最終戦、最後の一周でチャンピオンを勝ち取るという劇的な展開で幕を閉じたF1への挑戦。7年間、あきらめずに戦ってきたからこそ、ここにたどり着くことができました。また、レース当日に掲載した広告には、Honda史上最大級の反響も。モータースポーツ責任者を務める、渡辺康治ブランド・コミュニケーション本部長が、メッセージに込めた想いや今回の挑戦の意義、そして未来へつなげていく想いを語ります。
執行職 ブランド・コミュニケーション本部長 もっと見る 閉じる 渡辺 康治(わたなべ こうじ)
1987年入社。欧州の四輪事業部長などを経て、2020年4月からブランド・コミュニケーション本部長に。ブランド、モータースポーツ活動、広報を管轄する本部を束ねる。
閉じる7年間にわたるF1挑戦の意義
マックス・フェルスタッペン選手の大逆転でチャンピオンが決まるという、誰もが予想できなかった展開になった最終戦。渡辺は、その瞬間を東京・青山のHondaウエルカムプラザで行われたライブビューイングの中で迎えました。
チャンピオン獲得で有終の美を飾ることができましたが、2015年から7年間に及ぶ挑戦は、決して平坦な道のりではありませんでした。
「最初はとにかく悔しい想いをして辛い時期が続きました。その悔しさを乗り越えてきたことに、今回の挑戦の意味があると思っています。レースでは、定められた規則と持っている時間はライバルもイコールコンディション。その中で、知恵を振り絞って、どうやって勝ちを目指すのか、いつもギリギリまで追いつめられます。でも、これこそがHondaのチャレンジの象徴。本気で勝利を目指すからこそ得られるものがありますし、短期間で人も技術も、ものすごく磨かれるんです」
「今のF1技術規定では、『パワーユニット』といって、エンジン単体ではなく、そこに2つのエネルギー回生システムが組み合わされた、先進技術の塊がマシンの動力になっています。だから、今回の挑戦では、レース担当の部署だけでなく、二輪やHondaJetの技術など、Hondaの総力を挙げていいものを作ろうと進めることができました。量産車の開発に励む人たちも協力してくれて、一緒になってやれたことは、今後のHondaにとってとても大きな意味があります」
想いを込めた2つのメッセージ
F1最終戦、決勝当日の12月12日、日曜日。朝からSNSのトレンドに「ありがとう」の文字が並びました。そのきっかけは、Hondaが掲載した一つの広告。多くの方が反応してくださり、過去最大とも言える反響をいただきました。
「今季のF1活動のキーワードは、“挑戦と感謝”でした。感謝を表現する方法はいろいろあると思いますが、勝った後に『応援ありがとうございました』というような形にはしたくなかったんですね。ここまで来られたのは、競い合ってくれたライバル、応援してくれるファンの皆さん、そして必死に戦ってくれたドライバー、メカニック、エンジニアがいたから。トヨタさんも、一緒に日本を代表してモータースポーツで戦う仲間として、敬意を込めてこの広告に入れさせてもらいました。そうしたすべての人たちに向けて、最終戦を迎える朝に、手紙を出すような表現にしたかった。静かに心を落ち着けて自分たちの歩みを思い出したあとに、『それでは、行ってきます』と」
そして、2021年の大晦日である本日、新たな広告を掲載しました。そのメインコピーとなったのが、“挑戦って、いいもんだ。”です。
「最終戦が終わってすぐ『やりました!』と出すのではなく、一旦落ち着いて、この挑戦は何だったのか、7年間を振り返りました。2015年から141戦ありましたが、その中で勝てたのは17回。120回以上負けて、悔しいことだらけでした。それでも、勝ちを目指し続けて最後は頂点に立てました。辛いことを乗り越えて、Hondaとしては30年ぶりのチャンピオン獲得。その歩みを振り返ったとき、『挑戦っていいよね』と改めて思えたんですよね。こうした想いを込めて、Hondaらしさというものを表現したつもりです」
挑戦し続けることが、Hondaらしさ
この2021年シーズンをもって、HondaのF1への挑戦は幕を閉じました。参戦終了のプロセスにも携わった渡辺は、どう感じているのでしょうか。
「2020年の10月2日、当時の社長の八郷とともに参戦終了の記者会見に臨みました。個人的にはF1が大好きだし、この発表は本当に辛かったですね。でも、これでHondaが挑戦を止めてしまうわけではありません。むしろ、新たな挑戦をしていくための決断です」
「今、Hondaがやらなければならないのは、社会課題の解決です。カーボンニュートラルや交通事故死者ゼロは、待ったなしですぐやらなければならない課題。そのために、強い意志を持って参戦終了を決めました。新しい挑戦になりますが、これも並大抵のことではありません。だからこそ、すべてのリソースをカーボンニュートラルなどの社会課題解決に振り向け、そのチャレンジで成果を出す。これが皆さまへの約束です」
環境や安全という、地球規模で広がる課題の解決。大きな挑戦ですが、世界で戦ってきた人材が、未来に向けた技術開発を加速させてくれるはずです。
「我々の新しい挑戦に向けて、エンジニアたちには新たな領域の研究に向かってもらいたいと考えています。F1のパワーユニットを担ってきたエンジニアは、実力があるのはもちろん、世界一に挑んでそれを勝ち取った経験を持つ人たちです。こういう人たちが、電動化や燃料開発、eVTOLなど、色々な部署で活躍してくれることで、挑戦して勝つことの醍醐味が会社中に広がっていきます。過去もそうですが、こうやってHondaに挑戦のDNAが根付いてきたんです」
「Hondaには、挑戦することの価値や喜びを知っている人が多いからこそ、挑戦する人の背中を押そう、という文化があります。チャレンジに立場や年齢は関係ありません。だから、みんなで一緒に挑戦して、大きなことを成し遂げたいですね。レース分野以外でも同じで、例えば若手社員でも自分のアイデアや夢を形にするために、“起業”という選択肢を採れるように会社が後押しする『IGNITION』というプログラムもあります」
いよいよ迎える2022年。Hondaは、どこへ進んでいくのでしょうか。
「我々がモータースポーツを大切に思う気持ちは変わらず、レースでも新しい挑戦をしていきたいと思っていますし、何より勝ちにこだわってやっていきます。そして、F1では、HRC(株式会社ホンダ・レーシング)を通じて、Red Bullをサポートしていきますので、皆さんにも引き続き応援していただければうれしいです。個人的に期待しているのは、二輪・四輪の相乗効果。今まで二輪のレース運営を担当していたHRCに、四輪の技術も集約することになるので、Hondaのモータースポーツがもっと強くなるのではないかと楽しみにしています」
「Hondaという会社は、“多面体”なんです。二輪・四輪に加え、パワープロダクツや航空機、さらにはエネルギー分野など、いろいろな“面”を持っています。よく話すことですが、我々は本田自動車ではなく、本田技研工業。モビリティに関することなら何でもやりたい会社です。人間が好きで、人の生活に何か役立てることがないかを常に考えているのがHondaなんです」
「『Hondaハート』で全製品を並べて撮影したんですが、それを目の当たりにしたときに、『これら全部を引っくるめてカーボンニュートラルを実現するんだな』と改めて挑戦のハードルを認識しました。でも、Hondaって、挑戦するからこそ価値がある。挑戦してなんぼなんです。この新しいチャレンジに向けて、みんな並々ならぬ決意を持っています」
最後に、挑戦とは?改めて聞きました。
「やっぱり、挑戦するものがあるとワクワクするし、何よりも楽しいんですよ。大きな目標も、日々の一歩一歩の積み重ねがあってこそ達成できるもの。そして、これを読んだ皆さんの心にも、少しでも『挑戦っていいな』と響いたらうれしいですし、そんな方々の力になっていきたいです」
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「鈴鹿サーキットでの日本グランプリが中止になってしまい、日本のファンの皆さんに集まっていただける場を作れなかったので、ライブビューイングの開催を決めました。私自身も、ファンの皆さんと最後の戦いを見届けたいとの想いから青山で観戦したのですが、こうして目の前で喜びを分かち合えたというのは初めて。皆さんの熱い想い、こんなにも応援してもらえているんだということが感じられて、最後の瞬間は涙がこぼれました」