最適化で生まれた自由 引き算で示すN-ONE e:の価値基準

時代性を捉え、日常のパートナーとして最適化して切り拓いた新しいインテリアのかたち

「人の暮らし」から描いたインテリアデザイン

──「どことなく遠い存在」と捉えられがちなEVのイメージを刷新すべく、日々の相棒として登場したHondaの軽BEV第2弾「N-ONE e:」。環境性能や経済性に優れた電気自動車の特性と、Hondaが長年大切にしてきた人中心のデザイン哲学を融合させた、生活に寄り添うクルマになっています。

そのインテリアデザインを担当したのが、デザイナーの森下秀一です。彼の初期のラフスケッチには、クルマの内側ではなく、外側に広がる人々の暮らしの風景が描かれていました。

N-ONE e: ラフスケッチ
N-ONE e:

森下
私は大学でインダストリアルデザインを学び、クルマに限らず様々な領域のプロダクトデザインに興味がありましたが、Hondaでなら、広範囲で生活に関わるものづくりができると直感したのが入社を決めた理由の一つです。

N-ONE e:のチームには、クルマの先にある人々の生活全体をどうデザインしていくか、どんな暮らしぶりなのかを想像しながらデザインを行うことに関心があるメンバーが多くいたことで、既存の概念に縛られ過ぎず自由にインスピレーションを受けながらデザインを進められました。

──Honda入社後、森下は主に量産機種のインストルメントパネルやドアライニングといった部品を担当。インテリアデザイナーとして経験を積み、今回N-ONE e:のインテリアデザインを務めることになりました。

Hondaの四輪製品において最小というディメンションの中、毎日の相棒「e:Daily Partner」として身軽な気持ちになれる広々とした空間を創造する。いかに気軽な使い勝手を提供できるか、ターゲットユーザーのためどのように最適化させてつくり上げるかを考えながらデザインを行いました。

N-ONE e:のシートクッションは横移動のしやすさを保ちつつ、バックレストやヘッドレストは身体を優しく包み込むようフィーリングを重要視しながら設計。ターゲットユーザーが自分のためにつくられたシートと感じられるよう、ヘッドレストと肩口が一体となったようなシルエットでパーソナル感を表現するとともに、最初から「ちょうど良く」頭を支えられる位置にデザインされています。

N-ONE e: インテリア
森下 秀一

森下
今回のN-ONE e:では「私だけの椅子」と感じられるようなパーソナルスペースを重視したシートデザインにシフトし、愛着を持って使える空間を目指しました。

また、インテリア全体が明るい雰囲気を持ちつつ、横方向へスムーズに解放感を演出し、ヘッドレストと肩口を一体化させた一人乗り感が共存するようなシートにしています。従来的な視覚の区切りをなくすことで身軽空間としてのコンセプトを際立たせています。

身軽な気分にさせてくれる「気持ちいい余白」

──シートとヘッドレストを一体化させた結果、空間はよりすっきりとした抜けのある印象に。そのほか、ドアやインストルメントパネル、トレイに連続性を持たせ、さらに明るく柔らかな色調を用いて視覚的な広がりを演出するなど、限られた軽自動車の室内でも広く感じさせるための工夫が凝らされています。

森下
「気持ちいい余白をつくる」ことをテーマの一つにしていたので、ドアやインパネは暗い色や複雑な造形を避け、なるべく四隅を感じさせない構成にしました。家を掃除して部屋の四隅に物がなくなると、急に空間が広く感じる時があると思うのですが、その時の心地良さをN-ONE e:に取り入れたかったんです。

また、左右に拡がりを感じる水平基調としながら、インパネ上面の凹凸感をなるべくなくし、エクステリアのフードとの連続性が感じられることで、車幅感がつかみやすく、誰でも運転しやすい視界を実現しています。

N-ONE e: インテリア

──インパネは上面の凹凸をなくすだけではなく、横一直線水平ラインにもこだわりが。中央のメーターとステアリングが際立つように直線で並べられ、運転中の視線移動も自然に水平になるよう工夫されています。

※ディスプレイオーディオは上位グレードである「Lグレード(Daily+)」に搭載

N-ONE e: インパネ

森下
インパネの上面の段差を極力なくし、奥行きもフラットに整えたことで、運転者の視界が物理的にも心理的にも広がるようにデザインしています。軽自動車という小さな空間でありながらも、人とモジュールの大きさは変わりません。大きなサイズのクルマに比べて必然的にスタイリングの自由度が少ない中で、水平デザインをどこまで貫けるかが、今回の設計上の大きなチャレンジでした。

インパネの、横一直線に伸びるベージュ色のピンストライプ加飾は、運転中無意識に水平を感じやすくする効果があります。左右に突き抜けた水平基調な造形、隅を感じさせない空間全体と、腰から上の明るい配色によって、実寸法以上の広がりを感じられるようデザインしました。

N-ONE e: インパネ

Honda乗用車として初めて
ナビゲーションのないデザインとグレードを設定

──自らの専門分野を越えてチーム全体で議論を重ねる中で、クルマ全体を俯瞰する視点の大切さを実感したと振り返る森下。チーム一丸となって、凹凸のない水平なデザインと、実際の使われ方を検証しつつ使い勝手の良さを突き詰めた結果、ナビゲーションのないシンプルな仕様に行き着いたといいます。

市場的にはナビ付きのニーズは多く、Lグレードに関しては9インチナビを標準装備していますが、用途を日常の移動圏内に特化させた今回のN-ONE e:では、「ユーザーが真に必要とし、最適な機能が備わったクルマ」を考え尽くし、スマートオーディオ仕様が生まれました。その大胆な引き算をやり抜けた背景には、ターゲットユーザーへのヒアリングと生活のシミュレーションがあったといいます。

N-ONE e: スケッチ

森下
実際に自分たちが街中を走り、狭い道などで小回りが利くことの大切さを体感したのはもちろんですが、N-ONE e:のターゲットに近い社内の30代後半〜40代女性にもインテリアのクレイモデルに試乗してもらい、「最も自然で操作しやすいボタンの位置はどこか?」など、リアルな声をヒアリングしながら使い勝手の良さを追求しました。

そうしたユーザー調査を通じて判明したのは「物を気軽に置けることが一番大事」というニーズでした。手の届く範囲にものをサッと置けること、姿勢を崩さずに物が扱えること。この基準に基づき、インパネには手の届く位置から助手席の端までつながっているワイドトレーを、さらに身体の左側には置くものや使い方を考えさせないロングコンソール、右側にはドアのロングポケットをデザインしました。

森下 秀一
N-ONE e: インテリア クレイモデル

──「使い方の自由をユーザーに与えるために、思いきって当たり前にあるものを取り、最適化させることを考えた」と、森下は力を込めます。時代性を踏まえて人を研究し、最適化されたものを世に送り出していくことがHondaの哲学。それを象徴するN-ONE e:のインテリアは、軽自動車という枠を超え、上質な余白を持つ空間に仕上がっています。

Profiles

森下 秀一

森下 秀一

オートモービル
プロダクトデザイナー