カーボンニュートラルの実現
アルミダイカスト 完全水平循環技術
Hondaは2021年に資源の効率利用への対応として、具体的な目標年や行動を定めた「Triple Action to ZERO」を掲げました。これに基づき、これまでの資源利用や廃棄におけるリスク低減にとどまらず、環境負荷のない持続可能な資源、サステナブルマテリアルを使用した製品開発にも取り組んでいます。
アルミダイカスト材の原料であるダイカストスクラップには鉄(Fe)部品が付属することが多く、溶解時にそれらからFe成分がアルミ溶湯に溶け込んでしまいます。そのため、アルミ純度の高いスクラップで希釈し、溶湯中のFe濃度を下げる必要がありました。
Hondaは、ダイカストスクラップ(ADC12および同種材)を原料とするアルミ溶湯中のFe成分除去技術を開発し、完全水平リサイクル手法を確立しました。本技術の対象をダイカストスクラップ(ADC12)に限定してエンジン部品に適用し、 従来手法で必要であったアルミ純度の高いスクラップ材や、Siなどの成分調整材の使用量を削減し、CO2排出量および製造コストの低減を実現しました。
アルミダイカスト部品の原料を、同種のスクラップのみにする
完全水平循環

アルミダイカスト材のリサイクル時には、スクラップに付属した鉄部品からFe成分がアルミ溶湯に溶け込むことが多く、溶湯のFe濃度低減のための、アルミ純度の高い展伸材スクラップ等が必要です。そのために、ダイカストスクラップの完全な水平リサイクルは容易ではありませんでした。
さらに、展伸材は環境対応を目的に水平リサイクル率を向上させる施策が始められており、近い将来入手することが困難になると予想されます。そこでカスケードリサイクルに頼らず完全循環が可能な、アルミダイカスト材の水平リサイクル技術が必要です。
CO2排出量低減

アルミダイカスト材の製造過程で排出するCO2には、原料の溶解以外に成分調整材の製造・輸送時にもCO2が排出されます。
新工法の適用により、アルミダイカスト材と同成分であるアルミダイカストのスクラップのみで製造が可能になり、成分調整材の使用が不要となるため、CO2排出量を削減することが可能です。
実用的なFe成分低減技術の確立

アルミ溶湯中のFe成分の低減や除去に関しては、これまでに結晶分別法やフラックス法など多くの研究が行われてきました。しかしこれらの技術では、コストや効果の面で実用化に課題がありました。
本開発では、アルミ溶湯を長時間保持した際に特定の金属成分濃度が変化する現象に着目し、実用性の高いFe成分低減方法の開発に取り組みました。
その結果、過去に例のない工法(特許取得済)を確立し、新たな設備を導入することなく、簡便かつ低コストで運用可能な方法を実現しました。
アルミ溶湯のスラッジ化処理

スクラップの溶解工程において、スクラップに付属する鉄部品から鉄が溶け出し、アルミ溶湯のFe成分が規格をファールすることがあります。
溶湯中のFe成分を下げるため、溶湯の温度と保持時間をコントロールすることで半凝固状態にし、Fe成分をスラッジ化させます。その後、溶湯温度を上昇させて沈殿除去すると溶湯中のFe成分が低減します。
アルミ溶湯中のFe成分を除去する技術の確立により、100%同種材のスクラップのみでアルミダイカスト部品の水平リサイクルを可能としました。
新規採掘に依存しない持続可能な材料循環の確立
Hondaは、 アルミダイカスト材製造時にアルミ溶湯温度と保持時間をコントロールすることで、溶湯中の不純物であるFe成分をスラッジ化して低減させる技術を開発しました。これにより、 従来手法で必要であったアルミ純度の高いスクラップ材および成分調整材の使用量を削減し、 CO2排出量および製造コストの低減を実現しました。本技術の採用により、使用量の多いアルミダイカスト材の完全水平リサイクル化で、 カスケードリサイクルにて利用していた各種アルミスクラップ自体の水平リサイクル率の向上も期待されます。
近年、希少金属以外の金属資源も採掘にまつわる人権・環境デューデリジェンスの対象として注目されつつあります。こうした社会的・環境的課題に対応するためにも、資源の新規採掘に依存しない持続可能な材料循環の確立が求められています。中でも、アルミスクラップの水平リサイクル率の向上は、これら課題への実効的なアプローチでもあり, 今後さらにその重要性が高まっていくと考えられるます。Hondaはアルミ部品の水平リサイクルの推進を加速し、持続可能な材料循環の取り組みを一層強化していきたいと考えています。