
“漫然運転”防止を輸送のプロに学ぶ7200万km無事故の流儀
Honda製品の輸送を担うホンダ輸送グループの株式会社ホンダロジスティクス(輸送実務は株式会社ベスト・トランスポートに委託)、ホンダ運送株式会社、日本梱包運輸倉庫株式会社の3社は、2024年まで3年連続、のべ7200万km以上※にわたって加害事故0件を達成しました。今回は、3社で作る「ホンダ輸送グループ安全協議会」の会合にお邪魔し、安全運転のコツをお聞きしました。プロドライバーが心がける安全運転への取り組みには、一般ドライバーも参考にしたい“漫然運転”を防ぐためのヒントが潜んでいました。
※2024年実績の総走行距離2602万8384kmを参考に、22〜24年の3年分として換算
- 株式会社ホンダロジスティクス
管理本部総務部緒方 賢太郎さん

- ホンダ運送株式会社
関東営業部村田 将志さん

- 日本梱包運輸倉庫株式会社
製品物流営業部SQ推進室宮村 輝明さん

- 日本梱包運輸倉庫株式会社
製品物流営業部SQ推進室小林 千鶴さん

- 株式会社ベスト・トランスポート
管理部大河原 浩一さん

Honda製品の輸送を担う3社が合同で取り組む、
“事故0”を実現するための多様な安全活動
――まず、Hondaの二輪・四輪製品の輸送を手掛ける3社によって設立された「ホンダ輸送グループ安全協議会」(以下、協議会)について教えてください。
緒方:今から54年前、いわゆる「交通戦争」の真っただ中だった1971年に、Hondaの安全運転普及本部さんから「オールHondaとして、一緒に交通事故ゼロに向けて取り組んでいきましょう」というお声がけをいただいて発足した組織です。ビジネスの面では3社は良きライバルですが、安全という観点では一体となって活動に取り組んでいることが協議会の強みだと思います。
――物流の要となる運送ドライバーには優れた運転技術と高い安全意識が求められますが、ホンダ輸送グループが運ぶのはクルマやバイクといった商品車です。通常の運送業務とはどのような点が異なるのでしょうか?
村田:まず、使用するトラックの形状が違います。運送業では箱型の荷室の後ろ側が開く「箱車」や、荷台の側面が開くタイプの「ウイング車」一般的ですが、我々は「キャリアカー」と呼ばれる巨大な車両運搬用トレーラーを使います。また、品質面での大きな違いをあげると、段ボールなどの梱包材に包まれていない状態の完成車を運ぶので、車両を傷つけないていねいな運転が求められますし、周囲からはひと目でHonda車を運んでいることがわかるため、Hondaの名に恥じないマナーも必須となります。
――2024年の協議会の実績は総走行距離2602万8384km、延べ車両数4万8746台にもなりますが、加害事故ゼロを達成。安全運転普及本部より年間無事故賞の「クリスタルトロフィー」を授与されました。加害事故0件を継続させるために、協議会ではどのような取り組みをされているのかを教えてください。
緒方:乗務員の安全運転指導教育でいいますと、各社独自のドライバー安全運転教育を行うと共に、年に2回、日野自動車の「お客様テクニカルセンター」や鈴鹿サーキット交通教育センターでのドライバー研修、さらに定期的な管理監督研修を行っています。また、地区部会ごとに危険箇所の安全パトロールなども行っています。
――各社ごとの安全運転教育についても教えていただけますか?
大河原:弊社では、各部署で月に1回乗務員ミーティングを開いて、直近で起きた事故の情報共有や、熱中症対策など季節による注意点を展開しています。また、年間を通して危険箇所の立証を行い、添乗指導により乗務員の運転傾向を分析・改善をしています。
村田:ヒヤリハットの共有やKYT(Hondaの危険予測トレーニング)などは、他社さんと同様ですので、うちの安全への取り組みの特色をあげますと、ドライバー教育です。資格といったら大げさですが、乗務員の中で研修を指導する研修指導員、各センターに1人ずつ配属される運行を指導する運行管理者、さらに車種別の検定員を任命して、それぞれが役割と責任を持つ形を取っています。新人ドライバーや事故経験者の研修を研修指導員が行い、OKが出たら次は運行指導員がチェック、最後は検定員が最終仕上げを確認する。第三者の目線を3つ設ける教育制度によって、経験の少ないドライバーも独りよがりにならず、しっかりとスキルを高められるようにしています。
宮村:うちも安全な輸送のために、ドライバー教育に力を入れています。新人教育は全国全ての営業所で展開していまして、その研修を受けない限りはトラック乗務はできません。新人向けのA研修に合格したら、半年後にB研修を実施。その後も約3年に1回のペースで研修を繰り返しながら、最終的には60歳以上のドライバーに向けたシニア研修まで用意しています。また、私が在籍している製品物流営業部SQ推進室は安全運転と品質の研修を担当する部署でして、ドライバーに向けたキャリアカー作業の研修を実施しています。こちらも新人研修、ベテラン乗務員向けの研修、事故後の乗務員研修などがあります。
――各社独自の安全運転教育を実施される中で、プロドライバーとしての心構えや、メンタル面で重点的に指導していることは?
大河原:ひとことで言えば「事故をしない」。自分が事故を起こさないのは当然として、道路では職業ドライバーも一般ドライバーも一緒に走るわけですから、周囲に事故を起こさせないための思いやりを持つことを指導しています。例えば、他の車が曲がりやすいように交差点の手前で停まるとか、狭い道路で右折するときはミラーをたたむとか、トラックドライバー同士の安全に関する細かいルール、マナーはいろいろありますが、交通ルールとして定められているものではないので、一般ドライバーの皆さんは知らないことも多い。なので、「プロのドライバーである我々が先回りして気をつけよう」という意識を持ってもらうような指導をしています。また、事故を防ぐには危険予測が非常に重要になるので、交通事故やヒヤリハットのドライブレコーダーの記録映像を活用しながら、危険予測訓練を行っています。
宮村:やはり一般ドライバーの多くは、トラック車両の特性などを知らないと思うんです。そういった意味で、これはプロドライバーとしての誇りにもつながることですが、「トラックドライバーは一般ドライバーを守る立場であれ」という指導をしています。物流業界全体の共通認識としてよく言われることですが、我々トラック業界は一般の公道をお借りしている立場。プロドライバーは一般ドライバーが困らないように常に先回りして、日頃から安全運転に務めることが望ましい、という意識は持つようにしています。
小林:私達のSQ推進室は、Hondaの工場から完成車を輸送する乗務員たちへの研修をする部署です。ドライバーの皆さんには、自分達が運んでいるのは大事なお客様の商品だとしっかり意識してもらうことが、大事な商品車を傷つけないためにも、交通事故を起こさないためにも重要なことだと考えています。
村田:これは会社の方針というより僕の持論ですが、道路を安全に走るために守るべきことは、一般のドライバーも、プロドライバーも、基本的には変わらないと思うんです。じゃあ、運送会社のプロの教育とはどんなものなのか? それは特別な内容ではなくて、「当たり前の交通ルールを、当たり前に守る」ということをドライバーに伝え続けて、実行してもらうことに尽きる気がします。
一般ドライバーも今日からできる
事故を防ぐために役立つ“安全運転の習慣化”
――高価な商品車の輸送はプレッシャーのかかるお仕事だと思いますが、輸送経路が固定されていることが多く、ルートへの慣れが生じることも避けられないようにも思います。日々の輸送が漫然運転にならないように、どのような工夫をされていますか?
宮村:安全意識がマンネリ化しないように、梅雨時だったら雨、夏場は熱中症対策など、季節ごとの注意点を伝えたり、過去のトラブル事例から乗り方や運び方を検討したりと、安全運転・安全作業を継続するように努めています。
村田:ただ、毎日クルマ通勤をされているドライバーさんが、安全意識がマンネリ化しないように何か意識していますか? と聞かれても、パッと答えられないのではないでしょうか。実際、事故を起こしたくない気持ちはプロも一般ドライバーも一緒。それでも正直、マンネリ化を防ぐことは難しいんですね。ならば発想を逆転して、意識ではなく行動を変える。体調を整えて運転に臨むことや、大切な商品を運んでいる意識を持つことを前提として、普段から安全運転のコツを行動で習慣づけることが事故予防につながると考えています。
――“安全運転の習慣化”ということですね。具体的には、どのような運転を指すのでしょうか。
村田:難しいことはなく、普段から実行できることばかりですよ。例えば、制限速度を守ってなるべく一定のスピードで走ることや、一時停止の指定箇所は必ずしっかり止まること。飛び出しなど危険が予測される場所ではスピードを抑えて、しっかり周囲を確認することなど、常に同じルールをきっちり守ることが大切です。
――危険予測でいうと、プロドライバーが遭遇しやすいヒヤリハットがあれば教えてください。
村田:トラックドライバーが遭遇しやすいヒヤリハットというと、いちばんは割り込みだと思います。トラックは車間距離をしっかり取るので、前に入りやすいのでしょうね。ただ、トラックは運転席が高いので、後ろから追い抜いてくる車両が死角に入りやすい。なので追い抜いた瞬間に前に入ってくる乗用車にヒヤリとしたことは、トラックドライバーは誰もが経験していると思います。あとは笑い話のように聞こえるかもしれませんが、田舎道だと小動物が突然飛び出してくることも多いですね。
宮村:確かに、小動物の飛び出しで急ブレーキを踏むことはありますね。なのでこれも危険予測のひとつになりますが、日頃から小動物が出やすい場所の注意喚起を行い、何が起こっても対応できるように十分な車間距離を取ることはドライバーに伝えています。
村田:動物との接触は車体のダメージも大きいですからね(苦笑)。
宮村:そうですね・・・特に見通しの悪い山道や夜間走行では、早めのブレーキで飛び出しを避けられるように、対向車がいない限りはハイビームを活用することも大切だと思います。
大河原:あとこれはトラック・一般車関係なく気をつけたいことですが、最近、歩車分離式信号機(※横断歩道を渡る歩行者の安全確保のために、歩行者と車両の信号のタイミングをずらした信号機)の交差点がありますよね。原則的に自転車は車両用の信号に従うのですが、歩行者と同じ認識で通行している自転車をよく見かけます。あと、歩道を走っていた自転車が、ガードレールの切れ目などで後方確認なしに車道に出てくることがあって、あれもドライバーとしては非常にヒヤリとする場面です。そういう危険を常に予測して、事前に減速するなどの対応が必要だと思います。
緒方:ヒヤリハットを避ける意味では、Hondaのホームページで公開されている安全マップの活用もおすすめしたいです。例えば、ご自分の通勤路で実際に起こった交通事故や、ヒヤリハットの情報を確認しておくと、具体的な危険予測を立てやすくなりますよ。
――その他にも、一般ドライバーが日常で取り入れやすい安全のテクニックはありますか?
宮村:これは私自身も日頃から心がけていることですが、流れ作業で安全確認をしない、ということでしょうか。交差点の停止線で一旦停止するときも、止まりながら左右の安全確認を…と同時進行するのではなく、まず一旦しっかり止まり、その次の動作で左右の確認、というように、作業ごとにひと呼吸置いて、一つひとつの安全確認を確実に行うことが事故防止につながると思います。
大河原:事業所内でも実施している活動ですが、すぐできる安全運転のテーマをひとつ決めて、一定期間きっちり守る、ということをしています。1ヵ月や半年、1年など期間を区切って、「この期間は一時停止をしっかり行う」「車間距離を15m以上あける」という具合です。そうした積み重ねが、安全意識の向上には必要ではないかと思うんです。ちなみに私はいま「確実な一時停止の実施」をテーマに、2秒以上を目安にして安全確認の徹底を心掛けています(笑)。
小林:技術面ではなく、精神面で取り入れておきたいことを挙げると、時間に余裕を持つことだと思います。協議会では年に1回、交通安全標語とポスターの募集、表彰を行っています。その集計に携わっていると、「思いやり」「ゆずりあい」という言葉がよく登場するんですね。ドライバーの皆さんが、安全には心のゆとりが必要だと実感しているからだと思います。それこそ私も、運転する誰もがゆとりを持って、相手のことを考えて運転すれば、交通事故はほぼなくなるのではないかと思うんです。道路では予想外の渋滞に巻き込まれるなど不測の事態も多いですし、日々の仕事に追われがちですが、やはり時間に余裕を持つことはとても大切だと思いますね。
村田:あとは、運転する方は“脳トレ”をしてください。安全に走るためには道路の情報を的確に読み取り、頭の中で処理して、スムーズに判断を下す作業が不可欠です。どれだけ交通ルールを知っていても、一時停止の標識を見逃してしまったら止まれないじゃないですか。運転の初心者とプロドライバーの差は、情報処理能力の差でもあります。運転経験を重ねながら、正しく情報を受け取り、処理する能力を高めていけば、ある程度事故を防ぐことはできると思います。
――そうした安全への取り組みを地道に積み重ねることが、2024年まで3年連続で加害事故0件達成につながったのですね。では最後に、協議会としての今後の目標を教えてください。やはりこのまま「事故ゼロ」の記録を伸ばしていくことでしょうか?
緒方:冒頭でも申しましたが、「安全」という観点で3社が一体となって活動していることが、協議会の強みです。合同で安全活動に取り組むことで、一社だけでは気付けなかった新しい安全への視点や考え方を学ぶチャンスが生まれますから。事故ゼロを“当たり前”にしていくためにも、1971年の協議会誕生から50年以上に渡り、先輩方から受け継いできた安全への取り組みを、今後もしっかりと次の世代に継承していくことが、いちばん大切な我々の仕事だと思います。
今日からできる!安全運転習慣4つのコツ
- 1 制限速度や一時停止などの交通ルールの遵守
- 2 歩行者や自転車の飛び出しに対する危険予測運転
- 3 急な割り込みにも対応できる十分な車間距離の確保
- 4 前方を広く確認できるハイビームの有効活用