タカラトミーの企画開発担当・山之内宏行氏(左)、エクステリアデザイン担当・二木優 (右)
タカラトミーの企画開発担当・山之内宏行氏(左)、エクステリアデザイン担当・二木優 (右)

Hondaを代表するスペシャリティスポーツを多くの人に届けたい

スピード開発のきっかけはHondaデザイナーによる「自作トミカ」

──電動化時代への橋渡し役として、四半世紀ぶりに復活したHondaの名車「PRELUDE(プレリュード)」。次世代の「操る喜び」を体現する電動スペシャリティスポーツモデルとして開発に挑んだHondaの新境地です。

かつてはデートカーとして一世を風靡した同車ですが、時代の移り変わりに呼応し、カップルに限らず、親子や友人など、どのような関係性でも2人の時間を豊かにするクルマを目指しました。

トミカPRELUDE(プレリュード)
トミカPRELUDE(プレリュード)

──人と人、過去と未来をつなぐ。そうした世界観をさらに拡張するべく、Hondaが全面的にタカラトミーに協力し、PRELUDEのトミカを開発。そのきっかけをつくり、プロジェクトを牽引したPRELUDEのエクステリアデザイン担当・二木優と、タカラトミーの企画開発担当・山之内宏行氏に、制作の裏側を聞きました。

──子供の頃からミニカーが大好きだったと語る二木は、数えきれないほどのコレクションを持つトミカマニアです。実車と違ってトミカは気軽に購入でき、数を揃えても許されるーー大人になった今でも、トミカに対して無性にロマンを感じるといいます。

トミカPRELUDE(プレリュード)
トミカPRELUDE(プレリュード)
二木のトミカコレクション。今回持ってきてくれたものはほんの一部で、メーカーを問わずたくさん所有しているそう

二木
子供の頃から触れていたトミカなどのミニカーの存在は、私が学生の頃にカーデザイナーを志したのにも少なからず影響を与えていると思います。ミニカーであれば、様々な種類のクルマを揃えられますし、その満足感や細かなディテールの再現度がコレクション欲をくすぐり、いつまでも人を飽きさせないのが魅力です。
社会人になってカーデザインに携わる今も、「あのクルマはどんな造形だったんだろう?」と振り返ったり、実車のアイデアを膨らませる際のヒントにしたりして、色々な楽しみ方をしています。

──その熱意と遊び心が発端となり、二木が64分の1のPRELUDEモデルを自作。同車の開発責任者がそれをタカラトミーに見せたことで、トミカPRELUDEの開発が始まりました。

トミカPRELUDE(プレリュード)
トミカPRELUDE(プレリュード)
発売される実際のトミカPRELUDE(左)と、二木が3Dプリンタを用いて自作した64分の1のPRELUDE(右)
トミカPRELUDE(プレリュード)
解像度高くイメージを掴むために箱も自作。実際の商品と見分けがつかないほどのクオリティに仕上がっている
トミカPRELUDE(プレリュード)

山之内
二木さんの大胆なアクションがあって、トミカPRELUDEの開発が実現しました。ミニカーだけではなくトミカ風の箱まで、実際の商品と見間違えるほど完成度の高い試作品を持ってきてくださって、その熱意とクオリティには本当に驚きました。私もその熱意に突き動かされ「じゃあ、本気でつくりましょう!」と。

二木
新型PRELUDEは、実車開発にも関わっていたため思い入れが強いクルマです。だからこそ、実車に縁が薄い方々にも、PRELUDEの世界観を届けるタッチポイントをつくりたくて、実車データを使って勝手に64分の1のPRELUDEのミニカーを試作してみたんです。普通であれば会社に怒られてもおかしくない行動ですが、PRELUDEの開発チームは「自由にやってみなよ」と応援してくれました。それだけでなく、開発責任者が2023年のJapan Mobility Show(日本最大級のモビリティ見本市)に私がつくったミニカーを持って行き、タカラトミーさんにトミカ化の提案までしてくれました。クルマの世界観を追求するためであれば遊び心にも寛大な職場です。Hondaには、そんなアクションを受け止めてくれる器の大きさがありますし、特にPRELUDEチームはそういう文化や遊び心に富んだチームでした。

トミカPRELUDE(プレリュード)

本物よりリアルなクルマに
三現主義で貫いたこだわり

──Hondaでは、現場・現物・現実を見て、物事を的確に判断する「三現主義」を大事にしています。タカラトミーの山之内氏も同じように、現場で現物を前にしてのトミカ制作にこだわってきたといいます。

二木
山之内さんも現場と現物主義で、「試作ができたので見て」と言って、すぐに和光(Hondaのデザインセンター)まで来てくれていました。持ってきた試作モデルを我々の意見に合わせて、その場でパテを使って修正してくださり、そのテンポ感と情熱にとても感動しました。

トミカPRELUDE(プレリュード)
トミカPRELUDE(プレリュード)

山之内
他社さんも含めてミニカーは、実車データをそのまま縮小するのが基本ですが、Hondaからは「実車そのもの以上にイメージを再現してほしい」というユニークな要望がありました。半年間、何度も和光に足を運び、二木さんをはじめPRELUDEチームの熱いビジョンや、コンセプトを深くお聞きしながら、現場で試作と調整を繰り返しました。

実際、最初から最後まで実車を見ずにつくり上げたのですが、それでいてテンポよく、完成度も高く仕上げられたのは、トミカマニアの二木さんが毎回かなり具体的に修正点を出してくれたからだと思います。これはオンラインでの打ち合わせでは絶対にできない仕事です。

──トミカは、主に子供が使用するため、安全性に関する最大限の配慮が求められるもの。世界各国における国家規格によりおもちゃに備わるべき必要条件は細かく定められています。子供向けのおもちゃとして厳しい安全規格をクリアしつつ、トミカらしいワクワクやPRELUDEの緊張感を共存させるのは、簡単ではなかったといいます。

トミカPRELUDE(プレリュード)
二木と山之内氏の修正のやりとり。ディテールまでこだわりを持ち具体的な指示を出している
トミカPRELUDE(プレリュード)

山之内
PRELUDEの3Dデータをもとに、箱に入るサイズと複数あるタイヤパターンに合わせて図面を引き、国際的な安全基準に当てはめながら、子供が握っても怪我しないような形状に再構築する必要があります。通常の64分の1スケールよりほんの少し大きくしたり、細部の厚みを変えたりしながら、トミカらしい佇まいを探りました。おもちゃに求められる強度や角丸加工といった安全要件も満たさねばならず、とても苦戦しました。

二木
時代が変わり安全基準や技術の変化で、同じ車種のトミカであっても数十年前につくられた旧モデルと、近年つくられた新モデルではまったく異なります。私は結構、昔のトミカの野暮ったさも愛らしくて好きです。

実車のまま小さくすれば正確だし精巧ですが、手のひらサイズにした時に不思議と実車の雰囲気やかっこ良さは失われてしまいます。これは実車そのままの比率でミニカーをつくったことで気づけたこと。今回のトミカではそうならないよう本物を超える印象を目指して、かなり詳細までこだわりました。具体的にはクルマのシルエットを意識してフロントガラスからキャビンにかけて段差ができないような調整、デフォルメされた中でもシートの形状を実車に似せる調整、実物の見え方の印象に寄せたカラーの調整など、実車さながらに細かく検討し、トミカとして映えるPRELUDEに仕立てました。

トミカPRELUDE(プレリュード)

──「トミカとして映えるPRELUDE」をつくるためのデフォルメのカギを、2人は振り返ります。

二木
ポイントは「プロポーションの印象」を維持することでした。実車のボリューム感を意識しつつ、そこからミニカーならではの「遊び」を引き出す。例えば前後のフェンダーの張り出しを実車よりも少し強調し、地面に対する踏ん張りを印象づけることで、手のひらサイズでもスタンスの良さを感じられ、実車さながらの佇まいが感じられるよう表現しました。

また、本来トミカのインテリアは黒一色が多いのですが、PRELUDEのインテリアはホワイトレザーのシートが印象的なので、そこも再現していただきました。金型を分割して、シートだけ別カラーでインジェクション成形(プラスチックなどの材料を加熱溶融し、金型に高圧で射出して成形品をつくる製造方法)してもらうなど、細部までこだわり抜いたおかげで、手に取った時に「おっ!」と思ってもらえるような特別な質感に仕上がっています。

トミカPRELUDE(プレリュード)
トミカPRELUDE(プレリュード)

山之内
私はトミカの企画開発に携わる者として、クルマに関する自身の好き嫌いは込めずにフラットに取り組むようにしています。そのため、現場でディスカッションを重ねて、皆さんの意思を吸い上げなくてはいけません。Hondaの方々はクルマへの思い入れが非常に強く、トミカの開発でも、クルマ好きとしての意見をストレートにぶつけてきてくれます。一般的には見過ごしがちな細かな段差や面のつながりに対して、「もっとこうしたい」と情熱的にディスカッションできたのは、なかなか味わえない体験でした。

カモフラージュラッピングVer.も
3色のトミカPRELUDEが完成

──そして仕上がったトミカPRELUDEは、Japan Mobility Showでコンセプトモデルとして発表されたムーンリットホワイト・パール以外に、欧州での公道テストで走り話題を集めたブルーのカモフラージュラッピング(初回限定カラー)、そして歴代PRELUDEのカラーとしても印象強いレッド(新型PRELUDEではフレームレッド)を展開します。Hondaがこだわり抜いた3色ですが、色彩についても様々な困難がありました。

トミカPRELUDE(プレリュード)

二木
Hondaとしては、世間のPRELUDEへのイメージを優先し、メディアなどで取り上げられて多くの人の目に触れる3色を提案しました。新色ムーンリットホワイト・パールは、実車の色番のままトミカに塗ると、スケールが小さい分だけ暗く鈍いグレーに見えてしまうんです。そこで、イメージに近い視認性のいい明度を何度も試し、最終的に実車の色よりも少しだけ明度と彩度を上げた調合に落ち着きました。

PRELUDE

山之内
青のカモフラージュラッピングも、青みの加減と繊細なパターンの表現が難しかったですね。いただいたパターンのデータから色調を分解してみたものの、再現性がなく、結局目視で色を合わせていきました。特注のフレームレッドだけが、実車とまったく同じ色味のトミカです。色彩も何度もチューニングしたので、ぜひ手に取ってこだわりを感じ取ってほしいです。

PRELUDE

──Hondaのクルマづくりは「乗る人の体験」を、タカラトミーのミニカーは「手に取る喜び」を最も重要視しています。この両者の視点を行き来することで、プロダクトと体験のデザインが深く結びつき、子供から大人まで、多くの方々にPRELUDEの世界観を広く知っていただけることを願っています。

PRELUDE

Profiles

二木 優

二木 優

オートモービル
プロダクトデザイナー

山之内 宏行

山之内 宏行

企画開発(株式会社タカラトミー)