新領域へのチャレンジ

さらなる成長に向けて
未知のフィールドへ挑戦します。

執行役常務
コーポレート戦略本部長 小澤 学

イノベーションマネジメントの進化

研究開発体制の強化

目指す提供価値として定めた「Transcend」・「Augment」の実現に向け、「コア技術の創出こそが将来にわたるサステナブルな事業基盤や競争力を生む源泉になる」という考え方に立脚し、イノベーションマネジメントの強化に取り組んでいます。
研究子会社である本田技術研究所は、2019年から2020年にかけて二輪・四輪・パワープロダクツ事業における商品開発機能を本田技研工業へ移管し、より長期的な視点での価値創造に向けた基礎技術の研究に専念できる体制へと再編しました。モビリティの価値のさらなる拡張に向けて、先進技術研究、パワーユニット研究、材料研究などの領域への資源投入を強化するとともに、新たなモビリティやロボット、水素活用をはじめとする次世代エネルギー、バッテリー、知能化/AI、サステナブルマテリアルなどのさまざまな技術ドメインを定め、各領域のエキスパートが 新価値の創出に向けた技術開発をリードしています。
また国内だけでなく、本田技術研究所の子会社であるホンダ・リサーチ・インスティチュートの拠点を日本・米国・欧州に設置し、コンピュータサイエンスをはじめとした先端・先進技術の研究に取り組むとともに、世界中のさまざまな研究機関と共同研究を行うことで、グローバルでの知の探究と結集を図っています。
このような体制のもと、それぞれの技術ドメインにおいて生み出された新たな技術を応用し、空、海洋、宇宙など、さまざまなフィールドにおいて新しい価値をお届けできる魅力的な次世代モビリティの開発を進めています。具体的にはHonda eVTOL、Hondaアバターロボット、さらには宇宙領域へのチャレンジといった幅広い領域で新価値の創出に取り組んでおり、燃焼・電動・制御・ロボティクス技術などのHondaが培ってきたコア技術を活用することで、「人々の生活の可能性を拡げる喜び」の実現を目指しています。
また、不断の研究によって創出されたさまざまな新技術と、そこから生み出された次世代のモビリティを社会への価値提供へとつなげていくためには、事業・商品としての成立性を十分に検証していく必要があります。この観点から、経営メンバーと技術領域のエキスパートで構成される「技術戦略会議」を設置し、技術戦略と事業戦略のスムーズな連携を図ることで、創出された技術をスピーディーに提供価値へと結実させていく体制を整備しています。

基礎研究への資源投入

基礎研究は試行錯誤の繰り返しであり、その弛まぬ努力が実際に世の中に上市される商品へと結実するまでには長い時間と莫大なリソースが必要となります。それでもHondaは、「まずはやってみる」の精神で基礎研究に真っ向から粘り強く向き合うことで、「HondaJet」やヒューマノイドロボット「ASIMO」などの世界を驚かせる魅力的なプロダクトを生み出してきました。どのような時代においても「新技術の探究」こそがHondaのドライビングフォースであり、そこから創出された新たな価値が、一歩進んだ次代のHondaをつくりあげていく。このような信念のもと、日々の基礎研究に取り組んでいます。
こうした考え方に基づき、本田技術研究所に5,000人規模の人員を投入するとともに、基礎研究領域においては年間1,000億円レベルの研究予算を安定的に確保しています。これは全社規模で見ても非常に大きな投資となりますが、水素活用やサステナブルマテリアルなど「5つのキーファクター」に関連するカーボンニュートラル技術に加え、「自由な移動の喜びを創造する次世代モビリティ」の基盤となるさまざまな要素技術の開発に思い切ったリソース投入を行うことで、新価値の創造に向けた技術の仕込みを着実に進めていきます。先進技術領域で高い競争力を持ち続け、サステナブルな事業基盤を構築していくことを目指し、今後も積極的な資源投入を行っていきます。

基礎技術領域の取り組み

基礎技術領域の取り組み

オープンイノベーションによる技術開発の強化

世界中で生み出される新技術のシーズを幅広く見出し、多様な視点から社会への提供価値へと育てていくために、Honda独自のコア技術の研究に加えて、スタートアップとのオープンイノベーションを積極的に推進しています。
これまでスタートアップの探索機能として「Honda Xcelerator(ホンダ・エクセラレーター)」プログラムを日本、アメリカ、イスラエル、欧州などでグローバルに展開してきましたが、これに出資機能を追加した「Honda Xcelerator Ventures(ホンダ・エクセラレーター・ベンチャーズ)」プログラムを新たに始動するとともに、年間100億円レベルの予算を確保することで、有力なスタートアップに対して積極的に業務提携や出資を行なっています。すでにAIや合成燃料、電池のリサイクル、核融合発電などの領域において、将来を見据えた先端技術のスタートアップへ出資を行っています。
加えて、2023年4月にはグローバルでのコーポレートベンチャリング機能を担う「ホンダ・イノベーションズ株式会社」を日本に設立しました。Hondaの全社戦略と連動しながら、革新的な技術やアイディアを持つスタートアップへの出資・協業をスピーディに実施する体制を整えました。
今後もスタートアップへの出資やビジネスパートナーとの連携を積極的に推進し、「意志を持って動き出そうとしている世界中のすべての人を支えるパワーとなる」というHondaの目指す方向性に共鳴する仲間を増やしていくことで、「夢」を起点とした無数のアイデアの力を最大化し、独創的で魅力的な価値創造を目指していきます。

従業員の夢を実現する新規事業創出プログラム IGNITION

Hondaの新規事業創出に向けた取り組みの1つである「IGNITION」は、Hondaで働く従業員が個々の独創的なアイデアを活かし、新事業の立ち上げにチャレンジできる社内公募型プログラムです。2017年に本田技術研究所でスタートしましたが、2021年には対象を全社に拡大し、現在はすべての従業員が新たな価値創造に向けた自らのアイデアの具現化にチャレンジできるようになっています。
本プログラムはベンチャーキャピタルと連携しており、審査過程では投資家視点での厳しい審査とアドバイスに加え、社内のタスクフォースによる事業検討のサポートを受けることができます。これらのプロセスを経て、2021年4月にはIGNITION発のベンチャー企業第1号として株式会社Ashiraseが、8月には第2号となるストリーモが設立されました。さらに、2023年3月にはSmaChariが社内事業として立ち上がりました。
本プログラムの最大の目的は、多様な個が抱く尖ったアイデアを育てることで社会課題をスピーディーに解決し、世の中に新しい価値を創造することです。この取り組みをさらに加速させ、無数のユニークな発想を社会実装に結び付けていくことで、これまで以上に多様な価値を幅広いお客様に提供していきます。

SmaChari
SmaChari

SmaChari

知的資産による価値創造:将来への投資

知的資産は、企業価値の増大に大きく貢献するものであり、とりわけ5年、10年先の将来価値につながる重要な資産となります。Hondaが目指すのは、持続可能な未来とビジネスの成長を支えるため、この知的資産をより戦略的なツールとして活用することです。現在、Hondaは事業環境を「第二の創業期」と位置付け、「新たな成長・価値創造を可能とする企業への変革」を目指しています。この変革を支えるために、5つのキーファクターを注力技術として選定しました。
Hondaは、これらの注力技術において競争力を獲得するKPIを設定し、知財情報を活用した分析(IPランドスケープ、IPL)を組み込んだ価値創造プロセスを実行しています。
さらに、コーポレート戦略の策定と実行において、技術戦略と知的財産戦略との連動性の加速を狙いとして、2023年4月より知的財産部門をコーポレート戦略本部に配置しました。中長期の技術戦略の立案を行う技術戦略会議にも知的財産部門が参加するなど、知的財産部門の戦略機能を強化しています。

注力領域と既存技術領域の特許出願の割合

注力領域と既存技術領域の特許出願の割合

IPランドスケープ(IPL)の戦略的活用

注力領域の競争力強化に向けて、Hondaでは5つのキーファクターに加えて重点技術領域を定め、IPLによる技術優位性の彼我比較を通じて、目指すべき技術創出を進めていくアプローチを採用しています。

IPランドスケープ(IPL)の類型

IPLは2つのパターンがあります。一つは開発提案型で、未着手の技術領域に対する対応の必要性の検討を行います。これにより、萌芽期や黎明期の技術を抽出し、技術の将来性、競争力観点での重要度を測り、開発提案や事業提案を行います。提案が重要と判断された場合、それは事業・技術戦略に反映されます。
もう一つは、競争力分析型です。これは① 現時点の競争力の把握、② 競争力を上げるために必要なコア要素技術の特定、③ 将来の競争力維持・強化のために必要な技術戦略と知財戦略を明らかにすること、の3点を目的に行います。

IPL類型 主な目的 内容
開発提案 着手すべき新技術の提案 ・必要と考えられる技術開発の早期着手提案
・シナジーを期待できるスタートアップとの提携
競争力分析 技術優位性の評価及び
コア技術の特定
・バリューチェーン毎の競合との競争力彼我比較
・競争優位性確立のためのKPI設定

IPLによる戦略アップデートサイクル

この2種類のIPLによって事業・技術戦略をアップデートしながら戦略の精度を高め、競争力の強化につなげていきます。


STEP 1 IPランドスケープ

IPLを通じて、Hondaの技術競争力の現在の姿とあるべき姿を可視化し、競争力の獲得において必要なKPIを設定します。

STEP 2 研究開発(知財創出)

研究開発が進んでいく中で、その成果として知財が創出され、あるべき姿に近づいていきます。

STEP 3 IPランドスケープ(差異分析)

この段階のIPLでは、自社及び競合他社の技術開発の進度の分析やKPIの達成度をモニタリングをすることで、技術優位性をアップデートし、自社の現ポジションに関する情報と必要なアクションを事業・技術戦略にフィードバックしていきます。必要なアクションには開発提案も含まれます。

STEP 4 事業・技術戦略アップデート

IPLを通じて得られた情報に基づいて事業・技術戦略がアップデートされることで、戦略の精度を高め、競争力を高める技術開発につながります。このサイクルがさらに将来価値に繋がる知財を創出していきます。

以上のようにIPLを活用した戦略アップデートサイクルはHondaが継続的に企業価値を創造し、競争優位を保つための重要なプロセスとなっています。これを5つのキーファクターを中心に強化技術領域へと展開し、競争力のある知的資産の創出をKPIに設定し、新たな価値創造に取り組んでいます。

Hondaが生み出す「水素エコシステム」

Hondaが注力する5つのキーファクターのうち、パワーユニットのカーボンニュートラル化については、「電動事業戦略」で前述したバッテリー領域の取り組みに加え、クリーンエネルギーとして期待される「水素」を次世代エネルギーと位置づけ、事業化に向けた取り組みを強化しています。
Hondaは、他社に先駆け、1990年代後半から水素技術や燃料電池自動車の開発を手掛けてきました。水素と酸素から電気を生み出す燃料電池の研究開発に始まり、燃料電池の小型化、コスト低減、耐久性向上など、課題を一つずつ解決しながら性能を高めてきました。次期FCVには、2013年から進めてきたGMとの共同開発による次世代燃料電池システムを搭載し、コア技術である燃料電池システムの適用先を自社のFCVだけでなく、商用車、定置用電源、建設機械など、さまざまな産業に普及・拡大し、水素エコシステムの構築を目指していきます。
水素エコシステムの構築には、供給を含めた水素のバリューチェーンを構成する企業との協業・連携が重要です。国内では日本水素ステーションネットワーク合同会社への参画、北米では水素ステーション事業を行うシェル社やFirstElement Fuel社などへの支援を通じ、水素ステーション網の拡充をサポートしてきましたが、これに加え、水素技術のさらなる活躍の場として宇宙領域での活用を想定した先行研究も開始しています。これら一連の取り組みを通じ、社会全体の水素エコシステムの構築を推し進めることで、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していきます。

電気と水素エネルギーを賢く組み合わせることで、クリーンな移動と安心な電力を提供