2020年4月7日、7都府県に緊急事態宣言発令、16日には対象が全国へと拡大された。長野高専は4月11日から臨時休校。「高専ロボコンは開催されないだろうと思って、ひどく落ち込んでました」とロボコン部の3年生・宮川玲成さんは当時を振り返る。そして6月、高専ロボコンの開催が発表。不安も残す中、制作は始まった。
6月、今回の競技課題「だれかをハッピーにするロボット」をテーマにアイデア出しをスタート。まず決まったのが「長野にしかできないテーマを選ぼう」ということ。コロナが暗い影を落とす地元を少しでも明るくできないかと考えた。
長野県について調べていく中で、長野県御代田町の伝統祭事「信州御代田龍神まつり」がコロナ禍で中止になったことを知った宮川さんたちは、「祭りができなくて残念に思っている人たちをハッピーにしたい」と決心。7月中旬、宮川さんをリーダーとする長野高専Dチームは、祭りの目玉である「龍の舞」を再現するロボット「どんちゃか龍舞」の製作を決めた。
8月3日から再び学校が休校に。メンバーたちは自宅での活動を余儀なくされ困難にぶつかる。不十分な製作環境だ。学校からボール盤(木材や金属素材に穴を開けたりする工作機械)や3Dプリンタ、工具などをメンバーの家に移すも、学校で行うようにはスムーズにいかない。「学校って恵まれた環境だったのだと改めて気付きました。家で部品を加工する際は、設備が不十分なので時間がかかったり、近所に騒音で迷惑をかけないか気にしたりと大変でした」と、メンバーの柄澤さんは学校のありがたさを痛感していた。
さらに、自宅での活動は、メンバー間の意思疎通を難しくした。改善のために取り組んだのが、オンラインミーティングだ。休校中、平日は16時まで遠隔で授業が行われており、それ以降がロボコン部の活動時間。最初に全体ミーティングを行い、その後に作業班ごとにミーティングを実施。オンラインに繋いだまま作業に取り掛かり、気になったことや気付いたことをすぐ共有できるようにした。
ロボット製作は声だけでは伝わらないことが多い。ビデオ通話も取り入れ顔を見ながらコミュニケーションを行うことに。表情を見ると、相手の反応や、きちんと伝わっているかが分かり、やりとりもスムーズに。「会えないことで、コミュニケーションの大切さに気付くことができた」とメンバーは口を揃える。活動場所は離れていても、気持ちをひとつにして取り組んだロボット製作。遂に「どんちゃか龍舞」は完成の日を迎えた。
モチーフは、「信州御代田龍神まつり」に登場する全長45mの龍。2m40cmのサイズで再現した龍をロボット4台で、龍を先導する玉をロボット1台で動かし、見事な龍舞を披露する!「動きも装飾も細かいところまで拘っています」と長野高専ロボットチームは胸を張る。
コロナ禍の休校を経験し、「大会当日にみんなが集まれない可能性もあるのでは」と不測の事態を想定。「だったら自宅から遠隔操作できるロボットにしよう」と、ピンチをチャンスに、発想に転換。生み出したのが、自宅からインターネットを経由して、離れた場所にあるロボットを遠隔操作するというアイデアだ。
大会当日、メンバーは長野県内4箇所(長野市、長野高専、佐久市、松本市)から、千曲市にあるロボットを操作し、見事な舞を披露。各ロボットごとにサーバーを立て、操縦者のパソコンからデーターを送信してロボット内の機器を制御している。
実際の祭りと同じように、玉ロボットの動きに合わせて舞う龍。5台のロボットが連携するとこで上下左右のダイナミックな動きを実現している。また、実際に祭りで披露される"とぐろを巻く"という動きも、試行錯誤の末に見事に再現!
「地元の方に喜んでほしい。そして祭りを全国の人に見てほしい」。そんな熱い想いから、御代田町役場、祭りを運営している「信州御代田龍の舞保存会」、龍神まつりの演奏をしている「鼓響」などに電話やSNSで連絡し、龍の製作への協力を依頼。たくさんのアドバイスや写真資料をもとに、材料から構造まで本物をできるだけ再現した。例えば、頭部はスタイロコーム(発泡プラスチック系の断熱材)を削って外形を作成。回路を入れて発光させる目から、ひげ、角まで本物をよく観察し製作している。ロボットが着る法被も本来の祭りで使われる柄に。操縦者のいる場所のシンボル(長野市は善光寺、佐久市は白樺、松本市は松本城、長野高専は校章)がモチーフの装飾を追加した遊び心もニクい。
地元の祭りを再現することで、多くの人にハッピーを届けた長野高専ロボコンチーム。「祭りは、参加している人も、近くで見ている人も楽しい気持ちになれるものだと思います。初めは龍の迫力に魅せられたのがキッカケでしたが、その後の御代田町の方々との交流を通して、できるだけ本物の龍舞に近づけたいという想いがどんどん強くなりました」と、メンバーたちはロボットに込めた想いを教えてくれた。
祭り関係者の協力によって、格段に再現度を高めた「どんちゃか龍舞」。例えば、「龍を先導する玉があった方が良い」というアドバイスを受け、追加製作。より本物へと近づいた。「『どんちゃか龍舞』には私たちだけでなく、龍神まつりに携わる全ての方々の期待が込められているのです」と長野高専ロボコンチームは胸を張る。
また、地区大会や全国大会では、保存会がzoomで応援に参加し、温かい声援でパフォーマンスを後押し。さらに、地区大会終了後には「とても素晴らしい演技だった」「龍神の動きが本物さながらでした」「全国大会でも頑張ってほしい」というメッセージと共に、保存会会員しか持てない絵馬が贈られた。全国大会では、この絵馬をロボットに付け、より再現度を増してパフォーマンスを実施。「反響が大きく、地元の方にハッピーになってもらえたと実感できました。実は直前にタイヤを回すモーターが動かなくなるトラブルが発生したのですが、なんとか修理して100点満点のパフォーマンスをできました。私たち自身ももちろんハッピーです!」と、長野高専ロボコンチームは充実感いっぱいの笑顔を見せてくれた。
祭り関係者や行政との連絡を担当した新村さんは、「龍舞の再現も関係者への協力依頼も、最初は“本当にできるかな”と思いながらやっていましたが、結果、Honda賞を受賞することができました。諦めずに突き詰めてやれば良いものができると実感したロボコンでした」とコメント。本大会はコロナ禍、不十分な製作環境、短い製作期間など、多くの困難に見舞われたが、諦めない心、さまざまな工夫、確かなチームワークで乗り越えた経験が、彼らを大きく成長させたに違いない。
さらに、ロボット製作を通して、地元への愛着も強くなったという長野高専ロボコンチーム。2021年は「信州御代田龍神まつり」に参加することはもちろん、「どんちゃか龍舞」の遠隔操縦を会場で披露させてもらうことを目指しているという。
今回のロボコンでは、メンバーが集まれない状況下で活動する中で、お互いに対話しながらロボットを製作することの重要性を改めて感じました。SNSで連絡するより、オンラインミーティングで顔を合わせながら話し合ったほうが言いたいことがうまく伝わります。オンライン形式のロボコンを通して、チームが大きく成長できたと思います。そして私自身、どういう状況・環境でも動かすことができるロボットを、これからもつくっていきたいと思いました。
リーダー3年/宮川 玲成さん(担当: チーム統括・回路)
ロボコンを通して、ひとつの目標に対して一丸となって達成しようとすることの面白さに触れました。来年もロボコンを続けようと思うので、その時に後輩にしっかり引き継げるようにがんばることが今の目標です。
3年/新村 奨さん(担当:玉ロボットの操縦・まつり関係者への連絡)
今まで長野高専のロボットは外装にこだわったものは少なかったのですが、今回こだわってみたことで奥深さを感じ、自分は芸術の分野が好きなのだと再確認できました。今後のものづくりに発展させていくことが今の目標です。
3年/横田 春輝さん(担当:龍神の外装)
今回のロボコンは自宅での製作などを経験したことで、“普段”の環境のありがたさに気付く機会になりました。そして、困難は工夫で乗り越えられることも分かりました。3年間で学んだ技術を、今後さらに磨いていきたいです。
3年/柄澤 亮文さん(担当:龍神の頭の操縦・設計・加工)
私にとってのロボコンは、モノづくりの“楽しさ”や“奥深さ”を見つけられる大切な場所です。来年は大学に進学するので、そこでさらに多くの知識を身につけ、機械の設計の仕事に就くことが私の夢です。
5年/日台 智己さん(担当:機構の設計・組み立て)
ロボコンは人生を豊かにしてくれるもの。アイデアやロボットを作る過程など、常に新しいものを見せてくれます。私はまだ夢を見つけられていませんが、ロボコンで夢を見つけるキッカケもつくれたらいいなと思っています。
2年/内藤 さくらさん(担当:龍神の操縦・プログラム)
今回のロボコンで、ビデオ通話というツールの有効活用性を感じ、将来、役立てられたらいいなと思いました。当面の目標は、後輩にいろいろと教えられるぐらいに自分も技術をしっかりと身につけることです。
2年/山浦 智秀さん(担当:通信プログラム・龍神の操縦)
初参加のロボコンはコロナの影響で例年と違う形式になり不安でしたが、先輩たちの対応が早く、やりきることができたので良かったです。将来の夢はまだ決めていませんが、好きなロボットをずっと作っていきたいです。
1年/渡辺 泰一さん(担当:龍神やロボットの外装)
私はロボコン部に入りたくて高専に進学しました。今やロボコンは私にとって生活の一部。授業が終わると「さあ、ロボコンだ!」ってテンションが上がります。自分のつくりたいロボットをつくることが私の夢です。
1年/間淵 節さん(担当:龍神の操縦・外装)
今年は例年と違い、学生が個々で活動する時間がとても多く、夏休みの登校停止中にいつの間にかロボットが完成していて感心しました。御代田町の龍神まつり関係者の方への連絡も学生が自主的に行いました。今大会の結果は、学生自身の努力の成果です。その姿から私自身も常に刺激を受けており、教員としてがんばっている姿を見せなければと思っています。コミュニケ―ションの重要性をコロナ禍で再確認できたことは大きかったと思いますので、それを活かして今後もがんばってほしいです。
顧問/山田 大将 先生
さまざまな困難に直面しながらも、本物の龍神まつりを再現することに挑戦し、
見事に成し遂げた長野高専Dチームのメンバーたち。
原動力となったのは、「地元の人たちをハッピーにしたい」という真っ直ぐな想い。
その姿は、技術は人を幸せにするためにあるということを改めて教えてくれた。
彼らはこれからも夢のチカラで多く人たちを幸せにしていくことだろう。
Hondaは、これからも夢を追い続ける未来のエンジニアたちを応援してまいります。