相撲の街「両国」が全国のロボットづくりに燃える高専生で埋め尽くされた、
2018年11月25日。第31回アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト(通称:ロボコン)が両国国技館で開催されました。
アイデアと発想力で、課題クリアのために考え抜いた「ロボット」を競うコンテストは、毎年テレビ中継もされ、高専生の甲子園ともいわれる晴れ舞台。Hondaは2002年から特別協賛を続け、Honda社員が地区大会から審査員を務めるなど、ものづくりに熱い情熱を持つ、未来のエンジニアである高専生の夢を応援しています。
今年の大会には、全国の高等専門学校57校62キャンパスから計124チームが出場。全国大会へは25チームが進出し、日本一を目指して熱い戦いを繰り広げました。
毎年変わる「ロボコン」のテーマ、今年は「ボトルフリップ・カフェ」。
YouTubeで流行した、ペットボトルをテーブルの上に投げて立たせる「ボトルフリップ」の動画から着想を得て、「ロボットがテーブルを周りながらボトルを投げて配膳して回るカフェ」という、少し未来の設定です。
ボトルを投げて立たせるだけなく、今回は「自動ロボット」、つまり「プログラミング」が課題にプラス。ロボット自らテーブルの位置を把握して移動し、高さを判断してボトルを投げます。自動車でいえば、自動運転につながる現代の技術。今まさに各業界が取り組んでいる高いハードルですが、未来のエンジニアを目指す高専生に相応しい現代ならではのテーマです。高専生も時代の最先端を目指してアイデアを出し合い、日夜課題に挑戦してきました。
昨年までは、高専生がリモコンを操作しロボットを操る姿が印象的でしたが、加えて今年からは自動で動くロボットたちを信じ、祈るように見守る姿へと変化。技術とともに、高専生とロボットたち、ロボコン全体の姿が移り変わってきています。
「ボトルフリップ・カフェ」は2チームが同時に競技を行い、得点が多い方が勝ち抜けるルールです。
用意するロボットは「手動ロボット」と「自動ロボット」の2体。投げられるペットボトルの数は20本。制限時間は2分。テーブルの高さによって点数配分が異なるため、高得点の高さの高いテーブルにたくさん立たせた方が勝利への近道となります。奥にある黄色い土台のテーブルは試合前に相手チームが位置を動かすことができるので、自動ロボットは毎回テーブルの位置をきちんと把握することからスタートしなければならず、この点も難易度が上がる要因となります。
見どころはロボットに込められたアイデアとその実現度。特に自動ロボットの動きはチームのアイデア勝負! 1本ずつ確実にペットボトルを置くロボット、複数のペットボトルを一度に射出して効率よく得点を狙うロボットなど、射出方法もさまざまです。
25校の中からオリジナリティあふれるロボットをピックアップ!
群馬高専は、手動ロボットは縦回転、自動ロボットは射出したボトルがドリルのように横回転しながら飛ぶのがポイント。腕部分を4回転させてからボトルを投げ、上空でくるっと縦に回転して着地する様子は、まさにボトルフリップでした!ボトルの回転へのこだわりが評価され、ワイルドカードとして準々決勝進出。
会場内が歓声に包まれたのは都城高専。彼らのコンセプトは「曲芸師」とのこと。なんと、一度手動ロボットから射出したペットボトルを、自動ロボットのトランポリンで跳ね返して立てるという奇抜なアイデアで会場を沸かせました。
会場の目が点になったのは和歌山高専の「江楠マキナさん」。
和歌山高専は、2体を縦に合体させた、アイデアロボットを製作! その姿は、まるで 「メイドカフェ」で働くメイドさながら。手に持ったトレイに乗せたペットボトルは、下段テーブルに狙いを定め、メイドロボットの頭部が手前に倒れたかと思うと、首元からペットボトルが上段テーブルを狙って発射されました! 斜め上の展開に、会場中が釘付けとなった瞬間です。
“合体ロボット”を高得点に結びつけたのは熊本高専(八代キャンパス)も。なんと、両手に5本ずつペットボトルを持ち、高得点を狙える上段に一気に投げ上げたのです。成功すれば一度に50点の超高得点! 1回戦では見事に成功し、下段の10本と合わせて60点という今大会最高得点をマークしました。
25チームそれぞれの高専生のアイデアと技術を凝らしたロボットが1回戦から準々決勝までを戦い、見事トーナメントに勝ち残った上位4校。いよいよ準決勝へ!
一角獣からヒントを得たネーミング。特徴は射出の自由度。射出システムは1本ですが、射出速度や角度(0.1度単位!)を自由に設定可能。手動ロボットと自動ロボットで同じ機構を使っているのも大きなポイント!
かえるの口からアームが伸びる手動ロボットと、素早く移動して正確に射出する自動ロボットの組み合わせ。シンプルな構造の自動ロボットは速さと得点力を兼ね備え、地区大会では広島商船高専と並ぶ、21秒のスピード記録も。
自動ロボット「Wise」はキリンがモチーフ。16個の滑車とエアシリンダを使った発射機構が自慢!
手動ロボット「Grace」は象をモチーフにしたデザインと発射機構を保持。
手動ロボットと自動ロボットが合体した「Barista」。上段テーブルと下段テーブルに10本ずつ一度に乗せられる大迫力。準決勝では射出ユニットを交換し、優勝狙いのVゴール仕様での登場。
準決勝からはなんとルール変更。2分間で高得点を目指すルールから、全部のテーブルに先にボトルを置いた方が勝ちという、正確性とスピード重視の「Vゴール方式」になります。
一度で高得点を狙うことに特化したロボットは状況が一転し、不利な展開に。果たして、今まで一度に大量得点を重ねてきた熊本高専八代キャンパスはどう対応するのでしょう。いざ試合開始!
香川高専高松キャンパスは地区大会で“21秒”という記録を持っている最速チーム。試合前半、一関高専を大きくリードしたものの、最後の最後で自動ロボットが不調に。その間、一気に一関高専の自動ロボットが追い上げて連続成功を決め、1分12秒でVゴール勝ちを納めました。
ロボットは非常にデリケートなもの。自信があったVゴール方式で敗れた香川高専高松キャンパスの選手がインタビューで発した「悔いはないけど悔しいです」のひとことから、予期せぬ機器トラブルに対する無念さが伝わってきました。
熊本高専八代キャンパスの一気乗せ合体ロボットはVゴール方式には不向きなため、合体はせず、2体それぞれを動かすVゴール仕様に切り替えての登場です。
スタート直後、熊本高専八代キャンパスが素早くリード! しかし試合終盤、2段テーブルの上段にだけ、どうしてもボトルが立ちません。打っても打ってもうまく乗らないさまは、選手の焦る気持ちがロボットに乗り移ったかのようです。やがてボトル切れ。対する函館高専は、失敗を重ねつつも少しずつボトルを乗せていきます。
タイムアウト! 上段にボトルを置いた函館高専が点数の差で勝利。これまで、ほぼすべての試合で満点勝利を収めていた熊本高専八代キャンパスが敗退となり、会場からどよめきが。勝った函館高専からも、思わず「まさかです!」というコメントが出るほど、対戦校としても意外な勝利となったようでした。ロボットの性能だけでなく、コンディションやこなしてきた試合数など、多くの事柄が積み重なって迎える試合は、一筋縄ではいかない展開ばかり。本番一発勝負のおもしろさや醍醐味といえます。
いよいよ決勝戦。一角獣がモチーフの一関高専vs象とキリンがモチーフの函館高専。
両チームとも、この日まで1年間、幾度となく試行錯誤を重ね、チームで話し合い、乗り越え、やっと本大会を迎えました。自動ロボットがどれだけ設計通りにきっちり動いてくれるか、ピリピリと張りつめた空気が流れる、緊張の一瞬です。
スタートダッシュに成功したのは今日一番の動きを見せた一関高専。あれよあれよという間にテーブルを回ってボトルを投じていきます。
なんと、一度の失敗もなくすべてのテーブルに1本ずつボトルを立てて回り、準決勝を大きく上回る30秒のタイムでVゴール勝ち!
仲間とともに、自分たちのアイデアをどう実現するか、チームで夢中になってロボットづくりに取り組んだ学校生活。困難にぶつかったときも、チームメイトや周りのサポートで乗り越えてきました。新しい課題に果敢にチャレンジし優勝を勝ち取った、集大成の瞬間です!
今年の優勝校は30秒でVゴール勝ちした岩手県の一関高専。ロボコンはスポーツと同じように、練習で出せたタイムが本番で出せるとは限らないもの。環境、ロボット、チーム、すべてが万全の状態で重ならなければなりません。決勝で素晴らしいタイムをたたき出した一関高専のクオリティは群を抜いて安定していました。
高専ロボコンでは優勝とは別に、ロボットのアイデアやユニークさ、技術力を加味した「ロボコン大賞」が贈られます。
今年のロボコン大賞は、熊本高専八代キャンパスの「Barista」。
ロボットが合体し、10本のペットボトルを一度に投げ上げる大胆さと高得点のアイデアはすべての観客を惹きつけました。
特別協賛のHondaから贈られる「Honda賞」は、準々決勝で破れはしたものの、現実でも応用可能な動きを保持するロボットを開発した、広島商船高専に贈られました。
受賞理由は「あらゆるテーブル位置に対してロバスト性の高い最適行動生成を行い、高い汎用性を実現した」(役員室執行役員脇谷氏)こと。
出場校の中で唯一、広島商船高専はすべてのテーブルに同じクオリティで乗せられるという汎用性を持っていたのです 。ロボットが正確な距離情報を得られるLRF(レーザーレンジファインダー)を使って高さの違うテーブルの位置をスキャンし、最適なルートを計算して行動するという、他にも応用が効く技術を採用、実現した点が高く評価されました。
広島商船高専のメンバーは全員5年生。1年時からロボコンに取り組み、着実にスキルアップしてきました。2年前の地区大会決勝敗退という苦い経験を糧に、今回初の全国大会出場。全員が一丸となって制作し、見事Honda賞とアイデア賞のW受賞!
幅広い知識が必要となるロボット作りは、個々が持つアイデアをどうやって実現するか、チームワークが重要。リーダーの河野さん、内田さんが機械部分を、電気や電子の制御面は一場さん、渡邉さんが担当しました。それぞれ担当の分野を持ち、綿密な打ち合わせやコミュニケーションを重ねてようやくロボットが完成したのです。
1年生のときからロボコンをやってきて、今回初めて全国大会に出場できました。Honda賞をもらえるとは思ってなかったのでうれしいです。今年は今まで手がけたことがない自動ロボットが加わったので、どうやって実現するか、アイデアが多くでた中で、今回のシステムができました。ロボコンは自分を熱くしてくれる、これが一番の魅力です。将来は車などメカ系の設計士を目指しています!
制御面を担当しました。自動ロボットのノウハウは全然無かったので、経路の計算やロボットの自己位置の推定などは論文などにあたってイチから勉強しました。今回はロボットから送られたテーブルの位置を使ってコントロールステーションで現在地からの最短ルートを計算するので、どんな配置にもどんな位置からのスタートにも対応できます。ロボコンの一番の魅力は、自分でアイデアを考え、設計して作ったものが動くことですね!
10年くらいロボコンを担当していますが、初めて全国大会に出られました。学生には基本を知っておかないと新しいものは作れない、と指導しています。彼らは1年時から基礎的なこと、旋盤の操作など何でもやってきて、いつしか難しいこともできるようになりました。3年以降は安心して見ていましたね。チームでのロボット製作ですから、技術があってもひとりでは何もできない、他人と関わらないと仕事は進められないことは分かっていると思うので、うまく協調しながらどんどん新しいものを作っていって欲しいと思います。
観戦して気になったのはロボットが投げるペットボトルの中身ではありませんか? ボトルは各チームが用意し、500mlサイズ以上、350g以下であれば自由。ただし、重しとなる個体を底面にくっつけるのはNG。ボトルを倒したときの動きと一緒に、内容物も動かなければなりません。液体、輪ゴム、鋳物で使う砂と水などもありましたが、多かったのは、ビーズ状の消臭剤。手ごろな価格かつ、カラフルさや適度な重さが人気だったのでしょう。
長年続いている大会ですが、付け焼き刃ではなく、深く技術に入り込み、ロボットに置き換えているのを見て、高専生の意識の高まりを感じました。
特に今回は、AIや行動生成を含む、最先端のテクノロジーが実際に使われていて驚いています。彼らは予算や時間やメンバーといった限られたリソースの中で勝負しています。リソースがない中で勝負するにはアイデアしかないため、高専ロボコンはエンジニアリングマインドの原点を再認識する良い機会です。
Honda賞は、自動ロボットの行動生成のプランニングが決め手となった広島商船高専。すべてのテーブルに同じクオリティで乗せられるという汎用性があり、現実に応用できるリアリティを持っていました。
Hondaが高専ロボコンの特別協賛をはじめて16年。協議成立性へのアドバイスや大会への審査員派遣も積極的に行ってきました。
将来、日本を背負うであろうエンジニアとなる高専の学生は、Hondaのものづくりの精神や「人の役に立ち、人間社会の生活を豊かにする」という目標を受け継ぐ人たち。
ロボコンは、飛び抜けたアイデアだけではなく、自身のアイデアを具現化する工夫と発想力で勝負できる良い機会です。これからもぜひ挑戦し、エンジニアとしての熱いパッションを持ち続け、将来の社会づくりに活かされることを待ち望んでいます。
Hondaは、若きエンジニアたちがより自身を高められるよう、今後も高専ロボコンを通して夢の応援を続けていきます。