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イノベーション 2024.07.22

なぜHondaは空に挑むのか。ビジョンとホンダジェットの特長を解説

なぜHondaは空に挑むのか。ビジョンとホンダジェットの特長を解説

 POINTこの記事でわかること

  • ホンダ エアクラフト カンパニーは小型ビジネスジェット機を開発・製造販売するHondaの航空機事業子会社
  • HondaJetには、「主翼上面にエンジンを配置する」画期的な技術が搭載されている
  • 独自のエンジン配置により、快適性とスピード、室内の広さ、燃費の良さを劇的に改善

Hondaから生まれた航空機事業子会社・ホンダ エアクラフト カンパニー

「HondaJet(ホンダジェット)」とは、本田技研工業の航空機事業子会社であるホンダ エアクラフト カンパニー(Honda Aircraft Company 以下、HACI)が開発・製造・販売・アフターサービスを行う小型ビジネスジェット機の総称です。

航空業界を驚嘆させた小型ビジネスジェット機・HondaJet 航空業界を驚嘆させた小型ビジネスジェット機・HondaJet

小型ビジネスジェット機はビジネスオーナーが旅行や出張で使用したり、複数名での分割所有や機体の空き時間をチャーターフライトサービスに貸し出すなど、広く活用されています。近年はチャーターフライトサービスなど、所有から利用への流れも進んでおり、その利用者数は年々増加しています。

HondaJet最大の特長は「主翼上面にエンジンを配置する」、それまでの常識を覆すアイデアが実装されている点にあります。エンジンを主翼に移したことで室内が快適で広くなるだけでなく、空気抵抗を抑制し速度・燃費の良さにも寄与した、機能美を兼ね備える航空機です。

 POINTHondaJetの特長

  • 主翼上面にエンジンが配置された画期的な小型ジェット
  • 室内の広さ・快適性とスピード・燃費の良さを実現

HACIは2006年に設立。アメリカ合衆国ノースカロライナ州に位置し、同じ敷地内にR&Dセンター、本社ビル、生産工場、カスタマーサービス等が1カ所に集約され、世界40カ国以上から集まった約1000名(2024年時点)が一丸となってHondaJetの開発・製造・販売・アフターサービスを支えています。

ホンダ エアクラフト カンパニー(Honda Aircraft Company)の沿革

1986 Hondaが航空機の基礎研究をスタート
1993 実験機の初飛行を実現
1997 エンジンを主翼上部に移す画期的なコンセプトを開発
2003 HondaJet実験機による初飛行に成功
2005 HondaJet実験機を世界初公開
2006 HondaJet事業化に向け、ホンダ エアクラフト カンパニー(Honda Aircraft Company)設立
2015 型式証明を取得、初号機の引き渡しに成功
製造・販売を開始
2018 日本での引き渡しを開始(https://global.honda/jp/news/2018/c181220.html
小型ビジネスジェット機の納入台数世界第1位を獲得
2022 新たに山﨑英人が第2代社長兼CEOに就任
2023 新型ライトジェット機 HondaJet Echelonの製品化を発表

40人の精鋭と異次元の技術で航空業界に参入

Hondaが航空機の基礎研究を始めたのは今から40年ほど前の1986年のこと。この年に新設された埼玉県和光市の基礎技術研究センターで、機体およびエンジン技術の研究プロジェクトが始まりました。

基礎技術研究センターは21世紀に向けた新領域の技術開発を目的とした先行研究機関で、航空機はその研究テーマの一つでした。プロジェクトを主導したのは初代HACI社長を務めた藤野道格(ふじの・みちまさ)。航空機プロジエクトの目標として、最先端の航空機技術を結集したHonda独自の小型航空機をすべて自前で開発することが言い渡されました。航空機技術を持たないHondaにとって、想像を超える大きなチャレンジでした。

プロジェクト発足後、藤野はすぐに渡米。昼は実際に部品を自作してプロペラ機を作り、夜は世界最先端の航空技術を勉強する日々が始まりました。航空業界においてHondaは後発組。後から新規参入するからには従来の常識にとらわれない圧倒的な価値を生み出すという目標は基礎研究の段階からチームに共有され、徹底的に考え抜かれました。

本格的に航空機の設計を始めたのは1987年。ミシシッピ州立大学のラスペット航空研究所と共同研究を重ね、1993年にHonda初となる6人乗り実験用小型ジェット機「MH-02」が完成。HondaJetを特長づける「主翼上面にエンジンを配置する」アイデアが誕生したのはさらに4年後のことでした。

実験機MH-01で基礎研究を行う開発チーム(右から3番目、奥側が藤野) 実験機MH-01で基礎研究を行う開発チーム(右から3番目、奥側が藤野)

小型ビジネスジェット機のエンジンは、胴体後部の左右に配置するのが一般的。主翼上面にエンジンを配置すると、空気抵抗が増えて揚力が減り、速度が出ずに燃費も悪くなるため、当時の航空業界では考え難いことでした。

高速時の造波抵抗を軽減できるような空力設計を実現できれば、主翼上面にエンジンを配置しても抵抗を増加させない方法があるのでは。

藤野率いる約40名の開発チームの試行錯誤により実装したこのアイデアは「航空機設計上の重要な発見である」と航空業界から評されました。

一般的なエンジン配置(左)とHondaJetのエンジン配置(右) 一般的なエンジン配置(左)とHondaJetのエンジン配置(右)

最初の2年間はコンセプト実証のシミュレーションやボーイングの施設を借りての風洞実験などを実施し、1999年から実際の設計へ移行しました。機体組立、強度試験、システム機能試験などを完了し、いよいよ2003年にフライト試験を開始。同年12月に機体とエンジンどちらも自社製という世界的にも珍しいパッケージでの初飛行を成功させました。

F1飛行試験1
寒冷地試験1 飛行試験の様子。次々に試験をクリアする様子に航空機会社の社員たちも舌を巻いたという

飛行試験の成功により、その性能や商品としてのポテンシャルの高さを実証したHondaJetでしたが、一方で事業化は難しいという見方が社内にはありました。航空機ビジネス自体の専門性が非常に高く、異業種から航空業界に参入した前例もありません。研究開発中のHondaJetはPOC機(コンセプト実験機)の飛行試験とともに、その研究にもピリオドが打たれる可能性が高い状況でした。

藤野は「せめて最後に航空ショーでお披露目したい」と経営陣に直談判。2005年に開催された世界最大級の航空ショーである、EAA AirVenture Oshkosh(オシュコシュ 航空ショー)に最後の望みをつなぎます。

ショー当日、滑走路に着陸、駐機エリアへ移動してきたHondaJetは、1000人超の航空ファンに取り囲まれ、「こんなに美しい飛行機は見たことがない」という称賛の言葉に包み込まれました。

最初のお披露目となった2005年のEAA AirVenture Oshkosh(オシュコシュ 航空ショー)の様子 最初のお披露目となった2005年のEAA AirVenture Oshkosh(オシュコシュ 航空ショー)の様子

240万枚の証明書提出の末、悲願の商品化に成功

Oshkoshでの衝撃的なデビュー後、HondaJetを是非購入したいと小切手を送ってくる顧客まで現れ始めたことを受け、事業化に対する潮目も変わりはじめます。幾度にも及ぶ交渉の末、2006年3月、当時Hondaの社長を務めていた福井威夫(ふくい・たけお)が事業化を承諾しました。

同年、ビジネスジェットの需要が最も多く、商品化に向けた流れもスムーズにできるアメリカに本社を置き、初代社長には藤野が就任しました。そしてここから、商品化に向けた新たな闘いの日々が始まったのです。

商品化に必要な型式証明の取得には想像を絶する労力が必要となります。設計上問題ないことを確認するデザインレビュー終了後、各部品の耐久性等に問題がないかチェック、その後、機体そのものの耐久性等をチェック、実際にテスト機を製造して寒冷地や高高度でのフライトに問題がないか何度も試験し、そのすべての試験結果を書類に起こし、連邦航空局(FAA:Federal Aviation Administration)に提出、許認可取得を積み重ねました。

HondaJetが型式証明を取得したのは2015年。この間、HACIがFAAに提出した書類は240万ページにも上り、A4のコピー用紙で積み上げると高さ240m・重さ175.2tにも及びます。数々の苦難を乗り越え、プロジェクト始動から約30年の時を経て、HondaJetは事業化に成功しました。

2022年に初代社長の藤野が社長兼CEOを退任し、新たに山﨑英人が社長兼CEOに就任。2024年には米国航空宇宙学会より日本人初となるダニエル・グッゲンハイム賞が藤野に贈られ、一つの大きな区切りを迎えたHACI。現在HondaJetは北米、欧州、中南米、東南アジア、中国、中東、インド、および日本で販売され、計250機(2024年2月時点)のデリバリーを達成。HondaJetと同様の主翼上面配置のエンジンを積んだ航空機で商品化・運用されている機体は2024年現在誕生しておらず、HACIの技術力の高さを証明し続けています。

2023年のOshkosh Air Showの様子。自動車やバイクなど、Hondaならではの展示が来場者から好評を得た 2023年のOshkosh Air Showの様子。自動車やバイクなど、Hondaならではの展示が来場者から好評を得た

HondaJetの変遷

名称 HondaJet Echelon(エシュロン)※次期モデル
時期 2026年 初飛行予定
2028年 型式証明取得予定
特長 競合のライトジェット機※1より20%、上位カテゴリーの中型ジェット機※2に対しては40%※3以上燃費を向上させることで、ライトジェット機として世界で初めてノンストップでのアメリカ大陸横断を可能にした
  • ※1 最大離陸重量が12,500ポンド以上、20,000ポンド以下の双発エンジンを搭載した機体。HondaJet Elite II(ベリーライトジェット)の一つ上のカテゴリー
  • ※2 最大離陸重量が20,000ポンド以上、35,000ポンド以下の双発エンジンを搭載した機体
  • ※3 アメリカ大陸横断(ニューヨーク ― ロサンゼルス間)の飛行距離で比較した場合
名称 HondaJet Elite II(エリートII)
時期 2022年10月18日
特長 フュエルタンク(燃料タンク)の形状改善による航続距離の延長
グランドスポイラーの配置で抵抗を大きくし、滑走路が短い飛行場へも離発着できるよう改善
名称 HondaJet EliteS(エリート S)
時期 2021年5月27日
特長 航続距離を222㎞延長
ASAS(Advanced Steering Augmentation System)を搭載し、様々な天候状況の中で操縦をサポートする機能を追加
名称 HondaJet Elite(エリート)
時期 2018年5月27日
特長 従来のHondaJetに対して、約17%(396km)の航続距離延長
エンジンノイズを低減させる新インレット構造採用による静粛性の向上
名称 HondaJet
時期 2013年12月21日
特長 主翼上面にエンジンを配置することで「室内の広さ・快適性」と「スピード・燃費の良さ」を両立

※時期は日本時間

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