経営 2025.10.03

ホンダジェットのお客様を支える認定サービスセンターとHondaの絆 ~対談:バニヤン・エア・サービス創業者 × ホンダエアクラフトカンパニー副社長~

ホンダジェットのお客様を支える認定サービスセンターとHondaの絆~対談:バニヤン・エア・サービス創業者 × ホンダエアクラフトカンパニー副社長~

 POINTこの記事でわかること

  • Honda航空機事業のサービス品質は、多くのパートナー企業によって支えられている
  • バニヤン・エア・サービス社は、ホンダジェットの立ち上げから関係を築いてきた認定サービスセンターの一つ
  • 同社はHondaフィロソフィーを体現し、ブランドアンバサダーとしても夢をともに実現するパートナーである

Hondaの航空機事業を担うホンダ エアクラフト カンパニー(Honda Aircraft Company、以下HACI)。そのサービス品質を支えているのが、HACIのアフターサービスを手掛ける世界21カ所の認定サービスセンターの存在です。今回はそんな認定サービスセンターの一つ、バニヤン・エア・サービス(Banyan Air Service)創業者のドン・カンピオン氏をお招きし、HACI副社長兼チーフコマーシャルオフィサーを担うアモッド・ケルカーとともにHondaJet(ホンダジェット)のサービスに込められたHondaフィロソフィーについて話を伺いました。

ドン・カンピオン

バニヤン・エア・サービス 社長
HACIブランドアンバサダー
もっと見る 閉じる ドン・カンピオン

さらに表示
アモッド・ケルカー

HACI 副社長兼チーフコマーシャルオフィサー もっと見る 閉じる アモッド・ケルカー

さらに表示

24時間365日迅速に対応。HondaJetのサービスを担う認定サービスセンター

バニヤン・エア・サービスのサービス倉庫 バニヤン・エア・サービスのサービス倉庫

まずはホンダ エアクラフト カンパニー(HACI)とバニヤン・エア・サービスの両社の関係についてお聞かせください。

アモッド
アモッド

HACIでは創業以来、航空機そのものはもちろんのこと、アフターサービスの品質向上にも注力してきました。「安全」「品質」「顧客満足」を最優先事項として掲げ、2024年には品質管理に関する新たなコミットメントも発表しています。コミットメントの中では品質第一の文化の醸成、継続的な改善、そして顧客満足の追求という3つの柱について明記しています。

 

これらを体現し、HACIのサービス品質担保に大きく寄与してくれているのが世界21カ所に点在する認定サービスセンターの存在です。認定サービスセンターでは、機体の修理やアップグレード、点検など、その他さまざまな整備を行っています。

 

バニヤン・エア・サービス社は認定サービスセンターの1つで、HondaJetの立ち上げから現在に至るまで長きにわたって、HondaJetとそのユーザーを支えてきてくれました。

HACI副社長兼チーフコマーシャルオフィサーのアモッド・ケルカー HACI副社長兼チーフコマーシャルオフィサーのアモッド・ケルカー
ドン氏
ドン氏

ありがとうございます。当社では現在60機のHondaJetの整備を担当しており、アメリカ南東部エリアで機体の燃料供給や各種ガイドラインに基づく機体や電子機器の修理・点検・部品交換、機体の販売などを手掛けています。

 

ご紹介いただいた通り、2014年にHondaが航空機を開発したというニュースを聞いたときから「この事業は絶対に成功する」という確信とともに、当社のサービスはHondaの求める品質に十分対応できると考え、事業提携を申し込みました。以来10年以上にわたってHondaJetのアフターサービスを手掛けています。

バニヤン・エア・サービス共同創業者のドン・カンピオン氏 バニヤン・エア・サービス共同創業者のドン・カンピオン氏
アモッド
アモッド

小型ビジネスジェットの分野で革新的ともいえる、急なトラブルにも対応できる「24時間365日対応アフターサービス」を提供し、グローバルで統一された高い品質基準を安定的に維持できています。その結果として、出発信頼度で世界最高水準ともいえる99.81% (2025年8月時点)を実現できていることも、HACIのサービスネットワークだけでなく認定サービスセンターの協力のおかげです。

※ 出発信頼度(Dispatch Reliability):運航予定時刻から30分以内に出発した割合。航空業界において、航空機の信頼性の指数として用いられる。

Hondaに魅了され、100を超える商品を保有するまでになったHonda通

ドン・カンピオン氏が保有するHonda商品の一部 ドン・カンピオン氏が保有するHonda商品の一部

ドンさんが「HondaJetは絶対に成功する」と確信するに至ったHondaの商品への信頼、その原体験はどこにあるのでしょうか?

ドン氏
ドン氏

私がはじめてHondaの商品に出会ったのは、15歳のときのこと。私の育ったナイジェリアの田舎町ではスクーターやペダルの付いたモペットが一般的な乗り物として普及していましたが、ある日、ペダルのないHonda製のモーターサイクルが登場。私は、両親に頼み込んでこれを購入してもらいました。そのバイクは、オイル漏れもなく、ライトは明るく、エンジン音は驚くほど静かで、まるで魔法のようでした。

 

その後、17歳からの2年間で、Honda CB175(175ccクラスのスポーツタイプ車)を乗り回し、西アフリカから周辺の国々を旅しました。生まれ育った町ナイジェリアのエグベからイギリスのロンドンまで、サハラ砂漠を超える大旅行。道路がない砂漠地帯なので、500マイルごとにあるオアシスの給油所で燃料を補給しながら走りましたが、1日に進めるのは約250マイルがせいぜいでした。合計2,000マイルに及ぶ一大旅行の中で、すっかりHondaの商品の虜になりました。この体験が、Hondaへの信頼と愛着の原点です。これまでに家族も含めて、Hondaの二輪・四輪・パワープロダクツ・航空機を100点以上も購入してきたんですよ。

ナイジェリアからイギリスへ走行中のドン・カンピオン氏 ナイジェリアからイギリスへ走行中のドン・カンピオン氏

そんなドンさんが航空業界に進まれたきっかけは何だったのでしょうか?

ドン氏
ドン氏

幼い頃、両親が勤めていた病院と寄宿舎が約500マイルも離れており、移動はもっぱら小型飛行機でした。ランドローバー(オフロードSUV)でさえ2日半もかかる道のりを小型飛行機なら3時間半で到達できる――。

 

この幼少期の体験から、アフリカのような田舎の農村地域において航空が交通手段として非常に有用で、安全で時間も節約でき、快適であることに大きな魅力を感じたのです。そこで、当時まだあまり知られていなかったものの、信頼していたHonda Civicの修理で学費を稼ぎながらカナダのトロントで航空学について学びました。

Honda  Civicの修理で学費を稼いでいた当時 Honda Civicの修理で学費を稼いでいた当時

バニヤン・エア・サービスを立ち上げられた経緯についてもお聞かせください。

ドン氏
ドン氏

学校を卒業後、小型飛行機の契約パイロットとして勤務を開始しました。ピストンエンジン搭載の小型飛行機を操縦して10人ほどの乗客を運ぶ仕事でしたが、次第に小型チャーター機の多くがメンテナンスに苦労していることに気が付きました。2機の小型飛行機しか保有していないような小さな会社がフルタイムで整備士を雇用しFAA(米国連邦航空局)の厳しい規制を充たすメンテナンスに対応することは現実的ではなかったのです。小規模事業者向けに整備を提供している会社もそう多くはありませんでした。

 

そこで1979年、25歳の時にこのような3機以下の小型チャーター会社に特化した保守点検サービスの会社を設立することを考え、幼い頃から付き合いのあった友人とともにフロリダ州フォートローダーデールでバニヤン・エア・サービスを設立するに至ったのでした。

バニヤン・エア・サービスの創業当時 バニヤン・エア・サービスの創業当時

Hondaフィロソフィーを体現するパートナーとして「お客様のホーム」を目指す

Hondaとの提携を決められた理由はどこにあったのでしょうか。

ドン氏
ドン氏

会社設立以降、迅速で質の高いサービスの提供に尽力してきました。日曜日の夜10時に「バッテリーが故障したが翌朝のチャーター便に間に合わせたい」という連絡が入れば、10分で駆け付け航空機の修理を行いました。そのようなサービスと対応の速さが次第に評価され、評判を得ていきました。

 

時は流れて2014年、Hondaが航空機を開発したという発表を耳にして私は興奮しました。HondaJetの美しさと効率性は、まさにビジネスジェットの理想形です。HACIが開発した主翼上面エンジン配置(Over-The-Wing-Engine-Mount:主翼上面にエンジンを配置するHondaJetの特徴)にも強く惹かれました。HondaJetのオーナーが、HACIの認定する専門家に機体のメンテナンスやパイロットのトレーニング、運航計画・管理を委託できる航空機管理運用サービスAMS(Aircraft Management Service)も魅力的に映りました。そこでHondaへの事業提携を申し入れ、今に至ります。

Hondaにはブランドスローガン「The Power of Dreams — How we move you.」や「人間尊重」「三つの喜び」をはじめとするフィロソフィーが存在しています。提携先であるバニヤン・エア・サービスの中にも、このようなフィロソフィーは存在しているのでしょうか。

ドン氏
ドン氏

「The Power of Dreams」はビジョンを、「How we move you.」は心のつながりを表しています。私たちはただの給油所ではなく、パートナーです。お客様がバニヤンを自分たちのホームだと感じてくれることを目指しています。

 

また、私たちは従業員のことを「チームメイト」と呼び、長期にわたって関係を築いてきました。創業以来、数十年単位で勤めてくれているメンバーもたくさんいます。これは、Hondaが目指す「人間尊重」の姿勢と通じるものがありますよね。

バニヤン・エア・サービス創立45周年イベントにて バニヤン・エア・サービス創立45周年イベントにて
アモッド
アモッド

おっしゃる通りHACIでは、従業員だけでなくビジネスパートナーに対しても家族のように誠実に接して、長期的な視点で最高水準の品質と顧客満足を追求しています。この姿勢はまさにHondaフィロソフィーそのものですが、お聞きの通り、ドンさんは単純な事業提携先ではなく、Hondaのこのようなフィロソフィーひとつひとつにも深く共感いただきながら業務に当たっていただいているパートナー企業なんです。

 

ドンさんが当初からHondaJetの開発に興奮し成功を確信されたように、「夢を実現すること」と「感動を届けること」の両方を提供することは、これからも私たちの使命です。Hondaのブランドスローガンは、このように私たちの活動に常に深く根ざしています。

 

Hondaフィロソフィーとブランドスローガンは、初代HACI社長 藤野による航空機開発における先駆的な取り組みの時代から私たちを導き続けており、現HACI社長 山﨑の時代にいたるまで受け継がれています。

ドン氏
ドン氏

初めてHACIの工場を訪れた際、藤野さんが語った言葉を思い出しますね。お話する中で、Hondaがいかに長期的な未来を描いているかを感じたものです。

 

ユーザーの声を詳細にヒアリングし、改善に活かす。その姿勢はHondaフィロソフィーを体現するとともに、まさにバニヤンが重視してきた理念・哲学とも一致するものです。

そのようなHondaフィロソフィーの一つに、ステークホルダーとの絆を想起させる「三つの喜び」があります。

アモッド
アモッド

Hondaの「三つの喜び」とは、買う喜び、売る喜び、創る喜びを意味しており、私たちのサービスの根幹です。顧客が満足し、販売者が誇りを持ち、開発者が創造の喜びを感じるというHondaフィロソフィーは、すべてのステークホルダーに喜びをもたらすことを目指しています。

ドン氏
ドン氏

Hondaの「三つの喜び」は、私の仕事の中でも常に感じています。「買う喜び」は、HACIでの納品体験に表れています。新しいオーナーが、実際に機体を製造したスタッフから祝福されるのは特別な瞬間です。「売る喜び」は、HondaJetの魅力を伝える瞬間に感じます。そして「創る喜び」は、バニヤンのスタッフもカスタマイズや整備を通じて実現しています。

HondaJetを機体オーナーへ納品する様子 HondaJetを機体オーナーへ納品する様子

今後の展望について教えてください。

アモッド
アモッド

私たちはこれまでFAAの厳しい基準をクリアするだけでなく、航空宇宙業界の品質管理規格であるAS9100の取得、独自の品質マネジメントシステムの導入などに積極的に取り組んできました。今後はHondaJet Echelonの開発成功、100% SAF(持続可能な航空燃料)による飛行試験、空力性能や製造コストの改善、機能の自動化による操縦士の負荷軽減など、イノベーションに注力していきます。

 

そして「One Honda Team」のスローガンのもと、グローバルなHonda文化との統合をさらに加速させていきます。二輪・四輪・パワープロダクツなど、他の商品で培ったサービス品質のノウハウを活かし、さらなる進化を目指します。

ドン氏
ドン氏

繰り返しになりますが、HondaJetオーナーが「バニヤンは私のホーム」と感じてくれるようなサービスを目指しています。最近では、フロリダ州セントオーガスティンに新たな格納庫を開設し、南部の顧客へのサービスレベルを向上させています。2026年にはさらに大きな施設の建設も検討しています。私の大好きなHondaとともに、航空業界に新たな価値を提供し続けたいと考えています。

Index