総合モビリティサービス企業であるホンダモビリティソリューションズ(以降、HMS)が、経済や環境などの社会課題の視点から、モビリティの発展とその影響価値を発信していくニュースレター「HMS モビリティジャーナル」。
本号では、2024年問題の今に迫り、その中でも私たちの身近で影響を受けている「宅配ドライバー」に焦点を当てます。
2024年4月に施行された働き方改革関連法改正により、物流業界への様々な影響が懸念されてきた、通称“2024年問題”が本格化して約半年が経とうとしています。2024年問題では、労働時間の規制によるドライバーの人手不足や収入減少、輸送量の減少など、多くの課題が取り沙汰されていました。課題や対策については、Vol.2「物流号」でもお伝えしています。
課題が山積の2024年問題が本格化した今、実態はどうなっているのでしょうか。今回は、私たちの生活に最も近い物流を支えている「宅配ドライバー」にフォーカスします。ドライバー不足に拍車を掛ける“経済課題”を中心に紐解き、実態やモビリティの発展による影響などについてご紹介します。
目次
- Chapter 1 2024年問題の救世主!? シェア・サブスクサービスによる好転の兆し
- Chapter 2 宅配ドライバーへの独自意識調査
- コラム インパクトサークル社 × HMS、物流業界の社会的インパクト創出に挑戦
- Chapter 3 宅配ドライバーに聞いた、2024年問題による業界変化や実状
Chapter 1 2024年問題の救世主!? シェア・サブスクサービスによる好転の兆し
物流業界の今を支える“ギグワーカー”の存在
物流業界では人手不足が要因となり、2024年の上半期(1月~6月)の物流企業の倒産件数は27件となりました。これは前年同期のほぼ倍増、上半期としては過去最多です。一方で、日本国内のEC市場規模はこの10年で2倍以上に拡大しており、輸送需要は増加傾向です。この需要と供給の乖離により、物流業界は更に深刻な人手不足に直面しています。
人手不足に対して、物流業界ではドローンや自動配送ロボなど、様々な対策を試みています。特に注目を受けているのは、ギグワーカーへの配送委託です。ギグワーカーとは、労使契約を結ばずネット経由などで単発仕事を請け負う労働者のことです。国内のギグワーカーは2021年時点で300万人超と、コロナ前の2020年から約5倍に増えたと言われています。
ギグワークには、発注側と請け側双方のメリットがあります。発注側は、短期的に必要な労働力を、すぐに獲得することができ、請け側は自身のスキマ時間やちょっとした経験を、すぐに報酬に換えられることができます。ギグワーカーが携わる業務として多いのは、Uber Eats等のフードデリバリーサービスや、Amazon Flexなどの軽貨物配送サービスといった「ラストワンマイル」と呼ばれる領域です。
ギグワーカーに重要な移動手段は、サブスクやシェアサービスに注目
ギグワーカーが物流業務を行う上で欠かせないものが、移動手段です。軽貨物運送業を行う場合、黒ナンバーの車両、特に軽貨物・軽乗用車両が必要となります。しかし、軽貨物車両は中古の購入でも100万円程度と高い出費となるため、車両を持っていない場合は気軽に購入し業務を行う、ということが難しくなります。これに対し、購入する必要がなく経費処理も楽な「車両のサブスク・シェアサービス」が近年注目されています。具体的なサービスをいくつか見てみましょう。
株式会社エニキャリは、個人事業主向けの中古軽貨物車両リース「K-VANリース」を2024年2月1日より開始しました。初期費用なしで最短1ヶ月の契約も可能なサービスで、ギグワークへの参入障壁を排除することを意識しているとのことです。
CBcloud株式会社が提供する配送サービスのピックゴーは、「CARRO」カーリースと提携しています。こちらは中古自動車が最短1ヶ月での納車により、迅速にギグワークを始められる点が魅力です。
HMSでは、EveryGoデリバリーという、デリバリー等を行うドライバー向けのバイクサブスクサービスを提供しています。保険やメンテナンス込みで、WEBサイト1つで申し込みまで完結できます。特徴は、申し込みから最短3日で自宅に届くスピードです。また他サービスは、バイクが手元に届いてからデリバリー業務の申請を行うことがほとんどですが、EveryGoデリバリーではバイクの申込後すぐに、デリバリー業務を申請できるように設計されており、ユーザーが最短で業務を開始することができます。
https://www.honda.co.jp/motor-subscription/
また、EveryGoデリバリーでは現在、軽バン車両の実証実験を行っています。より荷物を運びやすい軽バン車両サブスクの提供により、ギグワーカーが活用しやすくなり、ドライバー不足への貢献にも繋がります。
Chapter 2宅配ドライバーの独自意識調査
モビリティジャーナル編集部では、全国のドライバー709名を対象とした独自意識調査を行いました。
※ドライバーの種別は、トラックのドライバー、バス・タクシーのドライバー、宅配便のドライバーの3種別が対象
2024年問題による急激な変化はない一方で、現場への影響は明白に
働き方改革関連法改正が施行された2024年4月以降に、月給に変化があったかどうかを聞いたところ、「あまり変化はない」という回答が最も多く64.8%という結果となりました。
また、同調査で労働時間に関する変化も聞いたところ、同じく「あまり変化はない」が74.2%と最多でした。2024年問題が大きく取り沙汰されていたこともあり、各企業が施行前から整備や管理等の準備をしていたことで、現場への急激な変化は回避されていることが予測されます。
一方で、2024年4月前後でドライバーの仕事をする中で変化を感じることがあるかを質問したところ、最も多い回答が「ドライバーの人手が不足するようになった」でした。また、「仕事時間を細かく管理されるようになった」や「仕事に余裕がなくなった」などの回答も上位となっています。
法改正前後は、これまでの慣習から大きく変わることで、現場では新たなルールや働き方への適応が求められます。働き方改革のための重要な改正である一方で、現場への影響は避けて通れないようです。
また、同設問の上位回答5つについて、ドライバー3種別毎に見てみました(グラフ③)。宅配便のドライバーの回答を見ると、「仕事に余裕がなくなった」と回答する割合が、他ドライバーの回答と比較して最も多くなっています。冒頭に記したEC市場の拡大等により、宅配ニーズが高まる中で、人手不足への対策や効率化が急務の領域だと推察されます。
ドライバーが期待する改善点は、経済面が最多
ドライバーの仕事をするにあたり、改善を期待することを尋ねました。こちらも、上位5つの回答を、ドライバー3種別毎に見たものが、以下④のグラフです。「労働時間に見合った給料にしてほしい」が最多で、これは種別毎に見ても最も多い回答はすべて同じでした。実労働と報酬との不一致を感じているドライバーが多数いることが見て取れます。
また、前段で「仕事に余裕がなくなった」との回答が突出していた宅配ドライバーは、「人を増やしてほしい」の割合が他ドライバーよりも多く、3人に1人が働き手の増加を切望しています。
ドライバーの車両獲得のハードルが下がることが、人手不足解消の一助に
ドライバーの雇用形態についても聞くと、トラックのドライバー、バス・タクシーのドライバーは「正社員」の割合が多い一方、宅配便のドライバーは「正社員」の割合が45.9%と半数以下となっています。また、4人に1人は「個人事業主」となっており、ギグワーカーなどが多くを占めていることが分かります。
また、ドライバーの業務に欠かせない車両の用意についても聞いてみました。全体として「会社が用意した」という回答が多いですが、一方で宅配便のドライバーの23.9%は「自分で用意した」という回答となりました。
以上から、宅配便のドライバーは、ギグワーカーなどの個人事業主や正社員以外が半数を占めており、自前で車両を用意する可能性があることが分かります。逆に言えば、車両を持っていなかったり購入できない人は、ドライバーとして働きたくても働けない状況がある可能性があります。
こういった状況下で注目されるのが、前段にお伝えした車両のサブスク・シェアリングサービスです。このようなサービスが広く普及することで、初期費用を抑えて気軽に車両を獲得できる手段が増え、ドライバーとして働くためのハードルが下がる可能性があります。車両サブスク・シェアリングサービスが、これまで働けなかった人々がドライバーとして労働する機会創出を後押しし、結果として人手不足問題にサポートするカギとなるかもしれません。
コラムインパクトサークル社 × HMS、物流業界の社会的インパクト創出に挑戦
HMSは、インパクトサークル株式会社と「EveryGoデリバリーでのバイク等の車両提供により、物流業界への社会的貢献がどの程度か」を可視化する実証実験を、現在行っています。インパクトサークル社の代表取締役社長 高橋氏に、HMSとの協業に至った背景や今後の展望についてお話いただきました。
インパクトサークル株式会社
代表取締役社長/CEO 高橋 智志氏
FinTechスタートアップ Global Mobility Service株式会社の創業メンバーとして、ASEAN各国および日本国内の事業開発とエクイティ資金調達を統括。事業グロース後、インパクト事業への投融資を促進するため、インパクトサークル株式会社を創業。金融包摂や貧困削減に関わる事業開発と普及に取り組む。
「未来を変える」インパクトファイナンスを提供
「当社は、従来のローン審査に依存せず、就業や収入向上を目的としたローン・リースを提供するインパクトファイナンス(※)を展開しています。単なるファイナンス提供にとどまらず、貧困削減や就労機会の創出といった社会的価値を見える化し、投資家にはインパクトデータを通じてリターンをお届けすることを目指しています。」
(※)インパクトファイナンスとは、経済的利益の追求に加え、具体的で可視化できる社会的・環境的な成果を同時に生み出すことを目的とした投資行動を指す。
HMSと、車両提供による「物流業界への社会的インパクト可視化実験」を推進
「当社は、HMSと「EveryGoデリバリーでのバイク等の車両提供により、物流業界への社会的貢献がどの程度か」を可視化する実証実験を現在行っています。この取り組みにより、配送ドライバーとして生計を立てようとする方々に対し、バイクや軽バンを提供し、就業機会を創出します。日本でも、年間約200万人が車のローンを利用できない状況にあります。当社はHMSと連携し、物流業界全体に社会的な価値をもたらすことを目指しています。
一般的なファイナンスは過去の収入や貯蓄に基づいて審査を行いますが、当社が取り組む層はその基準でローンを利用できないことが多いです。そこで、物流業界を巻き込み、当社やHMSが車両を提供する顧客に対して、「物流会社が就業機会を保証する仕組み」を構築しています。これにより、ドライバーは安定した収入を得られることが確からしいと証明されるようになります。」
「HMSは、イノベーョンを通じて新しい仕組みやサービスを社会に発信することに挑戦する企業であり、その姿勢を非常にリスペクトしています。サブスクリプションサービスを、社会や環境に良い影響を与える“インパクトビジネス”に成長させることができれば、他にはない革新的なサービスとなります。社会への良い影響がわかりやすく示され、それによってパートナーシップや協力が進むような価値を提供できれば、非常に先進的な取り組みとなると考えています。」
Chapter 3宅配ドライバーに聞いた、2024年問題による業界変化や実状
実際に宅配業に従事しているギグワーカーに、宅配業を選んだ理由や、ドライバーが感じる宅配業の変化について伺いました。
ギグワーカーにとって宅配業を選ぶ理由は「やりがいよりも収入」
まず、宅配業を選んだ理由について伺いました。西郷さんは「本業である声優業と両立できる“時間の融通が効く点”に惹かれた」と言います。また、「当時は他業務と比較して単価が高かったこともあり、Uberが日本で事業を開始したタイミングで参入しました。」と、収入面も魅力があったようです。野口さんは、「現場仕事の経験をしてみたかったのと、一人で作業する時間の多さが魅力でした。」と、業務内容が動機である方もいました。
一方で、宅配業にやりがいを感じているという声は少なく、収入面に期待して業務をしているという声が目立ちました。野口さんは「業務内容が魅力であったものの、やりがいではなく収入面を重視している」と話しています。道畑さんは「(宅配業の魅力は)本業の合間に効率よく稼げることだが、淡々とこなす仕事なので、正直やりがい等は持ちづらいと思う。」と言います。このように収入面に重きを置いている方が多いようですが、これは宅配業に限った話ではなく、ギグワーカーとして働く動機の1つである「スキマ時間にすぐに報酬に獲得できる」に影響しているかもしれません。
配送量は一定の落ち着きが見える一方、人手不足と収入は依然課題あり
近年感じる、宅配業に関する変化について聞いてみました。配送量について、西郷さんはコロナ禍前後で大きく変わったと言います。「コロナ禍ではピーク時に、1日に30件ほどでしたが、少し落ち着いた頃には1日に20件ほどとなり、その後地方に移住したこともあり、現在では1日12~15件程度です。」
一方で、人手不足と収入は大きな懸念を感じているようです。野口さんは人手について、「他のドライバーが休むと、業務にしわ寄せがあり、配達量が120個から150個に増えたりします。その影響で、配達しきれなくて翌日に繰り越すこともあります。」と話します。
収入については、得られる金額と、業務のハードさや需要とのギャップに不満を持つ声がありました。道畑さんは「身体を酷使したり、待ち時間が長く拘束時間が多いなど、大変な仕事ではあるのに、給与が上がらない。」「特に若年層は、他に魅力的な仕事がたくさんあるなか、宅配業を継続して続けるようなモチベーションは保ちづらいと思う。」と言います。また、野口さんは「額面から、車両(軽バン)のリース料やガソリン代等を引かれていた」と話しており、業務のための必要コストも負担することで、更に収入は少なくなっているようです。
コロナ禍のピーク時と比較し、配送の物量自体は落ち着きを見せるものの、“配送量が減少し、給与単価も上がらない”という現状から、収入が減少する傾向が読み取れます。収入減少により、稼げずに辞めていく人も多く、人手不足に拍車がかかる状況となっているようです。
今の状況が続けば、「宅配業を辞める」という声も
今後も宅配業を継続していきたいか?という質問に関して、西郷さんは「やりがいよりも稼ぐためにやっているが、単価が低すぎるので今年で辞めるかもしれない」と、収入面に懸念を感じ、継続を悩んでいました。道畑さんは、「特に若年層の人手を増やすには、兼業を推奨したり、収入補填の業務として位置づけるなど、モチベーション以外の見せ方も考えて良いのでは」と話します。
以上のように、稼ぐことに重きを置くギグワーカーにとって、収入の課題が人手不足に直結していると見えます。逆に、収入増加や経済負担が軽減されるなど、宅配業が「稼げる業務」となることで、ギグワーカーが宅配業に携わることが増え、人手不足の解消に貢献することもあり得そうです。
■ おわりに
物流業界の人手不足問題に直面するドライバーと、大きく貢献をするギグワーカーについて見てきました。いずれも経済面に懸念を抱いており、その収入の改善や経済負担の削減が、物流業界で働く人手を増やすきっかけになるかもしれません。労働単価のアップや、ご紹介した車両サブスク・シェアリングサービスの拡大によって働く人が増えることで、物流業界の未来が支えられていくでしょう。
【定量アンケート調査概要】
調査名称:ドライバーの仕事についてのアンケート
調査期間:2024年8月9日~8月17日
調査対象:全国、ドライバーの仕事をしている20歳~69歳の男女
調査数 :709名
調査方法:Webアンケート
【宅配ドライバーインタビュー調査概要】
調査名称:宅配業の業務実態や変化について
調査期間:2024年8月22日~8月23日
調査対象:宅配業に従事するギグワーカー
調査数 :3名
調査方法:オンラインインタビュー
【参考】
https://news.yahoo.co.jp/articles/7876a80121fe295108daf3221703ec3ce096eae4
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20240306-OYT1T50121/
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210528/k10013051781000.html
https://forbesjapan.com/articles/detail/48360
https://gendai.media/articles/-/125790?imp=0
https://www.gion-deliveryservice.co.jp/keikamotsu/lease/
https://ecnomikata.com/ecnews/41949/
https://pickgo.town/partner/support/lease
https://www.honda.co.jp/motor-subscription/
https://impact-circle.co.jp/
■「HMS モビリティジャーナル」について
総合モビリティサービス企業であるHMSが、経済や環境などの社会課題の視点から、モビリティの発展とその影響価値を発信していくニュースレターです。
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