています。
プレリュードの開発には、さまざまな分野の技術や専門性を持つメンバーが関わるため、意見がぶつかることもありました。
そんなとき、判断の軸になるのがA00です。例えば、走行性能と燃費をどうバランスさせるのか。簡単には答えの出ない課題に直面しても、「そもそも、このクルマで何を実現したいのか」とA00に立ち返り、議論を重ねながら結論を導いていきました。
今も、Hondaの仕事の中に
Hondaの創立から75年以上のときが経ち、事業も技術も、働く人や仕事の進め方も大きく変わりました。
それでも、一人ひとりが自分の意思と考えを持つこと、異なる考えを持つ人と本気で向き合うこと。そして「何を実現したいのか」を共有し、それぞれの力を束ねることで、一人ではできないことに挑むこと。
A00とワイガヤを通して見えてくるのは、そんなHondaの仕事のあり方です。