今年からはICVクラスとEVクラスが独立して競う形式に! それぞれのクルマづくりに挑む学生たちの姿を追う 学生フォーミュラ2025

今年からはICVクラスとEVクラスが独立して競う形式に! それぞれのクルマづくりに挑む学生たちの姿を追う 学生フォーミュラ2025

全国の学生たちが
レーシングマシンを自作!

クルマづくりの総合力を競い、モノづくりへの情熱を
ぶつけ合う「学生フォーミュラ」
学生たちがレーシングマシンを自作し、
クルマづくりの総合力を競い合うのが
「学生フォーミュラ」だ。
1年間で厳しい安全基準とコスト条件に
適合する車両をつくる過程で、
幅広い技術や知識を
身につけ、実践的なモノづくりを経験できる。
Hondaではエンジンやモーター、インバーターなどの
パワーユニット提供を行うほか、
技術的な支援もサポートしている。
7月にもてぎで行われた試走会と、
日本大会における熱き戦いに迫った。

試走会に密着!

大会を想定したコースで
マシンをチェック

大会の約2カ月前となる7月6日、「モビリティリゾー
トもてぎ」において試走会が開催された。

早い段階で周回コースの走行機会を提供し、
車両の走行テストやドライバーの習熟を図り、
マシンの精度を上げていくのが目的だ。
会場には大会のエンデュランス競技を
想定した
周回コースが設けられ、EVクラス4校、
ICVクラス8校の計12校が参加。
マシンの状態をチェックしてはピットに戻り、
整備や調整を繰り返してマシンの完成度を
高めていた。

ICV と EV

異なる技術を求められる
クラスでチャレンジをする

2003年から公益社団法人自動車技術会主催で
「全日本学生フォーミュラ大会(現学生フォーミュラ
日本大会)」がスタート。
今大会からはICV(ガソリンエンジン車)クラスとEV
(電気自動車)クラスがそれぞれ独立して
競う形となった。
それぞれ求められる技術が異なるからこそ
エンジニア魂が刺激され、
学生たちのチャレンジに
繋がっている。今回は、ICVクラスにエントリーしてい
る日本工業大学、
EVクラスにエントリーしている
横浜国立大学のメンバーに話を聞いた。

FORMULA FRIENDS OF N.I.T.

日本工業大学

「実工学」を教育理念に掲げる大学らしく、選択科目の一つとして学生フォーミュラ活動を取り入れ、単位も取得できる。2024年度の日本大会では総合6位を獲得し、3年連続で総合順位一桁を達成。
日本工業大学 リーダー森家 隆斗さん
日本工業大学 リーダー
森家 隆斗さん
全員が製作者となり、
今大会で目指すは総合3位

私たちのチームは明確な役割分担を設けず、全員が車両製作や静的審査の資料作成に関わる体制を取りながら「高内製率車・全員製作者」「全種目完遂・完走」「車両性能の更なる改善」を方針に活動しています。

今年はコスト、効率での1位、エアロレス車両でのスキッドパッド1位、ICVクラスでの
総合順位3位を目標としています。車両の基本構想を1983年にホンダが発売したバラードスポーツCR-Xの軽量・コンパクトなコンセプトにならった「バラードスポーツ
スピリット」とし、フレーム構造の見直しやオイルパンの自作により、昨年のマシンより約30mmの低重心化と10.7kgの軽量化を図りました。

現在の課題はメンバー間のコミュニケーションや情報共有不足で、それを解消するために毎日のミーティングや作業中の相談、データの即時共有、懇親会などを通じて改善に取り組んでいます。

ステアリングに課題はあれど、順調に周回
ステアリングに課題はあれど、順調に周回
ステアリングに課題はあれど、順調に周回
ステアリングに課題はあれど、順調に周回 ステアリングに
課題はあれど、順調に周回

今回の試走会では、ピットでマイスタークラブ(※)に走行前点検を受けた際、サスペンションのボルトの長さ不足を指摘されたり、ブレーキテストが一発合格にはならなかったなどの問題がありましたが、すぐにリカバーして走行に臨むことができました。

今回の試走会ではドライバーのコース走行習熟と、様々なデータの取得に注力し、それをもとに今後のセッティングを詰めていく計画です。その結果、ステアリングが重いという課題が浮き彫りになり、周回を重ねるにつれてドライバーの疲労が蓄積してタイムが落ちる、という問題が明らかになりました。

しかし、全体としては順調な仕上がりで、今後はジオメトリの見直しなどで改善を図ります。サスペンションに関しては、昨年よりコーナー進入時の
回頭性が高まっていて、ロール量も少なくタイヤの食いつきも問題ないなど、良い面も確認できました。今後は効率1位に向けて燃調マップの熟成も
進めていきたいと考えています。

(※)マイスタークラブ
次世代を担う若者たちにモノづくりの楽しさを伝え、教育の実践の場と機会を提供する目
的で結成された、Honda OB による技術屋集団。

YNFP (yokohama national univ. formula project)

横浜国立大学

2005年より大会に参加し、ICVで着実に成果を出した。
2021年大会からEVクラスに転向。以来試行錯誤が続くが、
総合大学の強みを活かし、理系・文系問わず幅広い人材を
集めた4年生2人、3年生4人、2年生4人に1年生13人を
加えたチーム構成で着実なマシンづくりを目指す。
横浜国立大学 リーダー鈴木 瑛介さん
横浜国立大学 リーダー
鈴木 瑛介さん
堅実な設計で「誇れるマシン」をつくる

今年度のチーム目標は「ノーペナルティでオートクロスまでの競技を完遂すること」。
2021年にEV化して以降、なかなか動的審査への進出が果たせず、また、静的審査の準備不足によって満足のいく成果を出すことができませんでした。そこで今年は、静的審査での減点をなくし、オートクロスでの走行データを今後の開発に活かすことを重視し、着実に成果を出すことを目指しています。

また、「誇れるマシンをつくる」という理念のもと、メンバー全員が自信を持てる経験を得ることも目標のひとつ。軽量化よりも確実な車検通過を優先した堅実な設計とし、EV特有のトルクや低重心性、優れた車両応答性を活かしています。その上で、見る人も乗る人も「あの重さで、こんなに軽快なのか」と思わせる「重さを感じさせないEV」マシンを掲げています。

課題はEV制御に関する技術継承が上手くできていないこと。電気に詳しくないと、設計や製作に関わりにくく、踏み込めないメンバーもいます。そのため、シャーシ班やパワートレイン班という垣根をなくしたり、はんだ付けなど簡単な作業を通じて、誰もが自然と電子工作に関わる環境づくりに取り組んでいます。

トラブルを克服し、数年ぶりにもてぎ試走会でコース走破!
ステアリングに課題はあれど、順調に周回
ステアリングに課題はあれど、順調に周回
トラブルを克服し、数年ぶりにもてぎ試走会でコース走破! トラブルを克服し、
数年ぶりにもてぎ試走会で
コース走破!

今回の試走会での最大のトラブルは、基板の設計ミスにより、当初マシンの
モーターが動かなかったことです。故障箇所の特定や代替策の検討に時間を要し、予備の基盤も持っていなかったため、回路をバイパスさせるなど現場で対応に追われました。

結果、ほとんど走ることはできない試走会となってしまいましたが、計画どおり試走会前にシェイクダウンを完了させたり、集合時間厳守やタイム
スケジュールの徹底など、マネジメント面での進歩がありました。今年の
チームをスタートするにあたり、やりたいことやモチベーションについて
徹底的にメンバーと討論したんです。それが実を結んだのか、この試走会では各自が積極的に他チームの走行データやタイム計測をするなど自ら動いていました。

走行はできなくても学びは得られた、と実感しています。ギリギリで修理を終え、最後の10分で1周だけコースを完走できたことも、大会に向けての大きな励みです。

教育者から見た学生
フォーミュラ

日本工業大学 チームFA 中野 道王 教授
日本工業大学 チームFA
中野 道王 教授

クルマという製品をつくる、
という意識を大切に

学生フォーミュラはモータースポーツではなく、あくまでクルマを通じてモノづくりを学ぶ場だと考えています。教育的な観点において特に素晴らしいと感じるのは、技術を学ぶだけでなく、モノづくりの難しさと喜び、チームワークなどを学べるとともに、自己の立ち位置を客観的に見つめる力が育まれることです。

大学の実習ではPDCAサイクルを十分に回すことは難しいのですが、学生フォーミュラでは活動の中で何度もPDCAを回すことが求められます。これにより、単なる形作りから脱皮し、高い性能を追求する本格的なモノづくりの体験ができます。さらに、メンバーと協力して大きな目標に向かって互いに切磋琢磨する過程で、社会性や
協調性が養われるとともに、メンバーと自分の個性や特技などが浮き彫りになることで、自分を客観的に見る力が向上します。また、他チームとの競争によって自分たちのチームの実力や課題を実感し、謙虚で広い視野を持つこともできます。これにより、自己評価が現実的かつ地に足のついたものになり、エンジニアとしての成長が促進されると考えています。

本学のチームでは、メンバーごとの役割を固定せず、ドライバーであっても日々の車両製作に取り組みます。それにより、様々な問題を他人事ではなく自分事として考えることができるようになり、マシンへの愛着と責任感が高まると考えています。学生フォーミュラにおける全種目完遂・完走とは、ユーザーが最後まで愛着を持ちながら安心して使える製品をつくることに相当します。そのことを忘れずに、大会での完走を目指してもらいたいと考えています。

※FAとはファカルティ・アドバイザーの略で、学校代表としてチームの指導・監督をする責任者のこと

横浜国立大学 チームFA 赤津 観 教授
横浜国立大学 チームFA
赤津 観 教授

自己の成長に役立つ、
さまざまなことが学べる場

私は電気工学が専門ですが技術的な指導をするというよりも作業のスケジュール管理や分担の重要性を指導するなど、チームの組織づくりを重視しています。学生たちには自主性を発揮してほしい、ただ座っているだけの時間をなくし、積極的に行動するようにといつも言っています。単なる技術的な知識だけでなく、問題解決能力やチームワークの重要性を学んでほしいんです。

今回の試走会でも基盤のトラブルがありましたが、スペア部品やバックアップを準備することの大切さを学んだはずです。学生
フォーミュラは教育的に非常に価値があると考えます。モノづくりの実践的な経験ができること、異なる役割を持つ仲間と共に活動することでチームワークや協調性を学べること、そしてスポンサーやOBを通じて社会とのつながりを感じ、自己の立場や責任への理解を深めることができるのが大きな魅力です。これは他の学びでは得られない貴重な体験です。

学生には大会を通じて「自分がどんな貢献をしたか」「何を得たか」をきちんと整理して、成長に役立ててほしいと思っています。

※FAとはファカルティ・アドバイザーの略で、学校代表としてチームの指導・監督をする責任者のこと

学生フォーミュラ2025
日本大会レポート

詳細はこちら

国内外から83チームが参加!

クルマづくりに情熱を燃やした13,306人の6日間学生フォーミュラ日本大会
2025

日本工業大学 チームFA 中野 道王 教授

参加チーム数、会場来場者数は過去最高!

活気・熱気にあふれた2025年大会

9月8日(月)から13日(土)の6日間にわたり「学生フォーミュラ日本大会2025」が開催された。
会場はAichi Sky Expo。昨年度大会を8チーム上回る83チームが国内外から参加し、
クルマづくりに情熱を燃やす学生たちが熱戦を繰り広げた。

今大会からICV(ガソリンエンジン車)クラスとEV(電気自動車)クラスがそれぞれ独立して競う形となった。
ICVには国内54チーム、海外4チームの合計58チームが参加。
EVには国内18チーム、海外7チームの合計25 チームが参加した。

会場には、6日間で延べ23,491名もの人たちが来場。
昨年に比べ約3,500名も増え、熱戦を繰り広げる学生たちへの応援は過去最高の盛り上がりを見せた。

今大会で特に印象的だったのは、参加チームのレベルの高さだ。83チーム中、車検に合格したのは64チームで、その数は昨年度大会の実績(48チーム)を大きく上回った。さらに、リタイアするチームも多い過酷な動的審査「エンデュランス」は45チームが見事完走。この結果も昨年度大会の実績(29チーム)を大幅に超えており、今大会のレベルの高さを物語っていた。

過去最高数のチーム、来場者が集い、クルマへの情熱をぶつけ合った6日間。 ICVクラスは京都工芸繊維大学が総合優勝を果たし、大会史上初の4連覇!EVクラスは名古屋大学が総合優勝に輝き、3連覇を達成して幕を閉じた。

「次はもっと高みへ」――喜びの涙を流したチームも、悔し涙を流したチームも、その視線はすでに来年大会を見据えている。

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ICV 総合順位 EV

ICV クラス - 10位まで -
EV クラス - 10位まで -

日本大会を終えた今、
学生たちが思うこと

FORMULA FRIENDS OF N.I.T.

日本工業大学

全員で知恵を寄せ合い
問題を解決するチームを目指す!
日本工業大学チーム  リーダー森家 隆斗さん
日本工業大学チーム リーダー
森家 隆斗さん

今大会を振り返って

今年度のチームは、情報の共有不足やレギュレーションの読み込みの甘さ、スケジュールの遅れから様々なトラブルを引き起こしていました。そのため大会前に十分なテスト走行と調整を行えず、これまで9大会連続で達成してきた「完走」を自分の代で途切れさせてしまう可能性があることへの不安と、これまでの行動への後悔を抱きながら大会へ臨みました。車検はなんとか4日目に通過できましたが、エンデュランスはプラクティスの時間を取れなかったこともあり、1周目にスピンしてしまいました。祈るような思いで走行を見守っていたので、最終ラップを走り切る姿を見たときには安堵の気持ちが一気に押し寄せてきました。一方で、「本来であればもっと良い記録を残せた」という悔しさも感じ、複雑な気持ちで大会を終えることとなりました。

全員で知恵を寄せ合い問題を解決するチームを目指す!

来年への抱負

今後は、チーム全員で情報を共有し、各メンバーが当事者意識を持ち、知恵を寄せ合い問題を解決するチームを目指します。また、メンバー全員が自分の作業に責任を持って取り組みつつ、「何か間違いがあるのではないか」と疑う姿勢も大切にし、レギュレーションの見落としや勘違いを起こさない設計・製作を追求していきます。

全員で知恵を寄せ合い問題を解決するチームを目指す!

YNFP (yokohama national univ. formula project)

横浜国立大学

メンバー全員の自発的な情報発信と
献身的な働きでピンチを乗り越え完走!
横浜国立大学チーム  リーダー鈴木 瑛介さん
横浜国立大学チーム リーダー
鈴木 瑛介さん

今大会を振り返って

大会を振り返ると、「チームみんなのおかげで、ギリギリやり切れた」という気持ちです。実は、会場でモータ不動になってしまったのですが、チーム内に「もうダメだ」という雰囲気が生じることは一切なく、マネジメント班を中心に「何をすれば走るのか」「時間内に車検突破するための優先順位は」などのタスク管理と情報共有が徹底され、その結果、目標だった「4日目の午前までに車検通過」を達成できました。メンバーの自発的な情報発信と献身的な働きに助けられ続けた大会だったと感じています。中でも、パワートレイン班は1年間の試走会を通じて、トラブルが発生してから原因を究明して対応するまでのスピード感が見違えるほど向上しました。今大会でのモータ不動の時も、車検をこなしつつ半日程度で問題箇所を特定して、それを自分たちで抱え込まずチームに共有し、学内OBなど周りの人にも助けを求めて時間内に解決してくれました。

メンバー全員の自発的な情報発信と献身的な働きでピンチを乗り越え完走!

来年への抱負

私は今年度でチームリーダーを引退しますが、後輩たちのやる気は高く、「今年度、ようやく大会で出走できるEVマシンを完成させられたので、積み重ねた努力を無駄にしないように今後も取り組みます」と意気込んでいます。

全員で知恵を寄せ合い問題を解決するチームを目指す!