製品 2024.03.27

「電気をつくる」記号性をデザインする。LiB-AID E500 DESIGN STORY[アーカイブ掲載]

「電気をつくる」記号性をデザインする。LiB-AID E500 DESIGN STORY[アーカイブ掲載]

Honda初の蓄電機「LiB-AID(リベイド)E500」(以下、「E500」)。東日本大震災をきっかけに誕生したコンセプトモデルがプロトタイプを経て市販モデルへとカタチになっていく。Honda発電機の記号性とストーリーを受け継いだそれぞれのデザイナーが、その想いを語ります。

コンセプトモデルとしての自由な発想が生んだ「蓄電機」

東日本大震災のニュースが着想の原点

コンセプトモデルデザイナー 東 功一コンセプトモデルデザイナー 東 功一

このコンセプトを最初に思いついたのは、東日本大震災のときのニュースです。避難所に自衛隊が入って、工事現場で使うような5000kWクラスの大きな発電機を被災者の方に解放していて、見ていると全員が携帯を充電している。大きな発電機に並んでみんなが小さな携帯を充電しているのを見て、発電機としてはちょっと大げさだと感じました。そこでもっと小さな電源を学校や家庭で持っていて、それだけで家族5人、例えばおじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、そして子どもの5人で1週間くらい情報機器の充電ができればいいかな、と。1週間程度あれば救援も来てくれるだろうと考えると、それまでの間はその小さな電源を使って家族との連絡手段が保てればいいな、といったことを考えていました。

AXIS vol.172(2014.12) コンセプトモデル特集掲載AXIS vol.172(2014.12) コンセプトモデル特集掲載

発電機ではなく、蓄電機としてのカタチへ

リチウムイオン電池はクルマにも使われていて、ニッケル水素電池よりも高密度。さらに携帯用の小さな充電バッテリーも一般的になってきたので、蓄電池で何かできないかなと思いました。そこでまずは「家族5人で1週間必要とする電気を賄うバッテリー」として「充電は1日1回、ゼロ状態からフル充電まで行う」と想定すると、どのくらいのサイズが必要かな、といったところからスタートしました。するとある程度のサイズ感が見えてきて、「これなら大きな発電機ではなく、小さな蓄電機でもなんとかできる」と思い、そこからカタチを考えていきました。

オマージュするだけでなく、ストーリーを持たせたかった

最初に発売した「E300」の発売前に、SONY社から本田宗一郎さんに、「SONYが外に持ち運べる小さなテレビをつくったけれど屋外には電源がないので、小さくてお洒落な発電機をつくってコラボしませんか」という話があって一度コンセプトモデル(E40)をつくったことがあったらしいです。

E300[1965]E300[1965]

デザインの共通性はないのですが「E500」の発案時期は、ちょうどHondaの発電機発売から50周年記念が近づいていた頃だったので、そんな物語とともに50周年を飾れたら面白いなと考えました。また当時はコピー商品が問題になっていた時期で、もし「E500」がコピーされたとしても、そういったHondaの歴史とか物語まではコピーできない。カタチだけでなくそのような付加価値があることに意味があるとも考えました。他にも「ビートル」や「フィアット500」、Hondaでいえば「N-ONE」など、伝説のクルマをモダナイズしたモデルも発売されていましたので、その流れでユーザーに受け入れられるんじゃないか、と。そういった何本かの軸をすべて掛け合わせてこのカタチをつくっていきました。

「E300」の良さを現代の技術でモダナイズしていく

これまでのエンジン発電機やカセットボンベで動く発電機は屋外や玄関に置いておくモノでしたが、これは「リビングに置いてほしい」という想いがありましたので、まず家族とともに暮らす家の中に置いても違和感ない「親しみやすいデザイン」を考えていました。「E300」の良さを汲み取ってモダナイズすることと、最新デジタル家電の品質みたいなことをどう融合させて一つのカタチにしようかなっていうところがこだわったところですね。操作系なども「E300」のスイッチ配置を今の技術に置き換えています。昔の出力メーターは針がアナログで動きますが、それを液晶のデジタルでやるとどうなるかとか、「E300」のスイッチ配置を現代の技術で置き換えるとどういうデザインになるかというところで、少しクラシカルさを残しつつ現代技術による演出を加えています。

コンセプトモデルから、プロトタイプへ

市販化を考え始めるためのプロトタイプ

プロトタイプ/CMFデザイナー 赤嶺 裕子プロトタイプ/CMFデザイナー 赤嶺 裕子

私が参加したのは、コンセプトモデルの評価段階でこのデザインが抜擢されて、市販化に向けてプロトタイプのデザインを行うタイミングでした。まだバッテリーのサイズやサイズ感、使い勝手などが検討中でした。基本的には東がつくったコンセプトモデルのデザインとコンセプトが面白いため、サイズ感、形状を維持して市販したいという気持ちでした。開発チームにもできるだけその中に入るようなバッテリーを探していただきました。サイズはコンセプトモデルが0.3kWで、プロトタイプは0.5kWと容量が上がっています。電池の進化スピードが速かったので、開発していく中で0.5kWが入るサイズに合わせてプロトタイプではリメイクしています。特にパネルの丸いラウンドを崩すと一気に堅くなり印象が変わるので、そこはかなり気を付けて微調整を重ねました。

給油口をモチーフにした充電ソケットは残したかった

オマージュとなったエンジン発電機の「E300」には、ガソリンタンクの設定があり、給油口から燃料を入れていました。コンセプトモデルではそのメージを踏襲し充電ソケットとして設定されていました。エネルギーの元になるモノをここから入れるという意味で、給油口から充電しても面白いとデザインされていたものです。東もガソリンスタンドのノズルのような充電ジャックを構想はしていましたし、プロトタイプの段階ではまだ充電ソケットは給油口のところに付けるという設定で位置や場所、付け方に苦心し、専用の充電アダプターをデザインしました。本当は残したかったのですが、市販モデルに向けて仕様を詰めていく中で、市販モデルではやはりコンセントが上に向いているのは安全上無理があるということで充電ソケットはサイドにレイアウトされました。

東京モーターショー(2015年)出展モデルのデザインスケッチ 充電ソケットが残っている東京モーターショー(2015年)出展モデルのデザインスケッチ
充電ソケットが残っている
「空色」モデル「空色」モデル

東京モーターショーへの出展と日本の色

プロトタイプを制作していく中で、東京モーターショー(2015年)に出展してお客様の反応をダイレクトに聞いてみようということになりました。蓄電機は家の中でも使用できるという楽しさをたくさんのカラーバリエーションで表現することでユーザーの目にも映えますし、日本の製品という想いもあって日本の色によるカラーバリエーションを展開しました。日本の色「若竹色・空色」とか、そんなコンセプトを色のテーマに載せて展示したときには、女性からの反響も多く「かわいい」という声をいただいてうれしかったですね。最終的には、モーターショーで人気のあった赤と黒と白の3色が市販モデルとなっていきました。

コンセプトモデルの記号性を活かして市販モデルへ

Hondaが電気を供給する記号性を表現したかった

市販モデルデザイナー 加藤 雄也市販モデルデザイナー 加藤 雄也

私がこの「E500」に関わったのはコンセプトモデルが出た後、「これをどうやって商品化するか」という段階からでした。Honda初の蓄電機ですから「過去の製品に囚われず全く新しいパッケージにした方が良い」といった意見もあり色々迷いましたが、結果としてHondaが出す電気を供給するプロダクトとしてやはりコンセプトモデルが持つHonda発電機の記号性を保ちつつ、自分なりの解釈を加える形でデザインを進めることにしました。

リビングに置いても違和感のないデザインリビングに置いても違和感のないデザイン

「E500」はHondaのパワープロダクツとして初めて室内まで入り込んでいくことやユーザー層が広がるだろうということで、品質や佇まいのきれいさ、やさしさなど、リビングに置いても違和感のないデザインを目指しました。むしろいざという時に役立つためには、普段使っていただくことが重要だと考えていたので、デザインには「ちょっとしたかわいさ」をまとわせました。そして家の中で使うような雑貨や生活品の写真とともにこのモデルも入れたコンセプトパネルをつくって、「この仲間になります」と説明することで、「E500がある暮らし」をまわりにもイメージしてもらえるよう努めました。

サイズ感とバランスでやさしくなる方向にサイズ感とバランスでやさしくなる方向に
大きさと配色のバランスを意識したデザイン大きさと配色のバランスを意識したデザイン

東京モーターショー(2015年)に出展したプロトタイプモデルは、サイドが真っ直につくられていてアルミ削りだしなどに向いた形状になっていますが、「E500」での素材は全て樹脂となったため、ゆえに角Rを大きく取らなければいけないといった課題もありましたが、「優しさ」を表現することでコンセプトに合うデザインになりました。意識したのは大きさと、バランスです。赤の部分とグレーの部分とハンドルのバランスです。

少し内側から立ち上がるハンドルへのこだわり

ハンドルについて、設計側から言わせると強度を考えても端まで行きたかったと思います。また端まであった方が、持ちやすいかもしれませんが、迫力が出すぎてしまう。そのため、ここは肩の部分から中に入れた方がやさしい感じにはなるなという想いでデザインしました。サイズについては「女性の手であれば2つの手が入る大きさ」で、形状も佇まいの可愛らしさとみんなが手に持って素直に使えるという点にはこだわりました。テスト部門の人と3Dプリンタで試作モデルを複数つくって、佇まいと実際に使って自然に使えることのバランスを探りました。

LiB-AID E500の技術についてはこちらをご覧ください。

デザイナーズメッセージ

「パワープロダクツとしての新しいアプローチ」

東 功一(コンセプトモデルデザイナー) 東 功一
(コンセプトモデルデザイナー)

これまでのHonda発電機は屋外や玄関に置かれるモノでした。しかしE500は「リビングに置いてほしい」といった想いでデザインしました。エンジンをなくすことによって造形的に凹凸が少なく、すっきりした、誰からも愛される可愛いイメージのデザインになりました。これは電池を使うというパワープロダクツとしての新しいデザインアプローチが市販化に結びついた初めてのケースです。

「女性の視点で新しい使い方を見つけて欲しい」

赤嶺 裕子(プロトタイプ/CMFデザイナー) 赤嶺 裕子
(プロトタイプ/CMFデザイナー)

私が入って女性の視点や使い方はどうだろうというときに、「女性は美顔器などの美容家電を使うので、お化粧する時に結構コンセントが必要です」と発言したら驚かれました。自分の好きな場所で、電気を使いたいというときに「E500」があるといいなと思っています。是非、いろいろな使い方で楽しんでいただきたいです。

「“電気を持ってどこ行こう”がキーワード」

加藤 雄也(市販モデルデザイナー) 加藤 雄也
(市販モデルデザイナー)

今のキャンプはLEDの照明もあり、本格的にアウトドアをする方でも電気を使うことに抵抗がなくなってきています。それに夜のキャンプ場だとエンジンをかけるのもダメというところもありますから、「E500」を使って遊んでいただけたらいいかなと。もちろんアウトドア以外でも「電気のあるシーン」を楽しんでいただけるとうれしいです。

モデルの詳しい情報はこちら

この記事は2017年12月27日に公開されたものの再掲となります。

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