CB400 SUPER FOUR E-Clutch Conceptが示す新たなスタンダード
今、あえて「スタンダートなバイク」を定義する意味
――1992年の登場以来、日本のネイキッド・ロードスポーツを牽引してきたCB400 SUPER FOURは、日本の二輪市場においてスタンダードを象徴する存在。その再定義に挑んだのが、モデラーの加藤朝人です。高校時代からCBに憧れ、このプロジェクトを担当するために自ら手を挙げたという彼が、新型CB400 SUPER FOURに込めた想いとは何だったのでしょうか。
新型CB400 SUPER FOURの開発において、加藤がまず向き合ったのは「現代におけるスタンダードとは何か」という問いでした。
加藤
近年の二輪デザインは、新しい表現を求めてどんどんシャープなエッジを効かせる傾向にあります。丸いヘッドライトがあって、鉄のタンクが鎮座していて、リアカウルがすっと伸びていて、パッと見て誰もが「ああ、これこそバイク」と思えるようなオーソドックスな形が、逆に世の中からなくなってきていると感じていました。だからこそ、今この時代にあえて「スタンダートなバイク」を定義し直すことは、人々の目に新鮮に映り、大きなインパクトを残せると思ったんです。
高校時代からの憧れを、開発の情熱に
――CB400は、加藤が生まれた頃から存在する歴史あるモデル。今回のプロジェクトでエンジンまで新規開発するという話を聞いたとき、「絶対に自分が担当したい」という衝動に駆られたといいます。
加藤
実は、一度は別のモデル開発の担当を打診されそうになったんです。でも、新しい四気筒の400ccをつくれるチャンスなんて、モデラー人生でそう何度もない。なので「絶対に自分がやりたい」と何度も上司に交渉しました。元々Hondaはやりたいことをやりたいと言いやすい社風ですが、今回も上司が僕の熱意を汲み取ってくれました。
――その後、念願のCB担当となった加藤は、「CBらしさとは何か」という終わりのない問いに向き合うことに。社内でリサーチしてみると、ある人はCB750FOURを、ある人はDream CB400 Fourを挙げ、年代や立場によってCB像がバラバラなことがわかったそうです。
それぞれ別のモデルで一貫性がないようでいて、共通して語られるCBらしい風格やバランスが存在する。加藤は多くの先輩たちの声を聞きながら、自分なりのCB像を少しずつ形にしていきました。
加藤
CB400 SUPER FOUR
には歴史と風格があり、新型でもそれを表現しなければいけません。400ccのタンクは大きく、跨ったときにかっこ良く映る乗り手とのバランスが存在します。自分としては、そのバランスを美しく表現するには鉄タンクであることが非常に重要で、成立させるのが難しくても諦めたくはなかったんです。
――ここで活きたのが、加藤のモデラーとしての技術です。自らクレイを削ってスケッチだけでは検討しきれない1mm単位の調整をし、鉄タンクの成立性を証明していきました。
加藤
樹脂カバーに頼らずに鉄板の加工だけで美しさと機能を両立させるのは至難の業で、当初は設計担当からも「無理だろう」と言われましたが、私としてはCB400 SUPER
FOURは絶対に鉄のタンクであるべきだと考えました。鉄板を溶接するラインをどこに通せば美しいか。ハンドルを切ったときにライダーの指が挟まらないか。生産ラインのローラー溶接機が入るクリアランスを確保できるか。実用性や量産性を確保しながら、CBらしい美しいタンクの造形を成立させるため、細かな検討をクレイモデルで行い、目に見える形にすることで、チーム全体で「これならいける」という共通認識を持つことができました。
――工業製品としての制約をデザインの力で乗り越えていく。それは加藤にとって、立体を司るモデラーとしての矜持でもありました。
50年前の広告から受け取ったインスピレーション。四気筒エンジンの機能美
――新型CB400 SUPER FOURのもう一つのポイントは、新開発の四気筒エンジンです。加藤は「エンジンのHonda」としての歴史を尊重し、過剰な装飾を排した機能美を追求。そのインスピレーションの源となったのが、1970年代の名車「Dream CB400 Four」(通称ヨンフォア)です。
加藤
ヨンフォアは50年以上前のバイクで、「おお400。」という有名なキャッチコピーの広告があるんです。あのエキゾーストパイプが強調された流麗な佇まいは、今見てもとてつもなくかっこいい。今回の新型も、同じ400ccとしてあの歴史的な美しさと比べられても遜色ないものにしたかったんです。
テスト走行で「最高のバイク」と確信
――新型CB400 SUPER FOURは伝統を継承しながらも、性能は大幅に進化し、車体が先代から軽量化され、扱いやすさも飛躍的に向上しました。「乗って楽しいバイク」をつくり上げる過程で、加藤には忘れられないチームとの思い出があるといいます。
加藤
今回の開発チームは若いメンバーが多く、活気に満ちた開発になりました。開発の終盤は、チーム全員で旅館に泊まり込み、外部のテストコースを走り込んだりもしました。完成間近のバイクに開発メンバーが揃って乗る機会は限られているのですが、苦労してつくり上げたバイクに跨りチームメンバーでツーリングのように走れたのは、本当に良い思い出です。
――デザイナー、設計者、テストライダーが同じ宿で過ごし、同じ道を走り、楽しみや喜びを共有する。このテストで得た「このバイクは最高だ」という確信が、新型CB400 SUPER FOURを完遂させる最後の仕上げとなりました 。
CB400 SUPER FOUR E-Clutch Conceptは、単なる過去の焼き直しではなく、過去から受け継がれてきた歴史あるCBを次世代へ繋いでいく責任と、モデラーとして貫いた技術への執念、そしてチーム全体で目指した「走る喜び」が結晶となった、21世紀のスタンダードです。普通であることが難しくなった時代に、Hondaが提示する「最高に美しいスタンダートなバイク」。それが街を走り出す日を、チーム全員が楽しみに待っています。
CBR400R FOUR E-Clutch Conceptが踏み入れた新境地
デジタルネイティブを射抜く「引き算の美学」
グローバルな激戦区で際立つ
シームレスデザイン
――もう一つ、個性の異なるHondaの400ccを紹介します。グローバル市場において、400~500ccフルカウルスポーツというカテゴリーは、海外メーカーも含めた各社が最新モデルを投入する激戦区です。現在のグローバルのデザイントレンドは、ディテールに富んだ要素の多いデザイン。メカニカルホビーの世界的な盛り上がりを背景に、メカニカルで力強い造形がトレンドになっています。
――そんな中CBR400R FOUR E-Clutch Conceptのデザイナーである渡邉和樹が導き出した答えは、トレンドとは一線を画す、ナイフで削ぎ落としたようなソリッドな面質と最小限の線で織りなすシームレスな面構成でした。四輪の最新EVなどに見られる、面と面がスムーズにつながる潔い表現。そんな「引き算の美学」を二輪に持ち込むことで、唯一無二の存在感を生み出そうとしたのです。
渡邉
シームレスな面構成は、一歩間違えると地味に見えてしまうリスクを伴うチャレンジでした。そこで大切にしたのが、一目で視線を奪う力強いキャラクターラインです。特にタンクカバーとミドルカウルのアウトラインを同じ角度・同じ高さで揃えることにこだわり、バイク全体を貫く一本のラインを浮き上がらせました。あえて複雑な造形を使わず、最小限のキャラクターラインでパキッと面を強調することで、スピード感や力強さを表現しています。
テーマは「Digital Influencer」
ユーザー自らが発信したくなるデザインとは?
――スタイリングテーマは「Digital Influencer」。CBR400R FOUR E-Clutch Conceptに乗るユーザー自身がSNSで発信し、インフルエンサーになっていくような強いインパクトを想定してのテーマです。今の時代、SNSで自分自身をどのように発信するか、そしてSNSを通じてどのように流行が生まれるのかはきわめて重要な要素となります。ユーザーが「世界に発信したくなるデザイン」を目指し、SNSを徹底的にリサーチしたといいます。
――その戦略は、カラーリングやグラフィックにも表れ、ボディーカラーには、CBRシリーズでは珍しい金属調のシルバーを採用しました。
渡邉
見せたいポイントである面構成がさらに際立つよう、シルバーのワントーンで仕上げました。CBR400R FOUR E-Clutch Conceptは面が主役なので、色味は面を引き立たせるアクセントカラーに留め、造形の魅力を最大限に引き出す狙いです。メカニカルな印象が強まり、未来感ある独特の佇まいになったと思います。
機能性とアイデンティティの融合
――ヘッドライトは、睨みを効かせた二眼というCBRの定石をあえて壊し、左右を貫くV字シグネチャーライトを新規に開発。アイデンティティを継承しながらも、新しいCBR像を目指しました。
生き物のような目つきではなく、無機質でデジタルな世界観を目指し、専用設計に踏み切りました。ただし、CBRのアイデンティティである二眼は、V字ラインの中に配したプロジェクターライトで継承しています。
渡邉
テールランプも、ランプそのものを見せるのではなく、周囲の外装に光を反射させて表情をつくるという演出に挑戦しました。試行錯誤を繰り返し、後ろから見たときの反射の仕方にまでこだわっています。
熱意が組織を動かし、理想を形にするHondaの風土
渡邉
――CBR400R FOUR E-Clutch Conceptは外装からリアフレームまで専用設計。量産車において専用開発することは、開発やコストの面から高いハードルを伴います。それでも渡邉が譲らなかったのは、「中途半端なものをつくっても勝てない」という確信があったからです。個人の確信が組織を動かし、理想を形にする。そこには、Hondaに受け継がれるボトムアップの風土が息づいていました。
渡邉
若いユーザーやエントリー層にとって、足つき性は絶対的な安心感につながります。一方、シート高を下げるとシルエットが重くなってしまい、スポーティーな勢いが削がれてしまうという課題がありました。CBR400R FOUR E-Clutch Conceptでは、リアフレームの専用設計によって、腰高でアグレッシブなビジュアルを維持しつつ、跨ると沈み込んでしっかりと足が着くようにデザインしています。企画当初、共用化なども検討に上がる中、開発メンバーや営業メンバーに対してイメージスケッチを用意し、専用開発によって可能となる魅力を可視化して提案。感情論ではなく、専用設計にしなければ到達できない価値をファクトとして提示し、チームの合意を形成していきました。未来的なビジュアルの裏に隠されたフレンドリーな足つき性。この「攻めの造形と優しさのギャップ」こそ、CBR400R FOUR E-Clutch Conceptが持つ真の魅力の一つです。
――機能美の面でも一切妥協はありません。エンジンは、約30年ぶりの完全新設計です。特に4本のエキゾーストパイプの並びは、性能優先だけでは生まれない美しさを追求しました。設計者と何度もやり取りし、カウルの隙間からもそのエキゾーストパイプの美しさが見えるように、カウル形状を徹底的につくり込んでいます。「たくさん乗って、磨いて、写真を撮って、たくさん自慢してほしい」と笑みを浮かべた渡邉。続けて発した「これからも機能と美しさが両立し、ライダーの心が躍るようなデザインをつくっていきたい」という言葉に、次世代を担うデザイナーとしての決意が滲んでいました。
対極のアプローチ。けれど、見据える先は同じ「走る喜び」
――伝統を継承し、究極のスタンダードを追い求めた加藤。独自の面構成で次世代のアイデンティティを築いた渡邉。400ccという特別なクラスに提示された2つの答えは、アプローチこそ対極ですが、その根底には「ライダーの心を動かしたい」というHonda共通の情熱が深く刻まれています。
Profiles

加藤 朝人
モーターサイクル・パワープロダクツ
モデラー

渡邉 和樹
モーターサイクル・パワープロダクツ
プロダクトデザイナー