製品 2026.07.17

Honda初のV8エンジン搭載船外機「BF350」開発ストーリー 「水上を走るもの、水を汚すべからず」を受け継ぐ挑戦

Honda初のV8エンジン搭載船外機「BF350」開発ストーリー

 POINTこの記事でわかること

  • Hondaは1964年のマリン市場参入以来、「水上を走るもの、水を汚すべからず」という信念のもと、暮らしを支える仕事の用途から、暮らしを豊かにするレジャー用途まで、さまざまな利用シーンに応える船外機を展開してきた。
  • 世界的な船艇の大型化ニーズに応えるため、二輪・四輪・マリンの知見を結集し、Honda初の量産V8エンジンを搭載した船外機「BF350」を開発。大馬力でありながら低振動・高耐久・環境性能を追求し、上質なクルージング体験を提供している。
  • Hondaはより多くの人がマリンライフを楽しめるよう、操船支援をはじめとした知能化技術の進化などを通じて、水上における“移動する喜び”の拡大を目指している。

Hondaは60年以上にわたり、船尾に搭載する船のエンジン「船外機」を手掛けるマリン事業を通じて、水上における“移動の喜び”を届けてきました。その挑戦の一つが、Honda初の量産V8エンジンを搭載した船外機「BF350」です。

オールHondaの知見を結集して誕生した「BF350」に込めた想いと、これからのHondaマリンが目指す未来について、開発の指揮を執った2人に話を聞きました。

坪内 方則(つぼうち まさのり)

二輪・パワープロダクツ事業本部 パワープロダクツ事業統括部 マリン開発部 マリン設計課 課長 チーフエンジニア

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小笠原 亮(おがさわら りょう)

二輪・パワープロダクツ事業本部 パワープロダクツ事業統括部 マリン事業部 商品企画課 アシスタントチーフエンジニア

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レジャーからプロユースまで。水上の移動を支えるHondaのマリン事業

Hondaはバイクやクルマだけではなく、耕うん機や芝刈機、発電機、除雪機、船外機など、人々のより豊かな暮らしに貢献するパワープロダクツ製品を展開しています。

なかでも、水上の移動を支える「船外機」を取り扱うマリン事業は、「水上を走るもの、水を汚すべからず」という本田宗一郎の「想い」からスタートしています。軽量・廉価な2ストロークエンジンが主流だった1964年に、エンジンオイルを水中に排出しない、環境にやさしい4ストロークエンジンの船外機「GB30」で船外機市場に参入、1992年には、当時もっとも厳しいとされた欧州の排出ガス規制であるボーデン湖規制に適合した「BF8B」を発売。1998年にはHonda独自の燃料供給技術であるPGM-FI (Programmed Fuel Injection、電子制御燃料噴射システム)を導入するなど、60年以上にわたって水を汚さない船外機づくりを追求してきました。

 

現在、世界で28モデルの船外機を展開し、累計生産台数は225万台超。北米や欧州を中心としたフィッシングやクルージングなどのレジャー用途から、東南アジアを中心とした漁業、観光、海上保安などのプロフェッショナル用途まで幅広いシーンで活躍しています。

※2025年度実績

小笠原
小笠原

船で海に出た後、万が一エンジンが故障してしまったら、クルマやバイクと同じく“止まる”ことはできますが、代替の移動手段は限られており、簡単に帰ってくることはできません。そのため、船外機には「止まらないこと」、つまり高い信頼性が求められます。特に漁業やタクシーボート、沿岸警備など、プロフェッショナル用途のお客様からは、高い耐久性が購入の決め手であったというお声を多くいただいております。

小笠原氏
坪内
坪内

耐久性についても使われている地域や国によってニーズが異なります。例えばアメリカなどのレジャー用途では年に数回、1回4~5時間の利用といった使い方である一方、東南アジアなどのタクシーボートでは年に200~300日、何時間もかかる距離をお客様を乗せて1日に何往復もします。そのため、使われている地域や国によって異なる「耐久性」にお応えする必要があります。

坪内氏

オールHondaで挑んだBF350開発

BF350
坪内
坪内

船のエンジンは船の大きさや用途によって「船内機」「船内外機」と「船外機」の3種類に分かれています。船内機、船内外機は船の中にエンジンを搭載するため、船内空間の設計の自由度が限られてしまいます。一方で、船外機は船の外側、後部に取り付けるため、船の中を広く使えることに加えて、エンジンが故障したときに船を分解することなく修理できるといったメリットもあります。生産技術の進化によって、馬力の大きな船外機が比較的コンパクトなサイズになったことも船外機が選ばれる理由の一つだと考えています。

こういった市場ニーズを背景に、Honda船外機史上最大出力となる350馬力の船外機「BF350」の開発が始まりました。

小笠原
小笠原

レジャー用途で大型船を楽しまれる方は、エンジン出力の大きさだけでなく、思い通りに操れる安心感や、船上で過ごす時間そのものの上質さ、快適さを求めています。Hondaは創業期から受け継ぐ「海を汚さない」という想いを大切にしながら、大馬力であっても環境に配慮し、上質な体験を提供することを目指しました。そこで、環境性能への配慮を意味する「Eco」と、上質な体験を意味する「Luxe」を組み合わせた「Ecoluxe Experience」という言葉をコンセプトに掲げて、開発をスタートしました。

BF350の開発で大きな挑戦のひとつとなったのが、Honda初の量産型V8エンジンの実現でした。350馬力実現のためには、V8エンジンの搭載が必須だと考えていたものの、クルマを含めてもV8エンジンの量産化は前例のない難題です。この難題に立ち向かうため、開発チームはマリンだけでなく、二輪や四輪の技術者をチームに加え、“オールHonda”で開発に挑みました。

坪内
坪内

大型船では船尾に複数の船外機を並べて搭載します。それを考慮すると、エンジン幅をコンパクトに抑えることが重要になります。また、静粛性や低振動といった性能も、船上で過ごす時間の上質さを左右する重要な要素です。これらの要件を叶えるために開発チームが注力したのがクランクシャフトの構造でした。

 

この構造を検討する上で活かされたのが、Hondaの四輪技術です。 クランクシャフトには高い強度と軽量化の両立が求められ、チームで仕様を検討していた時に、NSXの開発を担当していたメンバーから、「NSXのクランクシャフトに使われている素材が活用できるのではないか」という提案がありました。その後も素材だけでなく、エンジン評価・テストのノウハウも取り入れることで、目指す性能の実現につながりました。

 

また、プロジェクトの進め方には二輪開発で培われた知見も活かされ、事業の枠を超えた技術や経験の共有が、BF350の開発を大きく後押ししました。

小笠原
小笠原

出自が違うからこその衝突やすれ違いも起きましたが、“この開発は誰のためにやっているのか?”という基本に立ち返り、“そのためにはどうするのが一番いいのか?”と投げかけると、自然と「お客様のために」と目指す先がまとまるのはHondaらしいなと感じました。 

海上の2人

そうして生まれたBF350はHondaマリン事業のフラッグシップモデルとして、ユーザーからも驚きの声が届いています。

小笠原
小笠原

「静かなので、船内で会話できるようになった」という感想をいただきました。海の上では、エンジンを切ってしまうと船が流されてしまうので、その場にとどまるためにエンジンを回し続けることもあれば、ゆっくり航行しながらクルージングを楽しむこともあり、振動や音が少ないことが快適だという声も大きいです。

水上で過ごす時間をより豊かに。マリン事業の目指す未来

Hondaのマリン事業が次に見据えるのは、より多くの人が安心して船に乗れる未来です。 

坪内
坪内

船を操縦する上で難しさを感じることの一つに、船を桟橋に着ける「着桟」が挙げられます。クルマで言う「車庫入れ」ですね。もしこの操作を自動化できれば、着桟に苦手意識を持っている方の不安が軽減され、もっと気軽に船を楽しんでいただけるようになると考えています。

 

船はとても自由な乗り物です。一定のルールはもちろんありますが、クルマやバイクが走行する道路のような車線や信号機はありません。思いのままに水上を走り、自然と向き合う時間は、マリンならではの大きな魅力です。そうした船の楽しさやマリンカルチャーの魅力を、より多くの方に知っていただき、気軽に楽しんでもらえるよう、Hondaがそのきっかけになれたらうれしいですね。

小笠原
小笠原

自由な乗り物だからこそ、センサーやナビゲーションの領域ではクルマやバイクの技術がさらに活かせると考えています。船の操作に慣れたお客様であっても大変だと感じる操作をサポートするなど、気軽にマリンライフを楽しんでもらえるような商品をこれからもお届けしていきたいです。

海の上の移動を、より自由で豊かなものにすることを目指し、Hondaのマリン事業はこれからも挑戦を続けていきます。

海上の2人

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