イノベーション 2022.09.22

ペダル踏み間違い事故はなぜ起こる? 高齢者だけじゃない「急アクセル抑制機能」の必要性

ペダル踏み間違い事故はなぜ起こる? 高齢者だけじゃない「急アクセル抑制機能」の必要性

近年、社会問題化しているアクセルとブレーキペダルの踏み間違い事故は、年間で約3,800件にも達します。そんな中、安全運転支援システムHonda SENSINGの新機能として登場したのが「急アクセル抑制機能」。Hondaはこの秋発売のマイナーチェンジした「N-WGN(エヌワゴン)」から搭載を進めています。一体、どんなドライバーに必要なのか。事故のデータや踏み間違いの原因をひも解いていくと、決して高齢者だけではないことが分かります。

※出典:ITARDAの「交通事故分析レポート ~アクセルとブレーキの踏み間違いを事故事例から学ぶ~」より

実は若者にも多い“ペダル踏み間違い”

高齢ドライバーの増加とともに注目度が高まっているペダル踏み間違い事故。近年はニュースで取り上げられる機会も多く、心を痛めている人も多いでしょう。

ITARDA(公益財団法人 交通事故総合分析センター)が発行する「ペダル踏み間違いによる事故 ~事故統計分析から多重衝突の実相に迫る~」によれば、2018~2020年の3年間で起こった踏み間違いによる死傷事故は約1万件にも上ります。

歩行者が飛び出してくるなど、予想しない事態でペダル踏み間違いが発生しやすい 歩行者が飛び出してくるなど、予想しない事態でペダル踏み間違いが発生しやすい

ペダル踏み間違い=高齢者によるもの、というイメージが先行し、高齢ドライバー以外は、つい「自分は大丈夫」と考えてしまいがちですが、クルマを運転するのが人間である以上、どんなに気を付けていても起こってしまうのがペダル踏み間違い事故。単純な操作ミスであるがゆえに誰にでも可能性があり、重大な事故にもつながりやすいのです。

ここで、約1万件のペダル踏み間違い事故のデータを見てみましょう。

ペダル踏み間違い事故の運転者年齢層分布(死亡重傷、1当軽乗用、普通乗用、2018〜2020年)※出典:ITARDAの「交通事故分析レポート ~アクセルとブレーキの踏み間違いを事故事例から学ぶ~」より ペダル踏み間違い事故の運転者年齢層分布(死亡重傷、1当軽乗用、普通乗用、2018〜2020年)※出典:ITARDAの「交通事故分析レポート ~アクセルとブレーキの踏み間違いを事故事例から学ぶ~」より

このグラフは、2018~2020年の間に起こったペダル踏み間違い事故から、「死亡・重傷事故」を年齢別に分けたもの。こうして見てみると、やはり最も事故件数が多いのは75歳以上です。全体的に見ても高齢者による事故が多く、特に65歳以上では車両単独事故の数が飛び抜けています。

しかし、「軽傷を含めた死傷事故」ではどうでしょう。車両相互の事故において最も件数が多いのは、意外にも24歳以下です。

ペダル踏み間違い事故の運転者年齢層分布(死傷、1当軽乗用、普通乗用、2018〜2020年)※出典:ITARDAの「交通事故分析レポート ~アクセルとブレーキの踏み間違いを事故事例から学ぶ~」より ペダル踏み間違い事故の運転者年齢層分布(死傷、1当軽乗用、普通乗用、2018〜2020年)※出典:ITARDAの「交通事故分析レポート ~アクセルとブレーキの踏み間違いを事故事例から学ぶ~」より

その背景には、運転に不慣れであることなど、若年層ならではの理由が考えられます。確かに、高齢者によるペダル踏み間違い事故は、注目が集まりやすいですが、だからといってその他の運転者が他人事ではいられないのです。

踏み間違え事故は、こうして起こる

そもそも、どうしてブレーキとアクセルを踏み間違えてしまうのか。ここからは、実際の事故事例を基に、その原因を紐解いていきましょう。

※出典:ITARDAの「交通事故分析レポート ~アクセルとブレーキの踏み間違いを事故事例から学ぶ~」より

最初のケースは、「駐車場で方向転換していた場面」(40代前半)。

(1)前向きで駐車していたため、後退で出庫
(2)早く移動したいという焦りから普段より強めにアクセルを踏んでしまう
(3)後方確認を怠り、車両後部が電柱に衝突
(4)運転者は驚き、電柱から離れるために一旦前進を試みる
(5)直後に停止をしようとするも誤ってアクセルを踏み込んでしまい、前方の建物に衝突

※あくまで事故事例の紹介であり、急アクセル抑制機能によって予防できる事例を示すものではありません

運転者はクルマを購入してからまだ2カ月と日が浅かった 運転者はクルマを購入してからまだ2カ月と日が浅かった

駐車場内では低速走行となり、油断しやすいことなどから踏み間違い事故が発生しやすいことが、過去のデータから明らかになっています。

今回のケースでは、「急いでいる」「後方確認不足」「衝突によるパニック」などが重なり、後退→前進→停止とペダルを細かく踏み替える中で気が動転し、踏み間違えてしまったと考えられます。

次に、「赤信号で停止しようとしていた場面」(60代後半)

(1)道路を走行中、前方の交差点に赤信号で停車する車両を確認したため、約40km/hに減速して進行
(2)その最中に信号が青に変わる
(3)特に理由もなく脇見運転をしてしまう
(4)再び進行方向に視線を戻すと、前方の車両は停車したままで、接近しすぎていることに気が付く
(5)停止しようとブレーキを踏んだつもりがアクセルを踏み込んでしまう
(6)加速しながら前方車両に追突し、計3台の玉突き事故となった

※あくまで事故事例の紹介であり、急アクセル抑制機能によって予防できる事例を示すものではありません。

だろう運転や脇見運転は重大な事故を引き起こす原因となる だろう運転や脇見運転は重大な事故を引き起こす原因となる

これは、減速→脇見→加速の流れの中で起きたと思われる踏み間違い

考えられる原因としては、「青になったから前方の車両は動き出す」と思い込み、アクセルを意識した足の向きや位置になってしまっていたこと。

また、運転手は10日前にMT車からAT車に乗り換えたばかりで、新しいクルマに乗り慣れていなかったことも挙げられます。

「思い込み」「乗り慣れていないクルマ」「急接近によるパニック」。これらが重なって起こった事故であると考えられます。

クルマを止めようとしているはずなのに加速してしまう、という状況は、いざ直面するとパニックになってしまうインパクトがあります。2つの例からも分かるように、ペダル踏み間違い事故はいくつもの原因が作用し合って起こるものなのです。

運転に不安を抱えている人に、いち早く届けたい

こうしたさまざまな踏み間違い事故に対し、効果を発揮してくれるのがHonda SENSING。さらに、これまでカバーできていなかったシーンに対応するのが、新たに仲間入りした「急アクセル抑制機能」です。マイナーチェンジしたN-WGNの開発責任者である諌山博之さんは、このクルマに込めた想いをこう話します。

「N-WGNをはじめとしたNシリーズは、軽No.1の予防安全を目指して、Honda SENSINGを全グレードに標準装備しています。さまざまなお客様が運転する軽自動車だからこそ、安心して運転していただきたいというHondaの強い想いを込めています。特にエントリーユーザーを含む幅広いユーザーが運転するN-WGNにおいては、安心安全を最優先事項として捉え、Honda車として初めて『急アクセル抑制機能』を採用しました」

マイナーチェンジしたN-WGN開発責任者の諌山さん マイナーチェンジしたN-WGN開発責任者の諌山さん

一番の特徴は、「前方に障害物がなくても、急加速を抑制する」ことであると、開発チームで制御設計を担当した吉川史哲さんは話します。

「クルマの速度とペダルの急な踏み込みを検知することで作動するため、障害物のないシチュエーションでのペダル踏み間違いにも対応することができます。そのため、障害物に近付く前段階から加速を抑制できるので、Honda SENSINGの一つ『衝突被害軽減ブレーキ』が作動する前にあらかじめ危険回避することができます。また、従来ではカバーできなかった港や崖など障害物がないシーンでも事故を減らすことができるのです」

開発に当たって大きな壁となったのが、急アクセルの判定基準です。踏み間違いであるか否かを正しく判断するためには、あらゆるシチュエーションを考慮しなければならなかったからです。

「交差点、合流、踏切、進路変更、勾配など、想定されるシチュエーションはあまりにも膨大。そのため、さまざまな文献やこれまでの知見を生かしながら、あらゆるお客様のクルマの使用条件を想定し、条件を絞り込んでいきました。ドライバーの運転の仕方にもばらつきがありますから、日常の運転に支障をきたさない絶妙なバランスを探し出すことが難しかったですね」

N-WGN Custom N-WGN Custom

そうして完成した急アクセル抑制機能が搭載されたN-WGN。開発チームの強い想いが込められています。

「とにかくできるだけ早く多くの方にお届けし、ペダルの踏み替え操作に不安を抱いていらっしゃる方々の不安を解消したい。N-WGNなら、それを実現できると思ったのです。急アクセル抑制機能は、高齢者だけでなく、若いドライバーや運転に不慣れな方々のお役に立つ機能です。安心、安全なクルマ社会の実現を目指し、N-WGNの開発チームはもちろん、販売店のサービスや営業部門とも開発当初から相談・議論し、オールHondaで取り組みました。この機能をきっかけに、少しでもペダル踏み間違い事故を減らすことができたらうれしいです」

クルマが急アクセルを検知してくれると安心 クルマが急アクセルを検知してくれると安心

詳しい技術や機能については、クルマテクノロジーの解説記事へ

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