“多様な個が活きる組織づくり” 実践セミナー 開催レポート
違いは組織の力になる
2025年12月16日、Honda和光ビルで障がい者雇用とLGBTQ+をテーマとした
「“多様な個が活きる組織づくり”実践セミナー」を開催し、
グループリーダー・ユニットリーダー(係長にあたる職位)132名が参加した。
オリエンテーション
冒頭、本セミナーの主催者であるキャリア・多様性推進室の伊藤室長は、ダイバーシティには表層的ダイバーシティ(見えやすい違い)と深層的ダイバーシティ(見えにくい違い)があることを、氷山のイラストを用いて説明した。その中で、見えにくい違いである障がい者雇用とLGBTQ+を取り上げる理由を参加者に伝え、日々のマネジメントや当事者との関わり方に活かせる視点を持ち帰って、職場で実践してほしいと呼びかけた。
Hondaのダイバーシティのありたき姿
本日のセミナーのテーマは、「障がい者雇用」と「LGBTQ+」です。Hondaは、多様な属性・価値観を持つ“個”が活き活きと輝くことで、企業総合力の最大発揮をめざし、2015年から人材多様性進化に取り組んできました。当初の日本Hondaの重点課題であった女性活躍拡大から着手し、その後、LGBTQ+に取り組んだことで、社内では「ダイバーシティ=マイノリティ支援」と捉えられることが多くありました。近年の障がい者の法定雇用率の上昇に伴い、取り組みを強化したこともその印象をさらに定着させたかもしれませんが、そうではありません。Hondaの多様性進化はHondaフィロソフィーの人間尊重に基づき、全従業員に関わることです。違いを尊重し、違いに価値を見いだし、違いにかかわらず全従業員が力を発揮できる状態をつくること―つまり、ダイバーシティは“全従業員に関わること”だと考えています。
一方で、今回のテーマを「障がい者雇用」と「LGBTQ+」に絞った理由は、両者に共通する「見えにくい違い」があるからです。ここで、二つのダイバーシティについて説明します。

氷山の見えている部分は表層的ダイバーシティ、見えていない部分は深層的ダイバーシティです。性別や身体障がいは見えやすい一方で、セクシャリティ(性的指向・性自認)や知的・精神の障がいは外見からは分かりにくい。今回は、この“見えにくい違い”をテーマにしています。現場で起きる困りごとを、対応によって組織の力に変える。そのための視点と具体策などの職場実践のヒントを当事者との関わりが深いマネジメントの皆さんに、持ち帰っていただければと思います。
本日、ここにお集まりいただいた皆さんは、Hondaのマネジメントの内 10%弱にすぎません。セミナーの企画段階では「そんな少数を集めて何が変わるんだ」という声も正直ありました。しかしながら、皆さんがここで得た知識を持ち帰り、職場で実践すれば、それが周りに波及し、会社が変わっていきます。そのためには皆さんの頑張りが必要です。キャリア・多様性推進室は皆さんに期待するだけでなく、できうる限りの支援もしていきます。
また、コロナ禍以降、オンラインでの開催が主流となる中、今回は対面開催にこだわりました。その理由は、画面越しではない参加者同士の活発な意見交換や積極的な講師への質問によって、「自分事」として学び、職場で実践する意欲を高めてもらいたいと考えたためです。
Hondaの障がい者雇用の考え方
本田宗一郎がソニー創業者の井深大氏の紹介により、太陽の家を訪れたのは1978年1月のことでした。
太陽の家は「世に心身障がいはあっても仕事に障がいはあり得ない」「保護より働く機会を」という整形外科医の中村裕博士の提唱により1965年10月に大分県別府市に障がいのある人が働きながら暮らせる施設として誕生しました。
障がいのある人の本当の幸せは残存機能を活用して生産活動に参加し、社会人として健常者とともに生きることにあるというのが中村博士の理念でありました。作業所を視察した本田宗一郎は「どうしてだ?涙のやつが出てきてしょうがないよ」とそのあり方と、そこで働く人たちの姿に大いなる感銘を受けました。
そして、「よし、やろう。ホンダもこういう仕事をしなきゃダメなんだ」と応え、特例子会社の設立(ホンダ太陽、希望の里ホンダ)へつながっていきました。
そこから現在まで続くHondaの障がい者雇用の考え方には二つの柱があります。
ひとつは人間尊重―“障がい者”としてではなく「一人の人間」として社会に役立ち、普通に生きていくこと。
もうひとつは企業の社会的責任―企業として法令(法定雇用率)の遵守は当然の前提です。そのうえで、障がいの有無にかかわらず、一人ひとりがやりがいを持って働ける環境づくりを進めています。
HondaのLGBTQ+の取り組み
Hondaでは2019年より、LGBTQ+への取り組みとして、まずは風土醸成施策を展開し、加えて、環境整備・制度導入を推進してきました。
これらの取り組みの積み重ねにより、LGBTQ+当事者を含むすべての従業員が多様な価値観やあり方を尊重し合いながら働ける職場風土を育み、心理的安全性の高い職場づくりにつなげています。
直近では、ポスター、デジタルサイネージ、Honda TV(社内放送)などを通じた啓発活動を行い、より多くの従業員に取り組みの趣旨や考え方が届くよう工夫を重ねてきました。
その結果、企業の取り組みを評価するPRIDE指標では、最高位であるGOLDを6年連続で受賞しています。(2020~2025年現在まで)
PRIDE指標とは?
wwPが、企業・団体などの枠組みを超えてLGBTQ+が働きやすい職場づくりを日本で実現することを目的に2016年に日本で初めて策定した指標。「LGBTQ+の人々が誇りを持って働ける職場の実現」という想いを込めて命名された「PRIDE」の各文字に合わせた右記の5つの指標の総合点に応じてゴールド・シルバー・ブロンズの3段階で評価・表彰しています。
PRIDE指標2025においては、さらなる取り組みの領域を広げる目的で加点方法の見直しが行われました。

障がい者雇用における現場の課題
本日の開催にあたり、事前に回答いただいたアンケート結果から、障がいのある方が在籍している職場は全体の3分の1でした。障がい区分は、身体障がいの方が多くを占める一方で、近年は精神・発達障がいのある方が増加傾向にあります。受け入れ前の懸念を見てみると、「仕事の進め方や出来栄え」「コミュニケーション」「体調(メンタル面)」など多岐にわたりました。しかしながら、実際に受け入れた後は、想定していたよりも問題が生じなかったという声が聞かれたものの、育成・評価については受け入れ後も課題として残り、他の項目と比較しても突出していました。育成については今回のセミナーでヒントが得られると思いますが、評価については基本的な考え方は健常者と変わらないものの、不明な点があったり、困ったときには人事部門に気軽に相談いただきたいと思います。
本日のセミナーでは、様々な現場の悩みに対して、解決につながる職場実践のヒントをお届けします。
午前に障がい者雇用、午後にLGBTQ+をテーマに有識者の方々からの講義だけでなくワークやディスカッションの場も用意をしています。せっかくの対面開催ですので、皆さんの熱気溢れる積極的な参加姿勢で、一日を通して、職場での実践につながるヒントをつかんでください。
障がい者雇用
午前の部は、株式会社Kaien 法人ソリューション事業部 ディレクター 小林裕美氏、
同 ブリッジコンサルタント 湊めぐみ氏を講師に迎え、障がい者雇用をテーマに学んだ。
講師紹介
株式会社Kaien 法人ソリューション事業部 ディレクター
小林 裕美 氏
前職で経理・人事・秘書・営業管理を経験したのち、2016年Kaienに入社。障害福祉サービスの支援員を経て、2019年から法人向けサービスに参画。精神・発達障害の方向けサテライトオフィス雇用モデルの立ち上げに従事。
株式会社Kaien 法人ソリューション事業部 ブリッジコンサルタント
湊 めぐみ 氏
一般企業での実務経験を積み、2015年にKaienに入社。大人の就労支援に携わりながら、2022年に精神保健福祉士の資格を取得。現在は企業常駐をしながら精神発達障害者の定着支援や研修などの業務に従事。
ニューロダイバーシティという視点
はじめに講師は、ニューロダイバーシティ(脳や神経由来の違いを多様性として捉える考え方)について説明し、発達障がい・精神障がいのある人を「自分たちとは違う存在」と切り分けるのではなく、職場にいる多様なメンバーの一人として向き合うことの大切さを伝えた。
講義では、ニューロダイバーシティという言葉に初めて触れる参加者も多く、職場のメンバーとの関わり方を改めて考えるきっかけとなった。
また講師は、一人ひとりをよく知ろうとする姿勢が、相手を属性で決めつけない関わりにつながり、それは健常者も障がい者も関係なくダイバーシティマネジメントを実践していくうえで欠かせない考え方であることを強調した。

よくある現場の困りごと①
「障がいのあるメンバーに任せられる業務がありません」
障がいのある人材を職場に配属しようとする際、「受け入れを検討したいが、任せられる業務がなく困っている」という声が上がることがある。本セミナーの事前アンケートでも、受け入れ時の懸念として「適切な業務の切り出しが難しい」という回答が多く見られた。こうした背景には、「障がいのあるメンバーに任せる業務は、簡単で負荷が低く、責任を伴わない仕事に限られる」といった思い込みがあるのではないかと、講師は問いかけた。
講師は、一人ひとりの特徴や得意なことに目を向け、強みを活かして貢献できる業務付与を考えることが大切だと説明した。
講師の合図で、参加者は自部門で任せられそうな業務のリストアップに着手。次々と書き出す人がいる一方で、なかなか思いつかず、ペンを持ったまま考え込む人も多く見られた。
そのような状況を見て講師は、大前提として「任せる業務は、会社として必要性があり、本人の強みを活かせるものであること」とし、「会社として不要だけれど、障がいのある人に与える仕事を無理に作り出すということではない」と強調した。
その後、いくつかの業務を切り出す際のポイントが紹介され、参加者はそれを手掛かりに、再度リストアップに取り組んだ。業務内容だけでなく、その理由や頻度・量、チームへの効果まで書き出し、グループで意見を交わした。「報告資料の体裁を整える」「金型の磨き作業」「部品の運搬」「帳票の仕分け」「DXの推進」など、具体的な業務が次々に挙がっていった。
このセッションの最後で講師は、得意・不得意(凸凹)を踏まえた業務付与が、チーム全体の生産性向上や成果をあげることにつながると付け加えた。

よくある現場の困りごと②
「合理的配慮って、何をどこまでやればいいですか?」
障がいのある人を職場に受け入れるときに、現場の悩みとして多いのは「どこまでが合理的配慮にあたるのか」ということだ。
講師からは「合理的配慮」の定義について説明があった。合理的配慮とは、「障がいのある人の人権を、障がいのない人の人権と同様に保障するために、社会生活上の障壁となっている事柄を必要に応じて取り除くための調整」を指す。
ただ、「配慮」という言葉の捉え方として、なんとなく、「優しくする」「常に付き添いが必要になるのではないか」「職場の負担が増えるのではないか」といった誤ったイメージをもつ人は少なくないと説明があった。
続いて講師は、合理的配慮は障がいのある人を特別扱いすることではなく、仕事で成果を出してもらうための「調整」であると説明。例えば、「目が見えにくい人の代わりに文章を代読する」のではなく、「自分で読めるように眼鏡を渡す」など、道具やルールを見直すことで、自立して業務を進められる環境を整えることが本来の意味であると強調した。また、合理的配慮をする上で欠かせないのは、当事者との定期的なコミュニケーションである。ずっと同じ合理的配慮をするのではなく、慣れや習熟によって配慮事項を見直すことや、障がい者からの追加の配慮の申し出があった場合は、現実的に実行可能であり会社の過重な負担にならない範囲で対応を検討することが付け加えられた。
<合理的配慮の例示>
過重な負担:オフィスの話し声や電話の音が気になってパニックになる。静かな個室を用意してほしい。
現実的に実行可能な範囲:ノイズキャンセリングイヤホンや耳栓の着用を許可する。
参加者は講師の説明を聞き、うなずきながらメモを取っていた。合理的配慮を会社の過重な負担になるものと身構えるのではなく、現実的に実行可能である範囲で工夫すればよいのだと受け止め、前向きに「合理的配慮」を考えていこうとする様子がうかがえた。

よくある現場の困りごと③
「配属後に課題が生じた場合の対応」
配属後の職場で、すでに起きている(または起こり得る)課題の対応については講師から「状況把握から行動変容の評価までをつなぐ4つのステップ」という実践的なフレームワークが提示され、表面化した事象だけを捉えて指導するのではなく、その背景にある要因を多面的に分析することの重要性が伝えられた。
一方で、要因がある程度見えてきたとしても、職場だけでは対応が難しいケースもある。その場合は、社内の人事・総務部門に相談した上で、必要に応じて社外の支援機関や医療機関と連携することにも言及した。

質疑応答
参加者からは障がいのある人のキャリア形成について
「障がいのある人にはずっと同じ仕事をやってもらったほうがいいのか、育成の観点でジョブローテーションをしたほうがいいのか」と質問があった。
講師からは、
「定型業務に限らず本人の意欲に沿って成長機会を設け、キャリアアップさせてほしい」と回答があり、補足として、「必ずしも健常者と同じスピードで進める必要はなく、1on1で体調や習熟度を確認しながら段階的に役割を広げることが有効なケースもある」と述べた。
この質問があったことは、セミナー開始時のオリエンテーションでの「障がいの有無にかかわらず、一人ひとりがやりがいを持って働ける環境づくりを進める」という会社側の意思が伝わっており、現場での育成を期待できるものであった。

まとめ ー学びを実践へー
今回の学びを振り返り、明日からの実践につなげるポイントを確認した。
1) 発達障がい・精神障がいといった属性で画一的に捉えるのではなく、その人を知ろうとする
2) 任せる業務は、「会社として必要性があり、本人の強みを活かせるもの」とする
3) 合理的配慮は障がいのある人が活躍するための「環境調整」であると考える
4) 対応に苦慮した場合は、現場だけで抱え込まず社内の人事・総務部門に共有し、必要に応じて外部の支援機関や医療機関とも連携する
最後に参加者は、職場に戻ってから実践すべきことを「行動宣言」としてまとめた。

主催者は、
●法定雇用率の引き上げに伴い、障がいのある人と共に働く職場が益々増加してくること
●そのために既に配属されている職場だけでなく、これから受け入れる職場においても本日の学びを活かして欲しいこと
●学びは行動に移すことが重要であり、「行動宣言」については一定期間後に実施状況を確認すること
●職場での実践において困ったときにはいつでも相談して欲しいこと
以上を伝え、支援を継続することを約束した。
LGBTQ+
午後の部は、株式会社アウト・ジャパン 代表取締役 屋成和昭氏を講師に迎え、LGBTQ+をテーマに学んだ。
講師紹介
株式会社アウト・ジャパン 代表取締役
屋成 和昭 氏
新卒採用支援に約20年従事。2016年にLGBTQ+採用支援の新会社立ち上げに参画し、配慮不足が企業の損失を生む現実を実感。2017年に株式会社アウト・ジャパンに入社後、幅広い企業のLGBTQ+ダイバーシティ推進支援に携わる。
思い込みに気づく ーアンコンシャスバイアスー
はじめに「アンコンシャスバイアス」の説明があった。
「アンコンシャスバイアスとは、気づかないうちに過去の経験や周囲の情報に基づいて、きっとこうだと判断してしまう、『無意識の偏見・思い込み』のことである。例えば、「責任ある役職は男性が適任だ」「子供が熱を出したら母親が休むべきだ」「年配の人はITや新しい技術が苦手だ」といったことが挙げられる。
講師は、自分の中にあるアンコンシャスバイアスに気づくことで、相手を属性や限られた情報だけで判断することなく、一人ひとりのメンバーと丁寧に向き合えるようになると説明した。
性を考える4つの切り口
続いて講師は、『性を考える4つの切り口』を紹介した。性は男性/女性の二択ではなく多様なグラデーションの中にあること、そのことを前提に、本人の自己認識に耳を傾ける姿勢が重要だと伝えた。
4つの切り口
- 性自認
- 性的指向
- 出生時に割り当てられた性別
- 性表現
トークセッション
講師が聴き手となり、LGBTQ+の当事者の実体験が語られた。
トークセッション①
トランスジェンダー Aさん

女性として出生し、幼少期から周囲には女の子として扱われ、その延長で職場でも女性として働いてきた。30歳を機に当時の職場でカミングアウトし、現在は男性として生活し、自営業を営んでいる。
僕は女の子として生まれ、現在は男性となっているトランスジェンダーです。「いつから男性になりたいと思っていた?」と聞かれることがありますが、男性になりたいと思ったことはありません。なぜならば物心ついた時から、自分は男性だと自認していたからです。そのため、両親から赤いランドセルを渡された時に「なんで?」と疑問に思いました。ランドセルを黒く塗りつぶそうかと思ったり、わざとランドセルを壊して使えなくしたり・・・それぐらい赤いランドセルが嫌だったんです。それが、僕のモヤモヤ人生の始まりでした。
心と体の性別が一致しない。こんなのはこの世に僕一人だけで、僕だけがおかしい。そう思って、両親、家族、友人の誰にも言えずにモヤモヤを自分の中で隠し続けてきました。でも、小さな嘘をつき続けているような罪悪感、女性を演じて過ごしている毎日に希望が持てず、30歳の時に、「もうこんな人生は嫌だ。男として生きたい」とカミングアウト。それから男性ホルモンの注射を打ち始め、性別適合手術を受けて、名前を変えて戸籍上も男性となり、長年連れ添った女性のパートナーとも“男女”として結婚することができました。
まさかこんな人生を送ることになるとは思ってもいませんでした。
トランスジェンダーの中には退職してから性別を変え、それから別の職場で再就職する人もいます。今は自営業ですが約10年前、当時僕は女性として入社し、会社員として勤務する中で、男性への性転換をしていきました。男性ホルモンを打つことで髭が生えたり声が低くなったりするので、会社には黙っていられないと考えたものの、99%受け入れてもらえないだろうと思い、言いたくはありませんでした。
カミングアウトは「理解してもらいたいからする」と思われがちですが、そうではありません。外見や声が変わっていくから言わざるを得ない、だからカミングアウトするんです。
僕は、社長にだけ伝えました。本当に勇気が要りましたが、10年一緒に働いて築いた信頼関係に懸けました。
社長は僕の話に耳を傾け「会社のことは心配するな。お前の人生なんだからお前の好きに生きろ」と言ってくれました。「なんて理解のある人なんだ」と思っていましたが、あとから聞くと、LGBTQ+について何も知識がなかったと聞き、わからないなりに自分のことを受け止めてくれたんだと気づき、気持ちが救われました。

トークセッション②
同性愛者 Bさん

製造業で会社員として働くBさんは、過去に職場でカミングアウトした際にアウティングされてしまったことがある。
私はゲイの当事者です。幼少期から男性が好きだという自覚がありましたが、学生の時に、彼女を作らないでいると「オカマなんじゃないか」とか揶揄するような言葉にさらされる経験をし、一旦女性とお付き合いしていた時期もありました。ある程度の年齢で結婚して親を安心させなければいけないと思っていたので、男性とお付き合いするのは何歳までにしようと自分でリミットを決めていたこともあります。そんな風に自分の性的指向をごまかしながら過ごしてきましたが、やはり自分は男性が好きだという気持ちに逆らえない部分もあり、25歳で今後もゲイとして生きていく決意をしました。
私は現在、とある企業で会社員として勤務しており、上司やチームメンバーにカミングアウトしていますが、以前の職場では、基本的にカミングアウトはしてきませんでした。
昔、仲の良い同僚にゲイであることをカミングアウトした時に、自分の知らないところでアウティングされていたからです。当時そのことに気づいたのは、ある日の食事会。私がゲイであることを全員が知っており、遠回しに「ゲイって気持ち悪いよね」みたいな言葉を浴びせかけられたからです。そのことによって職場での心理的安全性がゼロになり、会社にはいられなくなってしまいました。これが職場でのカミングアウトのリスクを強く感じるようになった経験です。
トランスジェンダーの方と違い、良くも悪くも隠せてしまう一面があるのが同性愛者です。例えば、今回のようなセミナーがあったとき、「お前は違うよな」と軽口で茶化されることがありますが、そのときは異性愛者のふりをして嘘をつかなければなりません。周囲の知識や理解がない故の悪気のない一言だったとしても、当事者は苦しい思い、嫌な思いをして、職場が居づらい場所になり退職してしまうのです。
今回のトークセッションではトランスジェンダーと同性愛者の2名が自らの経験を当時の心情を含め語ってくれた。つらく思い出したくない経験もあったと思うが、決して当事者の立場を主張するだけの語りではなく、理解が進むように冷静に語るその様は参加者の心に強く刺さり、前のめりになり集中して聴く姿がそこにあった。
トークセッションによって参加者は、「自分の周囲にはLGBTQ+の当事者はいない」というアンコンシャスバイアス(無意識の偏見・思い込み)があること、無自覚な言動は知らぬ間に当事者を傷つけてしまっているということに気づき、自身の言動を考え直すきっかけとなった。

カミングアウトとアウティング
では、実際には「どのような言動をとればよいのか」について講師から説明があった。
マネジメントがカミングアウトを受ける場合、驚き動揺もするだろうが、まずは「話してくれてありがとう」と、受け止める。次に「何か困っていることはないですか」と聞き、対応すべきことの確認を進めていく。
具体的に確認することは、
① カミングアウトの共有範囲
誰にも共有しない/すでに共有している人がいる(社内相談窓口を含む)
② 職場環境において配慮が必要なもの
特にトランスジェンダーにおいてはトイレ、ロッカー、ワーキングネームなど(思い込みではなく本人の意向を聞く)
講師は②において、マネジメントだけで解決できない場合は社内相談窓口につないでいくことも考えられると説明した。
一方で、本人の同意のない共有(アウティング)はSOGIハラになることから、本人の同意は必ず必要であることを強調した。
SOGIハラとは?
性的指向や性自認に関して行われる嫌がらせや差別的言動などのハラスメント。SOGIはSexual Orientation(性的指向) and Gender Identity(性自認)の頭文字をとった言葉である。
悪意をもって他者に知らしめるのは問題外だが、意外と見受けられるのが当事者のためによかれと思いしたことがアウティングとなってしまうケースだ。セクシャリティについて話すか話さないかを決めるのはあくまで本人だけである。たとえ善意からの言動であったとしても、本人の同意なしにセクシャリティを第三者に話してしまうとアウティングになってしまう。そのことで当事者がメンタルに不調をきたし、退職に追い込んでしまうケースがある。他社では労災認定や訴訟に至り、企業ブランドの毀損によって大きなダメージを受けた事例も見受けられた。繰り返しにはなるが、「セクシャリティについて話すか話さないかを決めるのはあくまで本人だけであるということを本日はしっかり覚えて帰って欲しい」と講師は参加者に呼びかけた。
この後、参加者は「部下からのカミングアウトへの対応」というグループワークに取り組んだ。
<ケース “30代の男性従業員からの相談”>
今までは言えなかったが自分はトランスジェンダーである。今後は自分の気持ちに正直に生きていくため、勤続15年を迎えるこのタイミングで女性として働いていきたいと考えている。まずは上司に相談しようと思った。
参加者からは、「まずは気持ちを受け止めるんだったな」「信頼して打ち明けてくれたことに感謝を伝えないと」など、これまでの学びを活かした発言があり、代表者が取りまとめ発表した。
講師からは「正解は一つではない。きちんと話を聴き、必要なものに対して対応を行うことが重要である」と説明があった。
例えば、トランスジェンダーからカミングアウトを受けた際に、上司は困りごととしてロッカーやトイレを想定することが多い。しかしながら、全員が困っているわけではない。性自認と違うロッカー、トイレを使うことに困っている人もいれば、気にならない人もいる。
大切なことは、本人がおかれている状況や困りごとの解決などの希望を丁寧に確認することである。さきほどの講義でも伝えたように困りごとが上司や自部門だけでは解決できず、関連部門と連携しながら進めなければいけない場合は、アウティングとならないよう本人の同意が必要であることは大前提であると説明した。

心理的安全性が担保された職場に向けて ―アライの役割―
「『でも、うちの職場ではこれまで相談(カミングアウト)を受けたことがないので、LGBTQ+の当事者はいません』という上司がいます。本当にそうなのでしょうか。本日のセミナーに参加された皆さんなら、カミングアウトがなかったとしても職場に当事者がいる可能性があると考えられるようになったのではないでしょうか」と講師から問いかけがあった。
LGBTQ+の当事者はできれば知られたくないと思う一方で、トークセッションのケースのようにトランスジェンダーで外見の変化による周囲への影響を考えてカミングアウトせざるを得ない場合もある。また、外見上はわからない同性愛者も職場で嘘をつき続けることへの心理的負担を解消したいと思い、カミングアウトしたいと考える人もいる。
このような方々がカミングアウトしようと思ったときに、重要となるのが「アライ」の役割である。アライとは、LGBTQ+の当事者ではないが、性的指向や性自認などの性の多様性を理解し、差別や偏見に反対し、当事者を尊重・支援する人である。日頃の言葉づかいや振る舞いに気を配り、SOGIハラにつながる言動を見過ごさないなどLGBTQ+の当事者の存在に配慮した言動の積み重ねによって、「この人なら相談しても大丈夫」と心強い味方(アライ)の存在を感じて、カミングアウトにつながっていく。
特に、職場の風土づくりを担う上司がアライを表明しているかどうかは、当事者の心理的安全性の担保に大きく影響する。アライである上司の姿勢が職場のメンバーに伝播し、当事者への理解と支援が当たり前の職場をつくっていく。そうなれば「ここでは自分は傷つけられない」「相談したいときに頼れる人がいる」と感じることができるようになっていく。
ただし、心理的安全性の担保された職場ができたとしても、カミングアウト をするか/しないかを決めるのは個人の自由であり強制するものではない。
講師は、「本日のセミナーによって知識を得て、参加者の多くはアライとして支援したい気持ちが喚起されているかもしれない。しかし、LGBTQ+の当事者の存在を探ろうとするような行為は逆効果であり、静かに見守る姿勢、つまりは、特別視しないことが重要である」と説明した。
最後に講師は、ある当事者はカミングアウト後に今までと同じように接してくれるか不安を抱えていたが、「上司にカミングアウトした翌日、昨日と同じように『おはよう』と声をかけてもらえたこと、今までと何ら変わらない接し方をしてくれたことが本当に嬉しかった」というエピソードを紹介し、セミナーを終えた。

クロージング
主催者の伊藤室長から参加者へのメッセージ

障がい者雇用については、
●“知識習得だけで終わらせない”ため、セミナー内で作成した“職場実践を見据えた行動宣言”の実践状況を一定期間後に確認させて欲しいこと
●実践する上で困ったときには一人で抱え込まず、事業所の人事・総務部門に相談してほしいこと
●ケースに応じて外部機関の支援も得られること
を伝え、安心して一歩を踏み出して欲しいと背中を押すメッセージが伝えられた。
LGBTQ+については、
●心理的安全性の担保につながるアライの役割に賛同いただける方には意思表示につながるステッカーを配布するので持ち帰ってほしいこと
●実際にカミングアウトを受けるときには、今回のセミナーで学んだ“大事なことを話してくれてありがとう”という一言から始めることを忘れないでください
というお願いがあった。
伊藤室長は、参加者に語りかけた。
「Hondaが目指すのは『多様な人を集めること』にとどまらず、多様な個が健全にぶつかり合い、化学反応を起こして新しい価値をお客様に届けることです。表層的ダイバーシティと深層的ダイバーシティで考えると、一人ひとりが多様な属性・価値観をもつ“究極の個”です。違いを活かすマネジメントのために丁寧なコミュニケーションをお願いします。 キャリア・多様性推進室は、ダイバーシティマネジメントを実践する皆さんをこれからも支援していきます」
セミナーを終えて
講師の声
株式会社Kaien
小林 裕美氏
この度は貴重な機会を頂きまして、ありがとうございました。参加する従業員の皆さんに実施した事前アンケートの回答に基づき、現場のリアルな悩みや疑問を中心に取り上げました。
参加者の皆様が終始非常に熱心にワークに取り組まれる姿が印象的で、皆様の真剣な課題意識と、組織をより良くしようとする強い意欲がひしひしと伝わってまいりました。
本セミナーが、Honda様の障がい者雇用のさらなる推進や、チームづくりの一助となれば幸いです。
株式会社アウト・ジャパン
屋成 和昭氏
セミナー登壇、大変光栄でした。参加者の皆様が、非常に熱心に聞いてくださっていたのが印象的で、みなさまの関心の高さを肌で感じました。
特に今回は、対面形式を活かし、当事者の「リアルな声」を直接お届けしたことで、より深い気づきを得ていただけたと感じております。今回の熱意を力に、Honda様が深層的ダイバーシティの実現に向け、さらに力強い一歩を踏み出されることを期待しております。
アンケート結果
本セミナー終了後に参加者アンケートを実施した。(回答率:98%)
障がい者雇用
- 理解度 99%
- 活用度 99%
- 行動変容 82%※セミナー終了 2か月後
LGBTQ+
- 理解度 100%
- 活用度 100%
フリーコメント
- ●障がい者の個々の特性に応じた合理的配慮を行い、誰もが能力を最大発揮できる職場づくりを目指したい
- ●対面でLGBTQ+の当事者の生の声・意見を聞くことができ、これまで想像したことのなかった思いや感覚に触れるとこができ、とても貴重な経験となった
- ●本セミナーで学んだ内容が、Hondaで働くすべての人にとって当たり前の内容(知識・意識)となるよう、今後、積極的に働きかけていきたい
キャリア・多様性推進室より
今回のセミナーは、対面での実施にこだわったことで参加者同士の議論が自然と活発になり、会場には大きな熱気が感じられた。
障がい者雇用パートでは、セミナー内で作成した「行動宣言」の82%がすでに職場で実践されており、参加者の行動変容が着実に進んでいることがうかがえた。今後、実践を重ねる中で新たな課題が生じた場合には、キャリア・多様性推進室として職場に寄り添いながら、解決に向けた支援を続けていく。
LGBTQ+パートでは、当事者によるトークセッションに参加者が前のめりで真剣に耳を傾ける姿が印象的であり、当事者の生の声が想像以上に深く心に届いていたことがうかがえた。こうした気づきや共感が、今後、一人ひとりのアライとしての行動につながっていくことを期待している。