経営 2025.09.25

世界の交通安全を変えていく。Hondaが本気で取り組む、事故に遭わない社会への道

世界の交通安全を変えていく。Hondaが本気で取り組む、事故に遭わない社会への道

 POINTこの記事でわかること

  • 2030年の二輪車・四輪車が関与する交通事故死者の半減を目指し、“人・モビリティ・交通エコシステム”の3つの視点から交通安全の取り組みを推進
  • 自動車・バイクメーカーとして初めて国連交通安全基金(UNRSF)と連携し、グローバルな政策支援に参画
  • 2050年に向け、「安全・安心ネットワーク技術」の開発と社会導入も進行中

Hondaは、事故に遭わない社会の実現を目指し、60年以上にわたり、交通安全に取り組んできました。2025年2月には自動車メーカーとして初めて国連交通安全基金(UNRSF)とパートナーシップを締結。新興国の交通社会をより安全にしていくため、新たな挑戦へと動き出しています。今回は、その背景や狙い、そしてHondaの安全の考え方や今後の展望などについて安全企画部長の髙石秀明に話を聞きました。

髙石 秀明

本田技研工業株式会社 
経営企画統括部 安全企画部 部長 
安全運転普及本部 事務局長
エグゼクティブチーフエンジニア
もっと見る 閉じる 髙石 秀明

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ポイントは「ALL」ではなく「Everyone」。事故に遭わない社会の実現へ

2021年4月、Hondaは「2050年に全世界でHondaの二輪車・四輪車が関与する交通事故※1死者ゼロを目指す」と表明しました。またマイルストーンとして、2030年に全世界でHondaの二輪車・四輪車が関与する交通事故死者半減※2をめざします。

※1 Hondaの二輪車・四輪車が関与する交通事故:Hondaの二輪車・四輪車に乗車中、および歩行者・自転車・その他当事者(故意による悪質なルール違反、および故意により飲酒・薬物その他による責任能力のない状態の2つを除く交通参加者)が関与する交通事故。

※2 2020年比で2030年に全世界でHondaの二輪車・四輪車が関与する1万台当たりの交通事故死者数を半減。

この目標の背景には、Hondaのグローバル安全スローガン「Safety for Everyone」が象徴するように、安全への強い想いがあると、高石は語ります。

髙石
髙石

「Safety for Everyone」というスローガンには、ドライバーやライダーだけでなく、道路を利用するすべての人が安全で安心にモビリティ(移動)の自由を享受できる、事故に遭わない社会をつくりたいという強い想いが込められています。ここでポイントとなるのが、「ALL」ではなく「Everyone」という表現を用いていることです。「一人ひとり」の自由な意思や感性を尊重したうえで、その集合体である社会の安全を担保していきたいという意図があります。

安全企画部 部長/安全運転普及本部 事務局長 髙石秀明 安全企画部 部長/安全運転普及本部 事務局長 髙石秀明

そのため、Hondaの2050年の目標、そして2030年のマイルストーンにおける「全世界でHondaの二輪車・四輪車が関与する交通事故」の対象に関しても、今後生産される新車の乗員だけに限定していません。すでにお客様のもとへ届けられた車両や事故の相手車両の乗員、そして歩行者までも含んでいます。

髙石
髙石

正直、私もかなり野心的な目標だと認識していますが、この目標は、たとえ到達が難しくても、命を守ることに対して妥協しないという、私たち自身の覚悟と、交通安全への取り組みに対する「本気」を示したものなんです。

自動車業界で初の快挙。交通安全の評価指標「FIA Road Safety Index」で最高ランクを獲得

Hondaは安全の取り組みにおいて、「人の能力(啓発活動)」、「モビリティの性能(技術開発)」、「交通エコシステム(協働、システム/サービス開発)」の“Honda安全3つの要素”それぞれを進化させ、組み合わせることでさまざまな要因により引き起こされる事故に対応しています。

髙石
髙石

「事故のない社会」は、人の移動を抑制することでも実現することができますが、Hondaが目指す「事故のない社会」は、自由な移動の喜びが伴うものでありたい。その鍵は、この“Honda安全3つの要素”をできる限り高いレベルで調和を図りながら浸透させていくことにあります。

髙石
髙石

Hondaは長年にわたり、この“Honda安全3つの要素”による総合的な交通安全への取り組みを進めてきました。その結果、日本における取り組みが評価され、2025年2月には、FIA(国際自動車連盟)が策定した「FIA Road Safety Index」において、自動車業界で初めて最高ランクである「3 Stars」を獲得しました。Hondaの一連の活動が、国際的にも高く評価されたことをうれしく思っています。

モロッコにて、Hondaを含むさまざまな業種の計10社に「3 Stars」認定授与が行われた モロッコにて、Hondaを含むさまざまな業種の計10社に「3 Stars」認定授与が行われた

国連とパートナーシップを締結。新興国の交通課題に本気で向き合うために

世界保健機関(WHO)のデータによると、日本や欧米諸国では交通事故が減少傾向にあるものの、世界全体では年間約119万人が交通事故で命を落としています。さらに、そのうち約9割が新興国(低・中所得国)、特にバイクと歩行者の事故が深刻な問題となっています。

世界の交通事故死者数のうち、バイクと歩行者の事故が特に深刻 世界の交通事故死者数のうち、バイクと歩行者の事故が特に深刻

新興国の交通環境は、日本と比較して制度やインフラ、そして交通教育の面でも整備が不十分な状況にあります。

合図なしの進路変更、無理な割り込みやすり抜け、ヘルメットの非着用、飲酒運転など、リスクの高い運転行為が日常的に見られるため、Hondaの2030年のマイルストーン達成に向けた取り組みにおいても、先進国の対策をそのまま適用するのは現実的ではありません。新興国が抱える社会的・文化的背景に応じた、柔軟で実効性のある対策を講じる必要があります。

髙石
髙石

先進国では、安全運転支援システム「Honda SENSING」などの技術を進化・普及させていくことが重要です。一方、新興国においては、啓発活動の強化に加え、免許制度や道路交通法などの制度改革に向けた政策支援を通じて、人の安全意識をどう高めていくかが取り組みの核心になると考えています。

 

Hondaは、長年にわたって安全啓発活動を展開しておりますが、制度改革は各国政府の方針にも関わるため、企業が単独でできることに限界があります。しかし、だからといって諦めたくない。そこでアプローチしたのが国連とのパートナーシップでした。

2025年2月、Hondaは自動車メーカーとして、そしてバイクメーカーとして初めて国連交通安全基金(以下、UNRSF)とパートナーシップを締結しました。

2025年2月、モロッコ・マラケシュで開催された「第4回交通安全に関する世界閣僚会議」でパートナーシップを発表 2025年2月、モロッコ・マラケシュで開催された「第4回交通安全に関する世界閣僚会議」でパートナーシップを発表

UNRSFとのパートナーシップでは、5年間で約4億5千万円(300万USドル)の寄付とともに、Hondaが長年、安全技術の開発や安全運転普及活動で培ってきたノウハウ・知見と、UNRSFの世界各地に広がるネットワークを組み合わせることで、各国の交通事故分析および交通安全政策を支援していきます。

日本のように詳細な交通事故データが乏しい新興国にとっては課題の特定そのものが困難だったため、事故分析の精度が向上すれば交通状況の改善に大きく寄与するはずだと、高石は意気込みます。

髙石
髙石

私たちがUNRSFとともに特に重要視しているのが、政策支援です。事故分析を通じて事故の原因が特定できれば、インフラ整備(道路の陥没修理、夜間照明の設置)、制度改革(免許制度の改善、飲酒運転や速度違反の取り締まり強化)、そして啓発活動を推進するための政策提言も議論しながらまとめていくことができます。

 

こうした成果は単独メーカーとしての活動だけではなかなか得難いものであり、これこそが国際機関との連携の真価だと感じています。UNRSFとの取り組みはまだ始まったばかりですが、議論をする中で、提言による成果の可能性を感じています。

交通事故を回避する「思いやり」の重要性。「自由な移動の喜び」の本質を求めて

UNRSFとの連携は、2030年に向けた取り組みの一環ですが、Hondaは2050年に向けた準備として、安全・安心ネットワーク技術の開発や社会実装にもすでに着手しています。

”安全・安心ネットワーク技術”とは、事故が発生する前にドライバーや歩行者へ回避行動を促す技術です。道路上に設置されている交通状況モニタリングカメラや車載カメラ、スマートフォンなどから取得した多様なデータをクラウド上に集約し、仮想空間上に交通環境を再現。交通参加者それぞれの状態や特性を踏まえて、危険な行動の発生を予測・シミュレーションし、最適な回避支援情報を導出します。この情報は、音声対話AIなどのインターフェイスを通じてリアルタイムで伝達されます。

髙石
髙石

安全を追求する上で、最終的に重要となるのは、交通参加者の相手への思いやりなのではないかと私は思っています。 

 

交通事故の多くは相手との衝突事故です。私たち一人ひとりが相手を尊重しながら、アイコンタクトなどのコミュニケーションで協調し合える世界になれば、事故は起きないはずです。“安全・安心ネットワーク技術”でもこの考えを取り入れています。

 

思いやりのある関係性は、実は安全のその先にある「自由な移動の喜び」を、もっと豊かに、心から味わえる世界につながっていきます。私たちHondaは、未来をただ夢見るのではなく、現実のものにするために、これからも挑戦を続けていきます。

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