本田技研工業(株)は、屋内外の作業車両などの駆動輪や各種作業機の動力源として最適な、ホンダ独自の出力軸貫通構造を採用したコンパクトで低速回転型の「多用途インホーイルタイプ・モーター」を開発し、4月19日(水)~21日(金)に日本コンベンションセンター(幕張メッセ)で開催される「’95モーター技術展」に出品する。
ホンダ「多用途インホイールタイプ・モーター」
この「多用途インホーイルタイプ・モーター」は、1輪から多数輪まであらゆる作業車両などの駆動輪として車輪に直接内蔵できるよう、モーター、減速機構、コントロール回路をコンパクトな一体型パッケージとし、作業速度にあわせて毎分40から200回転まで自由に回転数を設定でき、総合効率85%以上(当社テスト値)という高効率を実現させている。また、バッテリーダウン時にも作業に支障を及ぼさない軽い押し引き性を確保するなど、扱い易い構造となっている。
その主な特長は
- ・モーターと減速機構、コントロール回路の一体化による、屋外作業車両に多く採用されている8インチホイールリムに収まる「コンパクトサイズ」と「高剛性」の実現。
- ・世界初の出力軸貫通構造※1を採用した広い軸受けスパンによる、高い耐軸荷重(400kg)の確保。
- ・ネオジウム系希土類磁石※2の採用や末広型閉口形状スロット設計※3による、低騒音・低回転・低コギングトルク※4のモーター構造。
- ・雨や泥などの汚れに強い全天候密閉構造。
- ・高効率でブラシメンテナンスが不要な直流ブラシレスモーターを採用。
- ・電源は製品仕様、負荷に合わせて、24Vと48Vの各種一般市販バッテリーに対応。
などとしている。
これらにより「多用途インホーイルタイプ・モーター」は、屋内外の作業用車両から医療・福祉分野や遊戯施設に至るまで、人力機器の動力化や小出力エンジン機器の電動化、電動商品への搭載など、高効率で多用途に使用できるものとなっている。
発売時期
このモーターの単品販売やこれを利用した新商品の開発、並びに各種作業機メーカー等へのOEM供給などを、来春より順次行っていく予定である。
ホンダ「多用途インホーイルタイプ・モーター」主要諸元
モデル名 | 24S | 24L | 48S | 48L |
使用電圧(DC-V) | 24 | 24 | 48 | 48 |
定格出力(W) | 150 | 200 | 300 | 600 |
定格回転数(rpm) | 100 | 50 | 200 | 100 |
定格トルク(N・m) | 15 | 40 | 15 | 60 |
総合効率 | 85%以上 |
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軸荷重 | 最大400kg |
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重量(kg) | 8 | 12 | 8 | 12 |
モーター全長(mm) | 120 | 160 | 120 | 160 |
外径(mm) | 195 |
- ※1出力軸貫通構造(技術解説参照)
- ※2ネオジウム系希土類磁石
希土類の中のネオジウムと、ボロン、鉄などを成分とする磁石。現在ネオジウム系で最も強力な燒結リング磁石であり、通常のフェライト磁石の5~10倍の磁力を持ち、日立金属株式会社と共同で開発した。 - ※3末広型閉口形状スロット設計(技術解説参照)
- ※4コギングトルク
磁石がコイル部を乗り越えるときに発生するゴツゴツとした回転振動をいう。出力軸側から空転させると感じられ、極低回転時に特に顕著になる。
技術解説
一体型レイアウト
ホンダ「多用途インホーイルタイプ・モーター」では、モーター部、減速機構(リダクション)部、コントロール回路を全てケース内へ密閉式に内蔵すると共に、8インチ以上のホイールリムに内蔵搭載可能な偏平構造とした。これにより、搭載に際して専用減速機構やコントロール回路を、設計、製造する必要がなく、容易に搭載することが可能となった。
低回転・高効率DCブラシレスモーター
モーター部は、ネオジウム系の希土類磁石を用いた3相DCブラシレスモーターを採用した。現在最も強力な磁石を採用するとともに、コイルを巻くスペースを最大限に取り、モーター本体を低回転にするよう設計している。それにより減速比を小さく抑えられ、ギアの数を減らすことにより噛み合いによる損失を低減するとともに、低騒音化を実現している。
また、強力な磁石を用いることにより発生するコギングトルクを抑制するために、磁場解析シミュレーションを行い、最適な末広型閉口形状スロット(下図参照)設計を採用。これにより磁力の変化が滑らかになり、スムーズな回転を得ている。
コイル部は、銅線をより多く巻き込めるボビンタイプを採用、コイル部の抵抗を減らし、効率の改善と温度上昇を抑えている。
さらに、モーター駆動回路への制御信号は5Vを基本とすることで、より高度な電子制御回路の信号出力との適合にも対応している。
一般型との形状比較
一般型は下図の通りモーター部、減速部とそれぞれが別体で構成され、デフ機構も必要とされたが、「多用途インホーイルタイプ」は、コンパクトな一体型構造のため、1輪から多数輪駆動まで自由な設定を可能としている。
出力軸貫通構造
一般的なモーターと減速機(リダクション部)の組み合わせは、モーターと減速機の軸を同軸にしようとすると、出力軸の軸受けスパンが短くなり耐荷重を上げられず、モーター軸と減速機の軸をオフセットさせた構造として、広く従来より採用されている。このため、インホーイルタイプにはなり難く、コスト、部品点数なども多くを必要とする。
ホンダでは、モーターと減速機構を一体として捉え、モーターの回転軸を中空とし、その中に減速機の最終出力軸を通すという構造を採用した。この構造により、薄型偏平のコンパクトなインホイールサイズでありながら、出力軸の軸受けスパンを広くとることができ、作業車両などに要求される重い軸荷重にも、1輪だけの片持ち支持で耐えられるものとした。
特許出願
出力軸貫通構造や、モーターと減速部、コントロール回路の一体構造を中心に出願中。