イノベーション 2023.10.25

目指すはEGOとECOの両立。開発者に聞く「SUSTAINA-C Concept」に込めた想い

目指すはEGOとECOの両立。開発者に聞く「SUSTAINA-C Concept」に込めた想い

東京モーターショーが新たに「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」と改称。Hondaはブーステーマに「Honda DREAM LOOP」を掲げ、Hondaが実現したい夢と未来の姿をお客様にお伝えするブースを展開します。

注目コンテンツの1つとなる、“限りある資源の制約から解放してくれる四輪電動モビリティ”のコンセプトモデル「SUSTAINA-C Concept(サステナ・シー コンセプト)」。開発者の田中健樹にコンセプトモデルに込めた想い、思い描く未来の社会について聞きました。

田中 健樹(たなか たけき)

株式会社本田技術研究所
先進技術研究所 次世代電動車研究
シニアチーフエンジニア
田中 健樹(たなか たけき)

1993年Honda入社。北米アコード(6代目)、インサイト(初代)、FIT(3代目)のボディ設計リーダーを経て開発責任者代行を務めた後、FIT(4代目)では開発責任者を務めた。2023年に次世代電動車研究の開発責任者として、コンセプトカー・SUSTAINA-Cを開発。

目指すは「サステナブルでコンパクト、そして身近な存在」

——SUSTAINA-C Concept(以下、SUSTAINA-C)はどんなクルマなのでしょうか。

田中

電気自動車を選ぶお客様が増えてきていますが、本格的な普及に向けて、価格も含めて、お客様にとって求めやすい電気自動車を開発したいという想いが始まりで、環境課題の解決に向けた独自の技術も多く組み込んでいます。環境負荷ゼロの循環型社会実現に向けて、資源の循環利用(リソースサーキュレーション)をすることで、資源に制限されず自由に移動ができる。やりたいこと、楽しいことが両立する世界を提案したコンセプトカーです。

田中

持続可能性、サステナブルの「SUSTAINA」と、コンパクトのCで「SUSTAINA-C」と名付けました。サステナブルでコンパクト、そして身近な存在になってほしい。そんな想いを込めています。

——解決したい環境課題や、独自技術とはどのようなものでしょうか。

田中

取り組んだのは「資源の循環促進」と「CO2排出量の削減」です。SUSTAINA-Cでは、ボディパネルに市場から回収したリサイクルアクリルを使い、自動車由来の廃棄物を削減することにしています。アクリルは再生しても特性が失われないので、繰り返し使うことができるため「資源の循環促進」を可能にしてくれるのです。

田中

しかも、アクリルは耐候性が高いので、光による劣化が少なく、表面が平滑で発色も良いので、塗装せずにそのままボディに使うことができます。実は四輪生産工場で最もCO2を排出するのが塗装の工程で、全体の約80%を占めています。アクリルをボディパネルに使うことによって、塗装の工程を省略できる、大幅な「CO2排出量の削減」が可能になるのです。

電気自動車は、走行時にCO2を排出しないことから、環境対応車として期待されています。ですが、製造工程でもCO2を排出しないようにしなければ、本当の環境対応車とは言えない。その思いでアクリルの採用を決めました。

ただし、アクリルには衝撃を受けると割れやすいという特性があり、これまでボディパネルなどには使うことができませんでした。そこで、以前より三菱ケミカル株式会社との協業で開発を進めていた、柔軟性があって割れにくい新しいアクリルを使用。世界で例のない自動車が誕生しました。

また、Hondaらしい遊び心も盛り込んでいます。これまではきれいに塗装をしたものが良いもので、塗装していないものは廉価なもの、という常識がありました。でも今回は塗装をしないことが前提です。そこで、塗装ではできない意匠表現に挑戦しました。

例えば、マーブル調のデザインでは、パネルを成型する過程で発生するアクリル樹脂の流れを模様としてあえて見せることで、これまでにない意匠を提案しています。リサイクル可能なアクリルなら、取り替えて違う色を楽しむことも簡単にできるので、気分によって変えたりするのも面白いかもしれませんね。

最近のスマートフォンなどでは塗装していないものが多く、むしろカッコいい、クールだとされていますよね。クルマでも「塗装しない=クール」が常識になればと思っています。

田中

さらに、アクリルのもう一つの特徴である透明性を生かして、テールゲートをまるでスマートフォンの画面のように1枚のパネルで成型し、その裏側からテールランプを透過させるという手法を考えました。テールランプはMINI LEDパネルを活用して、単なるランプとしての機能だけではなく、さまざまな映像やメッセージを表示できます。

私はバイクに乗るんですが、バイクには相手が知らない人でも、すれ違った際に手を上げてコミュニケーションを取る文化があるんです。それをクルマでもやれたら面白いなと。同じフェスに行く人たちで、アーティストのデータを出したりだとか。他にも、駐車中に広告を表示したりとか、従来にないクルマの使い方を広げられればと思っています。

Hondaの「ワイガヤ文化」から生まれたSUSTAINA-C

——アクリルをボディパネルに使うなど、SUSTAINA-Cには斬新さや意外性が詰まっています。誕生の経緯はどのようなものだったのでしょうか。

田中

通常は新車の開発といった明確な目的が先にあり、その実現のために必要なメンバーを集めてチームを組みます。しかし、SUSTAINA-Cの場合は通常とは異なり、毎週実施している定例会議で話し合ううちに構想が生まれました。

その会議は自由に参加できるもので、職種も年齢もバラバラ。話題もさまざまで、四輪に限らず、生成AIなど社会的に関心を呼んでいるものも取り上げています。みんなが「何かやりたい」という思いで参加しているので、すごく前向きなんですよね。まさにHondaの「ワイガヤ文化」を体現した会議です。こうした環境の中で参加者の持ち寄ったものが “化学反応”を起こして、コンセプトカーというアウトプットにつながったと思います。

——会議で生まれたアイデアをコンセプトカーにまとめたリーダーとして、開発のチームづくりなどで心がけたことを教えてください。

田中

当たり前のことですが、クルマづくりは一人ではできません。技術者としては黙々と仕事をするのが好きですが、一人ではできることに限りがあり、チームのメンバーで分担して取り組むことが必要です。私が理想と考えているのは、メンバー一人ひとりが、ただ指示に従うのではなく、自らの意思や考えを持って自発的に取り組めるチーム。こうしたチームだと大きな成果につながると思います。

チームのリーダーについては、役割やマネジメントのスタイルにさまざまな意見がありますが、私自身が束縛されることがあまり好きではないこともあり、あれこれと作業を指図するのではなく、向かうべき方向を明確に示すことが重要だと思っています。

私が入社した1993年当時の川本信彦社長は、F1に長くかかわったこともあり、スポーツカーに対する思い入れの強いエンジニアでした。そうした背景もあって、ミニバンの開発には反対の立場だったようですが、マーケットなどの状況から必要と判断すると、スパッと切り替えてHonda初のミニバン開発に舵を切りました。私はまだ経験の浅い新入社員でしたが、リーダーが下す決断の凄みを目の当たりにし、リーダーのあり方を少し学んだような気がしました。

それに対してSUSTAINA-Cの開発では、すでに方向性がはっきりとしていた上に、さまざまなアイデアも集まっていたので、リーダーの役割や仕事は、かなり異なるものだったといえますね。アクリルをボディパネルに使うというは世界で初めてのもので、参考にするものはどこにもなかったのですが、苦しむということはなく、むしろメンバー全員が、ワクワクしながら楽しんで進めたような感じがします。

自らの意思で自由に移動できる世界に寄与するクルマをつくりたい

——田中さんがこの道に進んだきっかけを教えてください。

田中

私自身は子どものころからクルマをはじめ乗り物全般が好きで、中学生のころに見た初代のシティにあこがれて、Hondaを志望するようになりました。Hondaのクルマには、コンパクトで使い勝手がよく、キビキビと走るというイメージがあり、他のブランドとはちょっと違うかっこよさがありました。

1981年に発売された初代シティ 1981年に発売された初代シティ
田中

「◯◯のすべて」というようなクルマの冊子がありますよね。私は“すべて本”が好きで、隅から隅まで読み込むような子どもでした。特に開発ストーリーに出てくる開発責任者にあこがれていて、Hondaの面接で何がしたいかを聞かれた際にも「開発責任者になりたい」と答えて笑われた思い出があります(笑)。

念願かなってHondaに入社してからは、ボディ設計を皮切りにエンジニアとして、30年以上ものづくりにかかわってきました。クルマに限らずバイクも好きで、休日は仲間とチームを組んで、耐久レースに出場したりしています。

——子どものころからの夢を叶え、開発責任者としてつくられたSUSTAINA-Cが、お客様に提供できる価値は何でしょうか?

田中

SUSTAINA-Cが目指したのは「EGOとECO」の両立です。お客様は、お気に入りのボディカラーのクルマで、環境影響を気にすることなく、好きなところへ好きなだけ出かけることができます。

人が自由な移動を求め続けるとしたら、環境と相反してしまいます。しかし、CO2の排出削減をはじめ、環境課題への対応、環境への配慮は、モビリティメーカーであるHondaがすべきことであって、お客様がどんなところへ行っても環境破壊につながらないことはHondaが約束してあげたい。お客様には好きな色を選んで、自由に楽しく移動してほしい。そんなクルマがパートナーとして身近にあれば、生活はもっと彩り豊かになるはずです。そのため、正直なところSUSTAINA-Cが環境素材でできていることを、お客様は知らなくてもかまわないと思っています(笑)
ですが、Hondaとしては、お客様への提供価値に繋げるべく、技術とコンセプトをベースに、この分野の量産化・事業化も視野も入れて、リソースサーキュレーション領域全体として取り組んでいるところです。

——SUSTAINA-Cの開発の先に、どのような未来を目指していますか。

田中

クルマは人々の移動の自由を実現する手段です。自由な移動を望む全ての人が使えるようになるべきですが、現在は限定的な方の移動しかサポートができていません。例えば、運転免許を取得できない18歳未満の人や、運転免許を返納した高齢者は、クルマを運転して移動することは不可能です。また、障害のある人の運転についても、技術的な支援は進んできていますが、まだ不十分だと感じています。

私の夢は、誰一人として排除されることなく、自らの意思で自由に移動できる世界をつくることであり、それに寄与するクルマをつくりたいと思っています。これからも次世代電動車の研究を進め、実現を目指します。