Super-ONEが日々の暮らしに刺激と楽しさを
親子2世代を共感させる
「キモチタカブル」尖ったデザイン
――環境性能の高さから、日々の暮らしを支える存在となってきた小型EV。新たに生まれたSuper-ONEは、そのステージをもう一つ引き上げる可能性を秘めています。「キモチタカブル メイカイ エクステリア」。このデザインコンセプトを表現すべく、エクステリアデザインを担当した中島英一がこのクルマに組み込んだのは、“尖らせる”ことでした。
中島
世代を問わず人を引き付ける魅力を創造するにあたり、まずは様々な文化が集まる原宿へリサーチに向かいました。昨今レトロブームが盛り上がっており、カセットテープやレコードなどの古いデバイスをあえて買う若い世代がいます。購入する理由を彼らに聞くと巻き戻す手間や少し入るノイズなどは、温かみであり楽しいと答えてくれました。サブスクリプション方式の音楽サービスは便利で気軽に聞ける反面、生活の一部としてなじんでしまいがちです。これはクルマにも言えることだと感じます。クルマも、ただ便利な乗り物というだけでなく、所有者にとってFUNな存在であってほしい。そこで、尖った考え方や、クセを取り入れれば、気持ちを高ぶらせられる、愛着の湧く一台になるのではないかと考えました。
――中島が最初にラフスケッチで描いたのは、四角く横に張り出したフェンダーが特徴的な「シティ・ターボII」(1983年発売)を彷彿とさせるフォルムでした。『走りに思いっきり振ったものをイメージして描きましたが、新しさを感じるまでには至らなかったんです。EVという現代の価値観を取り入れるならば、懐かしさだけでなく、若い世代も「Hondaって、かっこいい」「自分も乗りたい」と思えるものにつなげたいと感じました』。中島は、シティ・ターボIIを知る50代の世代と、その子どもである20歳前後の若い世代の両方に向けてデザインを深めていきました。親世代には懐かしく、子ども世代には新しく映る——そんな世代を超えた共感を目指したのです。
シティ・ターボII: Hondaのコンパクトカー「シティ」のターボモデル。コーナリング安定性を高めるべくシティ・ターボIIで採用されたワイドトレッドとブリスターフェンダーは、Super-ONEにも採用されている
中島
アイデアを練り上げようと、社内のデザイナーを多く集めてスケッチ大会※も開催しました。最新のGTカーのようなエアロデザインや、ボーイズレーサー※的な懐かしさを取り入れたスケッチも出てきたほど、たくさんのアイデアが生まれています。デザインを絞る中で、単純に車体の幅を広げただけでなく、お客様が明快に感じ取れる機能美を探りました。その中で、最もコンセプトを表現した1案を選び抜いたのです。
FUNと機能美をメイカイに伝える
Super-ONEの造形
――コンセプトから練り上げられたSuper-ONEのエクステリアデザインには、3つの特徴があります。1つ目は大きく横に張り出した「ブリスターフェンダー」、2つ目は幾何学的でエッジの効いた造形「デジタルアイコニック」、そして3つ目は「デザインによる空力性能」です。そこから、日常を刺激的で楽しくさせる仕掛けが見て取れます。
中島
とにかく車体を大きく見せるため、フェンダーやバンパーの造形を一通りデザイン展開しました。結果的に生まれたのが、四角く大きく張り出したブリスターフェンダーです。足回りのワイドトレッド化(タイヤの左右間隔を広く)に合わせて、バンパーコーナーの張りや下部の絞り量をバランスよく構成することで、ワイド&ローなグッドスタンスを表現しています。
――直線的なキャラクターラインと起伏豊かな造形で、さまざまな角度から見たときの立体感を際立たせ、力強く印象的なプロポーションを目指しました。また、N-ONE e:のボディパネルとの相性が重要で、フロント、リアフェンダーそれぞれのベストな角度や立ち上がりの表現を模索しながら、最も美しく見える形状を丁寧につくり込んでいます。
中島
デジタルアイコニックは、一言で表すなら機能感です。実際の機能がなくても、先進的な機能感を感じてもらえるアイコニックな表現を目指し、ヒートシンク※モチーフを多用しています。フロントのロアグリルやホイールの一部などにデザインを施し、無垢の金属が放熱してくれるようなイメージを加えています。
中島
デザインによる空力性能は、車体前後に開けた穴による空力構造です。例えば、リアブリーザーダクトは、リアバンパー内に滞留しやすい空気を効率的に抜き取ることで、「パラシュート効果(後方に空気が溜まって抵抗になる現象)」と呼ばれる不要な揚力の発生を抑制します。これにより、空気抵抗とリフト(車体が浮き上がろうとする力)を低減し、コーナリング時の接地安定性を高めています。
――こうした空力構造は、ブレーキやモーター、ラジエーターといった主要コンポーネントの冷却性能にも貢献し、クルマ全体のパフォーマンス向上にもつながっています。他にも各所にエアダクトが実際に開口されており、視覚的なデザインと機能性を融合させた“リアルな機能美”として設計されています。この本質的なこだわりは、本物志向のユーザーに強く響くポイントになるはずです。
セオリーを外れるデザインと走行性能の一体感
――強いこだわりは、サイドビューにも見ることができます。水平にスッと通った横のラインに合わせ、バンパー下やサイドシル(ボディサイド下端)下の張り出し部分も地面と水平基調にし、リアもあえて落としたシルエットになっています。このラインに中島がこだわったきっかけが、開発初期段階で参加した試作車の走行会でした。通常、デザイナーが初期に試乗することはほとんどありません。
中島
そうした中で、開発初期に横幅を広げただけの試作車をテストコースで試乗し、衝撃を受けました。ドライビングフィールは、地面に吸い付くようにキビキビ走るイメージで、とてもいい。この走りを表現するのに、水平基調のスタイリングはぴったりだなと感じました。また、ホットハッチ※のような車体だと、リアはキックアップした(斜めに駆け上がっていく)シルエットが王道なのですが、Super-ONEでは全体を水平にするためにあえて後ろを下げています。
中島
この挑戦はクレイモデラーと揉めましたね(笑)。「普通はやらない」と。セオリーから外れる尖ったデザインだからこそ、意見の衝突は起こります。というのも、開発現場で試作車に乗っていたのが当時は私だけで、デザインと走行性能の一体感を多くの関係者にうまく伝えられていなかったのです。
――どうすれば理解してもらえるのか。中島はデータをそろえ、丁寧に資料を作り、その上で強く同じこと伝え続けました。テストコースでの試乗会で、自身が抱いた走りのフィーリング。それを理解してもらうため、実際にモデラーにも試乗してもらい、見た目と機能が一体となっている答え合わせも行いました。
中島
これまでのキャリアの中で、他部門とのやり取りが最もハードなクルマでしたね。例えば、エアダクトから泥が垂れて汚れる懸念が見つかったときも、「細かい実用面よりも、機能美に憧れて購入されるクルマだ」と設計部門を説得しました。実際に穴を空けたモデルと空いていないモデルを乗り比べる走行テストを行い、効果を実証しながら合意形成を重ねました。そもそも開発上の社内ルールを遵守している他のクルマでは、ここまでの議論が巻き起こることは、そう多くはありません。大変だった分、納得してもらえたときは本当にうれしかったですね。
挑戦することの意義を教えてくれた
Super-ONE
――Super-ONEには、条件を守る・守らないという判断があちこちに散りばめられています。例えば、とても狭く設計されたフェンダーとタイヤの隙間。通常であれば確認が必要となるタイヤチェーンの条件についても、優先順位を再整理し、デザインを優先する判断をしました。最低地上高もCIVIC TYPE Rと同等の条件で開発し、徹底的にグッドスタンスを突き詰めています。
中島
他の部分も一つひとつ調べた上で取捨選択しています。通常の開発条件を満たすのではなくて「このクルマは何を優先するのか?」という考え方です。スポーツで言えば、通常の開発が規定演技だとしたら、Super-ONEは自由演技。結果的に、大まかな開発上のルールの中で、各部門が強い意志を組み込んだいいクルマになりました。私はもともと保守的な性格なのですが、Super-ONEの開発を通じて、積極的に動くことの大事さを考えさせられました。先程の条件の取捨選択は、開発において原則的に守るべきことです。それでも、そうした領域に踏み込み、多くの関係者と議論していけば、理想をかたちにできる可能性があります。まずはチャレンジすること、それがSuper-ONEから得た大きな学びです。
――開発当初に描いたデザインを具現化するため、一つひとつのハードルをクリアしていった中島。各部門と議論を重ね、どちらかが折れるのではなく、ゴールを目指す仲間になっていきました。
中島
自動車開発には多くの制約がありますが、Hondaならとことん突き詰めていくことでSuper-ONEのような尖ったクルマも生まれます。Super-ONEは、率直に言ってものすごく面白いクルマです。運転してもらえれば、私が試乗したときに抱いた走りの楽しさも、デザイナーや技術者の意図も、伝わるはずです。それに、きっとクルマを見るだけで、私たちがいい意味で悪ふざけをしながら楽しんでつくったんだろうなと感じ取ってもらえるのではないでしょうか。新しいのにどこか懐かしいデザインに込めた、我々Hondaの開発者たちの情熱を感じてもらいたいです。
Profiles

中島 英一
オートモービル
プロダクトデザイナー