第4期最終年に新パワーユニットを投入
劇的な最終戦決着で30年ぶりのタイトル奪取
コロナ禍を乗り越えたF1は激動の時を迎えていた。2020年、圧倒的な強さを見せていたメルセデス陣営にレッドブルが迫り、好勝負が行われていた最中の10月にホンダは2021年シーズン限りで第4期F1活動終了を発表。2021年はホンダにとって、念願のタイトル獲得に挑むラストチャンスとなるシーズンとなった。
HRD Sakuraの開発陣は、この活動最終年に向けて新骨格のパワーユニットRA621Hを完成させ、オフシーズンのテストから投入。短期間の開発により懸念された信頼性も大きな問題なく、開幕戦からレッドブル、アルファタウリの4台に実戦投入した。
RA621Hはパワーアップのために高圧縮比とより効率的な燃焼を採用し、性能向上に耐え得る強度を上げた骨格とした上で軽量化も果たしたホンダのF1技術の集大成だった。まったく新しい素材や構造を採用したことにより耐久性と信頼性が懸念されたが、24時間態勢でテストを繰り返し、テスト、開幕に間に合わせることができた。開発責任者の浅木泰昭は「まさに奇跡的」と、このプロジェクトの完遂を評している。本来、2022年シーズンから投入予定であった新骨格と新たな技術を前倒しで開発し、パワーユニットを完成させることは容易ではなかったが、ホンダ開発陣のタイトル獲得への執念が、すべてを注ぎ込んだブランニューのパワーユニット完成を成し遂げたのだ。
その新パワーユニットを搭載するRB16Bは、前年新たに投入されたマシンを改良したバージョンアップ仕様で、マシンのリヤ部の突発的で不安定な挙動に対処するべく、リヤサスペンションを中心に大幅な改良を施した車体である。また、レッドブルはホンダにヘッドカバーのブレース下部を削ることを要請し、さらに外観をコンパクトにして空力性能の向上を図った。このような空力面でのアップデートを重ねることによって、パワーユニットの性能アップと相まり、マシン全体のポテンシャルはレースを経るごとに向上し、王者メルセデスとの熾烈なチャンピオン争いが展開されることとなる。
RB16B&RA621Hの進化は開幕戦からその戦闘力の高さを発揮した。ポールポジションを獲得したマックス・フェルスタッペンは接戦の末2位となり、勝利を飾ったメルセデスのルイス・ハミルトンとの壮絶なチャンピオン争いの幕はシーズン開始とともに始まる。シーズン序盤はハミルトンが先行し、中盤はフェルスタッペンが勝利を重ねてチャンピオンシップを逆転、終盤にはメルセデスのアップデートによりハミルトンが肉薄する展開となる。フェルスタッペン9勝、ハミルトン8勝――そして両者は最終戦アブダビGPをチャンピオンシップポイント同点で迎えたのである。ポールポジションを獲得したフェルスタッペンだが、レースでは好調さを持続するハミルトンが首位を独走する。しかしレース最終盤、クラッシュしたマシンが出てセーフティカーが導入され、ラスト1周の戦いとなった。タイヤ交換を済ませていたフェルスタッペンは、果敢にハミルトンにアタックし首位を奪取。劇的な優勝でシーズン10勝目を飾り、自身初のドライバーズチャンピオン獲得を果たした。
ホンダは第4期F1をチャンピオン獲得という悲願達成で締めくくった。これは、アイルトン・セナとともにタイトルを獲得した1991年以来、30年ぶりのことだった。
Spec
シャシー(未公表のため、データはRB16)
- シャシー
- レギュレーションに準拠した自社製カーボン‐エポキシ樹脂コンポジット構造
- フロントサスペンション
- アルミニウム合金アップライト、カーボンファイバーコンポジット・ダブルウィッシュボーン
- リヤサスペンション
- アルミニウム合金アップライト、カーボンファイバーコンポジット・ダブルウィッシュボーン
- トランスミッション
- 縦置き8速ギヤボックス油圧式パワーシフト&クラッチオペレーション/レッドブル・レーシング製
- ホイール
- OZレーシング製
- タイヤ
- ピレリ製
- ブレーキ
- ピレリPゼロ ブレーキパッド、ブレンボ製ディスク&キャリパー
- エレクトロニクス
- MESLスタンダード電子制御ユニット/ホンダ・レーシング・ディベロップメント製
- 燃料
- エッソ・シナジー
パワーユニット
- パワーユニット
- Honda RA621H
- シリンダー数
- 6(以下レギュレーションに準拠)
- 排気量
- 1,600cc
- 最高回転数
- 15,000rpm
- バルブ数
- 1シリンダー4バルブ(インレット2、アウトレット2)
- バンク角
- 90度
- エンジン重量
- 150㎏
- 最高出力
- 未公表
- エンジン製造
- ホンダ
- エンジンマネージメント
- ホンダ&標準ECU
- オイル
- モービル1
Detail
第17戦トルコGPに、レッドブルはコロナ禍で開催中止となった日本GPのために用意したスペシャルカラーのマシンで参戦。マシンには「ありがとう」の文字が配され、ホンダのファンへの感謝の気持ちが込められていた。
ホンダF1活動ラストイヤーに投入したRA621Hは、大幅に戦闘力を向上させた新設計で、タイトル獲得への強い思いを込めたPUだった。そしてホンダの開発、現場のスタッフは、熾烈なチャンピオン争いをトラブルなく支え続けた。
RB16Bは、ウィークポイントとされたRB16のリヤサスペンション周りを大幅に改良し、マシンの不安定な挙動を安定させることに成功。それによりレースペースが向上しタイヤへの負担も軽減されることとなった。