モータースポーツ・スポーツ 2026.08.27

レースはHondaのDNA。従業員チームが鈴鹿8耐に挑み続ける理由

世界最高峰の「鈴鹿8耐」に挑み続けるHondaの従業員チーム。過酷なレースを通して人と技術を磨く、挑戦の舞台裏と受け継がれるHondaのDNAに迫ります。

 POINTこの記事でわかること

  • Hondaは創業以来、レースを通じて人と技術を磨いてきた。そのDNAを受け継ぐ従業員チームは、日々の業務と両立しながら世界最高峰の耐久レース「鈴鹿8耐」へ挑み続けている。
  • 従業員チームの一つ、ブルーヘルメットは二輪開発の知見を結集し、改造自由度の高い最高峰カテゴリー「EWC」に参戦。限られた時間と予算の中でアイデアを注ぎ込み、レースという極限状態でチームワークと技術を磨いている。
  • 社員がレース活動で培った現場の経験を日々の業務へ還元。Hondaの挑戦する文化やものづくりの精神を支えている。

真夏の鈴鹿サーキット。激しい雨の中、世界最高峰の耐久レースに挑むHondaの従業員たちがいます。普段は開発や生産の現場で働く彼らは、仕事とレース活動を両立しながら、世界最高峰の舞台で挑戦を続けています。なぜ彼らは挑み続けるのか。その理由をたどると、創業以来、レースを通じて人と技術を磨いてきたHondaのDNAが見えてきました。

藤井 成弥(ふじい せいや)

二輪・パワープロダクツ事業本部 二輪・パワープロダクツ開発生産統括部
電動開発部
E-Drive開発課 スタッフエンジニア ※監督
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冨江 慧(とみえ けい)

HRC 二輪レース部
開発室 第2開発ブロック ※ライダー Yellow
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山﨑 楓真(やまざき ふうま)

二輪・パワープロダクツ事業本部 二輪・パワープロダクツ開発生産統括部 
ものづくり企画・開発部
生産技術・試作課 ※チーフメカニック
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世界最高峰の耐久レース、鈴鹿8耐

鈴鹿サーキットを駆け抜けるHondaの従業員チーム 鈴鹿サーキットを駆け抜けるHondaの従業員チーム

FIM※1世界耐久選手権“コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレース(以下、鈴鹿8耐)は、1台のマシンを2~3人のライダーが交代で走らせ、8時間で走行した周回数を競う耐久ロードレースです。ライダーの走りだけでなく、マシン開発やピットワーク、レース戦略まで含めた総合力が勝敗を左右することから、世界最高峰の戦いとして知られています。1978年に始まり、現在はFIM世界耐久選手権の一戦として開催されています。

※1 FIMとは、Fédération Internationale de Motocyclisme(国際モーターサイクリズム連盟)の略称

鈴鹿サーキットは世界でも数少ない立体交差を持つ「8の字」レイアウトと、高速・低速コーナーが連続するテクニカルなコースレイアウトで世界屈指の難コースと言われています。こうしたサーキットの特性や真夏の暑さも相まって、鈴鹿8耐は独自の難しさと魅力を持つレースになっています。これに加え、1時間のスプリントレースを8回続けるような過酷なレース、地域や企業チームが条件をクリアすればワークスチームとともに参戦できることも、鈴鹿8耐の特徴です。

2026年はワークスチームであるHonda HRC含め合計20のチームがHonda車で参戦。内5チーム(6事業所)が社内チームとして参戦しました。2026年はHonda HRCが5連覇を達成し、Hondaにとって通算32回目の優勝となりました。

目標達成を支えた、ブルヘルのチーム力

その舞台に60年以上挑み続けてきたのが、Hondaの従業員チーム「Honda Blue Helmets MSC(ブルヘル)」です。開発、生産、品質など、それぞれ異なる職場で働く従業員が集まり、仕事と両立しながら最高峰カテゴリー「EWC※2」に挑み続けています。

1982年の台風による激しい雨で時間に短縮された鈴鹿8耐では、ブルヘルの飯嶋茂男(いいじま しげお)/萩原紳治(はぎわら しんじ)組が総合優勝。鈴鹿8耐を日本人ペアとして初めて制したチームでもあります。

※2 車両のカテゴリーは改造の自由度が高い最高峰の「EWC」、市販車に近く改造範囲が制限された「SST」、新しい技術を試す実験的な「EXP」の3クラスに分かれています。

ブルヘルが日本人ペア初優勝を果たした1982年大会 ブルヘルが日本人ペア初優勝を果たした1982年大会

現在、ブルヘルは埼玉県朝霞市と熊本県菊池郡にあるHondaの事業所を拠点に、新入社員から入社8年目ほどまでの若手を中心に活動しています。

ブルヘルは2028年のシード権獲得を見据え、3カ年計画をスタートしました。

初年度となる2026年大会ではドライコンディションを前提に「総合28位・208周走行」を目標に掲げました。しかし、大会当日は激しい雨。刻々と変化するコンディションに苦戦しながらも、チームは最後まで走り切り、35位・171周でフィニッシュしました。

監督を務めた藤井は、完走につながった最大の理由を「チームの団結力」と考えています。朝霞と熊本。離れた拠点で活動するチームだからこそ、レース前からオンライン会議を重ね、数値をもとに細かな議論を積み重ねてきました。

藤井
藤井

朝霞と熊本をつないでの定例会では、それぞれ担当領域の開発の進捗共有にとどまらず、一つひとつの数値を意識して意見を交わすことで、転倒をはじめとするさまざまなトラブルへの対処方法を議論し、チームの団結力を向上させていきました。

ゴールの先に、もう次の鈴鹿8耐がある

ブルヘルが最高峰カテゴリー「EWC」にこだわる理由は、順位だけではありません。

改造の自由度が高いからこそ、自分たちの技術やアイデアをマシンへ反映できる。そして、その成果も課題も、自ら走って確かめることができます。

燃料補給を行うピットクルー 燃料補給を行うピットクルー
藤井
藤井

スプリントレースでは、マシンを送り出したら、後はライダーの力が大きい。でも、耐久レースではチーム力が不可欠です。そこにこそ、プロに対して一矢報いるチャンスがあると考えています。

山﨑
山﨑

Hondaに入社以来3年間チームに所属し、今年はチーフメカニックを務めましたが、ワークスを含む他のチームを客観的に観察できました。『自分たちが困っている課題を他チームはどう解決しているのか』を見て学ぶことができ、今後のレースや業務にも生きる、エンジニアとしての経験値が一気に積めたと感じています。

レースが終われば、達成感に浸る――。

そんな時間は、ブルヘルにはほとんどありません。

ライダーを務めた冨江は、ゴールした時点ですでに翌年のことを考えていたと言います。

冨江
冨江

レースをしている最中も、いろいろな反省点が浮かんでくるんです。そして、ゴールした瞬間から来年のことを考えてしまう。それこそが鈴鹿8耐に挑み続ける理由だと思います。

雨の中で迎えた、171周完走の瞬間 雨の中で迎えた、171周完走の瞬間

レースで得たアイデアを日々の業務に還元する

世界最高峰のレースで得た経験は、ゴールとともに終わりません。

開発、生産、品質──それぞれの現場へ持ち帰られ、日々の仕事へと活かされています。

藤井
藤井

監督として約30人をまとめたことで、人を動かす難しさと、同じ方向を向いてもらうための伝え方を学びました。また、業務では開発の遅れは商品の発売遅れに影響するため、スケジュール管理はとてもシビアです。一瞬一秒の世界であるレース現場での経験は、日頃の開発業務においても、納期管理とそれを守り切るためのスピード感として活かされています。

冨江
冨江

自分たちで開発した商品をベースに、自分たちでレース用の追加開発を加え、自分たちがライダーを務めて操るからこそ、市場から上がってくるお客様の声を体感できる。体感したことをすぐに仕事場へ持ち帰り、職場のチームにフィードバックできることもメリットだと思います。

山﨑
山﨑

普段の業務では、品質領域を担当しています。本業だけでは見えにくい『極限状態で部品がどう壊れ、どこが変形しやすいのか』という、現場での使われ方を身体で理解できるのは、レース活動ならではです。担当業務である、市場で不具合が起きた部品の寸法測定や原因解析の精度が上がりました。

朝霞と熊本、2つの拠点から集まったチームメンバー 朝霞と熊本、2つの拠点から集まったチームメンバー

Hondaには、彼らのような従業員の有志チームが各事業所にあります。鈴鹿8耐に挑む目的はレースの成績だけではありません。世界最高峰の舞台で挑戦を重ね、人と技術を磨く。その経験は日々の業務へ活かされ、さらに次の世代へと受け継がれていきます。レースは今もなお、Hondaらしい人づくりとものづくりの根幹を支える舞台であり続けています。

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