Case 06
2023.08.30

育休取得を経てから管理職に
イチ管理職であると同時にひとりの父親でもある姿を職場に伝えたい

栃木県芳賀町にある四輪開発センターで、外装部品の商品性と強度耐久性の担当管理職および性能領域のグループリーダーとして組織を束ねる大中さんの事例です。当時まだ育休を取得する人が珍しい中、2人のお子さんの誕生に合わせ、休みを取りました。管理職になる以前、研究員時代の育休経験を踏まえ、マネジメントの視点で、取得に踏み切れない方へのアドバイスをお伝えします。
■大中 涼さん(44歳)

四輪事業本部 四輪開発センター ICE完成車開発統括部 車両開発二部 ボディ開発課 チーフエンジニア※インタビュー当時

家族構成は、妻と子供2人

■育休取得タイミング/時期
第1子が生まれて約1ヶ月(育休ではなく特別休暇と有休を合わせて取得)/2014年6月
第2子が生まれて1ヶ月+前後に有休を取って約2ヶ月半/2016年6月〜8月中旬

大中さん
大中さん

第2子の誕生に合わせ、育休と有休と合わせて2ヶ月半取得

最初に、現在のお仕事の内容を教えてください。

大中さん:ドアやトランク、テールゲートといった、クルマの開閉部品の商品性と強度耐久性のCAE・テスト解析を行う部署の担当管理職と、性能領域のグループリーダーとして組織を束ねる役割を兼任しています。

研究員時代に育休を取得した当時はどのような業務を?

大中さん:元々は入社時より、衝突安全のCAE解析を行ってボディ構造や仕様を決める業務をしていました。管理職になってから、室課の体制変更により現在の業務を担当しています。

※CAE:Computer Aided Engineeringの略で、コンピュータ上で仮想試作・試験といったシミュレーションや解析のこと

第1子は特休と有休を使って育休の代わりとして、第2子では有休と育休合わせて約2ヶ月半のお休みを取得された経緯を教えてください。

大中さん:私の両親と妻のお義母さんは他界していて、もともとお互いの両親に頼ることができない状況でした。地元も離れているため、自分たちだけでどうにかしなくてはならず、必然的に休みを取ることになりました。2回とも産後すぐに取得しましたが、第1子の時はどれくらいの日数が必要なのかよくわからず、まずは1ヶ月健診のタイミングを目安にして期間を決めました。第2子の時は、2歳になる上の娘の面倒を見ながら下の子を世話するため、首が座るまでの期間として、夏季連休明けまでの約2ヶ月半の休みを取ることにしました。

育休を取得することに、迷いや葛藤はありましたか?

大中さん:育休といっても休職扱いになるので若干の迷いはありましたが、取らないわけにはいきませんでした。周囲に迷惑がかかるとも思いましたが「申し訳ないけど、みんなに助けてほしい」と半分開き直った気持ちでした。約2ヶ月半をすべて育休として取ることも考えましたが、収入への影響を考慮して、1ヶ月を育休、残りは有休とすることに決めました。

上司にはどのタイミングで、育休取得の相談をしましたか。

大中さん:出産予定日が6月だったため、2月か3月頃に相談しました。年度が変わると組織体制の変更もあるので、その前に伝えておこうと思いました。

その時の上司の反応はいかがでしたか?

大中さん:第1子の時は特休と有休で約1ヶ月だったので、「わかった、良いよ」とあっさりと了承してもらえました。しかし、第2子の時は、休む期間がさらに長く、育休希望ということもあって、「本当に育休を取るの? 他に手はないの?」とすんなりとはいきませんでした。さらに「育休を取ると、仮に同じ評定を持つ人がいた時にハンデとなり得て、今後のキャリアに影響するかもしれないよ」とも言われました。その時は「評価を付けるためにはそれもしょうがないのかな」となんとなく受け入れたのですが、その晩帰宅して妻に話すと「それはおかしいでしょ!」と言われ、私自身も「あ、やっぱり確かに変な話だな」と思ったことをよく覚えています。
ただ、いま振り返って考えると、その時の上司は当時の実情を正直に伝えてくれたのかなとも思います。私が育休を取得した2016年は、まだまだ育休を取る男性が全然いなくて、おそらく室課で取得したのも私が初めてだったかと思います。私のことを知る人には理解してもらえても、そうでない人たちはまた違った見方をしていたかもしれません。本来はフラットに評価すべきことですが、当時の空気感では「自己都合で長期間休職した従業員」とみなされたのかもしれません。
上司はそれを見越して「他に方法はないのか?」と、親身になって言ってくれたのかなと、今は思います。

そうした上司の反応に対し、育休取得の決意は揺らぎましたか?

大中さん:いえ、覚悟は決めていたので「そうした可能性も理解したうえで休みます」と伝えました。私の決意が固かったので、上司も「それならわかった」と受け入れてくれました。

育休を取得すると決まってから、実際のお休みまでにどのような準備をされたのでしょうか。

大中さん:当時はタイで開発している機種のチーフを担当していました。開発は基本的にタイのメンバーで行われるのですが、衝突安全領域は日本側が担っていました。そのため、まず自分の後任を決め、タイの開発メンバーとやっている定例のテレビ会議に参加してもらい顔をつなぐことから始めました。後任の同僚には、業務内容、今の課題や懸案、解決に必要なことをしっかり伝えました。育休までに自分がやること、後任者に頼みたいことを明確にして、不在中に困ることのないよう事前にちゃんと引き継ぐことを心掛けました。機種開発以外の面では、関係しそうな方々に育休で不在になることを早めに伝えて、理解してもらえるようにしました。

後任者の方は、仕事の引き継ぎについてどんな反応を?

大中さん:同僚とは、もともと仲が良く、状況をすぐ理解してくれてスムーズに引き継ぐことができたと思います。機種開発の中で7月にタイへ出張する計画だったのですが、それも代わりに対応してもらいました。良い機会と捉えて前向きに対応してもらえたのでとても助かりました。

大中さん
大中さん

育休から復帰した時の気持ちは「やっと働ける」

育休取得後、ご自身の気持ちに変化はありましたか?

大中さん:2ヶ月半の育休から復帰した時は「ようやく働ける」というのが素直な感想でした。やってみてわかりましたが、育児はすごくつらいです。日々子供の成長を感じられる喜びはありますが、1日の生活としては同じことの繰り返しで、たかだか2ヶ月半経験しただけですが、エンドレスに続く感じで先が見えない気持ちになります。それに比べ、仕事は始まりと終わりがある。育児との大きな差です。そういう意味では仕事の方が楽ですね (笑)

育休からの復帰後は働き方に変化はありましたか?

大中さん:家庭への配慮が欠けてしまったという、大きな反省があります。育休で多少なりとも職場に迷惑をかけたのだから、復帰後はちゃんと働こうという思いが強くなってしまい、復帰後早々に朝早くから夜遅くまで仕事をする、育休前の生活スタイルに戻ってしまいました。そのため、妻にはだいぶ辛い思いをさせ、迷惑をかけたと今でも非常に後悔しています。

現在も、会社にいる時間はかなり長いのですか?

大中さん:時間としては長いです。ただ、当時と比べると今はリモートワークが普及したのは大きな変化です。以前は育児を妻に任せて出社することも多々ありましたが、今は子供の体調不良など突発的なことがあっても、私がリモートワークに切り替えることができ、助かっています。

育休後は、以前と同じ業務に復帰されたのでしょうか。

大中さん:はい。担当する機種は変わりましたが、衝突の開発業務を行うことは変わっていません。

育休取得後に以前と同じ業務に戻れるか、不安はなかったですか?

大中さん:不安はなかったです。開発部門は、開発業務がメインでそれ以外の業務はサブだと思われる人もいますが、開発以外の業務が重要でないかというとそんなことはありません。どちらも大事で価値ある仕事です。私はもともと開発業務と併せて、システム開発や業務効率化といった間接業務を担当したこともあるので、両方の立場が分かっていました。仮に復帰後の仕事が間接業務になっても、やれることはまだまだたくさんあるので、そこは前向きに楽しみつつ、精一杯やるつもりでいました。

職場に迷惑をかけないようにしっかり引き継ぎの準備をしたと仰っていましたが、実際に職場に復帰していかがでしたか?

大中さん:特に第2子の2ヶ月半の休みは自分の中で「長かったな」と感じましたが、戻ってみると意外と世界は何も変わってないという現実を見て、良い意味で「ひとり抜けたくらいで何も変わらない」と気づきました。仕事を引き受けてくれた同僚も「全然大丈夫でしたよ」とあっさりしていて、まさに“案ずるより産むが易し”だと思いました。

育休取得による出世への影響を感じましたか?

大中さん:結果的に今は感じてないです。育休の相談をした上司から「将来に影響があるかも」と話があった時は、ちょっと気になったのは確かです。自分の同僚や後輩が先に出世することもありました。ただ、それが育休のせいかは結局わからない話じゃないですか。むしろ、キャリアアップしてる人は実際、尖った能力を持っていると感じるし、自分にまだ足りないところがあるなと思えていたので、育休の影響は気になっていないです。自分の意志で決めて人生を突き進むのみ、キャリアがどうなるかは結果でしかないと思います。

育休を取って良かったことは何ですか?

大中さん:いかに子育てが大変かを実感できたこと。それに当時は育休を取る人が全然おらず、「この状況は良くない」とすごく感じていたので、自分が取ることで少しでも現状が変わるキッカケになればいいなという気持ちがありました。自分が育休を取ることで、その経験を周りに何かしら発信ができたらと思っていました。

素晴らしいですね。“ファーストペンギン”になった感想は?

大中さん:周囲で子供が生まれる話を聞いた時とか、折に触れて自分の育休のことについて話したりします。どれだけ役に立つかはわからないけど、ひとつの育休の具体例を伝えることで選択肢を与えたりして何かの役に立てればいいな、と思っています。

大中さん
大中さん

不安の根源はどこにあるのかを一緒に考えたい

現在、管理職の立場で、ご自身の経験を踏まえて、従業員の育児や育休を薦めるために心がけていることを教えてください。

大中さん:私はイチ管理職・イチ会社員である一方、ひとりの父親でもあることをちゃんと自覚して、その姿を職場にも伝えたいです。たとえばつい最近も、朝に子供が急に体調が悪くなり学校を休んだのですが、妻が仕事から帰ってくるまでの間、私が子供の面倒を見ることにしました。そのため朝から出社予定だったのを急遽リモートワークに変更したのですが、子供がいる以上仕方がないことだと思うんです。管理職ですが父親でもあり、どうしても出社できない時もある。「こういう時はリモートワークを活用して仕事と家庭のバランスを取る」という姿勢を、メッセージとして伝えたいと思ってます。また、周囲にも「無理して出社するくらいならリモートにして家庭とバランスを取れないか考えてみて」と伝えています。とはいえ、「子供の世話があるから仕方がない」というだけではダメで、その分どこでリカバリ―するかとか、突発的な事態も見越して普段から余裕をもって準備しておく、といったことは心がけています。

部下が育休を取得しやすい環境を作るために実行していることは?

大中さん:育休を取るうえで何に悩んでいるのかを正しく知りたいので、しっかり話し合える時間をつくるようにしています。以前、育休を取るか悩んでいた部下がいました。彼は業務の面とともにお金の面も気にしていました。確かに、育休を取ることで大なり小なり収入が減る可能性はあります。私の場合も育休としては1ヶ月でしたが、いつもの収入とのギャップはありました。でも国内旅行に1回行ったと思えば、許容できる範囲でした。ただ、お金のことはそれぞれの家庭の事情や考え方があるので、「取った方がいい」とも「取らない方がいい」とも言えません。こうした事情も含めて正直に話してもらえたらいいですね。他にも出世への影響に不安を感じる、周りへの迷惑が気になるなどの理由で迷う人もいます。仕事はいかようにも調整するので、正直に思っていることを言って欲しい、という話をしています。

他にも、部下が育休取得の意向を示した時に配慮していることはありますか?

大中さん:不安に思う気持ちに寄り添いながら、不安の源泉が何かを一緒に探したいです。たとえば最初は収入の不安が問題と思っていても、よくよく話し合ってみると、じつは出世への影響がいちばん気になっているのかもしれない。先ほども話したように、本人も本当の不安が何か、意外と気づいてないケースもあります。一緒に話し合いながら真の不安が何かを見つけて、どう対応していくかを考えたいです。

では逆に、部下が育休取得を希望する時に実行して欲しいことは?

大中さん:どういう目的で育休を取りたいのか、その目的を達成するためにはどんな困りごとが発生するのかを、一度自分の中でちゃんと整理して欲しいです。そうすれば、その解決方法を一緒に考えていくことができるので。

育休期間にもよりますが、復帰後に今までの仕事から外されることを恐れて、取得をためらう人がいると聞きます。管理職の立場から、こうした不安を持つ方にどんな言葉をかけたいですか?

大中さん:確かに、長期間の育休を取得する場合、職場もそれを前提に体制を調整するので、戻ってきた瞬間に全く同じポジションに戻れるかというと、そこは調整が必要になり、難しい可能性もあります。でも、それが本人にとって本当に不利益かというと、そこは捉え方次第だと私は思います。新たに置かれた環境の中でいかにやっていくかも、ひとつのスキルです。ずっと同じことを続けることが正しいかというと、今はそんな時代でもない。変わることをどんどん前向きに捉えて、その中で自分は何が活かせるかを考えることを期待したいです。

今後育休から復帰した部下には、どのように仕事を付与していこうとお考えですか。

大中さん:まずは本人がどうしたいかを確認して、その意志をできるだけ尊重したいです。あとはフルで仕事をしたいのか、育児と両立しながらやっていきたいのかでも違います。本人がやりたい仕事を必ずしも両立できない場合は、その事実をきちんと伝えます。本人には、現実を踏まえてどうしたいか?考えて欲しいですね。

大中さん
大中さん

迷いがあるなら、まずは周囲の誰かに相談を

このインタビューで、四輪開発センター所属の方にお話しいただくのは初めてですが、育休含めて育児しやすい職場ですか?

大中さん:以前に比べておそらく育休は取得しやすく、復帰後はある程度リモートで対応でき、育児しやすい環境にあると思います。もちろん実車を使ったテストなど、出社しないとできない業務もありますが、そこは誰かにお願いしたり、協力し合いながらフォローしていけるんじゃないかと思います。その一方、いまは電動化に応じて四輪開発のやり方も過渡期なので、新しい技術が入ってきたりと、今後については正直、不透明要素がたくさんあります。そのリスクに対して、いかに両立しやすい環境を整えていくかが、我々マネジメントの役割です。

管理職として、育休取得のボトルネックとなり得る要素は何だと思いますか

大中さん:職場にもよるかもしれないですが、いちばんボトルネックになり得るのは、周りの理解や上位者の考え方だと思うんです。お互いしっかり対話しながら解決することが必要なのかな、と。

ボトルネックを解消できるかどうかは上司次第ですか

大中さん:そうかもしれません(笑)。いまは比較的、どこも育休が取りやすい雰囲気になっている気がします。以前より、男性が育休を取るケースを耳にする機会が増えたようにも感じます。ただやはり、周囲に迷惑がかかるかもとか、心理的なバイアスがかかって育休取得を言い出せない人も一定数います。そういう人の気持ちも見逃さないように、折に触れて、マネジメント側からも男性の育休取得の話を広めていくことが必要です。

上司と気軽に相談できない場合はどうしたらいいですか

大中さん:そういう時は隣の部署の上司や先輩とか、違う部署の人であっても話せると、そこを経由して上手くフォローできることもあるので、ぜひ何かの形で打ち明けてほしいですね。

育休が取得しやすい職場づくりには何が必要だと思いますか?

大中さん:ハード面では、ある程度は誰が担当しても変わらずに結果を出せる仕事の体制や、仕組みづくりが必要です。ソフト面では、誰がいつ育休に入っても当たり前に「そういうもんだよね」と受け入れる文化を、職場として醸成していくことが必要かなと。いま私がいる職場では、実際に育休を取ったケースこそまだ少ないですが、取ること自体は全然問題なく受け入れる空気がありますね。

では、育休を受け入れにくい職場はどういう組織でしょうか。

大中さん:わりと硬直してる組織かな、と。仕事の中身よりも、古くからの縦社会的組織なのが原因です。あとは専門性が高すぎて、代替が効かないパターンもあると思いますが、今後はそういう職場も、ある程度幅を持たせる人材育成や体制づくりをしてレジリエントな組織になっていかないと、存続できないと思います。

では最後にマネジメントの視点から、これから育休を取得される方にメッセージをお願いします。

大中さん:もし育休に迷っているなら、取らないで後悔するよりは取って後悔した方がいいと思います。後悔を感じたとしても、5年後、10年後にはきっと取ってよかったと思える時が来るはずです。
あと、その時に何に迷っているかを自分の中で見つめ直して、真の迷いが何かを明確にすることが大切です。そうすることによって解決策は広がり、道が開けます。ぜひ自分の中で対話をして、育休取得を前提にいかに動くかを考えてほしいです。

同僚からのコメント
同僚の声
同僚の声 石原啓太さん 電動事業開発本部
BEV開発センター
BEV完成車
開発統括部
BEV開発一部
BEV車体開発課
アシスタント
チーフエンジニア
※インタビュー当時
Q1.大中さんが育休に入る前や育休中にサポートされたとのことですが、やりにくさを感じたことはありましたか?

大中さんから事前に引き継ぎがあったため、業務で困ったことは特にありませんでした。
当時、私は機種の衝突解析において、前側後突のとりまとめを担う業務経験がなく、後輩への指導や、他機種との兼務によるやりくりが工数的に大変でした。それでも、新しい役割を経験できて、目線を変える良い経験になりました。

Q2.大中さんをはじめ、まわりで育休を取得する方を見て、ご自身の気持ちや行動に変化はありましたか?

大中さんをきっかけにグループ内で取得する方が増えた印象があります。大中さんのような職位の方が取得することで、部下たちは「取ってもいいんだ」という雰囲気になったのかもしれません。
私自身もこういった機会があれば取得したいと思うようになりました。

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