第Ⅴ章
喜びの拡大を
目指す取り組み

第1節 モータースポーツ モータースポーツ活動のこれから

第1節 モータースポーツ 
モータースポーツ活動のこれから

「世界一への挑戦」が
新たな価値を生む。
ホンダモータースポーツ活動

モータースポーツ活動はホンダの企業文化

1959年マン島TTレース ホンダチーム 1959年マン島TTレース ホンダチーム
1959年マン島TTレース RC142 1959年マン島TTレース RC142
F1初勝利となった1965年メキシコGP RA272 F1初勝利となった1965年メキシコGP RA272

 モータースポーツにおけるホンダの「世界一への挑戦」は、1954年、ロードレース世界選手権のマン島TTレース出場宣言から始まった。そして、ロードレース世界選手権への参戦を果たし、1961年に念願の世界チャンピオンを獲得した本田宗一郎は、1964年の社報でこう語っている。「レースはやはりやらなきゃならない。レースによって、自分の力量や技術水準が世界のどのくらいにあるのか知ることができる(後略)」。その後、1964年に四輪レース最高峰カテゴリーのF1TM世界選手権へ参戦。2年目の1965年最終戦メキシコGPでの初勝利の記者会見で本田は、「我々は、自動車をやる以上、一番困難な道を歩くんだということをモットーにやってきた。勝っても負けてもその原因を追究し、品質を高めて、より安全なクルマをユーザーに提供する義務がある。(中略)勝っておごることなく、勝った原因を追究して、その技術を新車にもどしどし入れていきたい」とレース参戦への意義を語った。
 テクノロジーは頂点で磨かれるといわれる。モータースポーツという場での世界一への挑戦は、二輪車・四輪車開発での技術と技術者の能力を進化させる挑戦でもあった。レースチームのメンバーは、定められたレギュレーションの中で新しい技術を創造し、限られた時間で最大限の結果を出し、困難な状況では部門を越えたホンダの総合力で勝利を目指してきた。
 そのモータースポーツを通してホンダの世界一への挑戦をリアルにお客様に観戦いただくのがサーキットである。鈴鹿サーキット・モビリティリゾートもてぎは、レース観戦のためだけではなく、「操る喜び」「チャレンジして成長する」を原点に、お客様に開放し、モビリティー文化・モータースポーツ文化の醸成を目指してきた。
 ホンダは、モータースポーツ活動を自らの企業文化として捉え、技術を育み、その挑戦の軌跡を発信し続けてきた。

  • :FIAフォーミュラワン(F1)世界選手権(FIA Fomula One Champion Ship<F1TMGP>)FIA(Fédération Internationale de l'Automobile<国際自動車連盟の略称>)

モータースポーツ活動を支えてきたHRC

HRC社屋(1983年) HRC社屋(1983年)
F1 PUのメンテナンス作業 F1 PUのメンテナンス作業
HRC Sakura社屋(2023年) HRC Sakura社屋(2023年)

 ホンダとともにモータースポーツ活動を推進してきたのが、(株)ホンダ・レーシング(以下、HRC)である。1967年にホンダは、ロードレース世界選手権への参戦を一度休止した。しかし、レースを継続していくことで市販モデルや新技術を磨くことが大切である、と考え、1979年に復帰。そして、二輪レース活動を担う部門として1982年に誕生したのがHRCだった。HRCはロードレース世界選手権を始め、さまざまなカテゴリーに挑戦してきた。ロードレース世界選手権においては、2001年に通算500勝を達成し、2002年にMotoGPに移行してからは2022年のシーズン終了までの21年間で10回のライダーズチャンピオンを獲得している。
 また、HRCはレース活動とともに、ワークスチームとして培った技術を、市販レーサーとして提供することで一般ユーザーにも還元し、モータースポーツの社会的認知を広げていく活動と並行して裾野の拡大に向けた、次世代ライダーの育成事業や、参加型モータースポーツの充実などの活動も行ってきた。
 そのHRCは、誕生から40年を経た2022年4月、それまでの二輪レース部門に、四輪レース開発とレース現場を支える本田技術研究所HRD Sakuraを統合させた。二輪・四輪のレース活動を担うことで、ホンダのモータースポーツ体制の強化を目指した。HRCは、二輪・四輪の各分野で独自に持っている技術やノウハウの相互連携と、レースに関わる運営の効率化を図ることで、F1・MotoGPならびにホンダのモータースポーツ活動のすべてを担う推進部隊として、世界一への挑戦を続けることとした。それは、ホンダのDNAであるモータースポーツ活動を将来に向けて継承していくための、強い基盤を築くことでもあった。

新たな価値創造へ
モータースポーツ活動を通して目指すもの

 ホンダは、モータースポーツ活動を、技術開発とともに人材を育成する場と捉え、勝利を目指しチャレンジした経験を持つ従業員がホンダのさまざまな領域にその「チャレンジのDNA」を浸透させることで、社会が求める新しい価値観を提案できる、と考えている。F1・MotoGPを始めとするモータースポーツ活動で磨かれた技術と知見、そして自信が、世界一・世界初を目指し、提案する精神を醸成する。
 今、モビリティー業界を取り巻く環境は、カーボンニュートラル社会へ向けた取り組みとして、実現に向けた電動化など急速な変化を遂げている。モータースポーツ活動も、電動化やカーボンニュートラル燃料への切り替えによる燃焼技術のチャレンジといった将来技術の開発を進める必要がある。四輪レーストップカテゴリーのF1は、2030年のカーボンニュートラル実現を目標として掲げており、2026年以降、100%カーボンニュートラル燃料の使用が義務付けられる。MotoGPでも、2027年までに燃料導入目標が示された。
 モータースポーツ活動は、ホンダにとって重要な企業文化である。ホンダはF1・MotoGPを始め数々の世界のレースに挑戦し、勝利することで成長してきた。その活動とチャレンジを通して、モビリティーにおける新たな価値を提案し続けること。それは、ホンダが目指す、社会から存在を期待される企業であり続けることでもある。