Super-ONE

「Super-ONE」が世代を超えて価値をもたらす

シティ・ターボIIを知らない世代が生み出す80sデザイン

――EV領域がまだまだ未成熟だった頃に開発がスタートしたSuper-ONE。その魅力はすべて、グランドコンセプト「e:Dash BOOSTER」に込められています。Super-ONEのインテリアデザインを担当した森下秀一とCMF(Color, Material, Finish)デザインを担当した古小路(こしょうじ)実和がチームで議論を重ねて導き出したものは、日常が楽しくなる"FUNなEV"であることでした。

Super-ONE
森下 秀一

森下
核となるのは、ドライビングプレジャーを大切にすることです。最初に決まった「Boost」というキーワードには気持ちを高ぶらせるという意味が込められていて、そこに紡ぐ言葉を模索していた中で見いだしたのが「Dash」。小柄なクルマが機敏に素早く走る印象に加え、ファミリーコンピュータ世代の「Bダッシュ」にあるゲーム感やレトロなニュアンスを含んで採用しました。

古小路
そして、グランドコンセプトをより具体的な「ユカイ」「ツウカイ」「メイカイ」というキーワードに分解しました。ユカイ=乗車体験の楽しさ、メイカイ=その楽しさが瞬間的に目に見えて伝わる、ツウカイ=そこからくる刺激を楽しめる。ドライビングプレジャーを大切にすることが最上段にあり、それが瞬間的に伝わって、その刺激を楽しんでもらえる。私たちデザイナーは、運転する楽しさが"明快に伝わる"というデザインを強く意識しています。

――Super-ONEのデザイン開発は、スタート時から従来とは大きく異なりました。市場ニーズから始まるマーケットインが主流の四輪開発において、開発責任者から発された言葉は「自分たちが世の中に出したい新しいものをつくろう」。そこで、グランドコンセプトを模索する初期段階からデザインメンバーが深く関わり、設計メンバーとの対話を通じてプロダクトアウトで進められました。開発チームが追い求めたのは、単なる移動手段ではない「世の中にない面白いクルマ」。そのヒントをHondaのDNAに求める中で、象徴的な存在として白羽の矢が立ったのが、1983年に発売された「シティ・ターボII」でした。

※プロダクトアウト:企業が持つ独自の技術や思想を主軸に開発・生産し、市場へ提供する手法 ※シティ・ターボII: Hondaのコンパクトカー「シティ」のターボモデル。コーナリング安定性を高めるべくシティ・ターボIIで採用されたワイドトレッドとブリスターフェンダーは、Super-ONEにも採用されている
シティ・ターボⅡ
シティ・ターボII
ホンダコレクションホール
ホンダコレクションホール

ここから、当時のクルマを実体験として知らない若い世代による、徹底研究がスタート。リバイバル的な昭和レトロが漂う原宿での若者文化のリサーチや1980年代のクルマも並ぶホンダコレクションホールでの調査を通じ、温故知新よろしく古き良き時代の価値観を現代に問い直す作業が始まったのです。

※「モビリティリゾートもてぎ」(栃木県芳賀郡茂木町)内にあるHondaのミュージアム

森下
1980年代がどういう時代だったのか、そしてHondaがどんなクルマをつくっていたのか。調べていくと本当にワクワクするようなクルマづくりをしていたんだなあと感じました。当時、Hondaよりも歴史があり規模の大きな競合他社がメインカルチャーとされる商品をつくる中、その時代ではサブカルチャーとされるような、本当に尖っていてファッショナブルな趣味性の高い商品を生み出していました。シティ・ターボIIはその最高例ですね。当時の憧れとされていたクルマや流行っていたものを調べながら年表にまとめていくと、その時代は知らないのにどこか懐かしく、味があるデザインに我々世代でも「おっ!いいね」と感じることがわかりました。

シティー・ターボII 開発中写真
シティー・ターボII開発時の試作車。当時、マンハッタンルーフと組み合わせるアイデアも模索されていた
シティ・ターボⅡ インテリア
シティー・ターボII インテリア

古小路
私はシティ・ターボIIと聞いてもなかなかピンとこなかったので、その時代を知る先輩デザイナーや、1968年生まれでまさに世代だった父に魅力を聞いてみました。当時のスポーティーなクルマのカラーリングは赤が主流だったのに対し、シティ・ターボIIは青や白。王道を外す大胆さや遊び心こそ、この時代のデザインの魅力だと感じました。

――コンセプトワークの中で最も重要だったのが、20代を中心とした若いデザインメンバーと40・50代が集まるベテラン設計メンバーとの対話でした。グランドコンセプトの考案と同時にひんぱんに開かれた会議で、ジェネレーションギャップが生じます。当初、シティ・ターボIIを熟知し、クルマ自体への愛が深い設計メンバーは、昔の良さをそのまま再現しようと考えていました。対するデザインメンバーは1980年代デザインの良さには大いに共感するものの、「当時を再現して、そのまま出すだけでいいのか」と感じていました。

古小路
会議中に私がぽつりとつぶやいてしまったんです。怒られるかなと思ったのですが、設計メンバーにも理解してもらえて。初期段階で20代と1980年代を知る世代の親子に向けたクルマをつくろうと決まったのですが、例えば親子で一緒に乗っているときに、お父さんがずっとクルマのいいところを語り続けるのはちょっと嫌ですよね。「このメーターが...」とか「この音が...」とか。むしろ、子どもの方から「おっ!このシートかわいいね」と声をかけて親子の会話が生まれる。そんなクルマを目指しませんかと投げかけたんです。

古小路 実和
Super-ONEのグランドコンセプト
Super-ONEのグランドコンセプト

森下
「マニアックすぎると若者はついてこない」と伝えたら、設計メンバーも納得してくれました。かといって、表面的な模倣では1980年代を知る世代が離れてしまうことは私たちも理解できます。つまり、若者世代と1980年代を知る世代のクロスポイント、双方が「おっ!」となる点を見つけることがSuper-ONEに必要だと感じました。マニアックさを詰め込んだ試作車に乗ってみると、確かに走りは抜群に面白いんです。この走りを活かすためには、機能に即したデザインを生み出さなければならないこともわかってきました。

――重ねに重ねた対話を通じ、デザインと設計が共通の価値観を抱きました。両世代が共に楽しめるバランスの追求。そして、運転する楽しさを最大限に生かすデザインの創造。それらの要素がグランドコンセプトへと集約されていきました。

操る喜びに没入できる空間演出とマテリアル

シティ・ターボIIを現代的にオマージュ

――「ドライビング機能が目立つ空間になっている」と森下が話すように、Super-ONEのインテリアは運転に集中でき、操る喜びを感じ取れる工夫が随所に施されています。まず、車内で最も印象に残るのがシートの形状とカラーリング。シティ・ターボIIのバケットシートをオマージュしながら現代的に進化させました。

Super-ONE スケッチ
Super-ONE インテリア

森下
このシートは、背面やクッションの土手形状をなるべく高く設定し、体をしっかりホールドしてくれます。鷹栖プルービンググラウンドで試作車を運転したときに感じたSuper-ONEが持つキビキビとした走り、クイックなコーナリング性能を十分に楽しむための工夫です。

※鷹栖プルービンググラウンド:1990年に北海道上川郡鷹栖町に開設されたHondaのテストコース
Super-ONE スケッチ
Super-ONE スケッチ

森下
シティ・ターボIIの当時のカタログを見たときに、バックと一体感のあるヘッドレストにサイドのサポートがとても強調されていて、この構成をオマージュしたいと強く感じました。

シティー・ターボII インテリア
シティー・ターボII インテリア

森下
そんなシートに乗り込んだ瞬間にも、高揚感を味わえる演出を施しています。乗った瞬間、メーターに元気よくアニメーションが流れ、ドライバーに所有の喜びと運転への期待感を感じてもらうのが狙いです。

――インテリアのカラーリングは、シティ・ターボIIの象徴である青をベースに再構成されました。1980年代にあった大胆さと遊び心のある配色から着想を得て、落ち着きある黒の中にキラリと個性が光る印象的なコーディネートとなっています。

Super-ONE スケッチ
Super-ONE スケッチ
Super-ONE インテリア

古小路
CMFの役割は、遊び心や刺激を加えることだと考えました。乗り込んだ瞬間に感じてほしいので、一座ではアシンメトリーなのに、二座ではシンメトリーとなるシートをデザインしました。特に注目してほしいのが、「偏光メッシュ表皮」と名付けた青いメッシュ部分。青の中にピンクの糸を織り込んだことで、見る角度によって青からピンクや紫に見える仕掛けを施しています。乗り込む瞬間は刺激的で面白く、乗ればメーターの演出などで運転の楽しさに没入できるよう、視点の流れを考えました。

――インテリアは素材選びにおいてもストーリーを重視しました。それがサステナブルマテリアルを使うことです。インストルメントパネルの加飾部には植物由来のバイオ樹脂「DURABIOTM(デュラビオ)」を用いました。植物由来だからこその美しい透明感と、サステナブルマテリアルと思えないほどにビビットな発色が特徴です。

※サステナブルマテリアル:環境に配慮した素材。Hondaは2050年の100%活用を目指し、Supe-ONEのバンパーや内装に植物由来の「DURABIO™」や再生材を導入。持続可能性と高い品質を両立する
Super-ONE インテリア
Super-ONE

古小路
また、エクステリアのフロントグリルには、Honda車のバンパーを再利用した粒柄の素材を使用しています。同じ柄は出ないため、Hondaの歴史が閉じ込められた、世界に一つだけの意匠を楽しめます。

裏側にストーリーがあると、同乗者との会話のきっかけになりますし、ちょっとした自慢にもなります。シティ・ターボIIが持つ語りたくなるディティールを、現代のクルマで置き換えると素材なのではないかという考えに至りました。サステナブルマテリアルは決して安いものではなく、製造工程での手間もかかります。ですが、環境への配慮はもとより、コーディネートしたときの見た目のユニークさを大事にし、随所に散りばめました。

異論を貫いた「ブーストバイオレット・パール」のインパクト

雷をモチーフにしたブーストバイオレット・パール

――インテリアに1980年代デザインへのオマージュをふんだんに取り入れた一方で、エクステリアカラーは別のアプローチをしました。シティ・ターボIIが持つ軽快でファッショナブルな青と、CIVIC TYPE Rのエンブレムに見られるような鮮烈でスポーティーな赤。この2つの価値をクロスさせた新色でチャレンジすることが、Super-ONEらしい新たな価値を生み出すはずと考えたのです。

※CIVIC TYPE R:NSX-R、INTEGRA TYPE Rに続く「TYPE R」シリーズの第3弾として誕生した、CIVICのファインチューニングモデル。1997年、6代目シビックのマイナーチェンジ時に「タイプR」として追加された
Super-ONE
Super-ONE

古小路
私はカラーリングを考えるとき、まずはモチーフ選びから始めます。試作車に乗ったときに感じたのは、運転する気持ちの高ぶりやEV特有の浮遊感。乗車体験と新たな価値の創造、そしてEVの特性を総合して模索した中で見出したのが、上空に向かって走り青い光を放つ雷「BLUE JET」という自然現象でした。ここから導き出したのが「ブーストバイオレット・パール」という紫のカラーリングです。

※BLUE JET:高度20~100kmで起こる超高層雷放電の一種。成層圏上部付近で見られ、青色に発光する。雷雲から上に伸びるため「上向きの雷」とも呼ばれる

――BLUE JETをモチーフにしたブーストバイオレット・パールには、EVを駆る高揚感とともにSuper-ONEの人気も加速させたいという、願いが込められています。しかし、攻めたカラーリングだけに、開発チーム内で賛否両論を巻き起こします。転機となったのは、社内にカラーリングを施した実車を置いたことでした。

Super-ONE
開発途中の試作車
開発途中の試作車

古小路
前例は少ないのですが、設計メンバーが「塗装していいよ」と開発途中の試作車を貸してくれたんです。そこでCMFメンバーの知見を集めて奇抜なだけではない紫色の可能性を探りました。光が当たるところにオレンジパールを入れて、現代らしいエフェクト感や質感の良さを出すなどして、強く攻めた紫と落ち着いた紫の2色をつくりました。この2色を半分に塗り分けた実車を会社に1週間くらい置いたところ、年代を問わずたくさんの社員が集まってきてくれて、「この色は何に使うの?」と興味を示してくれました。結果的に現物を見せたことがゴーサインの後押しになり、語るだけでなく実際にものをつくることの大切さを実感しました。

「Super-ONE」がクルマの楽しさを教えてくれた

趣が全く違うSuper-ONEとN-ONE e:の関係

――新しい価値を生み出そうとさまざまな試みを実行し、模索しながらつくり進めてきたSuper-ONE。その一方で、暮らしに寄り添い、多くのユーザーに愛されてほしいという真逆のコンセプトを持つ「N-ONE e:」も同じ時期につくられていました。実は、森下と古小路は、この2台のインテリアとCMFを並行して担当しました。

※N-ONE e::2025年に発売された量産軽EV
Super-ONEと並行して開発が進められたN-ONE e:
Super-ONEと並行して開発が進められたN-ONE e:
初期アイデアスケッチ
初期アイデアスケッチ

森下
この2台は同じプラットフォームを使っているのですが、ほぼ同時進行でつくっていました。広く受け入れられるよう丁寧に実直につくっていたN-ONE e:がメインディッシュなら、クルマづくりという「遊び」をするようにつくっていたSuper-ONEはデザート。もちろんどちらも心血を注いだクルマですが、メインディッシュが真剣かつ真面目につくっていたぶん、疲労困憊のときこそデザートの時間が待ちきれませんでしたね。Super-ONEはあまりにも好き勝手に楽しくつくらせてもらっていたので、私たちデザインメンバーのモチベーション維持のためだけにある発売されないクルマなのではと最後まで疑っていたほどです(笑)。

※プラットフォーム:フロアパネルやエンジンルーム、サスペンションの取り付け部など、車体の骨格となる基本コンポーネント

古小路
当時、入社2年目に差し掛かるくらいのタイミングで2台のCMF担当にアサインされました。CMFは入社歴が浅くても大役を任されることが多いのですが、2台同時はまれで、個人的にキャリアを積む大きなチャンスです。とはいえ当時の自分にとって、N-ONE e:だけならまだしもSuper-ONEの開発もとなると、とても高い壁に見えました。正直、不安もありましたが、先輩方の強いバックアップのおかげで最後までやり切ることができました。

――1980年代のデザインのあり方、そしてHondaの歴史を研究したことで、「自分の会社のことを深く知るいい機会になった」と森下は話します。Super-ONEという一台のクルマを生み出すためのプロセスが、"古きを温(たず)ねて新しきを知る"経験を2人にもたらしました。そして、Hondaならではの学びも多くありました。

力強く鋭い加速を可能にするSuper-ONE独自の走行モード「BOOSTモード」のスイッチ
力強く鋭い加速を可能にするSuper-ONE独自の走行モード「BOOSTモード」のスイッチ
森下 秀一

森下
この数年間でクルマそのものの造詣がとても深まりました。私がHondaに入社した理由は、さまざまなモビリティをはじめ、ロボットや飛行機など幅広い領域のものづくりに携われることだったんです。自分はクルマ一辺倒ではなかったため、過去のクルマが持つ文化やダイナミクス的な事柄にそれほど詳しくありませんでした。やはり社内には熱狂的なクルマ好きが多いので、会話するたびにどこか負い目を感じることもあったんです。でも、Super-ONEに携わったことで、クルマを生み出すことの面白さ、そしてデザインの楽しさに改めて気付かされました。このクルマにはとにかく自分のピュアな想いを込められたと思っています。

古小路
現場、現物で確かめることの重要性は実感しましたね。Hondaに根付く三現主義の大切さは、学生時代には絶対に気づけません。試作車を塗装した際、実は落ち着いた紫の方がいいのではないかと頭によぎったことがあるんです。でも、CMFの大先輩から「このクルマらしい攻めた色を選んだ方が後悔しない」と声をかけてもらいました。この後押しがあったからこそ、最終的にSuper-ONEらしいカラーリングを選択できたと思います。結果として攻めてよかったですし、チャレンジすることの大切さも学びました。それに、シティ・ターボIIを調べて感じたのは、当時のデザイナーの反骨心。「やってやるぜ!」という気持ちをとても感じたんですよね。私も同じ気持ちをSuper-ONEにぶつけることができてよかったです。

※三現主義:研究と問題解決の上で重要なHondaの考え方。現場に行くこと、現物(及び現状)を知る、現実的であること
森下秀一と古小路実和
Super-ONE

――世代を超えた対話の中から生まれたSuper-ONEは、Hondaが綿々と受け継いできたFUNの精神と現代的なデザインやサステナビリティが調和した一台です。若きデザイナーたちの純粋な想いが、約半世紀前のデザイナーたちが込めた情熱との共鳴を生み出しています。

Profiles

森下 秀一

森下 秀一

オートモービル
プロダクトデザイナー

古小路 実和

古小路 実和

オートモービル
CMFデザイナー