ナイロン6樹脂の水平リサイクル技術

カーボンニュートラルの実現

理論上、永遠の素材循環が可能
ナイロン6樹脂の水平リサイクル技術
東レ(株)との共同実証事業

近年、廃棄プラスチックの再資源化に対する社会要請が高まっており、日本においては「プラスチック資源循環法」が施行されるなど、飲料容器や衣料品にとどまらず、さまざまな分野でリサイクルの取り組みが広がっています。

これまで自動車のナイロン樹脂廃材の処理においては、樹脂廃材と複合しているガラス強化繊維の分離などの、リサイクル技術的難度の高さから、焼却の際に発生する熱エネルギーを回収・利用するにとどまっていました。

こうした中、Hondaは東レと共同で、廃材に付着した異物を分離する技術と、亜臨界水を用いて回収したナイロン樹脂を分子状態に戻すモノマー化技術の開発を進めています。亜臨界水を用いることで、従来の酸触媒と比べて環境負荷を低減しながら、短時間に高い収率でバージン材と同等の性能・品質のリサイクル材に戻すことが可能です。

この技術を活用し、廃棄された自動車から回収した樹脂を再生原料とする水平リサイクルのスキーム構築を目指します。

CO2排出量を大幅に削減するリサイクル材料

リサイクル材によるCO2削減効果の見込み
CO<sub>2</sub>排出量を大幅に削減するリサイクル材料

ナイロン6などの石油由来の樹脂材料は、製造時に多くのCO2を排出しますが、リサイクル材料は再利用によって製造時のCO2排出量を削減できます。さらに、亜臨界水を使ったモノマー化技術は、短時間反応でエネルギー消費を抑えつつ高効率でリサイクルできるため、CO2排出量も少なく、環境への負荷を低減できます。

本技術により得られるリサイクル材料は、石油由来の樹脂材料と比較して、樹脂製造時のCO2排出量を50%削減できる見込みです。

※(株)本田技術研究所による試算

亜臨界水法によるリサイクル原料は、石油由来の新材と比較してCO2排出量 -50%の見込み

理論上、永遠の素材循環が可能な水平リサイクル

水平リサイクルの実証スキーム
水平リサイクルの実証スキーム

リサイクル材の物性水平リサイクルの実証スキーム

本研究では、ナイロン6を素材とするインテークマニホールドを対象として、水平リサイクル技術の実証に取り組んでいます。

まず、廃棄車両から回収したインテークマニホールドから、金属やゴムなどを分別・破砕し、解重合装置に投入できる状態に前処理します。その後、亜臨界水を用いた解重合反応により、ナイロンの原料であるモノマーに戻します。得られたモノマーは分離・精製され、再重合を経て、バージン材と同等の物性を持つナイロン6へと再生されます。これらのプロセスによって永遠の素材循環 水平リサイクルが可能となります。

亜臨界水による 高生産性・高循環性・クリーンプロセス

PA6のモノマー化反応
PA6のモノマー化反応

モノマー化手法
モノマー化手法

亜臨界水の強み

亜臨界水を用いたモノマー化反応は、従来技術と比較すると反応時間が短く生産性が高いこと、再資源化原料がモノマーであるため物性が完全復元し循環性に優れること、解重合に触媒が必要なく有機溶剤レスであるためクリーンプロセスであることが特徴です。

本技術は、ナイロン6樹脂にとどまらず、他のエンジニアリングプラスチック原料のモノマー化にも活用できる可能性があり、資源の有効活用や環境負荷低減の観点からも重要な役割を果たすと考えられます。

まとめ

【プロジェクトの結果】

Hondaは東レと共同で、廃棄された自動車から回収したナイロン6樹脂部品の水平リサイクル技術を開発しています。
亜臨界水によるモノマー化技術により、高生産性・高循環性・クリーンなプロセスの実現が可能と考えています。
また、連続式による小型設備化が可能になり、低投資での装置導入が可能になりました。

【今後の展望】

今後は、樹脂処理量500トン/年規模のパイロット設備の導入と実証を行い、2027年頃の実用化を目指します。
本技術はナイロン樹脂以外のエンジニアリングプラスチック原料におけるモノマー化へも応用することが期待できるため、
将来的には衣料やフィルムなど自動車以外の用途も含め、広くサーキュラーエコノミーへの貢献効果についても検証します。