経営
Hondaガーナ工場に浸透する「人間尊重」の理念。西アフリカでのビジネスを支える現地マネージャーの奮闘を紹介
2024年12月、ガーナの自動車生産工場が稼働1年を迎えました。Hondaが成長市場と位置付ける西アフリカ地域において、コンパクトSUV「HR-V (日本販売名:VEZEL(ヴェゼル))」の生産からスタートしたガーナ工場。その工場立ち上げから現在までの道のりと、日々奮闘するローカルアソシエイト(現地従業員)※1の活躍ぶりを紹介します。
※1 世界中のHondaで働く従業員一人ひとりを、Hondaではアソシエイト(仲間)と呼んでいます。
Hondaガーナ工場で採用した「SKD生産」とは
Hondaは西アフリカを成長市場と位置付け、ナイジェリア、ガーナ、ベナンおよびコートジボワールの4カ国で四輪車ビジネスを展開しています。
そのなかの1つ、ホンダマニュファクチュアリングガーナ・リミテッド(Honda Manufacturing Ghana Ltd.:以下ガーナ工場)は、西アフリカでナイジェリアに続く2拠点目の自動車生産工場として2022年に設立されました。翌2023年12月に生産を開始したガーナ工場は、年間500台ほどの生産能力を有する自動車工場です。
ガーナの人口は2023年現在で約3,400万人※2。人口動態では20代以下が6割を超え、人口1人当たりのGDPも西アフリカでトップクラスであることから、今後はクルマ購買層がますます増加すると見られています。
また、ガーナはECOWAS(Economic Community of West African States:西アフリカ諸国経済共同体)やAfCFTA(African Continental Free Trade Area:アフリカ大陸自由貿易圏)の加盟国でもあります。Hondaはこうした経済圏の主要国であり、現在進行形の成長市場でもあるガーナで生産を行うことで、「自由で楽しい移動の喜び」「生活が変わる・豊かになる喜び」を一人でも多くのお客様に提供し、西アフリカでの事業成長を目指しています。
※2 出典:外務省ホームページ「ガーナ共和国基礎データ」より
ガーナ基礎データ|外務省
そんなガーナ工場の大きな特徴は、生産方式がSKD(Semi Knock Down:セミノックダウン)であること。SKDとは、自動車の主要部品を一部完成した状態で輸入し、現地で最終組み立てを行う生産方式です。完成車を部品単位で製造・組み立ての全工程を現地で行う、大規模な生産設備を要するCKD(Complete Knock Down:コンプリート・ノックダウン)方式の工場と比較すると、小規模な設備と体制でクルマを生産できるのが特徴です。
TIPSCBUとCKDとSKDそれぞれの違い
- CBU(Completely Built-Up):完成車工場の国から完成車をそのまま輸入する方式。工場で組み立てが完了した状態で、販売国へ車両が輸送される。
- CKD(Complete Knock Down):完成車を「部品単位に分解」した状態で輸出し、現地の工場で組み立てて完成させる方式を指す。エンジン、ボディー、シャシーなど、完成車に必要な部品ごとに梱包して輸送し、現地で組み立てを行う。部品単位で輸送されるため、輸送コストがCBU(完成車)よりも低くなることが多い。
- SKD(Semi Knock Down):車両を一部完成した状態で輸送し、最終組み立てを現地で行う方式。例えば、エンジンやシャシーが既に組み立てられており、現地工場で最終の組み付けを行うなど。 CKDと比べて現地での組み立て作業が少ないため、製造コストや時間、人員などが削減できるのに加え、国の制度によっては現地の関税減免措置を受けられるなど、CBUと比較して全体コストもある程度抑えられるメリットがある。
Hondaはガーナの自動車市場において20年以上にわたり現地卸代理店(ディストリビューター)を通じて完成車(CBU)の輸入・販売を展開してきました。一方、この間、ガーナは政治的な安定を背景に経済が目覚ましく発展。そして、ガーナ政府による「SKD関税恩典制度」※3が2022年に施行されたのを機に、Hondaは「需要のあるところで生産する」という考えに基づき、ガーナでの現地生産を決断しました。
※3「SKD恩典制度」とは、SKDによる現地生産を行うことで、部品の輸入関税が一部減免されるとともに、CBUの輸入も一定の減免が受けられる制度。これにより生産車も輸入車も関税額を抑えることができ、より適正な価格で市場投入できる
ガーナ産のHR-Vが完成するまで。奮闘の日々を現地マネージャーが語る
日本とガーナの協業プロジェクトが発足し、工場の立ち上げと生産開始に向けての準備が始まったのは2021年10月のこと。翌2022年9月に自動車生産現地法人、ホンダマニュファクチュアリングガーナ・リミテッド(HMG)=ガーナ工場が設立されました。
現地当局とのやりとりや生産機械の調達に苦労しながらも、プロジェクト発足から2年にわたってローカルアソシエイトの募集・教育を行い、2023年12月に待望のメイド・イン・ガーナの1台目となるHR-Vの生産を開始したのでした。
この立ち上げ期間に現地で採用されたローカルアソシエイトの1人が、アンジェラ・アッコンです。アンジェラはHondaに入社する前はガーナの外資系電気インフラ会社で財務管理などの業務を担当しており、そのキャリアを活かすべく、ガーナ工場の経理マネージャーとして採用されました。
部品が港の税関を通らず納入が遅延するなど、日々イレギュラーの連続です。しかし、社長を始め、関係者の協力を得ながら当局と折衝し、安定した生産オペレーションを継続することが私たちのミッション。一つひとつゴールを達成していく、そんな日々の積み重ねに、とてもやりがいを感じています。
ガーナに根差す「Hondaフィロソフィー」
幅広く業務をこなすアンジェラはHondaが大切にしている企業としての姿勢や基本の思いをしっかりと身につけ、日々の取り組みに活かしています。
Hondaフィロソフィーで私が最も共感するのが、基本理念の「人間尊重」です。研修のときにも座学で学びましたが、実際に仕事をするなかで常に感じています。課題や問題があれば、それがたとえ経営陣に対してであっても、臆さず打ち明けることができる企業風土こそ、新たな改善策を生むのだと思います。
またアンジェラは、今後のガーナ工場の発展や自身の希望について次のように話します。
このガーナ工場を、西アフリカを代表するような工場にしていきたいですね。品質はもちろん、生産能力・効率・人材と、あらゆる面で卓越した工場にし、私たちの国の発展に寄与することが夢であり、目標でもあります。また、地域住民の雇用を推進し、地域社会に貢献できるようなプログラムを提供したいと考えています。さらに管理職としてのリーダーシップやマネジメントスキルをより高めることで、ローカルアソシエイトたちがより働きやすい環境をつくっていきたいです。
最後に、ガーナでHondaがHR-Vを生産する意義について、アンジェラはこのように説明します。
多くの人がHondaをクルマのブランドとして認知しています。品質がいいということも理解していますし、耐久性、リセールバリューの高さも浸透しています。ガーナの人たちは高級感や特別感があるものが好きなんです。私たちの工場で生産されるHR-Vはグローバルモデルであると同時に、ガーナで、ガーナ人によって、ガーナ人のために生産されたクルマでもあるのです。
2024年現在、ガーナ自動車市場の約9割を輸入中古車が占めており、今後新車販売をどう伸ばしていくかが課題です。
世界中でHondaフィロソフィーを実践しているアソシエイトの夢や情熱が、人々の心を動かす商品やサービスを生み出す源泉です。
西アフリカのお客様に「自由で楽しい移動の喜び」と「生活が変わる・豊かになる喜び」を提供するために。生産開始から1年という若くて小さなガーナ工場は、未来のHondaの四輪車事業の発展につながる可能性を秘めた工場でもあるのです。
夢の力を原動力に、Hondaは西アフリカ地域で新たな価値と感動の創造をこれからも追求していきます。
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私は利益を上げるためのコスト管理や、組み立て作業員を含む15人ほどのローカルアソシエイトのマネジメントなど、経理や総務、人事などを担当しています。ガーナ工場はまだまだ規模が小さいので、私の業務範囲は多岐にわたります。
研修期間中、一番驚いたのがHondaの時間管理の厳格さ。ガーナのビジネス慣習で時間にルーズなローカルアソシエイトが多いため、マネジメントするうえでその感覚の違いに戸惑うこともありました。しかし、時間を守ることで仕事がスムーズに進み、スケジュール通りに仕事が片付く。それが会社の利益につながり、結果的に自分たちの利益を担保することでもあるのだと、ガーナ工場のローカルアソシエイトたちに伝えるようにして時間感覚のずれを調整しています。