今年4月、Hondaは「The Power of Dreams」を23年ぶりに再定義し、新たに副文「How we move you.」を発表。日本語に訳すと「夢の力であなたを動かす」です。この副文を具現化する存在が、観る人に夢と感動を与えてくれるレーシングドライバーたち。本特集では、日本人ドライバーへのインタビューをお届けします(全4回)。
初回は、F1直下のカテゴリーである「FIA Formula 2選手権(F2)」に参戦中の岩佐歩夢選手(21歳)。F1ドライバーを目標に奮闘する彼の「夢」を全身全霊で追いかける「原動力」とは果たして?9月24日に「F1日本グランプリ」の開催が迫る中、モータースポーツファンからまだレースはこれからという方まで、必読のStoriesです!
岩佐歩夢(いわさ あゆむ)
さらに表示夢は、F1でワールドチャンピオンになり、勝ち続けること
参加型モータースポーツに参戦していた両親の影響で、4歳にしてサーキットデビューし、モータースポーツとともに育った岩佐選手。2020年、18歳でHondaフォーミュラ・ドリーム・プロジェクト(HFDP)の育成ドライバーとなり、デビューイヤーにフランスF4選手権でチャンピオンになるなど、才能を発揮。そこからFIA F3、F2へとステップアップしてきました。
迎えた今年2023年シーズン、F2参戦2年目は、モータースポーツの頂点・F1昇格に向けた大事な一年であることは間違いありません。9月2日イタリア・モンツァでの第12戦レースを終えて現在のシリーズランキングは3位、そしてライバルはF1を目指す勇猛果敢な若手実力者ばかり。岩佐選手に現在の手応えを尋ねると、まっすぐな眼差しとともにストイックな言葉が返ってきました。
「冷静に、一つ一つ突き詰めて勝つ」論理派ドライバー
モータースポーツは、ドライバーの技術、マシン、戦略、チームワークなどいずれかが欠ければ勝てない非常にシビアな世界。そして、その頂点であるF1という舞台で戦えるのは、世界でたった20人。レーシングドライバーの中でもほんの一握りの狭き門です。
今僕がいるF2は、基本的にどのチームも、共通のマシンで走ります。だからF1よりもマシンの差が出にくく、その分ドライバーのパフォーマンスが問われる。F2ともなれば、ドライバーは全員ハイレベルなので、勝ち抜くには「運転がうまい」だけじゃなく、プラスアルファがどうしても必要になってきます。
例えば今季、オーストリアで行われたFIA F2第8戦のフィーチャーレース(決勝レース2) 。予選16番手から見事2位表彰台を獲得した岩佐選手のドラマチックな走りは、多くのファンの心を震わせました。
岩佐選手としては、自身の強みをどう捉えているのでしょう?
僕はヨーロッパの選手に多いアグレッシブで勢いのあるタイプではなく、冷静にさまざまなことを分析して一つ一つを詰めていき、最終的に他チームを上回る戦い方が得意なんです。自分のミスで負けたときは、敗因を振り返って、対策を考えるまで先に進めません。ミスした自分に対して「見とけよ」という気持ちでレースに挑んでいることも多いですね。
チームメンバーを、強い気持ちで巻き込んでいく
思考を的確に言葉にする力と、必要なことしっかり伝える姿勢に定評のある岩佐選手。「とことん突き詰めていく」論理派のスタンスは、所属するフランスのチーム・DAMSに前向きな変化をもたらしました。
モータースポーツは個人戦に見えるけれど、実は完全なるチームスポーツ。エンジニアがさまざまな分析をし、セットアップを考えて、メカニックが膨大な数のパーツからなるマシンを組み立てて……本当にたくさんの人たちが優勝という共通の目標を目指して一致団結して動いている。そこが大きな魅力なんです。
チームのメンバーに対しても、結果がどうなるかはわからないけれど、後悔しないよう、伝えられることは伝え尽くしたいんです。
さらに、今年に入りチームメイトが変わったことで、チームの公用語が英語からフランス語にシフト。言語の壁に直面しました。
チーム監督に「このままではメンバーたちと意見交換しづらい」と直訴しました。すると、すぐにミーティングを開き、改善に向けて動いてくれました。 このチームは勝つために即座に動いてくれる、そう改めて実感してからは、僕もこの仲間たちと全力を尽くして勝利したい気持ちがより一層強くなりました。これはほんの一例に過ぎませんが、試行錯誤を重ね、チーム全員と同じ方向を向いて戦えるという手応えは、とても貴重でしたね。
些細なことでも、気づきがあればメンバーたちとすぐに共有するなど、雑談も含め、日頃からしっかりとコミュニケーションを重ねる日々。
お互い主張が強いので言い合いになる場面も多々ありますけど、それはもちろん喧嘩ではなくチームメンバーとの必要なディスカッションであり、前進のための重要なキーとなっています。
F1王者を目指す理由「モータースポーツ界に貢献できる人間になりたい」
日本人F1ドライバーとして、ワールドチャンピオンを獲る。岩佐選手はこの夢の先に、実はさらなる目標があると打ち明けます。
いつかドライバーを育てて支えていく、モータースポーツ界全体を盛り上げられる人間になりたいんです。モータースポーツは、続けていくのにお金がかかるのが実情。僕も金銭的な事情で辞めざるを得なくなった過去がありました。その際にも、とある企業さんが助けてくれましたし、他にもこれまで、本当に多くのみなさんにサポートしていただきました。そうした方々のおかげで、今日の僕がいます。
もっと上にいける実力があるのに、経済的な理由で諦めてしまったドライバーは多いのではないでしょうか。そういう人たちが挑戦を続けられる、プロとして活躍できる業界になれば、モータースポーツはもっとファンを魅了し、よりメジャーになるはずです。
だから自分がF1で圧倒的な結果を残し、その影響力をもって、そんな世界に近づけるよう貢献したいんです。プロのレーシングドライバーを目指している子どもたちのために、絶対に「光るアスリート」になろうと決めています。
これまで多くの人に支えられてきたと語る岩佐選手。そうした人たちは、岩佐選手にとってどんな存在なのでしょう。
一緒に夢を追いかけてくれる、とても大切な存在です。僕は今まで気持ちがくじけそうになったことって一度もないんですよ。自分の実力を信じているし、何よりサポートしてくれた方々を思うと気持ちが奮い立つからです。みなさんに恩返ししたいという気持ちが、僕を夢へと走らせる“原動力”になっています。
多くの人の想いを原動力にF1王者を目指し、モータースポーツ界の発展にも想いを馳せる岩佐選手の生き様は、Hondaグローバルスローガンの副文「夢の力であなたを動かす」を体現していると言えるかもしれません。
11月下旬まで続くF2の熾烈な戦い。F2チャンピオンを勝ち取れるのか、目が離せない状況です。そんな岩佐選手から読者のみなさまへメッセージをいただきました。
僕はドライバーとして、ほかの選手と違ったパフォーマンスをお見せできる自信があります。それは、今回お話しさせていただいた僕らしい戦い方だったり。まだモータースポーツを観たことのない方もきっと楽しんでもらえると思います。そして、僕自身これからまだまだ成長していきますので、ぜひ、夢を掴むまでの過程を見届けていただければ嬉しいです。
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現状、(F1昇格の必要条件である)スーパーライセンスは年間ランキング5位以上で獲得できますが、正直、5位でシーズンを終えたとしても、まったく満足できません。僕の夢はF1に上がることではなく、F1でしっかりと戦い続けられるドライバー、そしてワールドチャンピオンになることですから。今シーズン、僕らのチームのポテンシャルからすると満足のいく状況とは言いきれず……。まだまだ勝利を重ねて、F2でのチャンピオンを掴みとりたいですね。なので「F2は今年がラストイヤーだぞ」という覚悟で臨んでいます。