Hondaデザイナーを魅了するセダンには、モビリティの基本が最も宿っている
なぜ今、セダンに乗るのか?
――長年にわたり世界で愛されるミドルサイズセダンの代名詞、ACCORD。初代から数えて11代目となる現行ACCORDは、流麗なファストバック※と装飾を抑えたシンプルな面構成、シャープで明快なモチーフを使うフロントグリルが気品と知性を演出する一台です。
※ファストバック:クルマのボディ形状の一種。ルーフ(屋根)から車体後端にかけて、なだらかに傾斜した流線型のラインを持つスタイル
――セダンとは、エンジンルーム・居住空間・トランクを明確に区分けした「3ボックス構造」を持つ、クルマの基本形態です。この構造はボディ剛性と静粛性に優れ、低重心・低全高のレイアウトは操縦安定性と空力性能に有利。クルマとしてのトータルバランスに極めて優れているからこそ、Hondaをはじめ多くの自動車メーカーはセダンをベースに技術を磨き、そこで得た知見とノウハウをさまざまなモデルへと展開してきたのです。
そんなACCORDをはじめとしたセダンは、SUV・ミニバン全盛の時代において、かつてのように誰もが選ぶ存在ではないのかもしれません。しかし、3人の若手デザイナーたちは今、そろってセダンに乗っていると言います。
石井
3人はセダンに乗っていると聞きましたが、今の時代にどうして選んだんですか?
栗木
セダンは、デザインの観点で"スーツ"に例えられることが多いですよね。決まった形式の中で、いかに個性を光らせられるか。僕は持ち物に自分らしさを投影したいタイプなので、かっこいい大人への憧れから、伝統的なセダンに惹かれました。
伊藤
僕も最初は見た目からです。今も乗り続けているのが、学生時代に一目惚れした3代目ACCORD※。Hondaに入社したいと思ったのも、ACCORDのスタイリッシュながらしっかりと日常使いできるパッケージに感動したことがきっかけでした。セダンはSUVやミニバンに対して実用性がないと思われがちですが、実際は結構使えます。
岡原
特に長距離移動の快適さは最たるものですよね。僕は実利を求めてセダンを選んでいて、行動範囲を広げるクルマとして最も理にかなっていると感じます。後ろの席も快適で走りは滑らか、荷物もきちんと積めて2人くらいなら車中泊もできます。「クルマの基本形に近い」のがセダンだと思います。
伊藤
セダンは他の車型と比べると、長距離移動では頭一つ抜けていますよね。3ボックス構造が生み出すボディ剛性と、着座姿勢が低く車両全体が低重心であることは、走りの安定感という点で圧倒的だと思います。「遠くの場所へ、どれだけ快適に早く移動できるか」。そんなモビリティの基本中の基本が最も宿っているのが、セダンなのではないでしょうか。
11代目ACCORDに見るセダンの魅力
11代目ACCORDが示すデザインの「型と個」
――若い3人がセダンに乗る理由、それは一目で感情を揺さぶる美しいフォルムに、高次元で融合する「快適に移動する喜び」でした。遠くへ早く快適に移動したいという想いこそクルマ誕生の原点であり、今なお追求する真理の一つでしょう。では、セダンを代表する一台であるACCORDの造形には、3人は何を感じているのでしょうか。現行11代目を手掛けた石井に、デザインに込められた意図を問いかけました。
岡原
現行11代目ACCORDはとてもシンプルで洗練されており、他社との違いが明確。近くで見るとしなやかで親しみやすい印象ですが、走っている姿を見ると低く構える顔周りがシャープで印象的です。ひとたび乗れば、信頼感や強さをしっかりと感じられて、頼れるセダンだと思いました。
栗木
写真で見るとシンプルでおとなしい印象ですが、街中で見ると異質なオーラを放っていますよね。他のクルマと走っていても際立ちますし、むしろ他車と並べてこそ輝くイメージがあります。
石井
狙いがしっかりと伝わっていてうれしいです。11代目ACCORDは、「クリエイティブ・ブラックタイ※」というコンセプトでつくりました。ドレスコードの一種で、形式的なフォーマル性がありながらも所有者の個性やクリエイティブ性が出せるというもの。「新しい感覚の人が乗っている」と思われるクルマを目指しました。
栗木
フォーマルな要素は、具体的にどの部分で表現されたんですか?
石井
スリーボックスの美しい骨格により「フォーマルな資格を持つクルマ」に見えることを狙いました。その上で流れるようなルーフラインとスポーティーな印象を持つクーペライク、ファストバックによる流麗なシルエットで寸法以上に大きく伸びやかに見せています。ただ、豪華な腕時計を付けて箔を付けるように、大きなフロントグリルなどの華美な装飾をすることなく車格を示したかったんです。
石井
よりクルマが長く、かつサイドビューで薄く見えるよう意識しました。ノーズからリアまで一気通貫したボディーの上に、奇麗なキャビンがすっと乗っている。そうしたシルエットにすることで、セダンとして最も美しい形をつくろうとこだわりました。
伊藤
元々ACCORDのメインマーケットは日差しが強い米国・西海岸で、デザイン的にサイドの面が強く見えることを意識してきたと思うんです。一方で、曇りがちな東海岸でも販売されます。環境の違いを踏まえてデザインで意識したことはありますか?
石井
確かに光の強さで変わるサイドパネルの陰影は造形に大きな影響を与えます。東海岸のように光が柔らかく、都市構造によってクルマを見る距離が縮まると、見え方は欧州的になります。だから、開発時には欧州車を熱心に研究しましたね。地域インテリジェンス※で、米国車でありながら、密度の高い環境での見え方にもこだわりました。
岡原
密集している都市で見ると、とても洗練されているように感じます。ただクルマをシンプルにするだけではなく、環境との調和も狙っているのですね。
石井
背景に情報量が多いときは、クルマはシンプルにまとめるという考え方があります。それに、北米とアジアの感性の差もあれば、欧州では都市が持つ質量感から軽すぎるデザインはウケないという違いもあります。そうした点も踏まえて、11代目ACCORDはメインターゲットである北米を中心に、グローバルで通用するデザインを構築していきました。
ACCORDが受け継ぐデザインDNAと調和
デザイン的にフォーカスするのは
乗る人が心地良く移動できるか
――新しさを毎世代で感じるのもACCORDの魅力の一つです。フォーマル性が高いながらも、全世代で先進技術を取り入れるチャレンジを続けてきました。同世代の他のセダンと比べると、トレンドの一歩先を進んでいる。そんなところにも、Hondaらしさが込められています。
伊藤
先進性はACCORDに受け継がれてきた部分だと感じます。今後もさまざまな先進技術が投入されていく中で、いかにパッケージやデザインに落とし込み、価値としてお客さまに届けられるか。ACCORDは、そうした時代の期待感に応え続けてきましたよね。
石井
ACCORDは、「快適性」と「走行性能」を最も突き詰めているクルマだと思います。乗る人が心地良く移動できるかどうかが、デザイン的にフォーカスされるべき部分。先進技術の導入も、それを生み出すかへと集約します。もし、そこがずれてしまうと50年間培ったお客さまからの信頼を裏切ることになりますが、逆に言えば、守るべき部分さえ残せればデザイン的な表現手法は変わってもいいと考えています。
ACCORD(調和)が意味するもの
石井
新しい時代と「調和」(英語でAccord)しながら、期待をどう超えていくかが、ACCORDが受け継いできたデザインDNAでしょう。
Hondaは大の運転好きが集まっているので、自然とスポーティさや楽しさが前面に出たクルマが目立ってくるのはあるんですが、その中でACCORDは走行性能と快適性を両立させてきました。ある意味、作り手のエゴと使い手の気持ちを調和してくれる存在でもある。本質的には、そうして磨き上げられた技術と品質で、世界中のお客様に喜んでいただけるHondaのセダンであり続けること。それこそがACCORDの重要な役割だと思います。
伊藤
調和という意味では、時代時代でHondaという会社自体の調和を保ってきたクルマという側面もあるのではないでしょうか。"CIVICの兄貴分"というポジションでデビューし、途中でLEGEND(レジェンド)が出るなど、会社の情勢の中で立ち位置が変わりましたが、その時々で最適解を出し続けてきましたよね。
セダンが生み出す「快適な移動」という豊かな体験
Hondaデザイナーが考えるこれからのセダン
――セダンが本来持つ「快適性」と「走行性能」。それらを中核に置くACCORDは、快適に移動する喜びを最も純粋に体現している一台と言えるかもしれません。セダン、そしてACCORDを見つめてきたデザイナー4人が、最後に語り合ったのは「これからつくりたいセダン」。それぞれ未来への想いをぶつけ合いました。
栗木
セダンは、期待を裏切らない信頼感を土台に、期待値をさらに超えていく難しいバランスを成立させるクルマです。その最たる一台がACCORD。「最も快適な移動=セダン」がインテリアデザインとして最大限伝わるクルマをつくりたいですね。
岡原
一目で欲しいと感じさせるインパクトのあるクルマを出したいです。美しさと快適性を高次元で融合させる難しさはありますが、セダンはポテンシャルの高いクルマ。誰もが乗ってみたいと思う一台をつくりたいです。
伊藤
セダンという3ボックス構造が持つ合理性と美しさ——高いボディ剛性と低重心がもたらす上質な走り、そして人のためのスペースを最大限確保しメカニズムをコンパクトに凝縮するHondaのM・M思想(Man-Maximum、Mecha-Minimum:人のためのスペースは最大に、メカニズムのスペースは最小に)——を突き詰めていくと、「快適に移動する」というクルマ本来の理想に行き着くのではないかと感じています。自動運転など先進技術の導入で時代の要望に応えながらも、大人の余裕を感じさせるセダンをつくりたいですね。
石井
セダンを選んだ人は、人が移動することに特化した美しいクルマで、最も快適に移動することができます。それこそがクルマが生み出せる豊かな体験。これからのセダンは、若い世代の価値観とどう向き合うかがカギになります。皆さんが語ったことを、どう造形で表現していくのか。3人もACCORDのように、変革を恐れず、時代とともに進化し続けてほしいと思います。
――SUVやミニバンが主流となった現代においても、セダンは「快適に移動する喜び」を真っ直ぐに体現し続けています。そして、若きデザイナーたちが語ったのはノスタルジアではなく、クルマ本来の価値を改めて問い直した結果の確かな選択です。長い歴史によって磨き上げられてきたデザイン思想。時代と調和しながら継承と変革を重ねてきたACCORDは、これからも変わらぬ価値を追求し、進化し続けていきます。



