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ホンダモビリティソリューションズが創る新しいモビリティサービスの形とは?(前編)
日本は一人あたりの自動車保有台数が世界トップクラスである一方、その稼働率は5%を切っており、その改善が望まれる状況にあります。
現在ホンダモビリティソリューションズはその課題解決策の一つとして、オファー型の車両マッチングサービスの事業化を検討しています。
今回の記事は、同タイトルで行われたオートモーティブワールド2024での講演をもとに、ホンダモビリティソリューションズの新事業について、前編・後編に分けてご紹介。
前編では、経済合理性だけでなく、環境負荷低減や人々の自由な移動の喜びにもつながるこの新たなモビリティサービスについて、その想いや展望、技術的な課題などを語ります。
Profile
ホンダモビリティソリューションズ株式会社
第2ソリューション部部長
佐久間 俊輔
2008年3月慶應義塾大学卒業。三菱UFJリース(現.三菱HCキャピタル)、日本政策投資銀行、三菱商事を経て、2021年ホンダモビリティソリューションズ入社。カーシェアを始めとしたモビリティサービスの事業開発を担当。専門領域はアセットビジネス、販売金融。
経済合理性と自由度の両方を満たすモビリティサービス
ホンダモビリティソリューションズ(以下、HMS)は、日本におけるモビリティサービス事業の企画・運営を行う会社として2020年に本田技研工業により設立された会社です。
ミッションステートメントは「移動を変え、日常を変え、未来を変える」です。
現在は、GM、クルーズ社との協働による自動運転タクシー事業の企画開発、カーシェアを始めとしたモビリティサービスを展開するEveryGo事業、電動化に貢献するソリューション開発を行うEVソリューション事業という3つが大きな柱となっています。
「Hondaは昨年度からThe Power of Dreamsというブランドスローガンに加えて、How we move you. CREATE, TRANSCEND, AUGMENTというサブスローガンを打ち出しています。
Hondaとして夢見るモビリティをCREATEし、それにより時間や空間の制約から人を開放するTRANSCENDと、人のあらゆる可能性を拡張するAUGMENTの2つのインパクトをつくる。
それが原動力となり、夢の力であなたを動かしていくということを表現しているのですが、私たちはTRANSCENDの観点において、モビリティサービスにより時間的・経済的・物理的・地理的な制約から開放し、自由な移動の喜びを多くの人々に届けるということを実践していきます」(佐久間)
このTRANSCENDを実践するためには、現状どのような制約があり、どんなモビリティサービスが求められているかを考える必要があります。
都市部における交通手段を経済合理性と自由度の2軸で考えた場合、自家用車やタクシーなどのパーソナルモビリティは自由度が高いものの、経済合理性は低いと考えられます。
一方、電車やバスなどの公共交通機関は経済合理性が高いものの、自由度は低くなってしまいます。
これとは別に日本が抱えるモビリティ課題がもう一つあります。
日本は先進国の中で、一人あたり車両保有台数がドイツの次に高い国であるのに、時間単位で見たときの乗用車の稼働率が5%を切っているということです。つまり、自動車にあふれているにもかかわらず、そのほとんどが活用されていないということです。
この点について、佐久間は次のように語ります。
「バブル経済崩壊後、銀行がお金を貸さずお金が出回らないから景気が良くならないという銀行の貸し渋りが社会問題となりました。これをモビリティに置き換えると、車が稼働しないから社会全体の移動効率が悪くなっていると言えるのではないかと考えています」(佐久間)
この現状を踏まえると、高い経済合理性と高い自由度の両方を満たすものが、これからの社会に求められるモビリティサービスであると言えます。
この領域では、昨今多くのモビリティサービス会社が参画し、カーシェアリングやマイクロモビリティシェアリングなどを提供。
徒歩・自転車で移動していた人がマイクロモビリティシェアに流れていたり、自家用車を持っていた人がカーシェアに流れたりと、既に行動変容は起きています。
HMSのEveryGo事業もこの領域に位置しているのですが、佐久間は次のように補足します。
「私たちは“日本における乗用車の稼働率の向上”と“公共交通機関では得られないパーソナルモビリティならではの体験価値”という観点に着目し、新たなモビリティサービスの企画開発に現在注力しています」(佐久間)
車を使いたい人と使っていない車をマッチング
HMSがこれまで展開してきたモビリティサービスは、カーシェア事業のFCモデルを除けば、メーカーから車両を仕入れ、モビリティサービスプロバイダーとなってユーザーに車両を貸渡しするモデルです。
しかし今後は、従来のモデルは継続しつつ、オーナーが車両を利用していない時に他の人に貸し出しができる仕組み、モビリティマッチングプラットフォーム事業への参画を検討しています。
「都心などでクルマを維持管理しようとすると、駐車場代や保険・メンテナンス代などがかさみます。しかし、マッチングプラットフォームが提供できれば、車を所有する方々はシェアリング収入を得ることで、維持管理費を抑えることができるというメリットがあります」(佐久間)
HMSではすでに地方自治体との実証実験を進めています。
自治体の持つ公用車を対象として、不稼働の時間帯にカーシェアとして民間開放。
自治体としては車両管理コストの適正化を図りつつ、近隣住民の交通利便性を向上させるというものです。
公用車の台数適正化やカーシェア機能、さらに電動化が進んだ後にはEV最適充電も合わせてワンストップで運用・管理ができるソリューションを企画しています。
なお、事業化する際には、自治体だけでなく、一般法人に向けた展開を考えており、「法人の自動車利用に関わるCO2排出と費用の最小化」をミッションとしています。
「顧客価値としては、車両費の削減、効率的な脱炭素促進、EV充電の手間・コスト削減、地域の脱炭素・交通利便性の向上といったところをめざしていますが、まずはICE車両で始めつつ、EV時代へのトランジションも見込んだ段階的な事業展開を考えています」(佐久間)
パートナーとの共創も視野に課題をクリアしていく
車両費の削減で重要になるのは、車両台数の適正化です。
法人の場合、部署ごとに車両を保有・管理しており、その稼働率がまちまちであるケースが少なくありません。
そこで部署ごとではなく、車両を一元的に管理する仕組みとして予約システムを提供。
車両が必要となる時間帯などのデータを収集することで、過剰な車両を削減して台数の適正化を図っていくことが可能です。
「私たちは車両台数を削減して、ただコスト削減をするだけでなく、不稼働時には他のユーザーにカーシェアとして車両を開放するところまでをサービス化したいと考えています」(佐久間)
上述した個人間で利用するマッチングプラットフォームと同様に、法人のお客様もカーシェア収入を得ることができるほか、カーシェアの車両台数・ステーション数が拡大することで社会としての移動効率の改善にもつながります。
車両を使うユーザーから見た使いやすさUI/UXも重要です。HMSではオファー型(リソースマネジメント型)の最適配車アルゴリズムの実現を検討しています。
具体的には、ユーザーがスマホで車両の利用ニーズをまずシステムにインプット。
システム側では利便性、環境負荷、コストなどの複数のファクターを勘案して、インプットされた車両利用ニーズに対して、たとえば環境観点でEVを当てられないか、コスト観点でカーシェア車両を当てられないか、EVが充電されていない場合には利便性の観点でガソリン車を当てるべきかなどを総合的に判断して配車を行うというものです。
「将来的には四輪車だけでなく二輪や自転車、または公共交通機関やジェットなども含めて、各モビリティの空き状況をリアルタイムに連携して、ユーザーニーズに基づく最適なモビリティをサジェストできるようなプロダクトを想定しています。マクロ観点でのリソースマネジメントであり、ヒトやモノの移動だけでなく、エネルギーやコスト観点も含めてMobility value Maximum, Mobility Cost Minimumという新しいコンセプトをつくっていきます」(佐久間)
この新たなモビリティサービス実現には、まだまだクリアしなければならない要件があります。
特に技術面で言えば、ユーザーに選ばれるプロダクトにしていくためのUIや、オファー型を実現するための予約マッチングアルゴリズムや需給に合わせた価格設定が行えるダイナミックプライシングのアルゴリズムといったソフトウェア面での開発が必要です。
また、ハードウェアにおいては、非対面で車両のロック・アンロックを実現するスマートロック/デジタルキーの仕組みやサービス車両の運行データを記録する専用のOBD-Ⅱの搭載も必要です。
「How we move you. の実現に向けて、自社開発をしつつも、モビリティサービスに適したハードウェア・ソフトウェアについてはパートナー会社様にご提供をお願いする可能性もあります。この点については、これから社内で議論を加速しこうとしているところです」(佐久間)
※本記事は、2024年9月6日に開催されたオートモーティブ ワールドでの講演をもとに構成しています
モビリティデザイナー・牧村和彦氏とのトークセッションを行った後編はこちら