各 位
本田技研工業株式会社
当社は、2011年1月24日、当社連結子会社である株式会社ホンダトレーディング(以下、「HT社」といいます)の生活産業事業本部食品事業部水産課における不適切な取引の判明および業績への影響について公表いたしました。
このたび、当社調査委員会から本件の事実関係、原因、責任の所在およびHT社における類似取引の有無に関する調査結果の報告を受けましたので、再発防止策とともにご報告申しあげます。
株主および取引先の皆様をはじめ、関係者の皆様には、多大なるご心配とご迷惑をお掛けしましたことをあらためて深くお詫び申しあげます。
1.調査の経緯および当社の対応
HT社食品事業部水産課において、複数の水産物業者との間で行われていた不適切な取引の概要について、2010年12月20日にHT社の調査委員会から当社に報告がありました。当社は同日付にて、当社代表取締役副社長兼コンプライアンスオフィサーである近藤広一を委員長として、外部の弁護士および公認会計士の協力のもと調査委員会を設置し、関係者へのヒアリングおよび電子データ、社内報告資料などの資料の精査・分析による調査を行ってまいりました。
2.調査結果の概要
調査委員会から報告を受けた調査結果の概要は以下の通りです。
(1)不適切な取引の概要
調査により明らかとなった、HT社食品事業部水産課の前課長(以下、「本件担当者」といいます)によって行われた不適切な取引の概要は以下の通りです。
- ・本件担当者は他社で水産関係の業務に従事した後、2000年7月にHT社に入社しました。
- ・2001年ころから、本件担当者はHT社が本格的に水産事業に参入することを目的として、経営陣を含む上司の了解の下、複数の水産物業者との間で、シラス等の水産物の預かり在庫取引(*)を行うようになりました。
- *「預かり在庫取引」とは、HT社が取引先である水産物業者から、水産物の仕入れ期(漁期)と販売期のずれを埋める目的で、水産物業者が仕入れた水産物を買い取り、一定期間経過後に売り戻す取引を指します。
- ・2004年1月、本件担当者は、預かり在庫取引の主要な取引先の一社から、預かり在庫の不良化による損失分10億円を上乗せした仕入値で追加の在庫を預かってほしいと依頼されました。本件担当者は、仕入代金の水増しを受け入れなければ、当該取引先により預かり在庫の買い戻しが行われなくなり、HT社内で問題視されるものと考え、また当該取引先が破綻すればHT社の水産事業の打撃になると考え、上司に無断で市場価格に比べて水増しされた仕入れ代金で預かり在庫を受け入れ、以後も同様の取引を継続しました。さらに、本件担当者は、2004年秋から2005年にかけ、取引先の経営破綻や注文キャンセル等で販売できなくなったHT社の水産在庫を預かり在庫の取引先に引き取ってもらい、その見返りとして、これらの水産物業者との間でも同様に市場価格から水増しされた代金での預かり在庫の仕入れを行うようになりました。またそのころより、水増し価格で預けた在庫の買い戻し資金に窮した水産物業者が、一度買い戻した預かり在庫を再度HT社に預け入れるといった預かり在庫の循環も行われるようになりましたが、本件担当者はこれを黙認していました。
- ・2007年以降、経営陣および本件担当者の上司より預かり在庫総額を削減する指示が出されましたが、本件担当者は部下の水産課員1名の協力のもと、預かり在庫総額を(名目上)減少させる隠蔽工作を繰り返しながら、仕入代金の水増しや同一在庫の循環を含む預かり在庫取引を継続しました。その結果、仕入代金の水増し分や同一在庫の循環による口銭、金利等が預かり在庫金額に積み上がり、仕入代金の水増しが発覚する2010年10月まで、預かり在庫総額は増大を続け、それに伴って各取引先は預かり在庫を買い戻すことができなくなりました。
- ・2010年10月に、HT社内で仕入代金の水増しについての疑いが生じ、調査を開始しました。この調査で本件担当者は、水産物業者からの預かり在庫の仕入代金が水増しされている旨を報告し、水産物業者もこれを認めたため、HT社は、2010年10月25日、本件担当者について水産課長の職を解き、企画・管理本部付に異動させました。その後、水産物業者に対する債権の貸し倒れ懸念が発生し、同一在庫の循環等の事実が判明したため、HT社は調査委員会を発足させ、本件担当者による仕入れ代金の水増し以外の不適切な取引についても調査を行い、当社に対し、12月20日に調査結果を報告しました。
- ・上記の通り、この度の不適切な取引は、本件担当者の個人的な動機、事情により引き起こされたものであり、HT社の上司、経営陣等の組織的関与は確認されませんでした。また、当社の役員または従業員において、事前にHT社のかかる不適切な取引について関与および認識していた事実は確認されませんでした。
預かり在庫取引の例
HT社は、一般に、預かり在庫取引の取引先との間で、(1)取引先が1年以内に在庫の買い戻し義務を有する、(2)取引先が、仕入価格に口銭と金利年率を上乗せした価格で在庫を買い戻す、(3)預かり期間中の在庫の品質・相場リスクは取引先が負担するとの合意を行っていました。
今回生じた不適切な取引の例
(2)原因および問題点
- 1)本件担当者の動機、背景事情
調査においては、本件担当者が上記の不適切な取引に関与することになった動機および背景事情として、取引先からのキックバックなどの個人的利得を疑わせるような事実は認められませんでした。
他方、本件担当者の動機および背景事情を構成する主要要素として、本件担当者は、2003年ころから高い売上目標に対するプレッシャーを受けていたことに加え、水産課での損失発生を社内で問題視されることを回避しようとの意図もあり、水産課での損失を預かり在庫取引の取引先に肩代わりしてもらう一方で、水増し代金での仕入れを受け入れていた旨述べています。 そのような関係を継続して行く中で、本件担当者と取引先とが「持ちつ持たれつ」の貸し借り関係を醸成していき、仕入代金の水増し等を含む預かり在庫取引が長期にわたり継続されていったものと考えられます。そして、水増し代金での仕入れや在庫の循環を通じて在庫総額が急速に膨らんでいく中で、取引先の資金難が深刻化し、以降は取引先の経営破綻による一連の問題発覚を回避するべく、自転車操業的に預かり在庫取引を継続していったものと考えられます。 - 2)不適切な取引の発見遅延とその主たる原因
調査においては、HT社の上司および経営陣による組織的関与の形跡は認められませんでした。
しかし、不適切な取引の発生を許し、長期にわたって発覚が遅れた主たる原因として、本件担当者に10年近く預かり在庫取引を一手に担わせてきた人事の長期固定化、また、その背景にある経営陣および上司らの水産事業に対する知識・経験の不足が考えられます。また、預かり在庫取引の実態に沿わないHT社の与信管理制度や同社のITシステムの機能的欠陥などのリスク管理体制の問題と共に、内部通報制度の利用頻度の低さや問題のある取引への対応を担当者任せにしてきたHT社の役職員のコンプライアンス意識の不十分さおよび当事者意識の希薄さなども、このたびの発見遅延の一因となっているのではないかと考えられます。 - 3)当社の子会社に対する管理監督
調査においては、このたびのHT社における預かり在庫取引に関する不適切な取引に関し、当社グループの内部統制の観点から法令違反を構成するような問題点は確認されませんでした。しかしながら、後述の通り、再発防止の観点からは、従来の「自主自立」を前提としたガバナンスに甘んじることなく、グループ内の子会社に対し更なる内部統制の実効性を図っていくことが重要であると考えられます。
(3)HT社における類似取引の有無について
類似取引の有無につきHT社の水産課以外の部署を調査した結果、業績に影響を与えるような不適切な取引の存在は確認されませんでした。
3.再発防止策
今回のHT社における不適切な取引発生と、調査委員会からの調査結果の報告を受け、グループのガバナンスの強化、コンプライアンス意識の向上、リスク管理体制の強化に取り組むとともに、人事制度の見直しを行うことにより、法令、社内規則の遵守ならびに適切な経営判断を行える体制を構築し、コーポレートガバナンスの更なる充実に努めてまいります。
(1)グループガバナンスの強化
- 1)内部統制システムの強化
HT社をはじめとするグループ各子会社において、組織、部門の長が法令、社内規則の遵守状況やリスク管理体制の運用状況を確認し、その結果を上位者、親会社へ定期的に報告することにより、当社がグループの内部統制システムの運用・整備状況をモニタリングできる仕組みに強化します。
当社が子会社における内部統制体制の整備・運用状況の検証を行い、グループ子会社でコンプライアンスに関する取組みを推進する 「コンプライアンスオフィサー」との連携を強化し、最適な体制整備のための支援を実施します。
当社から子会社へ派遣する社外取締役、社外監査役の子会社での監理・監督状況を当社がモニタリングする仕組みを構築します。
当社にグループ子会社の内部統制体制の整備状況を統括的、日常的に確認、支援を行う体制を整備します。 - 2)内部監査体制の強化
当社による子会社への業務監査において、実査前の予備調査の充実など運用・手順を見直し、子会社への業務監査を強化するとともに、コンプライアンスの観点から、より実効的に監査できるよう監査基準の明確化を行います。
当社業務監査室が、子会社内部監査部門と連携し、子会社内部監査の強化、改善の仕組みを構築します。
(2)コンプライアンス意識の向上
- 1)コンプライアンス意識の再徹底
当社から子会社の取締役、監査役に対し、求められる法的義務・責任などの啓発を強化します。
当社グループにおいて共有すべき行動指針として制定している「わたしたちの行動指針」を遵法や公正取引の意識の向上などの観点から見直しを行い、その啓発、共有化に取り組みます。
グループ会社間での新規法令動向や事業において配慮すべきリスクに関する情報の発信を強化します。
企業倫理に関する問題について提案を受け付ける当社の「企業倫理改善提案窓口」が主管して、グループ各社へのリスクの迅速な把握・解決のための支援を強化します。 - 2)コンプライアンスオフィサーの機能強化
グループ子会社の「コンプライアンスオフィサー」に対する啓発を強化し、その職責やコンプライアンスの意識向上を図ります。
(3)リスク管理体制の強化
- 1)リスク管理・監督の強化
HT社においては、与信・稟議・在庫管理の社内ルールの策定・整備と取締役によるこれらのルールの運用状況の定期的・日常的な監督の徹底を図ります。
HT社が使用する売上げ・在庫管理のためのITシステムを内部統制がより機能するものへと改良し、当社によるHT社の財務状況・仕組みの監督強化を行います。 - 2)経営管理レベルにおけるリスク管理・監督の強化
HT社においては、水産事業部門における預かり在庫取引を直ちに中止するともに、水産事業から撤退し、当社グループの強みや機能が発揮できる事業分野に経営資源を集中いたします。
HT社をはじめグループ子会社において、重要経営事項を審議する会議体とその審議事項の整備・明確化を行います。
当社部門によるグループ子会社の新規事業参入時の法的、事業リスクの精査を強化します。
(4)人事制度の見直し
本件取引が同一職務への長期間の在籍が一つの原因となっていたことから、HT社においては、長期固定化した人事を見直し、適時・適切な人事ローテーションを実施するとともに、長期固定化人事によるリスク発生の可能性がある事業・部門は、場合により、今後の当該事業・部門の継続について根本的な検討も実施します。
4.業績への影響
当社は、2010年度第2四半期連結累計期間(2010年4月1日〜9月30日)に過大計上されていた売上高及びその他の営業収入98億8,800万円および関連する営業費用を当第3四半期連結会計期間に調整しました。
また、当第3四半期連結会計期間(2010年10月1日〜12月31日)の期首時点における、本件の不適切な取引による過去の損失額の合計144億300万円を、当社は、一括して同期間の販売費及び一般管理費として計上しました。その結果同期間の営業利益が同額減少しております。
当該調整に係る当第3四半期連結累計期間(2010年4月1日〜12月31日)、当第3四半期連結会計 期間および当第2四半期連結累計期間以前(2010年3月31日以前)における連結財政状態および経営成績への影響について重要性はないと考えております。
5.責任の所在と関係者の処分
本件についての関係者の責任を明確にすべく、2011年2月14日付で以下の処分および人事を行いました。
役職(2011年2月13日時点) | 氏名 | 処分/人事 | 減額率/期間 |
(HT社・役員) | |||
代表取締役社長 | 須藤 宗英 | 辞任 | |
取締役 事業推進本部長 | 木村 三樹夫 | 辞任 | |
取締役 生活産業事業本部長 | 竹本 明夫 | 辞任 | |
監査役 | 岡 進一郎 | 辞任 | |
監査役 | 松浦 礼二 | 辞任 | |
取締役 管理本部長 | 増田 耕司 | 報酬一部返上 | 30%×3ヶ月 |
専務取締役 | 大坂 朋直 | 報酬一部返上 | 20%×3ヶ月 |
常務取締役 | 松本 正 | 報酬一部返上 | 20%×3ヶ月 |
常務取締役 | 竹下 章 | 報酬一部返上 | 20%×3ヶ月 |
取締役 | 山﨑 淳司 | 報酬一部返上 | 20%×3ヶ月 |
取締役 | 森 隆 | 報酬一部返上 | 20%×3ヶ月 |
取締役 | 三井 一司 | 報酬一部返上 | 20%×3ヶ月 |
取締役 | 村井 英昭 | 報酬一部返上 | 20%×3ヶ月 |
取締役 | 塩﨑 信彦 | 報酬一部返上 | 20%×3ヶ月 |
(HT社・従業員) | |||
前水産課長 | 懲戒解雇 | ||
水産課員 | 諭旨解雇 | ||
生活産業事業部長 | 諭旨解雇 | ||
経理部長 | 降格 | ||
(当社) | |||
取締役 HT社担当 | 北條 陽一 | 当社報酬一部返上 | 20%×3ヶ月 |
6.新任役員人事
HT社は、2011年2月14日に開催された臨時株主総会および取締役会において、以下の通り取締役および監査役の選任、ならびに代表取締役社長の選定を行いました。
代表取締役社長
高木 滋
取締役
岩上 宏
監査役
伊東 達郎
監査役
久保田 誠一
HT社の概要
所在地
東京都千代田区丸の内1-8-2 第一鉄鋼ビル2階
設立年月日
1972年3月21日
資本金
16億円
株主
当社(100%)
代表者
代表取締役社長 高木 滋
事業内容
二輪車・四輪車・汎用部品、自動車関連設備、機械、非鉄金属、鉄鋼・樹脂、農水産物
売上高
単体:2,513億円 連結:5,886億円(2010年3月期)
事業所および海外子会社所在地
国内
東京、名古屋、大阪、鈴鹿、熊本、栃木、狭山、群馬、広島
国内
アメリカ、カナダ、ブラジル、メキシコ、イギリス、イタリア、トルコ、ベルギー、ルーマニア、タイ、中国、フィリピン、インド、パキスタン、ベトナム、インドネシア、台湾、マレーシア、韓国、ロシア、アルゼンチン
以上