Honda船外機のフラッグシップ「BF350」が2024年レッド・ドット・デザイン賞を獲得 “人”と“自然”と調和し、船外機の新たな価値を創造し提供する

Honda Design Talk

Honda船外機のフラッグシップ「BF350」が
2024年レッド・ドット・デザイン賞を獲得
“人”と“自然”と調和し、船外機の新たな価値を創造し提供する

V型8気筒350馬力のエンジンを搭載し、Honda船外機のフラッグシップとして登場した「BF350」が、「レッド・ドット・デザイン賞」※1プロダクトデザイン部門において、「レッド・ドット賞」を受賞。船外機デザインの常識を取り払い、環境に配慮しながら上質な体験を実現するためにデザインされたBF350は、先進性・独自性を持ったHondaらしい存在感を放っています。その背景には、徹底的に本質を追求して練られたコンセプトが高い次元で具現化されていました。担当デザイナーとモデラーに聞きます。


※1 レッド・ドット・デザイン賞…1955 年に設立された、世界的に最も権威あるデザインに関する賞の一つ。主催はドイツ・エッセンを拠点とするノルトライン・ヴェストファーレン・デザインセンター

モデラーの菅田 健伺(左)とデザイナーの樺山 秀俊(右)

モデラーの菅田 健伺(左)とデザイナーの樺山 秀俊(右)
※安全に配慮し、腰巻型のライフジャケットを着用して撮影しています

Hondaの目指すフラッグシップとしての価値をもたらすために、「環境性能」+「豊かな体験価値」を両立

──Hondaとしては初めての350馬力船外機。フラッグシップとして、性能以外にも様々な価値を持つ製品でなければならないと思いますが、どのようにコンセプトを固めていったのでしょうか?

樺山

おかげさまでHondaの船外機は世界中で多くの方々に使用いただいています。代表的な例で言うと、ヨーロッパではプレジャーボートに加えスポーティーな大型インフレータブルボート。アジアでは漁業プロフェッショナルの方々。そして、やはり大型船外機の主戦場は北米です。オフショアのプレジャーボートに加えて、最近ではポンツーンボートが伸びを見せています。BF350を取り付ける船も大きなパワーを主張するものに加え、より遠くへ快適に移動し、静かな船上のひと時を楽しむような兆しが見えてきています。そのようなお客様の気持ちを取り込んでいくためには、目的地までの移動や船上での体験がより豊かなものでなければならない。また一方で、近年ではSDGsに代表される社会や環境への配慮も求められています。そうした時代や価値観の変化を捉えながら、Hondaのフラッグシップとして誇りをもって使っていただける商品にしようと考えました。

BF350

菅田

その中でキーワードとなったのが、「Ecoluxe=エコリュクス」という世界観です。

樺山

環境に配慮した「Eco=エコ」と、「Luxury=ラグジュアリー」、この2つの価値を両立させるという意味が込められたのが「Ecoluxe」です。パワフルな推進力を持つのはもちろん、低燃費、低振動、高い静粛性などによって、“人”や“環境”と一体となった質の高い移動と船上体験を実現します。これはHonda船外機のスタート時から大切にしている“水上を走るもの、水を汚すべからず”※2という本田宗一郎氏の信念にも通じるものです。そしてデザインもそれにふさわしい先進性と機能美を兼ね備えたものを目指しました。

※2 「水上を走るもの、水を汚すべからず」…「Honda Marine DNA」として受け継がれる、Honda創業者・本田宗一郎氏の船外機についての考え方。1960年代、軽量・廉価な2ストロークが主流の時代に、Hondaは環境性能にこだわり、あえてエンジンオイルを水中に排出しないが、重量、コストなどでハンディのある4ストロークで船外機の世界に参入した

BF350

菅田

従来の船外機というのは、上部のエンジンに四角いカバーをかけて保護しているものが多く、エンジン単体で主張して、スタイリングとしての要素が希薄に見えてしまう面がありました。それだと、どうしても「Ecoluxe」という世界感は表現できない。もっと水や風、船体との調和を意識し、機能とデザインが融合したスタイリングを目標として開発をスタートしました。

二輪、四輪でも同様ですが、Hondaのデザインでは、機能をそのままデザインすることで美しさを引き立たせることが特長の一つです。機能を軸としながら、シンプルでクリーンなスタイリングを施すことで、どんな船体にもマッチする製品を目指しました。

船体や自然と一体となる、流れるようなワンモーションフォルム。VRも活用してアジャイルに進化させた

──とてもシンプルでスリムなフォルムで、すべてが一体的に感じられます。この造形はどのように作り上げていったのでしょうか?

樺山

独自性あるスタイリングの実現のために「ワンモーションフォルム」を意識しました。あらゆるビューで船外機のトップからプロペラまでを一気通貫につなぐ、凸凹のないシンプルでスリムな一体感あるフォルムとしています。船外機は船の一部であり、空気と水の両方を切り裂いて進みますから、船体や自然と一体となって完成するスタイルを目指しました。船外機単体でも、張りを持った面としっかりとした基調でエンジンを内包し、姿勢に芯を感じさせつつ躍動感あるスタンスを表現しています。こうした考え方をスケッチに落とし込み、菅田さんにモデルを作ってもらって何度も検討を重ねました。

BF350BF350

菅田

モデルを作って、その形状を確認しながら修正して、と何度も繰り返して形を作り上げていくという、非常にアジャイルな進め方でした。まずは1/2サイズのクレイモデルを制作し、そのデータを利用して早い段階で1/1サイズのウレタンモデルを作って確認したのですが、全高2mを超えるモデルですから、初めてその大きさを目の当たりにしたときには驚きましたね。

BF350

樺山

本当に何度もモデルを作ってもらいながら、少しずつ修正してこの造形が出来上がりました。菅田さんの技術とスピードなしにはここまでたどり着けなかったと言っても過言ではありません。また、菅田さんのスキルでVR(ヴァーチャル・リアリティー)を活用できたことも大きかったですね。

菅田

私たちの拠点は埼玉県にあります。いわゆる“海なし県”で船外機をデザイン開発していたのですが、これだけ大きなモデルなので、簡単に海へ持っていって船につけた状態を確認することはできません。そのため、VRを活用して実際の見え方に近いシミュレーションを頻繁に実施しました。技術の進化は素晴らしく、桟橋に停泊している姿や、海上を進む姿など、あらゆる環境がとてもリアルに再現できます。最終的には動画作成まで行い、CG化した使用環境でVR検証を行って、その成果を社内での評価会にも提示しました。アメリカにいる仲間たちにもVRを見てもらって、とても具体的にイメージできると好評でした。

BF350BF350

上質な“本物”を目指して、ディテールまでこだわり抜く

──CG技術も活用し、すべてにおいてこだわりを持って作られたことが伝わってきます。

菅田

すべての造形は、機能と連動しています。バックパネルは後方吸気のインレットと上下に通った気水分離の機能を表現し、機能を活かしながら、ワンモーションフォルムをより強調させています。

樺山

加えて特徴的なインレット外側にメッキのガーニッシュを施し、大型の立体メッキエンブレムの採用と相まって、昼夜問わずどんな環境でも一目でHondaだと認識していただける、シンプル、クリーンでありながら精緻で高品位なデザインとしました。

BF350

樺山

もう一つ、細部へのこだわりという点では、リモコンにも想いを込めました。船の操縦席は、椅子が置いてあってハンドルとリモコンをつけた簡単な造りが一般的でした。従来からの堅牢さや信頼性に加えて、今回は人と船体との一体感という視点でデザインを磨き上げました。

船の上ってどうしても揺れは来るんですよね。エルゴノミクス(人間工学)デザインという観点で、揺れたときにリモコン本体に手を置いて身体が支えられる安心感や、人の手とリモコンの一体感にこだわっています。手が触れるところは、掌へフィットする形状とし、滑りづらくて手触りの良いレザー調のソフト素材にしています。また、暗くても握る・操作するところが一目でわかるように、金属調の加飾を入れることで機能エリアのゾーニングを強調しています。

こうした、リモコンのデザインは大きなデザインチャレンジでした。今までのHondaマリンのデザインイメージやユーザーインターフェースを大きく変えるというタイミングだったのでとても勇気がいりましたが、大手ボートメーカーのデザイナーともディスカッションを重ねながら進めました。クリエーター同士のコミュニケーションってすごく自信になるんですよ。

BF350 リモコン

──こうしてさまざまな努力を重ねて生み出したBF350が、レッド・ドット賞を受賞しました。最後に、この受賞をどのように受け止めたかをお聞かせください。

樺山

お客様に安心して購入していただける“お墨付き”をいただいたような気持ちです。大型船外機ということで、やはり非常に高価な買い物になるわけで、そこに世界が認めたデザインである証としてレッド・ドット受賞という価値が付いたことで、この製品を所有することに誇りを持ってもらえる一助になるという意味があるのではないかと思っています。

菅田

権威のある賞をいただけて、とても励みになりました。この受賞は、開発関係者全員が、最後まであきらめずに創意工夫を続けた結果だと思いますし、その成果として生まれたBF350を、世界が認めてくれたということに感謝しています。ここで学んだことをまた活かし、成長の糧にしていきたいと思います。

プロフィール

樺山 秀俊

樺山 秀俊

本田技術研究所 デザインセンター
e-モビリティデザイン開発室
デザイナー

菅田 健伺

菅田 健伺

本田技術研究所 デザインセンター
モーターサイクル・パワープロダクツ
デザイン開発室
モデラー

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