経営 2025.05.23

Honda×映画・アニメが生むバイクとの新たな接点

Honda×映画・アニメが生むバイクとの新たな接点

仮面ライダーシリーズ、『GHOST IN THE SHELL』、『Tokyo Override』…子供向けのヒーロー番組からハリウッドのSF大作まで、数多くの映画・アニメ作品にHondaのバイクは登場、こうした作品は新たなファンとの接点になっています。

本記事では、モーターサイクル・パワープロダクツデザイン開発室 クリエイティブダイレクター/室長の西本と二輪広報に各作品への協力を続ける想い、制作過程の裏側、とことんリアリティを追求するこだわりなどを聞きました。

西本 太郎

(株)本田技術研究所 デザインセンター
モーターサイクル・パワープロダクツデザイン開発室 
クリエイティブダイレクター/室長
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ハリウッドに登場したHondaの名車

ターミネーターシリーズでは1作目、2作目、5作目に主要登場人物がHondaのバイクに乗るシーンがあります。各作品に登場する機種の魅力についてHonda二輪広報(以下、二輪広報)に聞きました。

二輪広報
二輪広報

Hondaとして本シリーズへの正式協力はしていないと思いますが、作品中にHondaのバイクが登場しています。1984年米国公開の1作目には、まずヒロインのサラ・コナーがアルバイト先に行く場面でスペイシー 125 ストライカーが登場します。これはHondaのバイクとして初めてリトラクタブルヘッドライト(格納式ヘッドライト)を搭載したモデルです。

劇中でサラ・コナーが乗っていた1983年発表のスペイシー 125 ストライカー 劇中でサラ・コナーが乗っていた1983年発表のスペイシー 125 ストライカー
二輪広報
二輪広報

さらに、1作品目のカーチェイスシーンでターミネーターに扮するアーノルド・シュワルツェネッガーが乗っているのが1969年から約10年間生産されていたDREAM CB750 FOURです。この機種は国内外で大ヒットしました。また「ナナハン(=750cc型モデル)」という呼称の元祖と言われ、日本製大型バイクの存在感を印象づけた重要なモデルです。当時、1ドル360円時代の米国では比較的安価な大型機種でありながら、乗りやすくて馬力があり、音も迫力がある。シュワルツェネッガーのように大柄な男性が乗っても見栄えがしますし、丈夫で壊れにくい点もアクション作品において魅力的だったのではないでしょうか。

DREAM CB750 FOUR。グローバルにおけるHondaブランドのイメージを押し上げるのに貢献した DREAM CB750 FOUR。グローバルにおけるHondaブランドのイメージを押し上げるのに貢献した

『ターミネーター2』ではサラの息子のジョン・コナーがオフロード用バイクのXR100Rに乗っています。

二輪広報
二輪広報

こちらはヘッドライトもウインカーも付いていない、競技用のモトクロス車なので、通常は公道を走るのはNGです(笑)地域にもよりますが、米国では一般人がピックアップトラックの後ろに競技用バイクを積んで近くの砂漠に行き、レジャーとして走らせたりするバイクですね。

XR100R。一部バイクマニアの間では有名な話だが、XR100Rは4ストロークエンジンを搭載しているにもかかわらず、劇中の走行音は、4ストロークエンジンと比べ、甲高く独特のエンジン音が響く、2ストロークエンジンの音を被せて使用している XR100R。一部バイクマニアの間では有名な話だが、XR100Rは4ストロークエンジンを搭載しているにもかかわらず、劇中の走行音は、4ストロークエンジンと比べ、甲高く独特のエンジン音が響く、2ストロークエンジンの音を被せて使用している
二輪広報
二輪広報

5作目の『ターミネーター:新起動/ジェニシス』に登場するロードパルは、のちに反乱軍の指導者となるジョン・コナーの父親カイル・リースの子供時代のエピソードで使用されていました。「バイクに乗ったことがない人でも、乗れる」をコンセプトとした小型バイクです。バイクの操作で難しいとされるクラッチ操作が不要で、若年層にも操縦しやすい機種が選ばれていることにリアリティを感じますね。

ロードパルNC50 ロードパルNC50
二輪広報
二輪広報

このように、ターミネーターシリーズの登場人物は、サラ・コナー、カイル・リース、ジョン・コナーと、親子2世代にわたるHondaバイクユーザーということになります。

『GHOST IN THE SHELL』劇中車の舞台裏

『GHOST IN THE SHELL(ゴースト・イン・ザ・シェル/原作漫画名:攻殻機動隊)』はHondaのバイクを初めて正式に提供し、制作協力したハリウッド作品となりました。ヒロインが乗る劇中車のデザイナーとして参加するに至った経緯を教えてください。

西本
西本

日本発の人気漫画・アニメ作品を実写化するにあたり、日本のバイクメーカーのモデルを登場させたい、と制作側から要望があったのがきっかけです。当時私は、別の部署に所属しており、その時点で既に映画制作が始まっていたため、海外メンバーを含む7・8人のデザイナーが劇中車のデザイン案を描き始めていたところに途中参加しました。

 

とにかく時間がない状況で、最初のデザインを描き上げるまでのタイムリミットは1週間程度でした。合計で10案程度を提出した中、映画製作サイドの希望で私が出したデザインが採用され、先方の要望を聞きながらブラッシュアップをしていく形で制作が進みました。

時間的にだいぶシビアな中での制作協力だったのですね。特にご苦労された点は?

西本
西本

デザインを起こす上では、『攻殻機動隊』の実写版で、女優のスカーレット・ヨハンソンが主演する以外は、制作側がどんなテーマ・雰囲気のバイクにしてほしいのかといった情報も、脚本や絵コンテなどの資料も、全くありませんでした。要望としてあったのは、コクピットに潜り込むような独特のライディングポジションが特徴の「NM4」をベースとしながら、前傾姿勢のデザインに変えてほしいということ。さらにエンジン駆動で実機として走らせられるものにしたいと言われ、それだけを頼りに手探りでデザイン画を起こしました。最初の1週間ですべてを織り込むことはできないため、採用後に先方の希望する世界観やデザインを加えつつ、実機として成立するよう調整していった形です。

撮影で使われた実機の制作にはどのように携わられたのでしょうか?

西本
西本

本当はHondaとして撮影用車両を仕上げるところまで協力したかったのですが、先方の予算と時間の都合上、ベースの車体のみこちらで作って輸送し、外装は撮影用車両専用の制作会社が撮影現場付近で作ることになりました。映像内での映り方やどの程度のクオリティに仕上げるかは現地で判断されるものの、制作途中と最後の仕上がり確認のため撮影地のニュージーランドを2度訪れ、ミーティングやディスカッションを行いました。

実機の仕上がりは現地次第という中で、デザインのポイントにされた部分があれば教えてください。

西本
西本

電動ではなくエンジンで走らせる場合、既存のエンジンを乗せる必要があり、レイアウトもろもろにかなりの制限がかかります。また、人が乗るため、安全性も考えなければなりません。結果的にNM4のエンジンをそのまま使うことにしたのですが、近未来世界に登場するバイクなのに現代のエンジンと分かると観客が興ざめしてしまう。そこである程度エンジンを隠しつつも、人が乗って操作し、走行できるデザインを考えるところが難しくもあり、ポイントになったところでもありました。

 

例えば、SF的な世界観を演出するために、前輪のキャスター角(進行方向に対する傾きの角度)に工夫を入れています。

走行時の操作性を担保する上で角度自体は大きくは変えられないため、フロントフェンダー(タイヤを覆うパーツ)を少し特殊な形状にデザインすることによって、キャスター角が寝た形状に見えるような工夫を施しています。

映画『GHOST IN THE SHELL』で使用された、「NM4」ベースのデザインスケッチ(サイドビュー) 映画『GHOST IN THE SHELL』で使用された、「NM4」ベースのデザインスケッチ(サイドビュー)
デザインスケッチ(トップビュー) デザインスケッチ(トップビュー)
西本
西本

他にスカーレット・ヨハンソンの身長に合わせて一番格好よく見えるよう各所のディメンション(車体各部の配置や長さ、角度など)や車体サイズを調整しています。社内で同じぐらいの身長の女性にベース機に跨ってもらい、ステップとシートの距離を見たりしましたね。乗ったときに格好いいかどうかは、やはり重要ですから。

デザイン室長の西本 デザイン室長の西本

Hondaがこうした作品に協力する意義をどのように考えていますか?

西本
西本

日本の二輪車販売台数は、ピーク時の8~9分の1にまで下がっています。若い世代の中には、生活圏の中でバイク自体やライダーを見る機会が少ない人も多い。そんななか、オンラインのオンデマンド配信が加速するにつれ、エンタメコンテンツの認知拡散力や影響力は昔に比べて遥かに大きくなっています。こうした作品にHondaのバイクが登場することで、興味を持つきっかけになってくれたらうれしいです。

 

同時に、社内の若い世代にもこうした経験をさせてあげたい気持ちもあります。私自身、この作品へ参加したことで映画制作の流れを知ることができたり、他国の文化に触れられたことが良い経験になったりしました。その点も踏まえて“Hondaで働いているからこそ”の経験、バイクのデザインをしているからこその機会をできるだけ提供したい。今後もオファーなどがあれば前向きに検討していきたいと考えています。

仮面ライダーを支えるHondaのバイクたち

Hondaは2001年の平成仮面ライダーの第2作から、約25年間同シリーズに車両提供などの協力をしています。バイクが大きな役割を果たす子ども向け作品に協力を続ける意義と想いをお聞かせください。

二輪広報
二輪広報

仮面ライダーは昭和46年から放映され、一旦終了しましたが、平成になってから平成仮面ライダーシリーズとして新たに放映が開始されました。昭和46年から半世紀の長きにわたり、憧れと夢と正義を伝え続ける仮面ライダーシリーズは、日本において祖父母から孫までの三世代に引き継がれた「ヒーロー文化」を代表する作品の一つ。「子ども時代の憧れや夢を実現していくお子さんの成長を応援したい」との想いで、ホンダモーターサイクルジャパン(以下、HMJ)から仮面ライダーシリーズを制作する東映さんへの車両提供を続けています。

 

東映さんとはお互いにエンタメ、バイクにおける両社の取り組みや文化を理解しあっており、リスペクトを持ちながら、協力関係を築いています。

作品ごとに提供される機種は誰がどのような観点で選んでいるのでしょうか?

二輪広報
二輪広報

その作品が放映される時期に発売されている機種の中から、HMJが日本国内での人気機種を選択しています。街中で子どもたちが劇中車のベース機種の「実車」を目にする機会が増えることにより、現実世界でも憧れのマシンに触れてもらえますし、親世代にも最新のHondaのバイクを認知してもらえます。

これまでのシリーズに提供された機種は多岐にわたります。

二輪広報
二輪広報

多くの劇中車のベースになっているのはXR250やCRF250Lなどのオフロード車両ですが、仮面ライダーWには大型スーパースポーツバイクのCBR1000RRが登場しています。

仮面ライダーWのCBR1000RR 仮面ライダーWのCBR1000RR
二輪広報
二輪広報

2003~2007年には「ご家族で鈴鹿8時間耐久ロードレースを楽しんでいただくきっかけとしたい」というHMJの想いから、「仮面ライダーHonda」チームとしてCBR954RR、CBR1000RRで参戦を果たしました。鈴鹿8時間耐久ロードレースは、FIM世界耐久選手権の1戦として毎年夏に鈴鹿サーキットで開催されている日本最大のバイクレースです。真夏に8時間も走る過酷なレースですが、仮面ライダーが果敢に走る姿をご覧いただき、多くのお客様と感動を共有することができました。

2007年の鈴鹿8時間耐久ロードレースに「仮面ライダー電王 レーシングチーム」がCBR1000RRにて参戦 2007年の鈴鹿8時間耐久ロードレースに「仮面ライダー電王 レーシングチーム」がCBR1000RRにて参戦

今後の協力についてはどのように考えられていますか?

二輪広報
二輪広報

バイクは移動する喜びや、乗ることで出会える景色と人々をつなぎ、人生を豊かにする乗り物です。日本でバイクに触れ、乗り続けられることは、周りの人々の理解とサポートがあってこそ。Hondaのみならずバイク業界全体の活性化につながる活動として、また日本の未来を担っていく子どもたちの夢の活力になれるよう、HMJが中心となって、継続的に協力していく方針です。

未来のバイクファンをつくりたい。 近未来アニメへの協力でつなぐ想い

現在Netflixで配信中のアニメ『Tokyo Override』には、登場するバイクのみならず、登場人物の設定など物語の世界観の構築にも協力したとのことで、これまでとは異なる形の参画をされていますね。

二輪広報
二輪広報

こちらは約3年前にNetflixさんから、Hondaに対し制作協力依頼があり、デザイナー2人を含めた計4名で協力することになりました。

 

本作品はAIが暮らしに溶け込み、都市生活の全てが自動化され、電動車両・自動運転がスタンダードになった100年後の東京を舞台に、「運び屋」稼業を行う若者が主人公の物語。ガソリンエンジンのバイクは、ごく一部の人々の趣味であると同時に、運び屋の仕事をする上で活躍する、搭乗者の意思で動かせる乗り物として登場します。最初はそうしたシチュエーションに登場するバイクには、どんなものがイメージできるか?という話からスタートしました。

作品内にはHondaを代表するバイクの一つCB1300SFが登場します。CBシリーズをそうした未来に登場させたいと考えた理由、およびその魅力ついて教えてください。

二輪広報
二輪広報

100年先の世界でも生き残っていてほしい機種を思い描いたとき、小型のコミューターならやはりスーパーカブ、大型ファンモデルであればCBシリーズではないかという意見がチームから出て・・・

 

Hondaはスーパーカブのヒットで世界的に有名になり、同時にバイクのイメージをポジティブに変えました。また、大型バイクとしてはターミネーターシリーズにも登場したDREAM CB750 FOURを生み出し、グローバルで人気を博しました。直列4気筒エンジンのスポーツバイクで、スタンダードなデザインの中にパワーがたくさん詰まっているCBシリーズは、Hondaの看板機種であり、エポックメイキングなモデルだったと考えています。

作品中に登場するHonda CB1300SF(左)Yamaha YZF-R1(右)(Netflixシリーズ「Tokyo Override」独占配信中) 作品中に登場するHonda CB1300SF(左)Yamaha YZF-R1(右)(Netflixシリーズ『Tokyo Override』独占配信中)

作品制作においては、他にどのような協力をされたのでしょうか?

二輪広報
二輪広報

100年後の東京が舞台のSF作品ですが、テーマとなるガソリンで走るバイクをリアルに見せるには、「エンジン音」がとても重要です。そこで、本物のCB1300SFにマイクを付けて外を走ったり、高速走行の状態をつくり出せる研究所内の設備で最高速度付近の音を録音したりするのに協力しました。現物を使う協力は我々、得意分野ですから(笑)

最後に、アニメや映画といったエンタメ作品への協力を通して、Hondaやバイクそのものの魅力を伝えられる良さをどう考えていますか?

二輪広報
二輪広報

エンタメ作品は、まだバイクに触れたことのない子供たちや、バイクに興味のない人にも、Hondaやバイクに触れてもらえる接点になります。そうした作品を通じてバイクの良さや魅力を伝えることで、次世代の子供たちに憧れや、こんなバイクを作りたい、という夢を持ってもらえたらと思います。

ありがとうございました。

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