空のカーボンニュートラル化への挑戦

カーボンニュートラルの実現

空のカーボンニュートラル化への挑戦
~カーボンニュートラル燃料合成技術の研究~

航空業界ではCO2削減が大きな課題となっています。地上のモビリティと比べて電動化が難しい航空機でカーボンニュートラルを実現するためには、機体やパワーユニット(PU)の技術革新に加え、持続可能な航空燃料(SAF)の普及が期待されています。

SAFの普及における大きな課題はコストです。特にコスト構造の大部分を占める原料(炭素源や水素)を高効率でSAFに変換する技術はコスト低減にとって非常に重要です。そこで私たちは高効率なSAF変換技術として以下の研究に取り組んでいます。

Bio-FT SAF(バイオマスを原料としたSAF製造技術)

バイオマスから燃料を製造する際に必要なプロセスであるガス化反応を高効率化する技術を研究しています。具体的には、ガス化反応場に水素を添加にすることにより、ガス化反応を制御することで高効率なSAF変換を実現することを目指しています。

Direct-FT SAF(CO2を原料としたSAF製造技術)

CO2から燃料を一段で製造する技術を研究しています。これにより従来の多段で製造するプロセスと比較して、高いSAF変換効率が期待されます。このプロセスを実現させるために鍵となる高効率なSAF製造触媒の研究開発と、その触媒の性能を最大限引き出すリアクタの研究開発を行っています。

ホンダはこれらの高効率なSAF製造技術によりSAFの普及に貢献し、空のカーボンニュートラル化を実現します。

※FT:Fischer Tropsch反応。炭素源と水素から、触媒を用いて炭化水素を合成する化学反応

Bio-FT SAF製造技術

バイオマスを用いたカーボンサイクル
バイオマスを用いたカーボンサイクル

Hondaは、木や草などの植物資源(バイオマス)を使ってSAFを作る技術「Bio-FT SAF」の研究を進めています。この技術は、主に以下の3つの工程で成り立っています。

・ガス化工程:バイオマスを高温で加熱し、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)などのガスに変換します。
・H2とCOの比率を調整:燃料合成に最適な「H2:CO=2:1」の比率に整えるため、水蒸気との反応を利用してガスのバランスを調整します。
・FT合成反応:比率を調整したガスを使って、液体燃料を合成します。

Hondaは、ガス化工程に水素を添加してガス化反応を制御し、更に全体プロセスの最適化を図ることで、高効率かつ安価なSAF製造を目指しています。

Honda独自のバイオマスガス化技術研究

水素混合バイオマスガス化
FCEVエネルギーマネジメント技術の応用による起動時間の短時間化

Hondaは「Bio-FT SAF」の研究において、独自の水素混合バイオマスガス化技術を開発しています。

この技術の特長は、ガス化反応炉に水素を加えることで「水性ガスシフト反応」を抑制しながら、燃料合成に最適なH2とCOの比率(2:1)を実現する点にあります。
水性ガスシフト反応は以下の式で表される反応で、ガス化の主反応の1つです:
CO+H2O⇆CO2+H2
また従来のBio-FT SAF技術では、ガス化の後工程でH2/CO比を調整するためにも用いられます。
ところがこの反応が起こりすぎると、燃料の元となるCOが消費されるため、最終的な燃料収率が下がってしまうという課題があります。
Hondaの技術では、ガス化反応炉に水素を加えて水性ガスシフト反応を抑えつつ、H2/CO比を直接2:1に調整します。これにより、燃料収率の向上と後段のガス調整工程の省略が可能となり、全体のプロセス効率が大きく向上します。
ただしガス化反応中には、水素を加えることでCOが消費される反応もあるため、水素添加量の精密な制御が必要です。
Hondaは、水素混合バイオマスガス化の反応メカニズム解析及び反応制御ロジック構築に向けて研究を推進しています。また将来の実用化に向けて、プロセスシミュレーションを用いたSAF製造コスト評価や、大型プラント建設のためのプロセス設計にも取り組んでいます。

D-FT SAF製造技術

CO2を用いたカーボンサイクル
自由な移動の喜びを実現する

Hondaは大気や工場排ガスから集めたCO2を使ってSAFを一段で作る技術「Direct-FT SAF」の研究を進めています。従来の変換技術では主に以下の2つの工程で成り立っています。

・逆水性ガスシフト工程:CO2を900-1000℃と非常に高い温度で一酸化炭素(CO)に変換します。
・FT合成反応:変換したガスを使って、液体燃料を合成します。

Hondaは逆水性ガスシフト反応とFT合成反応を同時に起し、かつ高い変換効率を有する触媒技術により、プロセス全体の省エネ化を図り、高効率かつ安価なSAF製造を目指しています。

Honda独自のD-FT合成触媒とシステム研究

カーボンサイクル

Hondaは「D-FT SAF」の研究において、CO2から直接燃料に変換合成させる独自の触媒技術を開発しています。

従来の触媒に比べ、CO2からの変換効率が向上する材料設計が採用されています。 投入したCO2を余すことなく反応させ、ジェット燃料の炭化水素組成に近づけるために、CO2や反応中間体をより触媒に吸着させるための材料研究を推進しています。

また触媒性能をスケールアップしても最大限引き出すリアクタ研究に取り組んでいます。反応熱によるヒートスポット影響を最小化させるためリアクタ設計や除熱方法を検討しています。
そしてこれらの性能を組み込み、燃料合成プラントとして成立性を評価するプロセス研究も取り組んでいます。リアクタでの触媒性能や周辺機器、後工程の性能も取り込み、マテリアルバランスや熱マネジメントをプロセスシミュレーションを用いて検討し、CO2からSAFが得られるまでに必要なエネルギーやコストを算出・評価しています。

まとめと将来展望

Hondaが開発するSAF製造技術は、SAF普及に必須な低コスト化技術であり、空のカーボンニュートラル化に大きく貢献できると考えています。現在のSAFは、まだ高価ですが、我々の安価なSAF製造技術が確立すれば、SAFをもっと安価に製造することができ世の中への普及が進むことが期待されます。

  1. 環境への影響:
    SAFは従来のジェット燃料に比べてCO2排出量を大幅に削減することができます。国際民間航空機関(ICAO)は、2050年までに航空業界がカーボンニュートラルを達成するために、SAFの利用が不可欠であるとしています。Hondaの高効率なSAF製造技術によりSAFの低コスト化が期待され、SAF普及に貢献できます。
  2. 技術の進歩:
    SAFは現在は廃食油やバイオエタノールなどが主な原料ですが、将来的には増加する需要にこたえるべくバイオマスやCO2を炭素源としたSAFが主要な役割を果たすと予測されています。
  3. 政策と規制:
    各国政府はSAFの導入を促進するための政策を積極的に展開しています。EUも、航空燃料供給者に対して一定比率以上のSAFの混合を義務付ける規制を導入しています。

SAFの導入は、航空業界の持続可能な成長に寄与する重要なステップです。今後の技術革新により、SAFの利用がさらに拡大することが期待されています。