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2024/03/13
HMSモビリティジャーナル Vol. 2「物流号」
宅配の受取/発送とともに「今後増える:40%強」
-物流業界に求められる変革と、モビリティサービスがもたらす価値-
総合モビリティサービス企業であるホンダモビリティソリューションズ(以降、HMS)が、モビリティサービスのリーディングカンパニーとして、多種多様な業界×モビリティの切り口で、さまざまな情報発信や問題提起を行っていくニュースレター「HMS モビリティジャーナル」。
今回は、いま大変革を余儀なくされている物流業界についてフォーカスします。
コロナ禍を経て、通信販売をはじめとした宅配の需要は年々増加する一方で、人手不足や業界に対する労働規制は待ったなしの状態となっています。特に、規制による輸送量の減少は、物流企業にとって売上の減少とリンクし、深刻な経済問題に発展します。最終的には負担する送料の増加や、配送スピードの悪化など、利用ユーザーへのしわ寄せがいくことも予測されています。
そのような物流業界に対し、進化を続けるモビリティサービスは、さまざまな形で価値をもたらすことができると注目されています。大変革が求められるいま、モビリティサービスの発展はどのような影響を与えるのか、そして、HMSが業界に対して提供するソリューションとは。
物流業界の現状と、HMSが目指すモビリティサービスを通じた業界の未来を、独自定量データを交えてお伝えします。
1. 一般消費者の、物流に対する更なる期待
HMSモビリティジャーナル編集部は一般消費者に対し、宅配に関する独自アンケートを行いました。
宅配サービスを月に2-3回以上利用する消費者のうち、「今後も発送頻度が増える」と回答したのが46.2%、「今後も受取頻度が増える」と回答したのが41.6%と、発送受取ともに今後ますます宅配サービスの利用が増えると回答しています。
宅配サービスに求めることについても聞いています。配送スピードについて、「当日配達サービス」への認識を伺ったところ、「過剰なサービスだと思う」と警鐘を鳴らす声が31.4%あるものの、もっとも多いのは「良いサービスだと思う」の43.6%でした。また、通信販売の送料に関しては、61.2%が「無料にしてほしい」と回答しています。消費者は、サービス面・費用面ともに、宅配サービスにさらなる期待を寄せていることが分かります。
2. 「物流の小口化」の加速
昨今の通信販売の普及やコロナ禍により、消費者の購買行動は大きく変化しています。令和4年度の宅配便取扱個数(トラック及び航空機等利用輸送)は 50 億588 万個と毎年右肩上がりとなっています※1。一方で、宅配便サービスの利用に関するアンケートにて、宅配便を利用する目的として最も多く挙がったものは「ネット通販・オークション、フリマアプリ等で購入したの品物の受け取り」の74.7%となっており、toC向けの配送が多くを占めていることが推測できます。※2
また、個人のオンラインでの購入の日常化に伴い、小口配送や即日配達の需要が高まっています。国内貨物量の推移は徐々に低下している一方で、物流件数はここ30年で約2倍となっており、1件あたりの配送量が減るが、配送件数が増える、いわゆる「物流の小口化」が加速しています。※3
小口化が進むことで、配送手段も多岐に渡るようになっています。特にラストワンマイル配送では、バイクや自転車などの小回りが利く配送手段が増加しています。
独自調査でも、通信販売で購入しているものでは、全世代で「アクセサリー」「日用品」「衣服」などの小物が多い一方で、平均購入金額は5,540円と高額ではなく、少量を注文する宅配の小口化を示しています。
3. ドライバーの労働環境の悪化
物流業界を支えるドライバーの人材不足も、深刻化しています。鉄道貨物協会による将来予測では、2028年に約27万8,000人のドライバー不足が予測されており、物流需要と供給状況に大幅な乖離が見受けられます。※4
物流の要となるトラックドライバーの年齢層別就業者構成では、若年層が減少する一方で、中高年層は増加傾向となっており、高齢化が進んでいます。また、年間所得額についても、全産業平均が約497万円であるのに対し、中・小型トラック運転手は約417万円、大型トラック運転手でも約457万円と、平均よりも10%前後低い水準となっています。※5働き手が増えない一方で、需要は今後も増えていくと予想されるために、ドライバー1人あたりの負荷が増えるなど労働環境の悪化が見込まれます。
4. 2024年問題による影響
このような課題が山積する物流業界に、更なる影響を及ぼすと言われているのが、通称「2024年問題」です。2024年4月から施行される働き方改革関連法改正により、ドライバーの時間外労働時間が年間960時間に上限規制されたり、勤務間インターバルが導入されるようになります。このような環境変化も重なり、更なるドライバーの人手不足を招くと言われています。
ドライバーの稼働時間制限は、ラストワンマイルにも影響を与え、消費者へのサービス品質の低下も見込まれます。配送能力が限られることによる、配送遅延の可能性や、企業がドライバー等の配送手段を確保するため配送コストが増加することも推測されます。
独自調査で、消費者に2024年問題への認識を伺ったところ、53.8%が「知っている」と回答。また、2024年問題を知っている消費者は、「荷物を丁寧に扱ってほしい」をはじめ、すべての選択肢で「知らない」層よりも要望をあげる声が上回りました。
顕著だったのが「特に期待することはない」という選択肢です。「知らない」層は、35.1%だったのに対し、「知っている」層は18.1%でした。2024年問題を知っている消費者は、今後の物流業界を理解しているだけに、将来のサービス低下を懸念した上で要望を上げていることが推察できます。
- ※1 国土交通省「令和4年度 宅配便・メール便取扱実績について」
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000281.html - ※2 宅配便サービスの利用に関するアンケート調査
https://myel.myvoice.jp/products/detail.php?product_id=28208 - ※3 経済産業省・国土交通省・農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sustainable_logistics/pdf/001_02_00.pdf - ※4 公益社団法人 鉄道貨物協会「本部委員会報告書」
https://rfa.or.jp/wp/pdf/guide/activity/30report.pdf - ※5 公益社団法人 全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業現状と課題 2022」
https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/yusosangyo2022.pdf
業界関係者だけではなく、消費者の関心も高い物流業界の課題に対して、さまざまな技術やリソースを活用した対応策の検討が進められています。特に、IoTやAIなどのテクノロジーを活用した物流業界の改革は「ロジスティクス4.0」と呼ばれ、取り組みが加速しています。物流業界の課題対策となる3つのポイントをまとめます。
1. ロボットや自動運転等による省人化
自動運転トラック、ドローン配送、ピッキングロボットなどの先端技術を活用することで、物流の見える化や効率的な配送管理を実現。人力に頼らずサービスが提供できる取り組みが進められています。Amazon.comでは、Amazon Roboticsというシステムを導入し、倉庫内の商品の棚入れやピッキング作業などの商品管理の自動化を進めています。※1
2. データの共有と分析による標準化
IoTやAIの活用により物流情報のリアルタイム共有と分析を行うことで、最適な配送ルートや在庫管理を実現し、物流業務の効率化と品質の均一化を図る取り組みが行われています。
食品卸売業の加藤産業は、ヤマサ醤油、日本パレットレンタルと協業し、「検品レス」と「伝票レス」の同時実現を行いました。会社の垣根を超えた連携により、検品作業時間は約60%削減、伝票レスによる事務作業の軽減、納品車両台数の約20%削減を実現しました。※2
3. グローバル人材の登用
物流業界に限らずですが、グローバル人材の登用も、対応策の1つとして見込まれています。特に倉庫作業やドライバー業務などが対象となりますが、これらの業務は現在の日本の就労ビザの対象外となるため、現時点での登用は難しい状況です。
一方で、関係団体からの要請により、ビザの対象業種の拡大について検討がなされています。全国トラック協会などの業界団体は、グローバル人材の登用に向けた検討を事業計画に盛り込んでおり※3、近い将来、ビザの拡大によってグローバル人材が物流業界で活躍することも可能になるかもしれません。
- ※1 Amazon、関東地方に2つの物流拠点を新設 計3,000人以上の雇用機会を創出
https://amazon-press.jp/AWS/AWS/Press-release/amazon/jp/Ops/20230601_QCB34-Launch/ - ※2 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会
https://www1.logistics.or.jp/news/detail.html?itemid=950&dispmid=703 - ※3 公益社団法人 全日本トラック協会「令和5年度事業計画書」
https://jta.or.jp/wp-content/uploads/2023/04/disclosure_keikaku2023.pdf
HMSは、「総合モビリティサービスカンパニー」を目指すことをミッションとし、2020年の設立以降、幅広いモビリティサービス事業を展開しています。HMSは、モビリティを日常生活の一部であると捉え、すべての人にとって利用しやすいモビリティサービスを提供することを使命としています。
HMSでは、モビリティサービスにより物流業界の課題と変革にも寄与するべく、さまざまな取り組みが行われています。HMSが、物流業界の課題にどのような影響をもたらしていくのかをお伝えします。
1.HMSが向き合う「2024年問題」
2024年問題によるドライバー不足は、今後、消費者への配送遅延・配送コスト負担など、ラストワンマイルにしわ寄せがいくと考えられます。このラストワンマイルでの配送負荷への対策には、“配達員数の増加”、もしくは“配達物量の増加”が必要となってきます。
HMSが提供する総合モビリティサービス「EveryGo」の1つである「デリバリードライバー向けサブスクリプションサービス『EveryGo デリバリー』」は、デリバリー等を行うドライバー向けのサービスとなります。現在は、バイクのサブスクリプションサービスを提供しており、将来的には軽バン車両のラインナップも検討しています。
●自転車からバイクへの切り替えにより、配達量は1.5倍に
「EveryGo デリバリー」の事業開始前にHMSが行った実証実験 では、これまで自転車でフードデリバリーをしていたドライバーに、バイクに切り換えて配達を行っていただきました。結果として、バイクでの配達に切り換えたドライバーの配達量は、自転車と比較して約1.5倍になりました。また、バイクに切り替えたドライバーからは、自転車よりも疲れないため、自転車時より効率的に働くことができるという言葉もいただいています。
2.「EveryGo デリバリー」による、物流業界へのアプローチ
「EveryGo デリバリー」の事業推進を担当している、ホンダモビリティソリューションズ株式会社 第二ソリューション部の北村さんと竹内さんに、本サービス・そしてEveryGoブランドが、物流業界にどのような影響をもたらすのかを伺いました。
左:第二ソリューション部 サブスク事業ユニット
アシスタントマネージャー 北村 亮太
右:第二ソリューション部 サブスク事業ユニット
アシスタントマネージャー 竹内 誠
●「EveryGo デリバリー」サービスについて
・顧客のニーズ
竹内) 現在稼働しているバイクの95%が、配達業務での利用となっています。バイクは、購入に一定のコストが掛かるため「思い立って即利用」というのが難しいですが、サブスクリプションであれば気軽に即利用ができるため、ユーザーからのニーズも高くなっています。
・サービスの特徴
北村) 1番の特徴は、利用開始までのスピードが業界トップレベルである点です。ユーザーが申し込んでから、最短3日で自宅にバイクが届きます。他サービスだと、バイクを店舗に自ら取りにいかなければいけないなど、利用までに一定の時間が掛かります。ユーザーの“すぐに働きたい”というニーズに答えるための特徴になっています。
また、自賠責保険加入のための登録証を、申し込み後に即取得していただけることも特徴です。他サービスでは、実際に利用するバイクを受け取った後にしか入手できないことが多いのですが、EveryGo デリバリーでは、申し込み完了後にサイトからダウンロードしていただくことができます。これによって、バイクが届くまでの期間で登録が可能となり、バイクを受け取ったらすぐに働くことが可能となります。その他にも、コールセンターを整えているため何かお困りごとがあればすぐに相談ができる点なども、特徴として挙げられます。
「EveryGo デリバリー」についての詳細はこちら
https://www.honda.co.jp/motor-subscription/
●「EveryGo デリバリー」が、物流業界に提供する価値
竹内) 物流業界への提供価値としては、以下の3つが挙げられると考えています。
・「ドライバー増による、ドライバー不足やラストワンマイルの課題解決」
・「収入増による、ドライバーへの利便性の提供」
・「サブスクリプションやITを活用した、車両管理の最適化」
・「ドライバー増による、ドライバー不足やラストワンマイルの課題解決」
前段に特徴としてお伝えした、利用開始までのスピードの速さにより、「思い立って即ドライバーになれる」ことが実現できており、これはドライバー不足という社会課題へのアプローチの1つになると思います。また、実証実験で判明したバイクによる配達量増も、今後の配達効率化に繋がると考えています。
・「収入増による、ドライバーへの利便性の提供」
実証実験では配達量増の他にも、収入力のUPも判明しました。実験でバイク配達に切り替えたドライバーは、自転車時と比較して1日あたりの報酬が約43%UP したことが分かりました。中には1ヵ月で100万円を稼いだ方もいらっしゃいます。
・「サブスクリプションやITを活用した、車両管理の最適化」
買い切りではなく、利用したい期間に利用できるサブスクリプションモデルであるため、ユーザー数に応じた車両管理の最適化が実現できます。また、EveryGo デリバリーでは、サブスクリプションの中にメンテナンス費用も含んでおり、走行距離などを想定したメンテナンス案内が可能となっています。今後は、ITを活用しながら、利用状況に応じたより最適な修理案内を提供し、これまで以上に安心・快適に利用できるサービスに進化させていきたいと思います。
●「EveryGo」サービスが提供する価値
竹内) 今お話ししたように、HMSはEveryGo デリバリーを通じて、「社会問題」「顧客ニーズ」「環境課題」に対する価値を提供しています。このような価値を提供しながら、事業としての経済合理性も追求した長期的なサービス提供を進めています。
北村) 「EveryGo」は、総合モビリティサービスブランドとして、さまざまな都市課題の解決策を提供しています。今回お話した「EveryGo デリバリー」は、物流課題の解決策の1つですが、その他にも、人口集中による交通渋滞に対しての「EveryGoカーシェア」や、環境汚染などに対するエコな移動手段としての「EveryGo e-Bike」があります。
今後も「EveryGo」ブランドは、都市課題の解決策としてサービスを提供してまいります。
【アンケート調査概要】
調査名称:宅配便に関するアンケート
調査期間:2024年1月19日
調査対象:全国、15歳~69歳の男女
調査数 :400名
調査方法:Webアンケート
<次号予告>
「観光×モビリティ」特集号。3月28日(木)配信予定。
コロナ禍があけ、円安と相まってインバウンドが大きく伸びるなか、観光地では交通手段が滞るなど問題になっています。独自定量調査データとともに観光の現状を探りながら、モビリティの発展やHMSの事業展開がもたらす価値についてお伝えします。
■「HMS モビリティジャーナル」について
総合モビリティサービス企業であるHMSが、モビリティサービスのリーディングカンパニーとして、多種多様な業界×モビリティの切り口で、さまざまな情報発信や問題提起を行っていくニュースレターです。
■お問合せ先
HMS モビリティジャーナル事務局
プロジェクト担当
Email:hms_mobilityjournal@sion-group.com
URL:https://global.honda/jp/honda-mobility-solutions/