イノベーション
座ったまま重心を移動させるだけで、歩いているかのように全方位へ自然に移動でき、両手も自由に使えるハンズフリーパーソナルモビリティ「UNI-ONE」。さまざまな可能性を持つHondaの新しいモビリティです。今回は、そんな「UNI-ONE」の開発チームメンバー4名を迎え、座談会を実施。「UNI-ONE」に込めた想いや開発秘話、そして、「UNI-ONE」のある未来への期待を語り合いました。
UNI-ONEプロジェクト開発責任者。全体統括を担当
UNI-ONE におけるUX(*1)・スタイリング担当。AR (*2)体験の企画・コンセプト立案~実証実験を推進。
*1: ユーザー体験(User Experience)
*2: 拡張現実(Augmented Reality)
UNI-ONE プロジェクト開発責任者代行、電装領域担当。鈴鹿サーキットパークでの実証実験を主推進。
UNI-ONE 車体設計の開発責任者。モビリティリゾートもてぎでの実証実験を主推進。
——そもそも「UNI-ONE」はどのようなモビリティなのでしょうか?
——車いすとはまた違う、幅広い人を対象としたモビリティなのですね。「みんなが乗りたくなる」を目指したということですが、デザイン面でこだわったところはありますか?
周囲の人に「危険なもの」と認識されない、丸みを帯びたボディが特徴です。できる限り「メカ感」を感じさせないようにデザインを意識しました。また、親しみを持っていただけるよう、シート部分にサステナブルな素材を使ったり、起動時の操作をわかりやすくしたりしました。乗る人にとっても、周囲の人にとっても、「やさしいモビリティ」を目指しています。
——技術面では、どんなところを工夫したのでしょうか?
「UNI-ONE」の前身である「UNI-CUB β」のターゲットは、健常者のみでした。システムに異常が起きたときは、本体が倒れて強制的に止まる仕組みでしたが、より幅広い方々に、より安心・安全に「UNI-ONE」を使用いただけるように、まずは倒れないような仕組みを考えましょう、というのが「UNI-ONE」で初めて取り組んだ課題でした。ここは野原が特に頑張ってくれて。
シートが上がっている状態と、下りている状態、どちらの状態においても安定させなければいけませんでした。シートが下りているときは4本の脚で安定させ、上がっているときは重心移動でバランスを取れるようにしています。もしシートが上がった状態でシステムにトラブルが発生しても、すぐに車体を下げて、安定した状態に戻す機能も新たに追加しました。とはいえ、人ごみの中に入っていくためには、サイズをなるべくコンパクトにしなければいけないので、安定感とサイズの両立に苦労しましたね。
——シートはどのくらい上がるのですか?
約15cm上がります。小さい子どもが乗った場合、立っているときよりも目線が高いので、いつもとはまったく違う世界が見えるんですよね。試乗をしてもらうと、子どもも大人も、みんなが笑顔になってくれます。
普段、車いすに乗っている方にとっても、15cm上がるだけで、視界はまったく変わります。車いすだと、立っている人と話すときには顔を見上げなければいけませんが、「UNI-ONE」に乗っていれば近い目線で話せるので、その点も喜んでいただけるポイントのひとつだと思います。
——「UNI-ONE」の開発にあたり、大切にしていたことがあれば教えてください。
Honda Roboticsでは、「身体機能の拡張」というのが研究開発のスコープの1つにあって、これをベースに、人の役に立つこと、人に寄り添うことを大切にしています。我々が新たなモビリティに活かしたのは、二足歩行ロボット「ASIMO」の開発時から研究してきた、バランスを取りながら移動する技術。人と人とがコミュニケーションを取りやすくするために、目線を上げ、意のままに移動できるモビリティを目指して、これまで培ってきたロボティクス技術を駆使しました。
一般的に、ロボットというと、効率化を目指す産業機械というイメージがあると思います。ですが、Hondaのロボティクス技術は「人」に着眼しているんです。「UNI-ONE」は、昔から積み重ねてきた移動の技術と、「人のために」という想いを掛け合わせてできたものなので、とてもHondaらしいプロダクトだと感じています。
——「Hondaらしい」という言葉がありましたが、Honda Roboticsのものづくりには、なにか芯のようなものがあるのでしょうか?
ユーザー目線を忘れない姿勢は、Hondaのものづくりに通じるところだと思います。
どうすれば人の役に立てるか、という視点はつねに意識しています。とはいえ、「こうすればHondaらしいから、こうしよう」という観点で、ものづくりをしているわけではありません。Honda Roboticsに関わる我々は、前例がないモビリティにチャレンジしていますから、新しいHondaらしさも追求しているといえるのかなと。そういう意味では、かなりわがままを言いながらものづくりをさせてもらっています(笑)。
「UNI-ONE」自体も、車やバイクと違い前例がないものなので、はじめは正直、わからないことだらけだったんです。でも、みんながそれを受け止めて、わからないなりに正しい答えを見つけようとしていて。今までになかったモビリティだからこそ、「誰もが正解につながる意見だけを言えるわけがない」という前提のもと、さまざまな意見を取り込みながら、開発を進めていきましたね。
——直近では、栃木県のモビリティリゾートもてぎや三重県の鈴鹿サーキットパークで実証実験をしたそうですね。それぞれどのような内容だったのでしょうか。
モビリティリゾートもてぎでは、主に人ごみの中で使うことを目的とした実証実験を行いました。モビリティリゾートもてぎの敷地内には、ホンダコレクションホールというミュージアムや、パークと呼ばれる遊園地など、様々なエリアがあるのですが、エリア同士が少し離れた場所にあり、徒歩での行き来がしづらいという課題がありました。
そこで、ホンダコレクションホールとパークエリアに「UNI-ONE」のステーションを置いて、シェアサイクルのように敷地内の移動ツールとして使ってもらったんです。将来的には、敷地内で乗り捨てでき、「UNI-ONE」が自動的にステーションに戻ってくる、という仕組みができたら、多くの方の移動をサポートできるのではと考えています。
一方で鈴鹿サーキットパークでの実証実験は、主にアミューズメント・レジャーでの活用が目的でした。「UNI-ONE」に乗っていただくと、皆さんが口をそろえて「楽しい」と言ってくれるので、ライディングを楽しむ「FUN領域」でも活用できるのではないかと実感しましたね。特に、鈴鹿サーキットパークの敷地内でサーキットに似たコースをつくって実施した試乗体験会では、子どもたちの笑顔をたくさん見られてうれしかったです。
また、今年の7月には「UNI-ONE」とAR技術を融合させたアトラクションをつくって、体験会を実施しました。タブレット端末を持ち、ゲームをしながら「UNI-ONE」に乗ると、タブレット端末に映るシーンに合わせて、「UNI-ONE」が動いたり、回ったりする仕組みです。「UNI-CUB」のときから、ARやVRと融合すれば、きっとおもしろいことができると思っていて、それが証明された実証実験になりました。
まるで異空間にいるような体験ができて、没入感もあるので、鈴鹿サーキットパークでの実証実験では、身体拡張という意味での「UNI-ONE」の意義を感じられました。「UNI-ONE」の新たな側面が見えた気がします。
——2023年10月26日から11月5日に開催される『Japan Mobility Show 2023』では、「UNI-ONE」の出展も決定しています。多くの人に体験いただく上で、注目してほしいポイントはありますか?
予約受付は16歳以上の方が対象ですが、3歳以上の方はその場で並んでいただき、どなたでも試乗できます。鈴鹿で行ったARアトラクションの体験も予定しているので、デジタル技術と現実世界におけるフィジカルの感覚が融合する楽しさや、新しい価値を体感していただきたいです。
見慣れないモビリティなので、実際に乗るまでは、「UNI-ONE」のよさや存在意義はわかりづらいかもしれません。実は私も「UNI-ONE」をはじめて見たときは、正直、「なんだこれ?」と思ったんです。でも、いざチームに入って自分で乗ってみると、社会にとって必要なものだと実感しました。ぜひ多くの人に試乗してもらい、「UNI-ONE」の楽しさや魅力を伝えられたらと思います。
——最後に、「UNI-ONE」を通して実現したい「夢」を教えてください。
移動しながら両手が自由に使えるので、先ほども話があったARのアトラクションとの相性がよくて。それが「UNI-ONE」の活用法として最適解なのか、まだ探っている最中ではありますが、移動以外の用途にもたくさん活用できればいいなと思っています。FUN領域以外にも、「UNI-ONE」を使うことで、立ち仕事をする方の身体の負担を減らせたり、身体に障がいのある方の仕事の幅が広がったり。さまざまなシーン、用途で、あらゆる人に活用してもらえると思います。
私の祖父母の足腰が弱くなったとき、ふさぎこんでしまったり、攻撃的になったりしてしまう姿を近くで見ていました。自由に移動できない状態は、こんなにも人の内面にも影響し、幸せを奪ってしまうものなのかと感じていたんです。高齢の方に限らず、誰もが自分の好きなところに、思うままに移動して、いつまでも幸せでいられるような未来が来てほしいと願っています。
生活の中に「UNI-ONE」が溶け込み、社会にとってあたりまえの存在として認識されるのが夢です。年齢や障がいの有無にかかわらず、操作不要で楽に移動できるのが「UNI-ONE」の魅力だと思うので、「UNI-ONE」によって、人々の移動や活動の可能性が広がっていけば、こんなにうれしいことはありません。
「UNI-ONE」には、乗っている人と歩いている人が、手をつないで一緒に移動できるという大きな特徴があります。主に移動を目的としたモビリティではありますが、障がいのある方と健常者が並んで会話しながら歩けたり、小さいお子さんと目線の高さが近くなったりすることで、コミュニケーションを活発にするツールになればいいなと。
先ほど「Hondaらしさ」の話がありましたが、「人の役に立つ」「人や社会にやさしい」を第一に考え、お客さまの意見を取り込みながら、自分たちの信じる道を進んでいく。そうしてできたものは、自然と「Hondaらしい」と言っていただけるのではないかなと思います。「UNI-ONE」ならではの使われ方を、さまざまなシーンで見出しながら、人と人とをつなぐ新たなモビリティとして、社会に浸透させていきたいですね。
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座ったまま重心を移動させるだけで、歩くように全方位へ移動できるモビリティです。目指したのは、歩いている人と同じような感覚で移動でき、人ごみの中でも使える乗り物。かつて同じコンセプトで「UNI-CUB β」という一輪車のようなモビリティをつくっていましたが、「UNI-ONE」では、シートが昇降する仕様に進化させたことで、立っている人との目線を合わせられるようになりました。年齢や障がいの有無にかかわらず「乗ってみたい」と思ってもらえる新しい移動体をロボティクスの技術で実現したくて、誕生したのが「UNI-ONE」です。