安全安心と意のままの活動
アジア新興国二輪関与 安全支援スマホアプリ
近年、アジア新興国では、二輪車が関与する交通事故が増加傾向にあります。行政が進めるITを活用した対策としては、事故リスクを低減するために、定点カメラを用いた危険な運転の監視や、交通警報システムのプロジェクトが推進されています。しかし、これらの対策は社会的・経済的コストの負担が大きく、さまざまな道路箇所にカメラを設置することは物理的に困難です。
そこでHondaは、このような事故の抑制に向けて、スマートフォンアプリを活用した安価かつコンパクトな交通警報システム「AI見守り安全支援アプリ」の構築を進めています。
このアプリは、二輪車と四輪車の双方に対応し、AIの活用により二輪車および四輪車の安全を支援することを目的としています。
AIを用いて、加速走行中の後方からの接触・衝突や、前方や左右から自車線に侵入してくる車両との出会い頭の事故など、新興国で多発する事故形態を予測します。そして、こうした状況に対してアラートを鳴らす機能や、危険な走行を一時的に録画するドライブレコーダー機能などを備えています。
事故の主な要因は、運転者の不注意によるヒューマンエラーであることが知られています。したがって、AI見守り安全支援アプリは、運転者に注意を促すことで、事故リスクへの認識を高める効果が期待されます。
現在、このシステムはインドネシア警察によって試験運用が行われており、事故リスクを運転者にリマインドするうえで有効であるとの評価が得られています。さらに、事故の証拠記録としての活用も期待されており、ドライブレコーダー機能の追加により、一般利用への普及も見込まれています。
自車両後方からの加速衝突や接触、および自車両前方左右からの自車線侵入をスマホアプリで予測しアラートする
利便性
「AI見守り安全支援アプリ」の持つアラート機能は、自車両に対する後方接近、および前方左右侵入の二種類があります。
とくに、インドネシアにおいては、直線道路での二輪後方接近による衝突や接触事故の割合が高く、このアプリを導入することで運転者の二輪車に対する注意を喚起することが期待できます。
また、出会い頭における事故も多発しており、左右から侵入してくる車両を予測しアラートを鳴らすことで注意を喚起することができます。
さらに、このアプリは、リスクがあると判断したタイミングで自動的に録画するドラレコ機能も備えており、事故証拠の取得や事故分析に効果的なため普及が期待できます。


安全検証・機能検証・普及に関して、インドネシアの警察と協業する
警察による普及
「AI見守り安全支援アプリ」の構築にあたっては、インドネシアでの技術実証とその機能検証に関する現地警察の協力が得られ、アプリの試用を2023-2024に実施しました。この試用では、首都のジャカルタのみでなくジャワ島の中部、および東西部における警察署に及び数百人規模の警察官が参加しました。
また、近年事故が増加傾向にある二輪タクシーのフリーランスプロライダー対して警察が安全運転教育する際に、アプリを用いる試みが実施されています。こうした警察による取り組みは、今後、一般の市民層に対するこのアプリの普及拡大に対しても役立つものと期待できます。
■警察パトロール車両による機能検証

※スマホ搭載は、警察パトロール車両
■ライダー教育の一環としてのアプリ試用
インフラに頼らない、スマホアプリ単体で実現可能なアラートシステムを提供する
Hondaの強み
一般に、交通監視や警報システムは、道路インフラに依存した形で提供されていますが、社会的経済コストがかかるため一般普及しにくく、事故削減効果が限定的となる傾向にあります。一方、Hondaが提供する警報システムは、スマホと統合した車載カメラを用いているため、低いコストで手軽に利用できる、というメリットがあります。
また、「AI見守り安全支援アプリ」の技術において、スマホ用の軽量化AIを用いた車両検知により鳥観図を生成し、自車両に対する後方接近や前方左右侵入してくる二輪車等のリスクを予測しています。このリスク予測はアラートを鳴らすときに用いられますが、伝達形態は音のみでなく、色の変化で告知するインジケーターも実装されており、騒音下でもアラートできるためユーザーから好評を得ています。
■車載カメラによるアラートシステム

■軽量化AIを搭載したスマホアプリ

サーバーを使わない消失点計算
「AI見守り安全支援アプリ」のアラートでは、鳥観図の精度が求められるといった課題がありますが、これの解決に不可欠なのが消失点推定です。理論上、消失点は道路エッジの交点として定義されるので、道路領域を推定するためイメージセグメンテーション等を利用することができます。しかし、この処理は計算コストがかかるため、サーバー上で実施しており、スマホとの通信時間の遅れが生じた場合、関連処理の時間制御が難しくなるといった課題が生じてしまいます。
これに対し、サーバーを用いずにスマホアプリ内部で閉じて計算する手法を考案しました。消失点は、車載カメラで撮影される画面の中央付近に来るように、車両検知結果を用いて消失点を推定することで、サーバーを用いずとも鳥観図の精度を高めることができます。
■サーバーによる消失点計算

■サーバーレスによる消失点計算

車載カメラで撮影される画面
新興国道路でのレーン推定
新興国の道路特徴として、レーンがみえないや、もしくはレーンそのものが存在しないなどの課題があります。また、レーンがある場合でも車両混雑のため隠れてしまっている、夜間では暗くてみえにくい等の問題もあります。このようなケースにおいては、従来型のレーン検出法による手段ではレーン推定の能力に限界があることを示唆します。
一方、提案手法では、レーン検出の代わりに車両検知情報を用いることで、各車両の走行軌跡からレーンを推定するため、レーンが無い場合や、見えにくい場合でもレーンを推定できるといったメリットがあります。
■レーンの消えたインドネシアの道路

■車両の走行軌跡からレーンを推定


※自車両のレーン推定(黄色領域)
新興国でも使えるインフラに頼らないスマホのAI交通警報システム、スマホの性能向上が鍵
Hondaが開発する「AI見守り安全支援アプリ」は、インフラに頼らない交通警報システムであり、スマホ内臓の軽量なAI計算処理で実現できるスタンドアローン型の画期的技術です。また、スマホアプリとして低コストで提供できることから、若年層の二輪車関与事故が多い新興国での普及が期待されています。
さらに、本アプリは、モペットなどの小型EV二輪車への適用も可能であり、近未来での市場成長が見込まれ需要も高まる予想があることから、モペット版AI見守り安全支援アプリの技術実証についても現地警察と実施しています。
今後は、すでに技術実証を行っているインドネシア同様、インドやタイ、ベトナムなどの二輪車が多い国でのアプリ普及を目指し、活動を拡げていきたいと考えています。
その一方で、新興国では低価格化した廉価版スマホが普及しており、それらのカメラ高機能化やAI処理のパワーアップ等の性能向上が不可欠となります。こうした課題を克服し、Hondaの「AI見守り安全支援アプリ」を地球的規模で普及させ、新興国における運転者の安全を支援していくことが大きなミッションと考えています。