イノベーション 2023.06.30

【潜入レポ】eVTOL開発領域の責任者が東大で講演。Hondaが描く空のモビリティ社会とは

【潜入レポ】eVTOL開発領域の責任者が東大で講演。Hondaが描く空のモビリティ社会とは

はじめまして、Honda Stories運営担当です。普段はHonda Storiesの裏方として活動していますが、Hondaの取り組みを読者の皆さまに自らご紹介し、より身近に感じてもらいたい!ということで、6月24日に東京大学で開催された講演会に行ってきました。今回は、この講演の内容をご紹介したいと思います。

「次世代空のモビリティの動向と実現に向けた課題」と題し、Honda eVTOLの開発チームを率いるフェローの川辺俊さんが、開発の現状や今後の課題について講演。

「次世代空のモビリティの動向と実現に向けた課題」と題し、Honda eVTOLの開発チームを率いるフェローの川辺俊さんが、開発の現状や今後の課題について講演。会場では、航空宇宙工学科/専攻の卒業生や関係者を中心とした参加者の方々が熱心に耳を傾けていました。

主催の「航空宇宙会」は、東京大学工学部航空宇宙工学科および同大学院航空宇宙工学専攻の同窓会組織です。宇宙飛行士の野口聡一さん、山崎直子さん、大西卓哉さんらも輩出している宇宙・航空業界の名門で、川辺さんも当学科の出身です。第一線の専門家が集まるこの場所で、いったい何が語られたのか。さっそくレポートしていきます。

川辺 俊(かわべ しゅん)

本田技術研究所 先進技術研究所
新モビリティドメイン統括フェロー
川辺 俊(かわべ しゅん)

1987年入社。入社以来、HondaJetやF1マシン、四輪車の開発に携わり、2019年から先進技術研究所で新モビリティ領域統括となる。eVTOLおよび宇宙ロケットの開発部門を担当。

Hondaが描く空のモビリティ社会とは

HondaがeVTOLを開発するワケ

Honda eVTOL

そもそもeVTOLって何?という方も多いかもしれませんが、「電動垂直離着陸機」のことで、最近では“空飛ぶクルマ”なんて呼ばれ方をしています。
講演の中で、「eVTOLを“空飛ぶクルマ”とは呼びたくない」と川辺さんは語りました。その理由は今回の講演の主題とも言えますが、最後に川辺さんが語ってくれますので、ここでは触れずにとっておきましょう。

なぜHondaはeVTOLの開発を行うのか。それは、Hondaがすべての人に「生活の可能性が拡がる喜び」を提供するために、既存のモビリティの拡張という新領域へチャレンジしていきたい、という想いから。その将来に向けた仕込みとしての具体的な形の一つがHonda eVTOLの開発なのです。

Hondaが将来的に目指すのは、eVTOLをコアとする新たなモビリティエコシステムを実現すること。つまり、機体やパワーユニットといったハード面だけでなく、eVTOLを社会実装するために必要なあらゆる要素――地上のインフラや運用システム、各種サービスやサポートなど――を一つのシステムとして設計し、様々なステークホルダーと連携しながら開発することです。

HondaのeVTOLはなにが違うの?

HondaのHybrid eVTOL

ここで、HondaのeVTOLの特徴を見てみましょう。設計で優先されたのは安全性。垂直離着陸用に8つのローター、推進用に2つのローターを備え、機能を分散させることで高い冗長性を確保する想定です。安全性、静かさ、クリーンさ。すべての実現を目指すなか、とりわけ検討が必要だったのは、いかにして必要な航続距離を確保するか、ということでした。

そこでHondaは、バッテリーとガスタービンによるハイブリッドのパワーユニット(GT-Hybrid)を採用し、エネルギー密度をバッテリーに対して大きく高めることにより、最大航続距離400キロを確保。クルマで行くには遠いけれど、飛行機を使うまでではない場所への移動に最適なモビリティの実現を目指したのです。

「HondaJetやF1、ハイブリッド車、安全運転支援技術など、様々な領域で培ってきた技術をもつHondaだからこそ実現できることも多い」と語る川辺さん。 「HondaJetやF1、ハイブリッド車、安全運転支援技術など、様々な領域で培ってきた技術をもつHondaだからこそ実現できることも多い」と語る川辺さん。

ただ、求める性能を満たした実機を作るためには乗り越えるべき課題も少なくありません。飛行制御、空力性能、環境対応、自動運転、熱管理、重量、コストなどのすべてが条件を満たすようにするには、風洞実験や種々の試験、数値解析、ソフトウェア開発など、いくつものフェーズが必要になります。推進系の工夫や電動化技術の適用で、課題をどうクリアしていくかが、今後の大きなカギといえそうです。

空のモビリティで、生活の可能性が拡がる喜びを

開発を進める上で避けて通れないのが、航空機認定の取得です。確実に取得するべく、安全性などを十分に考慮した上で、利便性の高い機体を現実のものにするためにHondaは最善を尽くしています。

新たなモビリティエコシステムの構築には、まだまだ時間が必要です。開発を進めている間に、技術も社会情勢も変わるため、変化に柔軟に対応していけるシステム作りも重要となります。その際、開発を自社、自国だけに閉じるのではなく、広く世界との連携を意識したオープンなものにすることも重要になります。

そして川辺さんは、最後に次のように語り、講演を締めくくりました。
「空を活かした新たなモビリティシステムが求められている現状は、日本にとってチャンスです。官・民・アカデミアが協力してその構築に取り組むべきであり、エンジニアリングとして真剣にやっていくことが必要だと考えています。だからこそ、“空飛ぶクルマ”という言葉は使わない方がいい。その言葉には夢物語的な意識があるけれど、私たちが目指しているのは、夢ではなく、現実のものだからです」

現役東大生はどう感じた?学生インタビュー

講演後、複数の質問が飛び交い、活発なやりとりを経て講演は終了しました。川辺さんの講演はどう伝わっていたのでしょうか。終了後、参加していた学生さんに感想を聞きました。

航空宇宙工学専攻博士課程2年の真鍋亜佑斗さん。ロケットの加速エンジンや人工衛星の新しい加速方法などについて研究に取り組んでいるそうです。 航空宇宙工学専攻博士課程2年の真鍋亜佑斗さん。
ロケットの加速エンジンや人工衛星の新しい加速方法などについて研究に取り組んでいるそうです。
Honda Stories運営担当 Honda Stories
運営担当

講演を聞いての感想を教えてください。

真鍋さん 真鍋さん

自分の研究と通ずる部分も多く、とても興味深い内容でした。eVTOL開発のアプローチがしっかりしていて、説得力も感じました。eVTOLについては当学科の学生の間でもあまり知られていない領域かもしれませんが、興味を持つ人はきっと多いと思います。

Honda Stories運営担当 Honda Stories
運営担当

今後、Hondaに期待することなどありましたら教えてください。

真鍋さん 真鍋さん

Hondaは、当学科の学生たちが最もよく知る企業の一つです。モビリティで社会を変えていこうというコンセプトも面白いですし、航空宇宙の分野で、これからも色々な事業にチャレンジしてほしいなと思いました。

Honda Stories運営担当 Honda Stories
運営担当

ありがとうございました!

そして最後に、講演を終えた川辺さんを直撃しました。

実はこの日が初対面。川辺さんはとても気さくに話す方でした。 実はこの日が初対面。川辺さんはとても気さくに話す方でした。
Honda Stories運営担当 Honda Stories
運営担当

講演会お疲れさまでした。母校で登壇した感想を教えてください。

川辺さん 川辺さん

少し話を詰め込みすぎたかもしれませんが、あらためて、AAM(Advanced Air Mobility=次世代の空のモビリティ)という新しいムーブメントが起きている中、日本としても存在感を示していきたいと思いました。そして、しっかりとしたeVTOL機とそれをコアとする新しいモビリティの世界を10年、20年かけて作り上げていきたい。そういう流れを日本全体に作っていくためにも、東大の航空宇宙工学科の関係者にその想いを伝えられたのはよかったなと思います。こういう機会をこれからも増やしていきたいですね。

Honda Stories運営担当 Honda Stories
運営担当

川辺さん、ありがとうございました!

HondaのeVTOLへの取り組み、いかがだったでしょうか?
読者の皆さまにはぜひこれからも「Honda eVTOL」の今後を楽しみに見守っていただけたら嬉しいです。Honda Storiesでは今後、川辺さんのインタビューなども載せていく予定です。どうぞお楽しみに!