
PRELUDEでしか得られない「高揚と緊張」
人生を彩った思い出のクルマの作り手に
──「PRELUDEは、私の人生を変えてくれたクルマでもあります」。内野はそう話し、かつて自身が4代目PRELUDE(1991年発表)のオーナーだった頃の思い出を振り返ります。
内野
1980〜90年代、PRELUDEはスタイリッシュな造形と高級感あふれるインテリアで人気を博し、デートカーの代名詞的存在となりました。私自身もPRELUDEに乗っていたところ、同じテニススクールの女性に「そのクルマ、かっこいいですね」と声をかけてもらい、お付き合いが始まり、結婚に至りました(笑)。そんなこともあり、PRELUDEは単なる愛車ではなく、人生のパートナーを得られたとても思い入れのあるクルマです。
──就職試験では、歴代PRELUDEの開発に携わった中野正人上席研究員にその熱意を語り、入社を果たした内野。彼の人生の分岐点には、いつもPRELUDEがそばにいました。入社後は、30年以上にわたってCIVICやNSX 、インテグラなどスポーツカーのエクステリアを担当。今回の新型PRELUDEで初めて、フルモデルチェンジの全体ディレクションをすることになったのです。
内野
私にとっては、ヨーロッパの街並を背景に佇む3代目PRELUDEのテレビCMが頭にずっと焼き付いています。そこに佇むだけで景色にじわじわと波及するような緊張感があり、とても所有欲をくすぐられましたし、何気ない日常をスペシャルにしてくれる高揚感がありました。空気をしんとさせるような緊張感ある佇まいこそ、PRELUDEを唯一無二の存在にするのだと思います。今回の新型は、乗ってみると懐の深さも感じられますが、一番は、PRELUDE特有の緊張感をマニアックに追求しています。
──スペシャリティカーでしか得られない高揚と緊張。その情緒的な価値を深く掘り下げ、次世代に引き継ぐために、開発初期からチームでスケッチ大会(※)を実施したり、内野自ら中古の3代目PRELUDEを購入し主要メンバーで実際に運転したりと、さまざまな方法でスペシャリティカー像を共有していったといいます。その過程において、Z世代のメンバーもいる中で再認識させられたのが、先代PRELUDEの生産終了から約25年という月日とニーズの変化でした。
※スケッチ大会:複数のデザイナーが集中してアイデアスケッチを数多く描き出し、意見をぶつけ合うことで、より良いデザインにするためのイベント
無限の可能性を示す「UNLIMITED GLIDE」
きらめきを模索し辿り着いた
「2人だけの体験」
内野
高機能のPCやスマートフォンが普及し、あらゆる体験のデジタル化が進んだことで、今やクルマを持たなくても日常生活をきらめかせることができます。
そこで問うたのは「では、次のきらめきは何か?」。
内野
私たちは、逆にもう一度フィジカルに立ち返り、PRELUDEに乗ることでしか生み出せない「2人だけの体験」を追求するべきだと考えました。大切なクルマに、大切な人を乗せる。運転というフィジカルな体験の中で、人と人の想いがつながり、日常にきらめきが増していく──。25年前、我々を魅了したPRELUDEと同様に所有欲を刺激しながらも、今回は所有の先にある誰かと分かち合う喜びまで追求しました。モノからコトへ、所有から共鳴へ。その懐の深さが現代のPRELUDEだと思います。
内野
情報が入り乱れ、先行き不透明な時代の中で、多くの人はクルマの購入を検討する際に、欲しいかどうかだけではなく「このクルマを持つことで未来はどう変わるのか?」をシビアにイメージするように。この流れに対して新型PRELUDEは、持つことで自分の可能性が無限大に広がっていくような世界観として「UNLIMITED GLIDE」というグランドコンセプトを掲げました。
内野
「UNLIMITED GLIDE」をチーム全体で共有するべく、実際にグライダーを体験したことも。そうして、まるで風の流れと一体化するような身体拡張の感覚を、運転面・デザイン面に落とし込んだのです。過度な装飾を加えず、静かに力を秘めるような佇まいを引き継ぎながら、新たな挑戦として前部はグライダーのような伸びやかさを、後部は地面を蹴るような力強さをプラスしました。
──インテリアでも同様に、「UNLIMITED GLIDE」の思想が貫かれています。水平基調のラインや落ち着いた色調によって過剰な装飾を排し、ドライバーの集中を妨げない。馴染みのいい上質な素材を使いながら、必要な機能だけが整然と配置された空間は、まるでインテリアが気配を消したように、ドライビングそのものに没入することを可能にします。
内野
PRELUDEは単なるスポーツモデルではありません。力強いエンジンやスピード、洗練されたデザインなどで感性を満たすだけでなく、日常での扱いやすさや環境性能などの理性的な満足も両立してこそ、Hondaらしい「人間中心」のクルマになります。
「2人が揃う喜び」を感じてほしい
PRELUDEが誰かの特別な一台に
──PRELUDEという名前には、人と人、過去と未来をつなぐ「前奏曲」という意味が込められています。かつてはデートカーとして一世を風靡。当時のユーザーは今40代半ば〜60代となり、子や孫がいてもおかしくない年齢です。25年の間に、親密さやデートの価値観が広がったことも踏まえて、新型PRELUDEは、カップルに限らず、親子や友人など、どのような関係性でもしっくりくるクルマを目指したといいます。
内野
例えばファミリーカーを選ぶ際は、車内の広さや燃費の良さなどの機能面が重視されますが、これからは「ときめき」「操る喜び」など違う次元で選び、PRELUDEも新たに候補に加えてもらえたら嬉しいです。新型PRELUDEは、助手席に乗せる相手やシーンに制限を設けず、そこに2人が揃うだけでも特別な喜びを生み出せるようなクルマを意識しました。世代を超えて共鳴する若いマインドや、良いものに触れるときめきを誰かと一緒に感じてほしいです。
──最後に、内野にとっての「PRELUDEとは?」と質問。その答えには、電動化時代の幕開けとして、自身がPRELUDEに導かれた鮮やかな人生を、次世代の誰かの始まりに変えていきたいという覚悟が滲んでいました。
──サステナブルでありながら、美しく、気高く、静かに燃えるような佇まい。それが新たなPRELUDE。チーム一体となって追いかけた独自の緊張感は、電動化時代のカーデザインと人々の物語に確かな強度と余韻をもたらします。
Profiles

内野 英明
オートモービル
クリエイティブダイレクター