今年で開催20回を迎える子どもアイディアコンテストは、「未来を創る子どもたちの『夢』と『創造力』を育みたい」というHondaの想いから始まった次世代育成プログラムです。今回は、コンテストのアイディアを考え、絵としてカタチにするまでのプロセスを授業に取り入れている徳島県新町小学校と高志小学校を取材。
子ども同士の協働や、デジタルを活用して思考を深める中で、アイディアを創出し深化させていくまでのヒント、探求心や伝える力の育み方をご紹介します。

朝日小学生新聞掲載記事はこちら →

地域交流から発想したアイ
ディアが
子ども達の協働によ
り広がる。
それが
“創造する楽しさ”に!
〜新町小学校(徳島県徳島市)の取り組み〜

新町小学校は、緑生い茂る眉山が背後にそびえ、校区内に新町川が流れる豊かな自然に囲まれた学校です。社会科や総合的な学習の時間に地域の自然や地域をよりよくしようと活動する人とふれあう機会を設け、町に「あったらいいなと思うもの」を子ども達に考えさせる取り組みを行っています。子ども達は地域の魅力や課題を自分なりの視点で発見した後、教室で地域をより良くするためのアイディアを考えます。その過程で、子ども達は友達との協働によってアイディアを広げ、地域への愛着をさらに深めていきます。
今回は、事前学習を終えた3年生の授業を2日間にわたって密着取材させていただきました。

事前学習では、新町川を掃除する人やお花の世話をする人等、地域を守る活動をしている人に会って話を聞きます。

校区にある眉山や新町川を探検する他、川でのクルージングなど地域の自然とのふれあいも体験。

授業1日目

アイディアをカタチに!
協働で新しい視点に触れ、
発想が広がり
具体化する楽しさを実感

事前学習を通して学んだ新たな気づきを基に、
それぞれが考えた“あったらいいな”をクラスメイトと共有し合い、
アイディアシートを作成します。

笑顔とワクワクがあふれるアイディアは、
大人では思いつかない独創性豊かな発想だらけ!
事前学習の内容の振り返りを行った後、子ども達はそれぞれ個人で考えたアイディアを発表。
「ツバメの巣があって、学校の行き帰りに雛の成長を見れてワクワクしたので、眉山にいる生き物がどこにいるかわかる地図を作りたい」「新町川の水を透明できれいにする道具を作る」など、事前学習の体験から着想を得たものばかり。
意見を言うのが苦手な子には、先生が
「アイディアを聞いてあげてね」
と会話を促します。
子ども同士の意見交換で
アイディアがどんどん広がる!
発表しあった後は、子ども同士で意見交換を行います。
「地図を作っても、悪い人が巣を見つけたら壊してしまうかも」「じゃあ、心がきれいな人だけが見える地図にするのは?」など、自由な発想でお互いの考えをブラッシュアップしたり、組み合わせたりするなどして、1つのアイディアがどんどん広がっていきます。
テーマが似ている子ども達でチームを組み、アイディアを深化させる。
大切なのは、頭の中の整理をサポートしたり、
言い換えてあげること
子ども達にとってむずかしいのは、まだ頭の中にしかないアイディアを言語化して人に伝えること。子ども同士で言葉に詰まってしまった時は、先生が「それは、川をきれいにする機械があればいいということ?」「絵に描いてみたら?」と言葉を言い換えたり、絵や言葉での表現を促してあげることで、思考が整理されより具体的なものになっていきます。加えて、知らないことは自分たちで調べることを促してあげることで、よりアイディアに対しての考え方が深まります。
具体的なアドバイスだけでなく、子ども達が自分で調べるように促すことも大切。

意見交換をしながらアイディアシートをまとめていたら、あっという間に授業が終了。「チームになるといろいろアイディアが出てきたね」という先生の声掛けに、「うん!」と大きな返事をする子ども達。今日の授業で、アイディアを広げ合える協働の楽しさを学んだようです。

アイディアの源がココに!
湧き出るアイディアは
「眉山ノート」にストック!

学校の裏にあり、子どもたちに
とって身近で大好きな山 ”眉山”。

授業で得た発見やアイディアは、
図解、イラスト、文字など、
それぞれの表現方法でメモ。

授業2日目

伝えるって難しいけど楽しい!
みんなの発表を真剣に聞く
子ども達の表情が成長の証

授業2日目は、1日目からまとめてきたシートを
完成させて、
各チームがみんなの前で
アイディアを発表します。

「じゃあ、わたしはこれやるね!」
役割分担したりお互い協力したりして発表の準備
イラストの参考に図鑑を持って来たり、色鉛筆でイラストをカラフルにしたり、各チームでアイディアをカタチにするための工夫をしながら、シートを完成させます。発表という一つの目標に向かっていく中で、絵を描く人、文章を書く人など、子ども達は自然と役割分担をしながら、お互い協力して作業を進めていきました。
「みんなのアイディアってすごい」
発表に真剣に耳を傾ける子ども達
子ども達だけで創り上げたアイディア。
それぞれの発表を真剣に聞く表情が印象的
いよいよ全員の前での発表会。
緊張しながらも、自分たちが時間をかけて考えたアイディアを、頭の中で整理して自分の言葉で一生懸命伝えます。
発表される作品に対して、「どんなアイディアを考えたのか」「自分たちよりもすごいアイディアが出てくるかも」と、違うチームの発表がとても気になるようで、子ども達の視線や発表を聞く姿勢は真剣そのもの。
授業を通して子ども達に芽生えた、
協働することや地域を思うことの大切さ
全チームの発表終了後、子ども達に2日間の授業の感想を聞いてみると、「みんなで一緒に考えると、色々なアイディアが出てきて面白かった」「みんなの意見を聞いて、好きなことをより考えられた」などの声が挙がりました。友だちとの協働によってアイディアが広がり、より具体化されていく過程に楽しさや面白さを覚えた子が多くいました。 他にも、「今は新町川にはいない他の魚も見たいので、川をもっときれいにしたい」という子もいて、今回の授業を通して「地域をもっと大切にしたい」という想いが芽生えたようです。

事前学習での体験を生かし、
一人ひとりのアイディアを
掛け合わせて生まれた
「地域にあったらいいな」をご紹介!

移動式の
「新町川の水族館」
水族館があることで、川にゴミを
捨てなくなり、魚を守りたい人も
増えます。そうした人の力で川の
水をきれいにします。
水中でもゴミが見やすい透明の
潜水艦で、伸び縮みする網を使って
新町川のゴミを取ります。
新町川をきれいに! 「子どもでも操縦できる
安全なお掃除の機械」
魚と泳ぎながらしゃべれる
「魚通訳マイク」
人がしゃべった言葉を魚語に
訳してくれる道具です。
絵は2人で分担して描き上げました。
地図に表示されている生き物を
タッチすると、名前が出てきて
知ることができます。おすすめの
景色を写真に撮ることもできます。
「眉山に住む生き物の
通る道がわかる地図」
人が楽しい気持ちに
なれる機械「宇宙朝顔」
ボタンになっている葉っぱを操作
して、
音楽を流したり、お話をしたり
することが
できます。春夏は太陽、
秋は風、
冬は熱がエネルギーになります。

「協働の楽しさと人に伝える大切さへ
の学びが、
子どもを成長させる」
八波田美幸先生インタビュー

子どもアイディアコンテストの参加にあたっては、
チームで取り組むことにこだわっています。
自由に考えることがもともと苦手なお子さんもいますが、チームになるとまわりの人が考えるのを助けてくれる。それでアイディアがまとまり、本人も考えるのが楽しくなってくる。この楽しさを実感すると共に、友達との話し合いを通して新しい考えが浮かぶ楽しさや、人に伝える大切さを学ぶことができると思っています。
これこそ、コンテスト挑戦の過程における子ども達の一番の成長だと感じます。そんな成長を見守りながら、子ども達の想いにふれ、彼らと一緒に夢を語れることは、私にとって何よりの楽しみになっています。

今回は“地域にあったらいいな”をテーマにしました。それは1学期に学習した「地域のこと」が、子ども達の心に残っていると感じたからです。地域を大切にしたいという想いがアイディアに反映されています。
今すぐに直接的に地域貢献することは難しいかもしれませんが、学校生活の中で地域のことを友だちと一緒に考えていくことで、将来に向けて、自分が今どう生きるかを考えていってほしいと思っています。

ICTを最大限に活用して、
「アイディアの蓄積」と
「新しい発想への気づき」
をサポート
〜高志小学校(徳島県上板町)の取り組み〜

徳島県北東部にある高志小学校は、2019年に文部科学省が打ち出したGIGAスクール構想により、ICTを活用した教育が全国の学校に求められる中、パソコンやクラウドシステムを駆使した授業を展開してきました。

学校では、児童には一人につき一台、キーボード付きのタブレット「Chromebook」を支給。教育支援アプリケーション「ロイロノート」を授業に取り入れ、各学年のレベルに合わせた授業が行われています。

子どもアイディアコンテストには、全学年で取り組み、高学年ではタブレットをアイディアのサポートツールとして役立てています。どのようにタブレットを活用し、子ども達の成長につなげているのか。そのヒントを探るべく、学校を訪れて授業の様子を見学してきました。

タブレットを使って過去の学習履歴や
思考を見返し
アイディアに反映

子ども達は、タブレットを使ってイラストを描いたり、文字を打ったりすることで、アイディアを見える化していきます。
タブレットでは、過去の学習履歴を容易に見直すことができるので、これまでに学んだことや自分の感想を振り返る中で、アイディアのヒントを見つけていました。

授業中は、タブレットに保存してあるアイディアや集めた情報などを見ながら、友だちや先生と意見交換する姿も見られました。

タブレットのサポートがあることで、思考やアイディアをより具体化したり、広げたりすることが可能になります。

さらに、自宅学習などで情報を集めたり整理することで、学校で得た“気づき”や“学び”を深めていくことができます。

タブレットをアイディア
づくりにどう役立てている?

アイディアをカタチにしやすい

頭の中にあるものを想像通りに外に出すのがむずかしいです。でも、ロイロノートなら、イラストを描く時にも色をたくさん使えるし、文字もきれいに書くことができるので、アイディアを伝えやすいです。
4年生 佐々木 龍さん

わかることが増えて、
アイディアを考えるのが楽しい!

4年生の時に授業でゴミについて学んだことをヒントに、ゴミを拾う機械のアイディアを考えました。
タブレットを使えば、過去から最近のニュースまでいろいろな情報を探せるので、アイディア作りに役立てることができます。自分のわかることがどんどん増えるので、アイディアを考えるのが楽しいです。
5年生 矢藤 望羽さん

「デジタルツールが子どもに与える、
友だちとアイディアを共有し合う喜び」
中川斉史先生インタビュー

コンテストに初めて参加したのは、2014年です。担任のクラスのある児童が、応募したいと申し出てきたんです。彼と一緒に青山でのプレゼンにも参加しましたが、こんな大舞台で発表する気持ちよさを経験できるなんて、子どもにとってきっと大きな学びがあるに違いないと感じました。以来、各学年の授業にコンテスト応募へのプロセスを導入するようになりました。

本校の児童はタブレットを使い、自分の思い描くアイディアをカタチにしていきます。タブレットであれば、自分の学びの足跡を残せる上、自分の意見を整理してまとめ、友だち同士でアイディアや意見を共有し合うことができます。そして、自分のアイディアをさらに進化させることができる。友だちのアイディアや意見を知って自分の学びにつなげることは、彼らにとって何よりの喜びになっているようです。

また一方で、当校では靴の並べ方や手の洗い方、文字の書き方といった非デジタルの初期指導をとても大事にしています。初期指導は子ども達の生活の基礎を構築するものであり、失敗して苦労しながら習得すべきものです。ここを飛ばしては絶対にいけないと考えています。

最初にコンテストに参加した児童は、大学生になり、今は地域の人とプログラミング教室の計画を立てるなど引き続き能力を発揮して地域で活躍しています。本人曰く、コンテストでの経験はすごく活きているそうです。

新しい価値を与えてくれるデジタルツールを活用し、このコンテストに挑戦する子ども達の成長を見るのを、今後も楽しみにしています。

子どもアイディアコンテスト
が、
夢を実現するた
めの“成長の糧”となるように

コンテストを開催してきたこれまでの20年間、Hondaはたくさんの子ども達のすばらしいアイディアの数々に出会ってきました。その間、社会や環境は時代とともに変化し続けてきましたが、子ども達の夢への憧れや情熱はどの時代も変わることがありません。

私達の未来をつくるのは、子ども達です。コンテストが引き続き、子ども達一人ひとりが夢を持ち、創造力と挑戦心をもって夢を実現させていくための成長の糧となることを願っています。

フォトギャラリー

新町小学校と高志小学校
での授業の様子が
朝日小学生新聞に掲載さ
れました。

(2022年7月30日付朝日小学生新聞3面)

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