SPACETIDE 2025 「Hondaの挑戦 ―地球から宇宙へ―」

SPACETIDE 2025 「Hondaの挑戦 ―地球から宇宙へ―」

「人々の生活の可能性を拡げたい」──Hondaが掲げる理念は、いま地球を超えて宇宙へと向かおうとしています。

Hondaが掲げるのは、循環型再生エネルギーシステム、ロボティクス、再使用型ロケットという3つの柱を軸に、持続可能な宇宙活動を現実にするビジョン。Hondaが歩んできた歴史の延長にある“必然の挑戦”が、ここに姿を現しています。

アジア太平洋地域最大級の国際宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE 2025」の基調講演に、本田技術研究所社長の大津啓司が登壇。HondaのDNAに根差した挑戦は、「人の役に立つ」という基本的な理念のもとに技術開発を進めてきたHondaにおいて、宇宙における技術開発の内容を紹介し、その展望を語りました。

What’s About

SPACETIDEとは?

SPACETIDE 2025 Hondaブース SPACETIDE(スペースタイド)は、日本発の宇宙ビジネスに特化した国際会議であり、宇宙スタートアップ、グローバル企業、投資家、政府機関などが一堂に会するアジア最大級のイベントです。2015年の初開催以来、「宇宙を新たな産業フロンティアに」という理念のもと、ビジネス・技術・政策の最前線を発信し続けています。Hondaもスポンサーとして参画しており、この舞台を通じて、宇宙開発の取り組みを世界に発表し、注目を集めています。

1

「正しい挑戦」が切り拓く──Honda DNAの延長にある宇宙

基調講演の冒頭で大津が語ったのは、Hondaが一貫して大切にしてきた「人のために」という理念でした。Hondaは創業以来、「利益を上げる前にまず、それが正しいことかどうかを考える」という姿勢で技術開発を進めてきたと強調しました。

Hondaの技術開発の歩み

陸・海・空に挑戦してきた歴史は、その言葉の裏付けです。黎明期からのF1挑戦や、当時世界で最も厳しかった環境規制「マスキー法」をクリアしたCVCCエンジン、カーナビゲーションシステムや衝突軽減ブレーキ(CMBS)など世界初の技術、さらにはHondaJetという独創的な空のモビリティ。これらはすべて「まだ誰もやっていない領域」への挑戦でした。

「Hondaはすでに陸・海・空に拡がっているので、次の可能性のフィールドとして、宇宙が出てくることに驚きはない」―大津のこの言葉が示すように、宇宙というフィールドはHondaとして突飛なものではありません。Hondaが積み上げてきた歴史と哲学を基に捉えると、納得できる言葉でした。

2

3本の技術で未来を支える──Hondaの宇宙戦略

2-1

Regenerative Fuel Cell── 循環型再生エネルギーシステム

宇宙空間で人間が活動を続けるためには、電力や酸素、水の安定供給が欠かせません。Hondaは地上で培った燃料電池や水電解などの技術を応用し、水、水素、酸素を循環利用してエネルギーを貯蔵、供給するシステムを開発しています。

Hondaの持つコア技術と宇宙

昼間は太陽光で発電し、水を電気分解して酸素と水素を生成・貯蔵。夜間には貯蔵した酸素と水素を使って発電し、月面開発だけでなく居住施設やモビリティへ電力を供給する──講演ではその仕組みがシンプルに示されました。

「ISSでの微小重力環境下で試験を行い、技術および信頼性の向上を目指す」

大津はそう語り、ISS(国際宇宙ステーション)での実証試験を進めていることを明らかにしました。

Hondaの宇宙戦略 循環型再生エネルギーシステム

これらは、地上用途のFCEVや定置電源などで培ってきた技術がベースとなっています。Hondaは30年以上にわたって燃料電池システムの研究開発を手掛けており、独自技術である高圧水電解システムは、コンプレッサーなしでも70MPaの高圧水素が供給可能。燃料電池と高圧水電解システムの技術を組み合わせることで、ペイロード低減が求められるミッションでも効果が発揮できることを強調していました。

2-2

Robotics ──人の手を宇宙へ

Hondaが長年培ってきたロボティクス技術も、宇宙開発の重要な柱です。「時間価値の最大化」と「身体機能の拡張」という2つのスコープで開発を進めていますが、遠隔操作で人の手の動きを工学的に再現することを目指す「アバターロボット」は、空間までも飛び越えたいわば「4Dモビリティ」です。

宇宙という過酷な環境下でのリスクを下げ、遠隔操作でも複雑な作業を可能にする、「人の手を宇宙にもっていく」技術と言えるでしょう。

人の手を宇宙にもっていく

もちろん、宇宙空間での作業には通信遅延など多くの課題があるため、その解決策の一例として、大津は遠隔作業においてAIが操縦をサポートする技術の開発に言及しました。

人が状況を判断して行動を決め、AIが細かな動作を補助することで、ロボットとの協調によるスムーズな作業を実現。このAIサポート技術により、通信に遅延があっても、力加減や把持位置、持ち方などをAIが適切に補助することで、宇宙空間での作業が可能になると見込まれています。

さらに、Hondaは、衛星への燃料補給という新たな取り組みにも挑戦しています。「衛星の寿命を延ばし、打ち上げ回数を減らすことで、宇宙の循環型経済に貢献できる」大津はそう説明し、株式会社アストロスケールと共同で給油口接続システムの開発を進めていることも紹介。「2029年頃の実証を目指していきます」と語り、強い意欲をにじませました。

SPACETIDE 2025 大津啓司 基調講演

2-3

Sustainable Rocket ──再使用型ロケット

再使用型ロケットの研究開発も着実に進んでいます。燃焼実験、ホバリング実験、離着陸実験と段階的にステップを踏み、エンジン点火や燃焼、推力制御、姿勢制御、着陸脚の展開といった要素をひとつひとつ確かめています。

Honda 再使用型ロケット 技術開発の進化

6月に北海道・大樹町で行った離着陸実験の映像も紹介。高度約270mに設定し、着陸ポイントへの誤差は37cmという精度を明かすと、聴衆には驚いた様子も見られました。

北海道広尾郡大樹町 Honda専用実験設備 再使用型ロケット離着陸実験

ロケットによる人工衛星打ち上げは、モビリティのコネクテッド技術など、Hondaが取り組む技術分野とも親和性が高く、新たな価値の創出につながっていきます。

現代の生活においては、さまざまな場面でデータ利活用が進んでおり、今後その量は膨大となっていくことが予想されます。これに伴い、処理に要するエネルギー(電力)も加速度的に増えていきます。

人工衛星を打ち上げるロケットの利便性を高めていく。そうすることで人工衛星の活用が拡大され、宇宙を経由した、地上のエネルギーに頼らないデータ利活用が促進されていくという考えも明かされました。

こうして利便性の高い輸送が実現すれば、宇宙から地球の人々の暮らしを豊かにすることにつながる。大津はこう説明し、堅実に積み上げる技術開発の延長に、Hondaが描く未来像を描きました。

3

人の可能性を拡大するために──Hondaが見据える未来

Hondaが宇宙開発に取り組む理由は明快です。それは「人の生活を豊かにする」という理念の延長にあります。

燃料電池は地球上のモビリティや家庭に直結し、ロボティクスは場所に縛られず活動出来る自由を支え、ロケットは利便性の高い輸送を可能にします。陸・海・空といった地球上での移動の喜びの次には、培った技術を宇宙でも活用していくのはHondaにとって自然なことであり、それが人々の暮らしを豊かにしていくことにつながります。

Hondaが見据える未来

Hondaはまた、ISSでの実証試験や株式会社アストロスケールとの共同研究に見られるように、積極的にパートナーと協力しています。宇宙という広大なフィールドにおいて、Hondaは単独で挑むのではなく、多様な仲間と共創しながら道を拓こうとしています。

「Hondaは、世のため人のためなら何でも創れる会社なんです。 これからも、人の暮らしを豊かにするために、人の役に立つ技術に、チャレンジしていきます」

Hondaに流れる“技術は人のために”という普遍の想いで講演は締めくくられ、宇宙におけるチャレンジへの期待があふれる会場の雰囲気が印象的でした。

4

地球から宇宙へ、そして再び地球へ──挑戦は続く

SPACETIDE 2025で示されたHondaの宇宙への挑戦 は、夢物語ではなく、地上技術の延長線上にある現実的な取り組みです。

創業以来のDNAを礎に、「人のために」という想いを胸に、Hondaは陸・海・空、そして宇宙へと挑戦を広げてきました。循環型再生エネルギーシステム、ロボティクス、再使用型ロケットという3つの柱は、人類の持続可能な活動を支えるだけでなく、地球上の暮らしをも豊かにする技術と言えるでしょう。

Hondaの挑戦は、企業活動にとどまらず「人々の生活の可能性を拡げる」取り組みそのものです。地球から宇宙へ、そして再び地球へ──人の生活と未来をつなぐ挑戦を続けています。